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Snatch成長後編BL(完結)
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◇◇◇

マリアは店には出ずに、翔吾から仕事を教わっている。

墨入れをして数日後のある夜、店に青木がやってきた。
先輩ニューハーフと一緒に遊びにきたらしい。

「あら〜、やっぱり可愛い子ばっかしね〜」

先輩ニューハーフは席について辺りをキョロキョロ見回している。
シャギーソルジャーがクオリティの高いNHを揃えてるのは知ってる筈だが、実際に目にして驚いたんだろう。
先輩ニューハーフも青木も、2人共がっつり女装してるが、残念ながら一見してオカマだとバレてしまうレベルだ。
注文は嬢が受けたが、知り合いだし、俺がビールを持って行った。

「お越しいただきありがとうございます、ビール、お待たせしました」

「ああ、あなた、マネージャーさんね、聞いたわよ、あなたが広夢にうちを世話したとか」

「あ、はい……」

「ふーん、あたしさ〜、店長から聞いたのよ、あなた霧島の人と同棲してるんだって?」

もうバレても構わないが、というか、青木は知ってるのかもしれないし……。

「あの……はい」

「えっ、石井君……、一緒に住んでる人がいるんだ」

だが、知らなかったようだ。
けど……この際、くだらない見栄を張るのはやめよう。

「青木、ごめん……、何となく話しづらくて隠してたけど、俺、今は養子縁組して、名前は矢吹になってるんだ」

「ええ……、なにそれ? いつか店長が話してた名前じゃん、マジで? そうだったんだ……、だから家は駄目って言ってたんだね」

「うん……、やっぱさ、俺、高校ん時はそういうのじゃなかったし、ノーマルだっただろ? だからさ、そんな事になってるって……ちょっと言えなかった」

「広夢、あんた、知らなかったの?」

「うん、全然……」

「じゃ、これで諦めなきゃ駄目ね、あんた、マネージャーさんにホの字だったでしょ?」

先輩ニューハーフは気になる発言をした。

「あ、俺……、石井君には色々助けて貰ったし、だから……」

青木はしどろもどろになっているが、俺はありのままの気持ちを伝えたい。

「青木……、俺はたまたまこういう仕事をしてたし、本気でニューハーフになりたいなら、力になれたらいいなって、そう思ったんだ」

「そうだよね……、石井君みたいなタイプが……俺を好きになるわけがないし」

でも青木は俯いてしまい、いじけたようにボソッと言う。

「いや、そういう事じゃなくて……」

俺にはテツがいるし、青木の事はあくまでも同級生として見ている。

「いいんだ、どうせ俺みたいな根暗なタイプは……やっぱり無理なんだ、俺は昔となにも変わらない、根暗でイケてない人間のままなんだ」

なのに、卑屈になって投げやりな事を言う。

「ちょっと〜広夢、やめなさいよ、マネージャーはあんたの事は嫌いじゃない、だから力になってくれたんじゃないの、そんなさ、モテない女みたいなセリフを吐いたら嫌われちゃうし、世話になった恩を仇で返すようなものじゃない」

先輩は呆れ顔で諭した。

「う、だって俺……」

青木は泣きそうな顔で言葉につまり、俺はどうしたらいいか困ったが、いきなりガタッと立ち上がり……ダッと走りだして店の入口へ向かった。

「ちょっと青木……!」

声をかけたが、振り向かずにドアを開けて外に出た。

「あんっ、もう馬鹿ね! ごめんなさいね、支払いは……はい、これ、足りなかったら後で店に連絡頂戴、あたし、あの子を追わなきゃ」

先輩は地団駄を踏んで言うと、財布から万札を引き抜いてテーブルに置き、急いで青木の後を追いかけて行った。

「あ……」

俺はポカーンとなって立ち竦んでいた。

「おい、今の見ちまったぜ」

三上がやってきて言った。

「っと……、やっぱ俺が悪いのかな?」

青木を傷つけてしまったような気がする。

「いーや、俺な、地獄耳を発動させて聞いてんだが、向こうが勘違いしてるんだよ」

「地獄耳って発動するもんなんですね、っていうか……、勘違いっすか」

「お前はよ、わりと誰にでも親切にする、それがお前のよさでもあるんだが、優しさは時に誤解を生む」

「じゃあ……、俺がよかれと思ってやった事が、誤解を生んだって事っすか?」

だとしたら、悪い事をした。

「お前、あいつに矢吹の事を隠してただろ、初めから言っときゃ良かったんだ」

「そうですね……」

ついカッコをつけて内緒にしたばっかりに……。

「高校ん時の知り合いだから、ゲイになったって、そんな風に思われたくなかったんだろ?」

「はい……、その通りです」

「ま、気持ちはわかる、青木の事は深く考えるな、お前は奴に力を貸してやったんだ、なにも悪いこたぁしてねー、おめぇに惚れたのは奴の勝手だ、それによ、あいつは自分からニューハーフになりてぇと言ってこの世界に飛び込んだんだ、自分の人生は自分自身で切り開くしかねー、お前の事で傷心したとしても……そんなのはお前が責任感じる事じゃねーよ、一応言っておくが、これ以上下手に関わると、あいつを余計に傷つける事になる、その気がねーなら、スッパリ断ち切る事だ、それによー、こりゃあ〜俺自身の意見として言うが……あんな女の腐ったような奴は……うぜーし、気色悪ぃ」

三上は最後にキツい事を言ったが、その前に言った事は間違っちゃいない。

「はい……、わかりました」

青木には申し訳なく思うが、このままそっとしておいた方がよさそうだ。

「で、あのよ〜、お前、爺さんを背後霊にしただろ」

三上は不意に爺さんの事を言った。

「あ、はい……、なにかマズい事でも?」

俺は問題ないと思ったが、霊の事は霊に聞くのが一番だ。

「いいや、別にねー、あの爺さん、ちょっと前から悪さをしそうな雰囲気だったが、急におとなしくなった、で、ミノルに聞いてわかったんだ」

どうやら大丈夫らしい。

「そうですか、害がないなら別にいいです」

「お前も色んな奴に好かれて大変だな、でよ〜、小森の件が矢吹にバレたって事ぁ付随して若の事もバレたよな? やっぱ刺青か?」

「はい、1回済ませたところです、手彫りだからもっと時間がかかるかと思ったら、そうでもなくて、次は左側をやります」

刺青は痛いけど、俺自身乗り気になっている。

「ほお、胸割りか?」

「いえ、あの昔ながらのデザインは……俺はあんまり好きじゃなくて、そしたらテツが胸割りの代わりに肩にかけて鷹を入れたらどうだって言ったんです、両肩から胸にかけて入る感じで、対になった鷹は向き合ってる感じになります」

「へえ、洒落てるじゃねーか、昔っからの刺青って感じじゃねーが、今どき拘るこたぁねー、矢吹の奴……センスだけはいいからな」

「ははっ、ええ、はい……、あの〜それで、ついでに翔吾も入れる事になりました」

テツを褒められると嬉しくなるが、翔吾の事も伝えた方がいいだろう。

「ん、若が入れるのか?」

「はい、青龍です」

「そうか……、そいつはまた、いや、悪くねー」

三上は刺青推奨派らしい。

「ええ、三上さんに言わなきゃって思ってました」

今はミノルの器を借りて浮島にいるが、三上は今でも霧島の仲間だ。

「おお、若の事はわかった……、兎に角、ビールを片付けねーとな」

三上は納得したように頷くと、飲み残したビールをトレーに乗せた。

「あ、すみません」

「こりゃ料金か、ちょいと多いな」

テーブルに置かれた万札に気づき、金を掴んで言った。

「あの、後日お釣りを届けます」

「ああ、じゃあよ、うちのもんに届けさせるわ、あの店に行く奴がいる」

「いいんですか?」

「ああ、構わねーよ」

「そうっすか……、じゃあ、お願いします」

あんな事になって青木と顔をあわせづらいし、届けて貰ったら助かる。



青木の事でプチハプニングはあったが、それ以外は特に問題なくフィナーレを迎えた。

レジは三上がやってくれるという。
もう毎度になっているが、おんぶにだっこでお任せする事にして、俺はカウンター内で乾いたグラスを棚にしまっていた。
すると、琴里がそばにやってきた。

「あのマネージャー、お約束の件なんですが」

こないだ話したアレだと思ったが、やっぱりそうだった。

「ああ、うん」

「明日はどうでしょう、午後1時位ですが」

別に予定は無い。

「ああ、いいよ」

「そうですか、じゃあ、あたしお迎えに行きます、マンションならわかるので」

「あ、そう?」

迎えに来てくれるなら、待ち合わせとか面倒な事を考えなくて済む。

「それでいいですか?」

「うん、その方が俺はありがたい」

「じゃ、そうします、行く前に電話を入れますから」

「うん、わかった」

「はい、じゃあこれで……、楽しみにしてます」

「ああ、お疲れ様」

約束を交わして琴里を見送った。


その後で売り上げを翔吾に持って行ったが、マリアをまじえて3人で少し話をした。
キリのいいところで切り上げて店長室を出たら、三上が廊下にいた。
まだ迎えが来てないとの事だが、今夜はテツが早く帰ると言っていたし、悪いけど……先に帰らせて貰う事にして、裏口から出て駐車場に向かった。

車の近くまできた時に、車の陰からすっと誰かが出てきた。
思わず身構えたが、歩み寄る男には見覚えがあった。

──マサアキだ。

「マサアキ……」

「ああ、抗生物質、渡せなかったな」

あの時の事を言ったが、怪我をしている様子はなく、パッと見元気そうに見える。

「なに言ってるんだ、浮島に捕まっただろ?」

「お前が若頭に話してくれたお陰で、アラスカに行かずに済んだ、ありがとな」

「いや、その……、あんたは俺を助けようとしてくれた、だからだ」

「ふっ、俺にもまだ人並みな感情が残ってたらしい、そりゃあな、金は欲しかった、高飛びしてしまや……上手くいくと思ったが、そう甘くはねーよな、俺な、真面目にやってみようと思って……、浮島の部屋住みに入れて貰う事にした」

「えっ……」

浮島に入隊希望を出すとか、よくそんな度胸があるものだ。

「一応OKは貰った、明日から組長の屋敷で下働きだ」

「そうなんだ……」

あんな事をやらかした人間だが、浮島は部屋住みを許可したらしい。

「お前を拉致った事がいいキッカケになった、お前には災難でしかなかっただろうがな」

「そっか……、大変だと思うけど、挫けずに頑張って、ほら、浮島ならまた会えるし」

「ははっ、そうだな、お前とはまた話がしたい、だからな、俺は頑張る」

「ああ、うん……、最初は何かと大変だとは思うけど、応援してるから」

人間、何がキッカケになるかわからないものだが、良い方へ転んだのなら、よかったと言っていいだろう。







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