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Snatch成長後編BL(完結)
91、Ghost
◇◇◇

できるだけ明るく、日常を取り戻したフリをしよう。

そう決意してはみたが、翔吾は思わぬほど用心していた。

テツが亡くなって50日目の今日、埋葬祭が執り行われた。
墓の前にしめ縄、供物などの用意がしてあり、墓に遺骨を納骨して儀式をする。
それで終わりだが、その後で親父さんの屋敷に集まって皆で食事をした。
神職の人にはお礼を渡すだけで、共に会食をする事はない。

弔いの会食だから、みんな酒は控えめにしている。
会食が終わって解散となったのは、20時過ぎだった。

ケビンと一緒に帰宅しようとしたら、翔吾に呼び止められた。
何かと思えば、ケビンはここまででいいと言う。
どうやら……俺の努力が報われたらしい。

俺は監視付きの生活から解放される事になった。

晴れて自由の身だ。

ケビンは送って行くと言ったが、俺はひとりで帰りたかった。
タクシーで帰ると言ったら、翔吾はケビンが嫌なら他の誰かに送らせると言ってきた。
本当は自分が送りたいが、今夜は外せない用があるらしい。
厚意は有難く思うし、今まで世話になった事に心から感謝しているが、丁重に断った。

屋敷を出る前に親父さんに挨拶をした。
親父さんは羽織袴姿で俺をハグしてきた。
『友也君、矢吹は君を見守っている、だから強く生きろ』と、そう言って励ましてくれた。
林もいたからついでに顔を拝んだが、親父さんに御礼を言った後、翔吾と黒木に見送られてタクシーに乗った。

目指すのは住み慣れた部屋……。

ではなかった。

いつかテツと一緒に行った鄙びた温泉。

タクシーはそこへ向かっていた。

あの温泉は竜治とも行ったし、思い出深い。
竜治には申し訳ないが、どうか許して欲しい。
猫達の事は、多分竜治がなんとかしてくれるだろう。
山奥になるから少々時間がかかるが、時間は全く気にならなかった。
街から離れると、ガラス越しに見える景色は真っ暗だが、変に落ち着き払った気分で眺めていた。
カバンの中にはロープが入っている。
この時の為に携帯しておいた。

姉貴に母さん、それに父さんも……。
蒼介に火野さん、ケビンに寺島……霧島組の人達全員にありがとうって言いたい。


大分走った末に、ようやく目的地に着いた。
温泉宿に泊まるわけじゃないが、ひとまず旅館の前でタクシーを降りた。

真っ暗な山は不気味に見えるが、今はおかしい位平気だった。

テツと一緒に見た滝へ向かう。
草が生えた獣道に分け入り、奥へと進んで行った。

『おい、お前、待たんか』

突然、爺さんの声がした。

「田中さん……」

物凄く久しぶりだから、背の高い草の中で足を止めていた。

『友也、今から死ぬつもりだろう』

どうやら、死を察知してやって来たようだ。

「はい」

相手は死人だし、隠す必要はない。

『あの男、テツといったか、あいつが死んだから、後を追うんだな?』

「ええ、はい」

『バカもん! せっかくまともな道を歩めるというのに、自分から死んでどうする』

爺さんは怒鳴りつけてくる。

「あなたにはわからない、いや……、理解して貰おうとは思ってません」

爺さんにどう思われようが、今はどうでもいい。

『あの男は成仏しとらんぞ』

無視しようと思ったが、気になる事を言った。

「えっ? どういう事ですか……」

『さまよっている、自分が死んだ事すらわからないようだ』

「テツが……さまよってる」

『ああ、今日納骨だったろう、今日を境に自ら動けるようになる、そしたら死んだ事を自覚し始めるだろう、あのな、死んですぐに意思を持って動けるわけではない』

「あ……、そっか」

確か、三上がそんな事を話していた。

『わしは決してお前らの事を認めたわけではない、だが……お前は生きるべきだ、わしはあの男が死んだ後、お前を遠くから見ていた、お前はみんなに頼られている、他人に力を与えられる人間はそんなにはおらんのだ、その事がアダとなってあの男は死んだが、あれは運が悪かった、人の運命は流動的で巡り合わせが鍵となる、しかしそれを除けばお前は希少種と言ってもいい、だから生きろ、そしてあの男を成仏させてやれ』

「テツを……」

『そうだ、さまよったままでいいのか? 嫌ならわしのいう事を聞け、ま、それだけだ、わしはミノルとあやとりをしなければならん、また来る』

「え、あやとりって……」

爺さんはミノルをいたく気に入ってるようだが、今の話を聞いたら……このまま逝くのはマズい。
俺の事はどうでもいいが、テツをほっとくわけにはいかないだろう。

どうしたらいいか、そんな事はわからないが、なんとかしなきゃ駄目だ。








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