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Snatch成長後編BL(完結)
79、店長
◇◇◇

店に復活し、マリアに会って青木に連絡を入れた。

2人共治った事を喜んでくれた。
店には翔吾が来ている。

「店長、ご苦労さまです」

ちょっとふざけて挨拶しに行った。

「なに言ってるんだよ、あのさ、墨なんだけど、最初だけ一緒に行くよ、僕は初めてだから、友也のを先に見学させて貰いたい」

「うん、いいよ、へへっ、なんか2人で行くと心強い」

鮫島さんは健在らしい。
最初に入れた時みたいな怖さはあんまりないが、それでもやっぱり緊張はする。

「そっか〜、筋が痛いらしいね、深く切るから」

「うん、あれは痛い……」

背中は額だけだが、肩は額無しで鷹を描くから覚悟が必要だ。

「いつから?」

「あ、っと〜、週末だったような、確か……金曜日の午後から」

「わかった、じゃあ、その日はあけておくよ」

翔吾と一緒に行く事になったが、勿論黒木はもれなくついてくる。
黒木は墨を入れる事を反対していたが、翔吾が決めた事には逆らえない。
どんな顔をしてやって来るか、ちょっと楽しみだ。

「うん、じゃあ、俺は向こうに行ってるから」

「あっ、ちょっと待って」

廊下に出ようとして呼び止められた。

「なに?」

「あの、店長の事なんだけど、僕は最初新たに募集をかけようかと思ったんだが、よくよく考えたら……マリアが適任だと思うんだ」

「あ……、そうだな、うん、いいかも」

灯台もと暗しとはこの事だ。
わざわざ他所から雇わなくても、ベテランがすぐ近くにいた。

「ただ、マリアはハルさんの家にいるんだよね? リハビリを手伝ってるとか、負担にならないかな?」

「ああ、昼間だから大丈夫だとは思うけど、ちょっと後で聞いてみるよ」

ハルさんの事はまだ聞いてない。

「うん、頼むよ」

開店前だから、控え室で用意をしていると思うが、マリアは最近じゃ衣装を着る事が少なくなった。
シックなスーツを着て来て、そのまま店に出ている。

控え室の前に歩いて行き、ドアノブを掴んでドアを開けようと思ったら、いきなりドアが開いた。

「わっ」

びっくりして1歩下がったが、琴里が出てきた。

「マネージャー、あたし、お礼を言わなきゃ……」

琴里は遠慮がちに言ってきた。

「え? あの〜もしかして借金の事?」

「あたし、知らなかった……、マネージャーもあの店長のせいで酷い目にあわされたって……」

「あっ、その事なら……ちょっと向こうで話そうか」

小森との事は、拉致られた事は店の連中にバレてるが、それ以外はみんな知らない。
だから、ロッカーの前に連れて行った。

「んで……、お礼はいい、俺はなにもしてない」

琴里がどこまで話を聞いてるのか、それもわからないが、ひとまず話を聞いてみる事にした。

「でもあたし……マネージャーが心配してくれたのに、あんな態度をとって」

「いいんだよ、気にしなくていい」

「あたし……弟の為にって言ったけど、本当は辛かった、だって、小森店長はアブノーマルなプレイをさせるの、人前でスカとか、キツかった……、でも霧島さんが話をしてくれた事で、借金は帳消しになったし、マネージャーが犠牲になった事であたしは救われたようなものよ、マネージャー、ありがとう……って言ったら変かな? 上手く言えないけど……あたし、凄く感謝してます」

どうやら、拉致以外は知らないようだ。

「いや、俺の事はきっかけになっただけだ、あんな事をやってると、どのみちいずれはこうなる」

だったら、余計な事は無しで話をする。

「はい……、あの、体はもう大丈夫なんですか?」

「ああ、治った」

「そうですか、あの……よかったら、今度お食事でも一緒にいかがですか? お礼をしたくて」

「あ、いや……、ほんといいって、悪いし」

そんな大袈裟な事じゃない。

「あの昼間です、それでもだめですか? ひょっとして……矢吹さんが許さない……とか」

だけど、テツの事をそんな風に思われるのは嫌だ。
俺は束縛されてるわけじゃない。

「それはない、わかった、いいよ」

それに、テツだって女とカフェにいたんだし、店の人間と食事に行く位かまわないだろう。

「よかった〜、じゃあ、いつにするかはまた後で、あたし、用意をしなきゃいけないから……」

琴里と約束を交わしたが、ついでに伝えて貰おうと思った。

「うん、あの、悪いけど……マリアが中にいると思うんだけど、ちょっとここに来るように言ってくれる?」

どうせ外で話さなきゃならないし、呼んで貰う方が早い。

「わかりました〜、ふふっ」

琴里は楽しげに笑って控え室に戻って行った。
親父さんは友和会との事を残念に思ったかもしれないが、いくら父親が出来た人でも、害悪を振りまく息子は返品しなきゃ、まだ他にも被害者が出る可能性がある。

マリアが控え室から出てきて、こっちに歩いてきた。

「友也君、どうかしたの? なにかあった?」

首を傾げて聞いてきたが、まずはハルさんの事だ。

「いえ、そうじゃないんですが、あの……ハルさんはどうですか?」

「うん、順調よ、ふふっ、ハルさんね、最近やたら『いつもありがとう』って、お礼ばっかし言うのよ、あとね、『君みたいな人は初めて出会った』って、そんな事を言ったわ」

「そうですか、そりゃ、普通は赤の他人にそこまでやらないっすよ」

「そうかもね……、でもさ、人生に疲れ果てて、死にそうになってた時に君達に助けられて、で、目覚めたらハルさんがそばにいた、ハルさんはその時『よかった、戻ってきてくれてありがとう』って言ったの、あたし……あの時、どれだけ救われたか……、あたしを待っててくれる人がいたんだって、そう思ったら……泣ける位嬉しくて」

「ハルさんがそんな事を……」

いい事を言う。
やっぱりハルさんは優しい。

「うん、だから……、あたしはハルさんの力になりたいの」

マリアの気持ちはよくわかる。
負担になるようなら仕方ないが、一応頼んでみたい。

「そうっすか……わかりました、あの……それで店長なんですが、翔吾がマリアさんにやって貰いたいって言ってるんですが」

「えっ、あたしに?」

「はい、シャギーソルジャーの事をよくわかってるし、適任だって言ってます」

「若頭がそんな風に言ってくださるの?」

「はい、どうでしょうか?」

「あ……、そりゃ……凄く嬉しいわ、あたし、もうショーに出たり出来ないし」

「じゃあ、あの……ハルさんのリハビリがあると思うんですが、その辺りはどうですか? 負担になったらあれなんで」

「ああ、あの、池崎さんがついててくれるから、それに昼間数時間で終わるし、大丈夫よ」

「そうですか、マリアさんが店長になってくれたら、俺ものびのびと仕事ができます、じゃあ翔吾にOKという事で伝えてもいいですか?」

「ええ、あたしでよければやらせて頂きます」

本人も喜んでるし、承諾してくれてよかった。

「よかった〜、じゃ、そう伝えます」

小森みたいな悪い奴は来ないと思うが、全く知らない人間だと無駄に気を使う。
マリアならそんな必要もないし、何よりも信頼できるのがいい。

「うん、宜しくお願いします、じゃ、あたしは控え室に戻るわね」

後で翔吾に伝えようと思った。

「はい」

マリアを見送っていると、裏口が開いて日向さんが入ってきた。

「あ……」

慌てて走り寄り、頭を下げた。

「あの、廃工場の件、ありがとうございました、それにマサアキの事も、ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」

日向さんには色々と世話になった。

「ああ、お前もよっぽど運の悪い奴だ、あんな奴らに拉致られて、病気までかかっちまってよ、まあ、あのどら息子はどうしようもねー、体はもういいのか」

「はい、お陰様でよくなりました」

「へへっ、友也、久しぶりだな」

ミノル兼三上が、日向さんの横に立って笑顔を見せる。

「うん……、久しぶり」

「霧島が来てるだろ? ちょいと話をしてくるわ、ミノル、お前はもう仕事をしていいぞ、俺は適当に帰る」

「わかった、じゃ友也、カバン置いてくるからよ、掃除だ」

「ああ」

日向さんは店長室に向かったが、テツがシマ荒らしの事を話していたし、若頭同士でなにか話でもあるんだろう。
三上は控え室にカバンを置きに行ったが、その場で待っていたらすぐに出てきた。

「おう、待たせたな、んじゃ道具を持ってくるわ」

ひとこと言ってバタバタとロッカーに走って行った。
ロッカーをバタン!と乱暴に開けると、中からモップ、バケツ、雑巾を出して戻ってきた。

「おっしゃ、ほれ、モップだ」

「すみません」

モップを差し出されて受け取った。

「んん〜、お前……、ちょっ手ぇ見せてみろ」

すると俺の手を見て言ったが、指輪に気づいたらしい。

「はい」

左手を三上に向かって差し出した。

「リングがダブルになってる、何故2つもはめてんだ?」

「これは発信機の仕込まれた指輪です」

どうせ話さなきゃいけない事だ。

「なにぃ?……あっ! ひょっとして、拉致られたからか?」

「そうです、テツが買ってきました」

「ああ、まあ〜、わからねー事はねー、ただよ〜、密会できなくなるな」

「ですね、でもハルさんのお見舞いなら問題ないので」

「おお、そうだな……、ま、それなりになんとかなる」

「なんとかなるって……」

「はははっ、ま、いーじゃねーか、さ、仕事だ」

三上は何やら企んでいるようだが、バケツを持って水を汲みに行った。
まあ……相手は三上だし、そんなに気にかける事じゃない。
モップをほうき代わりにして、廊下を掃く事にした。

三上はトコトコと戻ってくると、モップを水につけて絞り、床を水拭きし始めた。

俺はゴミを隅に掃き集めながら、日常が戻ってきた事を実感していた。

防弾チョッキの事を思い出したら不安に駆られるが、今は……今ある平和に浸りたい気分だった。








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あきゅろす。
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