Snatch成長後編BL(完結)
82、LOVE
◇◇◇
部屋に帰ったらテツがいた。
ソファーに座っている。
「なあテツ」
なだれ込んで抱きついた。
「タコが来やがったな」
テツは少し前に屈んだ体勢だ。
「ああ、へへっ、絡みついてやる」
首にしがみついた。
「お前、墨入れる時に泣いただろ」
俺を横目で見て言ってくる。
「泣くわけねーし」
痛かったが、涙は出なかった。
「若も一緒だったんだろ」
「うん、手ぇ握っててくれた」
ヤキモチを焼くのを期待して、わざと話した。
「なにぃ? お前、30過ぎてガキかよ」
だが、バカにしたように言う。
「テツだって握っててくれたじゃん」
過去に入れた時は、テツも手を握ってくれた。
「さあな〜、そんな記憶はねーぞ」
あからさまにとぼけている。
「とぼけても無駄だ」
シャツに手を突っ込んで乳首を摘んだ。
「こら、どさくさに紛れて悪さをするな」
「あんたがとぼけるからだ、うりうり〜」
乳首をグニグニ捻った。
「こーら、そんな事をしたら……こうだ!」
「うっ!」
いきなり急所を鷲掴みとは、卑怯な。
「ふっ、玉ぁ潰しちまうぞ」
シャツから手を抜いたが、手に力を入れて握ってくる。
「あ"〜っ! ちょっと、マジで?」
「へっ、焦ってやんの」
意地悪くニヤついている。
「ちょっと〜、手ぇ離せよ」
大きな手で鷲掴みされたら、金玉が縮み上がる。
「わーったよ、墨は痛てぇか?」
すると、手を放して聞いてくる。
「うん、まだちょっと腫れてる」
墨は一応慣れてるし、それよりもマサアキの事を話そうと思った。
「そうか、膿んだらやべぇからな、気をつけろよ」
さっきは玉を潰しにかかったが、ちゃんと心配してくれる。
「うん、あのさ、帰りがけに駐車場でマサアキに会った」
「ん、お前が庇った奴か」
「そう、あの〜、マサアキは浮島に入隊するらしい」
「んん〜、浮島に? けどよ、浮島が許可しねぇだろ」
「それがしたらしい、多分さ、マサアキは自分の気持ちを正直に話したんじゃねーかな、なんか……俺を拉致った事をキッカケに目が覚めた……みたいな事を言ってた」
「へえ、改心したのか?」
「そうみたい」
「ふーん、浮島も物好きだとは思うが、ま、人材不足だからな、本人が反省して真面目にやるっつーならアリかもな」
テツも改心する奴には理解を示すらしい。
マサアキの事は話したが、俺はもうひとつ話したい事がある。
「あの〜、明日、つーか、日付変わってるから今日だけど、店のニューハーフと食事に行ってくる」
「なにぃ〜? そりゃどういう事だ」
正直に話した方がいいと思ったのに、思いっきり疑いの目を向けてくる。
「いや、ちょい待って、ただの食事だから、ほら、借金の事でお礼をしたいって言うんだ」
「ああ、琴里か」
「うん」
「あいつ、結構美人だぞ、体も女になってるだろ」
「そうだけど、そんなのは関係ない」
「2人きりで食事か……、デートじゃねーか」
「だから違うって」
「じゃ、俺も行く」
「ええ……」
テツが一緒に行ったら、琴里が恐縮してしまいそうだ。
「いや、あの〜、ちょっとお茶をしに行くだけだから」
「そりゃあな、発信機で確認すりゃわかる、ホテルにインしたらバレバレだからな」
「ねーって……、つーか、それならいいだろ?」
発信機だろうがGPSだろうが、チェックすればいい。
「うーん……、お前はどうも危ねー」
やけに疑っているが、だったら俺だって言いたい事がある。
今まで我慢して言わなかったが、もう我慢できない。
「じゃあさ、あんたはどうなんだよ、ちょっと前になるけど、おっぱいのデカいお姉ちゃんとカフェにいたよな?」
あの時、テツはニコニコ笑って楽しそうだった。
「あぁ"? 姉ちゃんって……、カフェ、お前見たのかよ」
「ああ、見た、偶然……、あのさ、あんたの昔の元カノがついてきて、刺されたじゃん、あのちょっと前」
「あっ……、おお、あれはな、取引先の姉ちゃんだ」
「ほら、あんただってデートしてるだろ」
「不動産会社なんだが、うちにある物件を買ってくれって言うからよ、断ったんだ、そしたらあの姉ちゃんをよこしてきた」
「ハニートラップじゃん、で、おっぱいに釣られて、まんまと買ったわけ?」
「バカ言うな、そりゃあな、おっぱいは惜しい、けどよ、そんなんでうっかり契約したら、親父に大目玉どころか、指詰めろって話になるわ」
「指詰めは無しじゃなかったのか?」
「おお、たとえだよ、それくらい責任があるって事だ、仕事の話となったら鼻の下ぁ伸ばしてるわけにゃいかねぇからな、姉ちゃんとは話をしてサヨナラだ、向こうはあわよくば……と思ったんだろうが、バカバカしい、そんな甘かねーんだよ」
「ふーん、そっか……」
本当に浮気はしてなさそうだ。
「で、お前は契約云々じゃねーから、逆に心配なんだ、琴里が相手だと……お前はタチになる、この野郎〜、俺以外に手ぇ出したらガチで玉を潰すぞ、あのな、バリタチでやってきたこの俺が……お前にだけは許してやったんだ、ちんぽを使いやがったら承知しねぇ」
テツは俺をタチとして考えてヤキモチを焼いている。
「えへへっ……」
なんだか……嬉しくなってきた。
「おい、なにが可笑しい」
「だってさ、本当に対等なんだなって思うから、それって、俺とおんなじ受けとしての気持ちだろ?」
「そりゃ……まあ……、そうなるな」
「うん、浮気しねぇ、絶対しねぇ、もし破ったら玉を潰してもいいよ」
ヤキモチなんかもういい。
とにかく、約束する。
「よし、わかった……、信じてやる」
「へへっ、うん……」
テツの腕に腕をからめてくっついた。
「で、爺さんはあれから来たのか?」
「うん、1回来た」
「なんか言ってたか?」
「うんまあ〜、色々……、なんかさ、お嫁さんと上手くいかなかったみたい」
「だろうな、あんな覗き趣味のあるジジイは嫌われて当然だ」
「うん、確かにちょっと変わった人だけど、お嫁さんが礼儀に欠けるらしい、だから怒ってる」
「ふーん、今どきは礼儀もクソもねーからな、だから俺らの稼業も人材不足になる、序列が厳しいからな、兄貴分、弟分、親父に若、お前が若を呼び捨てにしてるのは同級生で友達だからだ、それに……お前は組の人間にはなってねー、けどよ、一旦組に入ったらそうはいかなくなる、上下関係は当たり前に守らなきゃならねー、たとえ親父や若と個人的に親しくしていても、それとこれとは別だ、親父や若を名前で呼ぶなんて事は……まかり間違っても有り得ねー、今の奴らはそういう厳しさに耐えられねーんだよ、なんでもなあなあで済むと思ってる、ヤクザは男社会だ、女子供のお遊びじゃねーからな、序列は絶対に守らなきゃならねぇ」
「そっか、うちの母さんや姉貴はそういうのはちゃんとしてる方だと思うけど、女の人って普通はタメ口になったりしがちなのかな」
「だろうな、女は基本横繋がりだ、お手手繋いで小さなコミュニティで馴れ合って満足する、あの爺さんがそういう事に拘るタイプだと、言葉遣いから日常的な事まできっちりやる女じゃねーと、まず無理だろうな」
「なるほどな〜、じゃあさ、寺島さんの彼女みたいなタイプならよかったかもな」
「おお、あの千尋って娘はなかなかしっかりしてる、あいつにゃもったいねぇな」
「ははっ、うん、まあ〜でも、俺は応援したい、寺島さんも身を固めたいだろうし、奥さんがいたらビールを飲みすぎるのをやめるかも」
寺島も今は変わったし、愛妻のいう事なら素直に聞くだろう。
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