brat(ヤクザ物、ショタ、純愛、中編)BL、完結
10
◆◆◆
裕之が事務所にきた日から、僅か2日後にカシラと会わせる事になった。
学校は早く終わるという事だったので、午後になって裕之を迎えに行った。
ラブホだという事は裕之に伝えていたが、ゲートをくぐる時に裕之は上を見上げ、『うわー、これがラブホかー、すっげー』っとはしゃいだ。
カシラは田西が同行する事を許可したので、運転手は田西だが、3人でラブホにインした。
一番奥の部屋を使うと聞いている。
田西はそこへ車をとめたが、カシラの車はない。
ここは俺らの組が所有するホテルだから、裏へとめてるのだ。
お忍びだからひとりで来ているが、ひとりとは言ってもやっぱり不安は拭い去れない。
正直俺は嫌だったが、田西と共に裕之を連れて部屋に向かった。
ガレージ式だから階段を上がったが、裕之はキョロキョロしっぱなしだ。
まぁーこういう事に興味を抱く年頃だし、当然か。
「カシラ、連れて参りました」
俺が先に立ってドアをノックし、中に向かって声をかけた。
「おう、入れ」
カシラはお待ちかねのようだ。
「失礼します、裕之、こっちだ」
裕之の背中に手をあてて中に連れて入ると、田西は一番最後に入ってドアを閉めた。
カシラはソファーに座っている。
裕之をそばに連れて行ったが、裕之は体を強ばらせてペコりと頭を下げる。
「あ、あの……初めまして、仲本裕之です」
生意気なガキも、若頭を前にしたら緊張するらしい。
「おお、お前がうちに入りてぇと言ったのか」
「はい」
「俺は若頭の東堂だ、へへっ、まだ可愛らしいからよ、ちょいとはえーな」
いつも顰めっ面の東堂さんが笑顔を見せている。
「あの、わかってます、16になったらお願いします」
裕之はもういっぺん頭を下げて頼んだ。
「ああ、わかった、うちもな、わけぇ奴は大歓迎だ、おお、ま、座りな、こっちに、隣に来い」
東堂さんは手招きして呼び寄せたが、ラブホのソファーは向かい合わせになってねーから、裕之は隣に座る羽目になる。
「はい、じゃあ……失礼します」
「おお、ははっ……」
裕之が遠慮がちにそばに行ったら、東堂さんは片腕を背もたれにかけたまま、少し端によって裕之を隣に座らせた。
俺と田西は少し離れた場所に立っているが、俺は気が気じゃなかった。
「なあ裕之、お前、ヤクザが好きなのか?」
カシラはいつになく機嫌がいい。
「あ、いえ……、最初は怖いって思ってました、でも葛西さんに会って違うって思ったんです」
「ほお、葛西がどう見えた?」
「っと……、パッと見怖いって思った、だけど、俺が話をするとちゃんと答えてくれるし、この人は大丈夫かなって……そう思ったんです」
ちゃんと答えてたっていうか、ありゃ説得してたんだ。
「へへっ、そうか、で、イメージがよくなったんだな?」
「あの……俺は葛西さんに借金の事でお願いしたかった、だから葛西さんに付き纏ってました」
裕之の奴、事情を話したが、そこら辺は詳しく喋らねー方がいい……。
「んん、そうなのか?」
「はい、で、そうするうちに葛西さんが解決策を出してくれて、助かりました」
肝を冷やしたが、具体的に言わなくて良かった。
「んー、しかしよ、ありゃうちが買っちまったしよ、いずれは手放さなきゃならなくなる、ま、うちはそれで助かるが、裕之、お前んとこは大してメリットはねーぞ、ただ……今すぐ追い出されずに済むってだけだ」
カシラの言葉が地味にチクリと突き刺さる。
「はい、わかってます、それでもいい、いきなり出て行けって言われるよりは、3年あるだけでも、お別れする準備って言うか……気持ちが違います」
裕之はそんな風に思っているのか……。
「泣かせるじゃねーか、お前のような可愛らしいガキがよ、大人の都合で苦労するのは忍びねぇ」
意地悪なカシラにしては、やけに温情のこもった台詞だ。
「へへっ、いえ、大丈夫です、俺、韮組に入るから」
くっ……それを言っちゃダメだ。
「おお、うちに来な、おめぇは可愛がってやるぞ」
カシラは破格の待遇で迎えるつもりらしいが、どさくさに紛れて裕之の肩を抱いた。
マズいような気がするが、肩を抱く位普通でも有り得る。
ヒヤヒヤしながら成り行きを見守った。
「ありがとうございます」
裕之は頭を下げて礼を言い、カシラを見上げて微笑んだ。
「おお、任せな、おめぇ……可愛いな」
カシラは頭を撫で回している。
「っ……」
あんまり触るなって言いたいが、言えねぇ。
四七築組のカシラと売り専に行ったと話していたが、カシラはそっちのけはなかった筈だ。
まだ初心者だろう。
今日会ったばっかしで、これ以上手を出す事はねーと思うが、ずっと手を握り締めているせいで……手のひらが汗でギトギトになってきた。
と、不意に着信音が鳴った。
俺か田西かと思ってキョロキョロしたが、カシラの方から聞こえてくる。
「おお、電話だ、裕之、ちょいと悪ぃな」
カシラはポケットからスマホを出して電話に出た。
『おお、俺だ』
俺はじっと固まってカシラが話すのを聞いていたが、どうやら……急用が入ったらしい。
ホッとして肩の力がすーっと抜けていった。
カシラは電話を終えてポケットにしまい込むと、裕之の頭を撫でて残念そうな顔をする。
「すまねー、行かなきゃならなくなった、裕之、また会えるか?」
すっかり裕之の事を気に入っちまったようだ。
「はい!」
裕之は目をキラキラさせて頷く。
「おう、お前ら、今日はここまでだ、俺は行く、見送りはいらねー、これで裕之になにか食わせてやれ」
カシラは立ち上がって俺達の前にくると、財布から金を出して渡してきた。
日頃ドケチなカシラが……。
かなりびっくりしたが、田西も同じだろう。
俺はなんでもないふりをして金を受け取り、深々と頭を下げてカシラを見送った。
カシラが居なくなり、田西が先に口を開いた。
「兄貴……俺、あんなカシラは初めてっす」
「ああ……」
こんな事までするって事は、こりゃマズい事になった。
そりゃ……裕之はハキハキ受け答えをするし、ヤクザに好感を持ってるし、俺らの組に入りたいと言う。
それが、まん丸い面をした童顔の少年なんだから、むしろ、気に入らねー方がおかしい。
「今のところは大丈夫みたいですが……、兄貴、この先も会うとなりゃヤバくないっすかね?」
「ヤバいかもな……」
こりゃ、益々頭が痛くなってきた。
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