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短編集BL小説(鬼畜、色々あり、1部長編あり)ちまちま新作を更新中
▽▽意に沿わぬ者1(衆道、武士、ほんわかとした話)
今BLの短編3番目は衆道です。
と言っても……。
戦乱の世、死、裏切り、欲望……等の暗いネタは一切ありません。

江戸時代、泰平の世が続く中で、武士の習わしとしてまだ行われていた衆道。
それをただ再現しただけの話です。

初心者同士、愛だとかそういう感情無しな状態からスタートですが、攻め側は初めから好意は持ってます。

青年とおっさん武士、武士同士が真面目に衆道をするという、日常系なお話です。

苦境や窮地などの話は自分自身重いな〜と感じるのもありまして^^;
また、実はありふれた日常というのが一番大切なんじゃないかとも思います。
ゆるゆるな話を自分が読みたいと思って書く事にしました。




















◇◇◇

「気に入らぬ」

そもそも上からのお達しで決まった縁。

拙者はあのような男は望んでおらぬ。

ガサツで無神経、髷はいつも斜めに曲がっている。

着物はシワだらけ、裸足に雪駄。

武家ともあろう者が、見るに耐えぬ有様だが、最も呆れた事は……水茶屋のおなごに鼻の下をのばした事だ。

武士がおなごに愛想を振りまき、媚び諂うなど、恥さらしもいいところで、顔も見とうない。





ここはさる武家屋敷。
午前中の鍛錬を終え、自分の座敷に引きこもり、ぶつくさ言いながら学問書に目を通す若侍がいた。


畠山家の嫡男、槙之助である。
きちんと正座して書見台に向かっているが、槙之助は齢25を過ぎて初めて衆道相手を持った。
通常なら、元服と同時に妙齢の青年があてがわれるのだが、槙之助は元服当時、流行病にかかって床に伏していた。
病は運良く全快したが、回復するまでに数年を要した為、今頃になって衆道相手を持つ事となったのだ。

元服したてなら、いくらでも候補がいたのだが、25にもなれば立候補する者は乏しい。
相手は上役が吟味した上で決定となるのだが、槙之助の相手として立候補してきたのは、戦国時代に武闘派として名をあげた一族の末裔だった。
しかし、槙之助はこの杉浦剛士という男を初見から嫌っていた。

先程からぶつくさと愚痴めいた事を呟いているが、まさにその通りの男だったからだ。

「槙之助様、よろしゅう御座いますか?」

開け放たれた障子の陰にしゃがみこみ、遠慮がちに声をかけたのは、この屋敷に仕える下男である。

「ああ、なんだ」

「杉浦様がお越しになられました」

「はあ? なんだ、約束はしておらぬぞ」

「あの、杉浦様がおっしゃるには……この近くの酒屋に酒を買いにきたついでにお立ち寄りになられたとか」

「ったく……、ついでに寄るな……、寄り道せずに回れ右をして帰ればよいものを……」

槙之助は杉浦の突然の訪問に面食らい、無作法者のやる事はいちいち気に障ると、酷く迷惑がっていた。

「あの……玄関の上がり口に座ってらっしゃるので、ひとまず足を洗って差し上げましたが、こちらにお招きしても宜しいでしょうか?」

下男は気を使って足を洗ったのだが、槙之助の衆道相手ともなれば、当たり前の事だった。

「うぬぬ……、致し方ない、こちらへ通せ」

槙之助は渋々招き入れる事にして、書を書見台からおろして畳の上に置いた。

「承知致しました、では、すぐにお連れします」

下男は頭を下げて立ち上がり、腰を低くして立ち去った。

程なくして、足音が聞こえてきた。

「槙之助様、お連れ致しました」

下男は丁重に頭を下げて、すっと身を引いた。
入れ替わって座敷に踏み入ったのは、招かれざる客、杉浦である。

「これは杉浦様、よくお越しくださいました」

槙之助は全く嬉しくなかったが、表向き取り繕って言った。

「ああ、酒をな、ほら、これだ、こいつを買いに来たついでに寄ってみた」

杉浦は手にした徳利を掲げて見せる。

「そうですか、酒は百薬の長と申しますが、飲みすぎれば毒にもなります、ほどほどになさった方がよろしいかと」

酒好きな上に女好き……槙之助が慕うべき人間ではない事は確かだった。
気遣うような言葉の裏には、侮蔑する感情が隠れている。

「おお、槙之助、拙者を気遣ってくれるのか」

杉浦はそれを気取るほど器用な男ではない。
機嫌をよくして槙之助の向かい側に行くと、腰から刀を抜き去ってわきへ置き、あぐらをかいてどっかりと座り込んだ。
無精髭を生やすこの男は、槙之助よりひとまわり年上になるが、まだ妻を娶ってはいなかった。
というのも、やはり女好きが高じて、公の場で堂々とおなごに声をかける事が度々あり、『あの男は色狂いの不心得者だ』と密やかに噂が囁かれ、縁談話が遠のいていた。

「ん、書を読んでおったのか?」

杉浦は槙之助の膝横に置かれた書物に気づいた。

「ええ、はい」

「ほお、どのような物を読んでいるんだ?」

手を伸ばして書を拾いあげ、パラパラと開いてみる。

「漢文です」

「ああ、本当だ……さっぱりわからん」

槙之助は書に目を通す杉浦を見て、わからぬのは当然だろうと、心中で軽んじていた。

「杉浦様はどのような書をご愛読されますか?」

わざと意地の悪い質問をする。

「おお、拙者はな、ここ最近アレを読んでおる、葉隠の書だ」

「あ……、そうですか」

しかし、返答を聞いて顔をひきつらせ、聞かねばよかったと悔やんだ。

「槙之助、拙者はなにぶん初めての事ゆえ、よくわからないんだ、それで書を読んだところ、まず心得が書いてあった、ひとたび念者となったら……互いに浮気をせずに、ひとすじでいかねばならぬと、そして絆は死ぬまで切れぬとの事だ」

杉浦は書について簡単に説明した。

「さようでございますか……」

槙之助は契りを交わす事を知っているが、杉浦とそういう関係になるのはどうにも気が重かった。

「それから肝心の行為については、おなごと大差ない、ただな、受け入れる側は事前に用を足し、風呂へ入って入念に菊門を洗わねばならん」

杉浦は具体的なやり方を平然と口にする。

「そのような事……口にするのもはばかられます」

槙之助は眉をひそめて嫌そうな顔をした。

「いや、しかしだな、それならば……お主はわかっておるのか?」

「いえ……」

「だったらちゃんと話し合っておかねば……、なんの知識もなく、いきなりやれと言われても……お主だって困るだろう」

杉浦は女遊びはするが、陰間茶屋に通った事はない。

「それは確かに……」

槙之助も杉浦も、互いにズブの素人だ。
そう言われたら、杉浦のいう事はわかる気がした。

「そうであろう、だからな、ここは恥ずかしがらずに真面目に相談しよう、実はな……、持って来たんだ」

杉浦は懐に手を入れてゴソゴソ探っている。

「ほら、これだ、その事については……ここら辺から書いてある」

懐から書を掴み出し、槙之助に見えるように開いて見せる。

「っと……、はい」

杉浦が持参した書は男色四十八手指南という書で、行為について詳しく書かれている。

「な、こういう風にやるらしい」

槙之助は絵で描かれた体位の図を見て顔が熱くなった。

「あの、ちょっとこれは……、春画のように見えます」

春画自体ほとんど目にした事がないのに、男同士が裸で絡み合う絵は、あまりにも刺激が強すぎる。

「大した事はない、ただの絵だ、ふむふむ……、ここに詳しく書いてあるぞ、菊門を洗浄した後、いざ交わる際には通和散という潤滑剤を使う……か」

杉浦はなんでもない顔をして絵の下に書かれた説明を読んだが、槙之助よりも年上でおなごの経験は豊富な事もあり、この程度の書で動じる事はなかった。

「杉浦様……、このように手をかけてまでやる事でしょうか」

けれど、槙之助は露骨な絵を見て尻込みしていた。

「ああ、やるぞ、だからこそ槙之助、お主に決めたのだ」

杉浦はやる気に満ちた表情で言った。

「それはどういう事ですか……?」

槙之助は不思議に思って聞いた。

「ある時、お主を偶然町で見かけたのだ、色白で端正な顔立ちをしていた、同行していた者に聞いて分かったんだが、衆道相手を募集中だと言うではないか、それで拙者が立候補したのだ、拙者はおなごしか知らぬ、正直言えば……衆道には興味なかった、それでこの年まで若衆は持たずにきたが、武士である以上嗜みだ、そろそろ……と考えておったのだが、自分と同じようなタイプは御免だからな」

杉浦は事の経緯を正直に話した。

「そうでしたか……」

槙之助は罹患して長い間床に伏していた為、肉体の鍛錬ができず、色白で痩せた体格になっている。
自分から好んでそうなったわけではないので、杉浦の話を聞いて複雑な気持ちになっていた。


何はともあれ……。
好むと好まざるに関わらず、1度決まってしまったら拒否する事はできない。
恥ずかしさを抑え、四十八手の書に真剣に目を通した。

一刻近く書を読み漁る間に、下男が茶と茶菓子を運んできた。
杉浦は愛想よく礼を言い、菓子を食べながら書に目を向ける。

食べ物を食べながら書物を読むのははしたなく思え、槙之助はやめるように遠回しに注意したが、杉浦は豪胆に笑い飛ばして『細かな事は気にするな』と言った。

そうして2人の勉強会は終了となったが、さて、いよいよいつにするか……という話になり、杉浦は縁起の良い日を選んだ。

それは今からちょうど3日後の大安である。

「3日後ですか……」

近々だという事は覚悟していたものの、いざとなったらやっぱり逃げ腰になっていた。

「うむ、あのな槙之助、前日から泊まって準備をしなければならない」

しかし、杉浦は乗り気だった。

「そうですか、しかしながら……杉浦様、拙者はその〜、おなごの経験もありません、それであなたと……、あのー、失礼ながら言わせて頂きますが……自分は杉浦様に対して、なんの感情も抱いておりません、それでやるという事に……戸惑いを覚えます、やはり契りは無しになりませんか?」

槙之助は切羽詰まった心境になり、土壇場で契りを結ぶ事に異を唱えた。

「無理もない、拙者は兄となるが、ほんと言うと……槙之助、お主に学問を教えてやらねばならん、ところが生憎と……そっちは苦手なものでな、その代わりと言ったらなんだが、稽古ならつけてやれる」

杉浦は剣術なら自信がある。
念者として、少しはいいところを見せたかった。
槙之助はというと、学問よりも武道が苦手である。

「あ、はい……、武の方は得意ではありません、よろしくお願いします」

道場に通う勇気もない為、杉浦の申し出は有難く思えた。

「あいわかった、それではな、明日我が屋敷に来い」

杉浦は笑みを浮かべて力強く頷き、早速屋敷に来るように言う。

「明日……ですか?」

その顔を見たら、これ以上ごねるのは申し訳なく思え、諦めて従う事にした。

「ああ、拙者の両親は既に他界しておらぬ、屋敷にいるのは使用人だけだ、気を使う事もない」

杉浦には兄弟がいない。
契りを交わし、槙之助が弟になる事を楽しみにしていた。

衆道の縁が決まった後、杉浦は畠山家に挨拶に訪れたが、滅多に着る事のない紋付羽織袴姿でやって来た。
槙之助には妹がいたが、嫁入りしてとうに屋敷を離れている。
槙之助の両親は野性味溢れる杉浦を見て、一瞬面食らったが、話をする間ににこやかな笑顔を浮かべていた。
素朴で朴訥にも思えるこの男は、病弱な槙之助とは正反対のタイプだが、両親からすれば……むしろ頼もしく思えたからだ。






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