Snatch成長後編BL(完結) 3 ◇◇◇ 駐車場に行ったらそれぞれの車に乗り、マンションへ向かって走り出した。 テツの車が前を走っている。 俺が後ろについてる時は、超安全運転だ。 スピードも控えめだし、急ハンドルを切る事もない。 マンションに着いたら、テツの横に車をとめた。 車を降りると、テツは先に降りてこっちに歩いてきた。 「へっ……」 ニヤリと笑って肩を抱き、そのままエレベーターに向かって歩き出す。 こんな風に肩を抱いたりするのは、いつの間にか普通にやるようになったが、周りに住宅があるわけじゃないし、人目を気にする必要はない。 こういう触れ合いは……わりと好きだ。 エレベーターに乗って上にあがり、廊下へ出たが、肩を抱かれたまんま歩いた。 部屋の前に到着したら不意に隣のドアが開き、蒼介が顔を出した。 「へっへー、叔父貴ぃ〜、あ、テツもこんばんは〜」 蒼介は俺達を見てニヤニヤしているが、テツは蒼介に、俺と同じように名前で呼ばせている。 「おう悪ガキ、もう1時過ぎてるぞ、善良な青少年はとっくに寝てる時間だ」 テツは真顔で冗談めかして言った。 「やだな、俺はもう中学生っすよ、それより……いいなー、仲良くって、テツかっけーから」 蒼介は羨むような事を言ったが、いっつもテツを褒める。 テツも年をとって多少はシワが増えたが、その分渋みが増している。 確かに俺もカッコイイとは思うが、やってる事は昔となんら変わりない。 「褒めてくれるのは嬉しいが、蒼介、夜更かしは駄目だ、明日学校だろ? 早く寝ろ」 テツは肩から手を外して注意した。 「こら蒼介〜」 すると、姉貴の声が聞こえてきた。 「あっ、お袋……」 「こっちに来なさい」 「あ"〜、やだ、まだ話がしたい」 姉貴は蒼介を引っ張っているようだ。 「いいから引っ込んで! どうせ宿題してないんでしょ」 蒼介は抗っていたが、無理矢理玄関の中に引きずり込まれた。 「宿題はした〜、いいじゃん、ケチ〜」 玄関の中で文句を言ってるが、代わりに姉貴が顔を出した。 「あの、ほんとごめんなさいね、もう遅いから、矢吹さん、失礼します、友也またね」 姉貴は捲し立てるように言ってすまなそうに頭を下げる。 「ああ、うん」 返事をしたらもう1回頭を下げてドアを閉めた。 「大変だな、思春期真っ只中だからよ〜」 テツはぶつくさ言って鍵を開けたので、俺も後について中に入った。 「龍がいなくなっちまって、ちょっと寂しいな」 そんな風に言われたら、胸がキュンと切なくなる。 「うん……」 龍王丸は俺達が帰宅すると、どこからともなくすっ飛んで来た。 モコモコのまっ白な毛並みで、図体はデカいのに可愛い声で鳴いた。 「水野のとこは長生きだな」 「後から飼ったし、猫は長生きするのもいるみたい」 水野んちの黒丸は老猫になって白髪があるが、まだ元気にしている。 「そうか、またなんか飼うか? 」 「うん、飼いてぇな」 「犬は散歩がいるからやっぱ猫か? 」 「だよな、俺、躾とか自信ねーし」 翔吾がドーベルマンを飼った時に、黒木がやたら張り切って訓練の仕方なんかを勉強してた。 ドーベルマンクラスになると、ちゃんと躾しなきゃマジでヤバいからだ。 幸いにもやって来たドーベルマンは穏やかなタイプだったので、さほど苦労はしなかったみたいだが、子犬の時は悪戯が激しくて革張りのソファーを破かれたりしたようだ。 「じゃ猫か……、あ、そういや……、事務所の物置ん中で、猫が子供を産んだって言ってたな」 テツは思い出したように言った。 「事務所って、すぐそこの? 」 「いや、あそこは物置は置いてねー、街中にある方だ、ほら、昔、鷲崎一家と揉めただろ? あん時に銃弾撃ち込まれた事務所だ、下っ端が事務所番してて気づいたらしい」 「そうなんだ、で、まさか……追い出したりしてねーよな? 」 「そんなむごい真似はしねぇよ、俺らはこんな稼業だが、案外動物好きな奴が多いからな、当番の奴らが交代で見守ってるらしいぜ、母猫にキャットフードをやったりしてよ」 「へえ、優しいじゃん」 「ああ、それでな、そいつらのうちのひとりが、乳離れしたら飼うっつってる」 「子猫は何匹いるの? 」 「3匹だ」 「あ、じゃあさ、1匹貰う? 」 乳離れしたら野良になって路頭に迷うんだから、そうなる前に貰ってくれば、きっと飼い慣らす事が出来る。 「いいのか? 龍王丸みてぇなモフモフの血統書付きじゃねーぞ」 テツは心配しているが、種類に拘りはない。 「大丈夫、キャットタワーもあるし、猫の部屋もそのままにしてるから、すぐに使えるよ」 龍王丸の部屋は片付けるのが嫌でそのままにしてる。 「お前がいいなら、俺は別に構わねーが、あと1匹余っちまうな」 テツはもう1匹の事を言ったが、1匹だけ売れ残ったら可哀想だ。 「あのさ、だったら他に貰い手を探して、もし誰もいなかったら……2匹飼うよ」 「2匹〜 大丈夫か? 」 「うん、龍王丸は黒丸とは仲良く出来なかったけど、兄弟の猫なら仲良くすると思うし、世話は大丈夫、昔みたいに蒼介も赤ん坊じゃないんだから、なにも心配する事はねー」 「おお、そりゃまあな、じゃわかった、そいつらに言っとくわ」 「うん、頼む」 まだ少し先だが、凄く楽しみだ。 龍王丸の事は忘れ難いけど、いつまでも寂しがってちゃ駄目だ。 俺もテツも、みんな誰だっていずれは死ぬ。 けれど、生きてるうちは前に進むしかないんだから。 「でー、そろそろ……だよな? 」 玄関を少し入ったところで立ち話をしていたが、テツは肩を抱いて聞いてきた。 「うん……」 最近ご無沙汰だ。 「やるか? 」 「へへっ……、ああ、いいよ」 今更恥ずかしいもなにもないが、むしろ、慣れ過ぎて照れ臭い。 とりあえずスーツを脱いで、用意をする事にした。 「おい、待て」 「わ……」 クローゼットに向かって歩き出した途端、腕を掴んで抱き締めてきた。 「へへっ、チューだ」 顔を両手で挟み、いきなりのキス。 「ん……」 キリがない程してきた事だが、ぎゅっと背中を抱かれたら、性懲りも無くドキドキし始める。 初めてキスされた時は最低だと思ったが、今は思いきり背中を抱き締めて唇を吸い返す。 俺の大切なパートナーだ。 テツは浮気はしていない……とは思うが、組絡みで付き合いがあるから、絶対とは言えない。 俺以外の男か女と寝ていたとしても不思議じゃないが、例え遊びだとしても想像したら腹が立つ。 だから、そこは見て見ないふりをする。 「へっ、参ったか? 」 本人はそんな事はどこ吹く風で、すっと離れてしたり顔で聞いてくる。 「ああ、参った」 キスは初めからずっと上手い。 「あのな、今言う事じゃねーが、明後日、お前の父ちゃんに会いに行こう」 せっかくいいムードだったのに、ぶち壊しになった。 「うん……、わかった」 父さんとは一応和解した。 但し、長年抱き続けた蟠りは、そんなにあっさり消えるものじゃない。 父さんは体の麻痺はほとんど治り、今は別の会社で働いている。 昔の立場とはまったく違う、ただの平社員だ。 そりゃ年が年だし、いい就職先なんか見つかるわけがない。 俺は……きっとブチ切れてソッコーで辞めると予想していたが、意外な事に辛抱して働いている。 計算が得意だから、経理課で事務仕事が主だ。 「そうか、じゃ、用意してきな」 「うん……」 テツに返事をしてクローゼットに向かった。 別に気にする事はない。 田中の爺さんはお亡くなりになったし、あの爺さんさえいなければ気楽だ。 母さんはパートを辞めて家にいるが、少し余裕ができたのか、日本舞踊なんか習ってる。 俺は『そのうち薙刀でもやるんじゃないか? 』って、冗談を言ったりしている。 父さんも母さんも、昔は蒼介に甘々で猫っ可愛がりしていた。 今も甘々なのは同じだが、蒼介は実家には行かなくなっている。 テツが言ったように、難しい年頃だからだろう。 用意を済ませたら、寝巻き代わりのジャージを着てベッドに行く。 テツもジャージに着替えてベッドに寝転んでいる。 「テツはシャワーいいの? 」 「俺はシャワー浴びた」 「ん、一旦帰ったとか? 」 「ああ、まあな」 今の……微妙な言い方だ。 いやーな気持ちが湧き上がってきたが、兎に角隣へ上がった。 「なあテツ……」 「ん? 」 「いや、なんでもねー」 聞こうかと思ったが、やっぱりやめた。 嫉妬してるとか、なんだかみっともない。 「おい、なんだよ」 だが、腕を回してきた。 「なんでもねーって……」 顔を覗き込むから反対に向いた。 「この野郎〜、なにか隠してるな? 」 「隠してねー」 隠してるとしたら、あんただ……と言いたいが、やめておく。 「このっ、オラァ〜っ! 」 すると、デカい声を出して背中から抱き締めてきた。 「ちょっと、でけぇ声出すなよ」 隣に蒼介がいるのに、これ以上悪影響を与えたくない。 「うるせー、なんなのか言え」 だけど、テツはこうなるとしつこい。 「あのさ〜、そうやっていちいち絡むの、やめよ」 「にゃろー、言わねぇと……恐ろしい事が起こるぜ」 またそういうのにかこつけて、変な事を言い出した。 「恐ろしい事ってなに? バイブ、ローター、それとも手錠? 」 ネタはバレている。 「ふっふっふっ、ピアスだ、ちんぽにな」 ところが、意表を突いてきた。 「えっ……、えぇ〜、チンコにピアス? なに怖い事言ってるんだよ」 考えただけでチンコが痛くなる。 「だから恐ろしいっつったんだ、さあ、言うか言わねぇか、どっちだ」 たまにドSになるからタチが悪い。 チンコにピアスなんかされたらたまったもんじゃないし、そんなに知りたいなら……言ってやる。 「わかった、じゃ言う、あんたが……浮気してるんじゃねーかって思ったんだ」 「ほお〜、ひょっとしてシャワーか? 」 「ああ」 「あのな、実を言うとホテルに行った」 「えっ……」 まさか、ガチだとは思ってなかった。 「けど、シャワー浴びただけだ」 そんな馬鹿な……。 「シャワーだけとか、有り得ねー、女、男、どっち? 」 「男だ、ちょっとな、紹介されてよ、向こうは礼のつもりなんだ、だからよ、やったふりをした、随分前に似たような事を言った筈だぜ」 確かに聞いたが、それでも不安になる。 「相手は……若い奴? 」 「ああ、18だと言ってたな」 益々有り得ねぇ。 「食わねぇ方がどうかしてる」 テツは昔から若い子が好きだと言ってきた。 「信じられねーのか」 「だって……、俺はもう若くないし、18には負ける」 「馬鹿だな、俺よりわけぇじゃねーか」 「そうだけど、そんなの……」 もし自分がテツだったら、誘惑に勝てる気がしない。 「おい友也、俺はなんの為にお前を養子にしたと思う、この指輪はなんだ? 」 テツは後ろから顔を覗き込み、俺の手を握って指輪に触れてきた。 「そりゃ……わかってる」 信じたいのは山々だが、俺にするようにキスをして、体に触れたんだとしたら……悲しいし、ムカつく。 「俺が抱くのはお前だけだ、何故そこまで真面目になれるのかって、要はそこだろ? 」 「うん、まあ……」 テツは聞いてきたが、確かに疑問に思う。 「あのな、お前に惚れたのは俺だ、俺が奪い取って自分のものにした、もし浮気なんかしたら……お前の父ちゃんや母ちゃんに会わせる顔がねー、それによ、浮気して破局したら、所詮男同士なんてそんなもんだって、そうなっちまう、そんな事になったら、俺は自分で自分が許せねー、明後日、のうのうと会いになんか行けねーよ、どうだ、これでもまだ疑うのか? 」 そしたら、マジになってわけを説明してくれた。 「その……」 凄くよくわかったし、疑う余地はない。 「……ごめん、よくわかった」 めちゃくちゃバツが悪くなったが、疑った事を謝った。 「へへっ、ああ、わかりゃいい、じゃ、おっ始めようぜ」 テツは気を悪くする事はなく、むしろ、機嫌よくムードもへったくれもない事を言った。 「ああ、うん……」 なんだが笑えてきたが、それでこそテツだ。 抱き合ってキスをしたら、それなりに気分が高まってくる。 次にどう来るか、そんなのは手に取るようにわかるが、わかっていても飽きる事はない。 久しぶりに……ガッツリ愛し合った。 [*前へ][次へ#] [戻る] |