短編集BL小説(鬼畜、色々あり、1部長編あり)ちまちま新作を更新中
■■Escape2
◇◇◇
「ああっ!」
朝っぱらから響く耳障りな声。
「へっ、どうだ」
「あぁんっ!」
ゆうべから女が泊まりに来ている。
兄貴はたまに女を連れてくる。
そして交尾が始まる。
俺だって、近所の三毛や潜伏先の近くに住む、由緒正しいペルシャの女の子と交尾したい。
だから脱走するんだ。
なのに、兄貴は俺の存在をまるっきり無視している。
猫だからわからないだろうと、そう思っているに違いない。
ベッドの上でヘコヘコ腰を振り、随分気持ちよさそうだが……。
自分だけいい思いをして、ムカつく……。
ソファーから飛び降りてベッドのそばへ歩いて行った。
ジャンプして2人の足側に飛び上がったら、女が兄貴の腰に足を絡みつかせていた。
「あぁん、春樹ぃ〜」
甘えた声で兄貴を呼び、交尾に夢中になっている。
「へへー、参ったか」
兄貴は得意げに言ったが、真っ裸だから無防備だ。
女の足が邪魔だったが、じっと兄貴のケツを見つめ、尻臀にロックオンしたら……食らえ〜瞬速猫パンチ!
「うぎゃあ〜っ!」
爪がブスッと尻に突き刺さり、兄貴は情けない叫び声をあげた。
「や、やだ……、なに?」
女は何が起きたのか分からず、びっくりしている。
「いってぇ〜、またやりやがったな」
兄貴は起き上がって振り向いた。
「ニャ〜」
サッとベッドから飛び降りて向こうの部屋に逃げたが、壁の陰に隠れて聞き耳を立てた。
「ちょっと〜なんなのよ、いきなり変な声出して」
女はいいところを邪魔されて不満げだ。
「タマがケツを引っ掻いたんだ」
「え〜猫が? なんでわざわざ引っ掻きにくるの?」
「あいつ……、いっつも邪魔しやがる」
兄貴は文句を言ったが、目の前で見せつける方が悪い。
「ちょっと待って、今いっつもって言ったわよね? それって……他の女を連れ込んでるって事?」
女はいいところに気がついた。
「いや、そういうわけじゃ……」
兄貴は小声でモゴモゴ言った。
「なによ、正直に言いなさいよ〜」
女はさっきまで交尾に夢中だったのに、そんなのは嘘みたいに疑いだした。
「あのな〜、そりゃ昔の話だ、過去にそういう事があってもおかしくねーだろ?」
兄貴は嘘をついている。
俺が放浪の旅に出る直前に、別の女を連れ込んで交尾していた。
「過去〜、絶対嘘だ、他にも付き合ってる人がいるんでしょ?」
しかし、女は信じられないようだ。
「いねぇって……、な、もういいだろ、続きをやろうぜ」
兄貴はそんな事より交尾をしたいらしい。
「え〜、こんな気分でできるわけないじゃん、あたし……もう帰る」
どうやら、女を追い払う事が出来そうだ。
これで欲求不満にならずに済む。
「ちょっと待てって」
「ふんだ、『お前だけだ』とか、いい事ばっかし言ってさ、モテるからって図に乗らないでよね」
女は兄貴がモテると言ったが、確かに色んな女を連れてくる。
しかも、兄貴は女に甘い言葉をかけてたらしい。
「図に乗ってるわけじゃねー、おい、俺はまだいってねーぞ、最後までやらせろ」
『お前だけだ』というのは、交尾をしたいが為に言ったんだろう。
それが証拠に、まだやるつもりだ。
「やだ、あたしは風俗の女じゃないもん、もう帰る」
けれど、残念ながら女を引き止める事はできなかったらしい。
「ったく……、ああ、そうか、好きにしろ」
兄貴は投げやりに言ったが、続きをするのは諦めたようだ。
女は苛立つように手早く服を着ると、スカートの裾をヒラつかせてバッグを掴み、足早に部屋から出て行った。
「ちっ……」
兄貴はその間に服を着ていたが、舌打ちしてベッドから立ち上がり、ソファーに向かって歩いて行く。
ポケットからタバコを出して火をつけたので、タタッと走り寄ってソファーに飛び上がった。
「ニャ〜ン」
思いっきり頭を擦り付けた。
「お前のせいだからな、まったくよ〜」
兄貴はぶつくさ言って背中を撫でてくる。
文句を言っても叩いたりした事は1度もない。
俺には超甘い兄貴だが、これぞ猫の特権というやつだ。
とにかく、女がいなくなって清々したし、喉を鳴らして兄貴にくっついた。
「あーあ……、欲求不満になっちまうじゃねーか、ここで抜いてやろうかな」
煙を吐き出しながら言ったが、自己処理するなら見届けてやる。
「ニャ〜(やれ、遠慮するな)」
「いや……、やっぱりやめとくわ、お前、ちんぽ狙うからな、危うく大惨事になりかけた事がある」
けど、俺が子猫の時にした悪戯がトラウマになってるらしい。
子猫の時は、動く物を見たら抑えがきかなかった。
兄貴が自己処理中に大事な箇所に飛びかかり、兄貴はギリギリで避けた。
でも爪が掠っていたらしく、ソコから薄ら血が滲みだし、兄貴は血相を変えて消毒しまくった。
今から思えば、悪い事をしたと思う。
「ニャ〜ン」
お詫びに、しっぽを立てて尻を擦り付けてあげた。
「こら、ケツをつけんな、ばっちぃだろ」
ばっちぃとは失礼な。
猫にとっては最大限の愛情表現だ。
「ニャーっ!」
もっと尻をつけてやった。
「うわ、こらよせ、モロ当たったじゃねーか」
しっぽを立ててわざわざ肛門を見せるのは、ものすご〜く信頼してる証なのに、兄貴はいっつも嫌がる。
カプッと手を齧ってやった。
「いてっ……、こーら、悪さばっかししやがって」
兄貴は頭をギューっと押さえつけてきた。
「ニャウー……」
重くて動けないが、猫を見くびって貰っちゃ困る。
「ニャア!」
体を捻って両手でバシッと手を捕まえた。
「おお〜、やりやがるな、こいつ〜」
兄貴はタバコを消してこちょこちょしてきた。
負けるもんか!
捕まえた手をしっかりと持って、猫キックをおみまいした。
「いてて……、なははっ! この〜」
すると、笑いながら両手でこちょこちょしてくる。
俺の攻撃は全然効いてないようだが、大きな手を2つも使われたら……いくら猫でも不利だ。
兄貴の手をパッと離し、ソファーをキックして下へ飛び降りた。
「だはははっ〜っ! 逃げてやんの、へへー俺の勝ちだな」
兄貴はしたり顔でゲラゲラ笑ったが、まともに戦ったら俺に勝ち目はない。
俺は奇襲、不意打ち、闇討ちが専門だ。
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