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Snatch成長後編BL(完結)
55、愛念
◇◇◇

釣りでおすそ分けして貰った魚は、捌いてハラワタをとって冷凍した。
テツは親父さんが交換条件を出さずに、すんなり俺らの意見を聞いてくれた事に驚いていた。
目の前でヤレって言うんじゃないかと思ってたらしい。
親父さんなら有り得るが、歳をとった事もあるし、翔吾の事に関しては……それだけ俺達の事を信用してくれてるんだろう。



翌日、テツが出かけて行った後に、早速翔吾に電話をかけた。
お見合いの事はまだ親父さんから聞いてなかったらしく、無しになったと言ったら物凄く喜んだ。

これで気持ちも落ち着いて我儘も言わなくなるだろう。
そう思っていると、会いたいと言いだした。

『いや、翔吾……、お見合い無くなったんだし、これで安心して過ごせるだろ?』

『ああ、本当に助かった、でもこのままサヨナラは寂しいよ』

『だけど、黒木さんがヤキモチ焼くし、バレたらマズいって』

『バレなきゃいい、僕はシャギーソルジャーを任されてるんだ、それを口実にしたらなんとかなる』

『いや、でも、新しい店長来てるんだし』

『店長に呼ばれたって言っときゃいい』

参った……。
我儘虫はまだ静まりそうにない。

『だけどさ、俺は浮気したくない、テツは真面目にやってるのに、申し訳ない』

『友也の気持ちはわかる、僕は友也には悪いと思ってる、でもさ、テツは……、テツの事は好きだけど、やっぱり腹が立つ、だから譲れない、パパを説得してくれて……僕は益々君の事が好きになった』

『いや、それは違う、テツも一緒に言ってくれたんだ、俺だけの力じゃない』

『だとしても……、兎に角、会って貰うよ、今度はシティホテルを予約する』

『翔吾……』

『僕はお見合いさせられて傷ついた、癒しが欲しい』

『そっか……、わかった』

翔吾は小森みたいなどうでもいい奴とは違う。
なあなあで付き合うのはよくないと思うが、聞く耳はなさそうだし、とりあえず妥協するしかない。

「あーあ……、仕方ないよな〜」

テツはいないし、居るのは猫2匹だ。

「ニャ〜」

「へへっ、ほれほれ」

猫じゃらしの代わりに、タバコの包み紙をくしゃくしゃに丸め、それを見せて煽る。
テツは空になった包み紙を放置するから、包み紙がある時はたまにやる。
猫達は目をまん丸にして待っている。

「うりゃ!」

ポイッと放り投げたら、2匹は物凄い勢いで走って取りに行く。

「なはははっ……」

床で足を滑らせているが、競って丸めたやつをキャッチした。
2匹で取り合いになって、丸めたやつがポーンと吹っ飛んだ。

「あははっ!」

見失ってキョロキョロ探している。
自分で蹴飛ばしたのに……笑える。

「あっ……」

スマホが鳴った。

テーブルの上に置いてあるから、手を伸ばして掴み取って見た。
ミノルからだ。

『はい』

『おお、俺だ、矢吹は……まあ〜いてもいなくてもいいが、あんな、日向さんが許可してくれた、だからよ、見舞いいけるぜ』

三上だったが、もう日向さんに話したようだ。

『あ、っと〜、いつですか?』

『あのな、日向さん、今日は出かけるんだ、だからよ、この後、もし行くならお前んとこのマンションまで乗せてってやるって言ってる』

『あ、そうなんですか、あの〜、俺はいいですよ』

暇だし、全然構わない。

『お〜、よっしゃ! 部屋は一番上だろ、火野の隣だから分かる、んじゃ行くからな、へっへっへっ』

『あ……』

なにか期待しているようだが、確かめようと思ったら電話を切った。

「はあ〜」

翔吾とあんな話をした後に、三上とラブホ行きになるのは気分的に凹むが、三上とはパートナーになったので……断れない。

俺の人生はなあなあばっかしだ。
いや、いっときはテツオンリーだった。
なあなあが復活したのは、ここ最近の事だ。

ソファーから立ち上がって猫達を見に行った。

「ん?」

居なくなっている。
隣の部屋で遊んでるようだ。

見に行ったら、ベッドの上にいた。
包み紙を転がして遊んでいる。

「ははっ、遊んでな」

ついでに餌チェックとトイレを掃除しておこう。
その後で洗濯機を回し、モップで床を拭いた。
キッチンへ行ったら洗い物が溜まっていたので、それも片付けていった。

しかし、三上が来るまでにはまだ時間がある……。
掃除魂に火がつき、トイレと風呂も掃除した。

「ふう〜」

全部済ませ、服を着替えてソファーに戻った。
三上はこの部屋にむかーし一度だけ来た事があるが、あれ以来きてない。

マリアにメールで行く事を伝え、寝転がってゴロゴロしていたら、ピンポンが鳴ったので玄関に行った。

ドアを開けるとミノルが立っている。

「へっ、友也、上がっていいか?」

中身は三上なのでニヤついて聞いてきた。

「はい、どうぞ」

もし元の三上だったら、こんな嬉しそうにテツの部屋に来る機会はなかっただろう。
器はミノルだが、ここにいるのは正真正銘三上だ。
元々は同じ霧島組の幹部だったんだと思うと……今でも時々不思議な気持ちになる。

「お〜、久しぶりだ、あんま変わってねぇな、ふーん、矢吹の奴、相変わらずテキーラか」

三上は部屋を見回してサイドボードの中を覗き込んでいる。

「ニャー」

次郎長と次郎吉が三上の足元にやってきた。

「おっ、猫か」

「猫は苦手ですか?」

生前はどうだったのか、そこまでは知らない。

「いや、別に……好きでも嫌いでもねぇな」

「ニャ〜ン」

2匹は足にスリスリしている。

「なんだぁ? かまって欲しいのか、ほら」

三上はしゃがみ込んで2匹を撫でた。

「へえ、意外と動物好きなんですね?」

生きてる時は横暴で意地悪だったし、猫を可愛がるような人間には見えなかった。

「だからよ〜、どっちでもねぇ、擦り寄ってくりゃ撫でてやらねぇと、無視するのもなんだろう」

三上は言い訳したが、俺の中ではまた評価が上がっていた。

「あの〜、なんか飲み物でも……って思うけど、お見舞い行かなきゃならないんで、先に行きますか?」

ほっこりとしていたいが、マリアには連絡済みだし、そろそろ行かなきゃならない。

「だな、なあ、矢吹はいつ帰るんだ?」

三上は何故かテツの事を聞く。

「そうですね〜、今日はまた深夜になるって言ってました」

元カノはもう付き纏ってこないだろうが、浮島の手伝いもあるし、元々忙しい。

「ほお、真面目に働いてるんだな、な、だったらよ、ここに戻ってきて、ここで過ごそう」

なにかと思ったら、そういう事か……。

「そりゃ、構いませんが、日向さんは大丈夫ですか?」

俺は構わないが、帰りが遅くなって日向さんに叱られちゃマズい。

「おう、俺がお前と仲良くするのは認めてる、多分な、日向さんはお前を見ていて、信用できると思ったんじゃねぇか?」

日向さんがそんな風に思ってくれてるなら、純粋に嬉しく思う。

「そうっすか、ありがたいですが……俺はなんか複雑ですね」

でも、俺は三上と浮気してるわけで、つまり……ミノルと寝てるって事になる。
この辺りはややこしいから、俺自身も、なんとも表現し難い気持ちだ。

「気にするな、俺が表に出てる時は俺だ、ミノルじゃねぇ」

「そうですね……、はい、気にしないようにします」

ここは三上のいう通りにした方がいい。
考えたところで解決しようがないからだ。

「じゃ、行きますか、お見舞いになにか買っていきたいので、そこのコンビニに寄ります」

「おお、わかった、じゃ行こう」

猫達はまだかまって欲しそうにしていたが、世話はきっちりしてあるので心配はない。
カバンやスマホ、車のキーを持って三上と一緒に部屋を出た。

エレベーターで下におりたら、カオリが部屋の外にいた。
ホウキを持ってるので、マンションの周りを掃除していたようだ。

「あら〜、ミノル君じゃない、久しぶり〜」

カオリは驚いた顔をしたが、2人が前回顔を合わせたのは、10年以上前かもしれない。

「おお、元気そうだな」

三上は立ち止まり、カオリの方へ向き直った。

「ええ、お陰様で、へえ〜ミノル君は全然変わってないわね」

カオリは懐かしそうに三上を見ている。

「へへっ、まあな」

三上は照れ臭そうに頭を掻いたが、実際に、ミノルはちょっと背が伸びた程度で殆ど変わらない。

「あのね〜、たまに付き合いで田上組長のお屋敷に行くんだけど、まあ〜、たまたま行っただけじゃ会わないわよね」

カオリは浮島の人間だから、多少は付き合いがあるんだろう。

「だな、呼ばれるのは姐さんにか?」

「うん、そう、ちょっと前に組長の誕生日を祝うって事で、料理のお手伝いをした、でもさ、叔父貴って人が入院してるし、うちわだけでやったの、だからそんなに大変じゃなかった」

叔父貴という人は余命が短いと聞いたので、組長の誕生日会も控え目にしたようだ。

「そうか、姐さん、怖ぇか?」

「ううん、普通だよ」

あの姐さんは普段は大人しいが、豹変するのが怖い。

「そうか、ま、なにかと気ぃ使うだろうが、水野の為だ」

浮島は姐さんがいるからなにかと大変だ。
その点、霧島は親父さんが独り身だから、姉貴が呼び出される事は滅多にないが、以前正月に餅つき大会をした時は手伝いに行っていた。

「ええ、そうね、大丈夫、呼び出しはそんなに頻繁にこないし、で、友也君とお出かけ?」

「ああ」

「じゃ、ひきとめちゃ悪いから、どうぞ行って」

「それじゃ、カオリさん、また」

「ええ、友也君、気をつけてね」

「はい」

カオリと別れ、三上と連れ立って車の方へ歩いて行った。

俺は運転席、三上が助手席に乗り込んだら、いざ出発だ。

「お前、道わかるのか?」

「ええ、一応ナビついてるんで」

三上は心配して言ってきたが、すぐに住所を入力した。
あとはナビにお任せだ。

「今お前が入れた住所ならわかるぜ、案内するわ」

けど、三上は知ってるらしい。

「あ、そうなんですか?」

兎に角車を発進させ、マンションの敷地から外に出た。

「おお、下っ端ん時を入れりゃあちこち行ってるからな」

「それって……もしかして借金とかっすか?」

「ああ、それが多いな、霧島は無茶な取り立てはやらねぇが、とは言ってもよ、借りる側も皆が皆気の毒な奴とは限らねぇ、ギャンブルや浪費で借金重ねて、踏み倒して逃げる奴がいるからな」

「ええ、そういう話なら、テツから聞きました」

真面目に働いて、何かしら事情があって仕方なく借金ってやつなら、無茶な取り立ては気の毒に思うが、中には図太い神経の人間がいる。

「ま、あんまり派手な真似はできねーが、俺らが行くだけでも威圧にはなるからな、居留守を使ったりコソコソ隠れても無駄だ、会社に連絡する、あとは執拗に電話攻撃だ、追い詰められてにっちもさっちもいかなくなって……首を括るしかねぇような状況になっても、まだしぶとく逃げ回った奴がいたな、けどよ……驚いた事に、そいつの嫁と娘が払うって言い出したんだ」

「あ、あれですか、やっぱソープとか」

「ああ、母娘でソープだぜ、そしたら矢吹がよ、『お宅らにゃ払う義務はねぇ、馬鹿な考えはやめて、あんな亭主は捨てちまえ』って説得した、そん時の俺は……『余計な事言いやがって』って思ったんだ、だってよ、負債を回収しなきゃ損になるからな」

テツの気持ちはわかるし、三上の言う事も間違っちゃいない。

「で、どうなったんです?」

「おお、結局、母娘揃ってソープ行きだ、その母娘は矢吹の説得を聞かなかった」

「そうなんだ……、どうしてなんでしょう、何故そこまで」

「さあな……、人の考える事ぁわからねぇ、クズな亭主父親でも、母娘にとっちゃ助けたい人間だったんだろ」

三上はわからないと言ったが、確かに……わからない。
もし俺だったら、絶対捨てると思う。


コンビニに寄ってケーキを買い、再び出発したが、三上と話をしながら道案内をして貰った。

そのお陰で、1時間もしないうちに無事目的の家に到着した。
車は軽四だし、住宅地だから車通りは少ない。
家の塀にそって駐車した。

車から降りて玄関へ行くと、ちゃんと覡はるおみと表札が出ている。

ピンポンを押したら、中から足音が聞こえてきた。
ガチャッとドアが開き、マリアが顔を出した。

「あら、いらっしゃい、よく来てくれたわね、どうぞあがって」

「はい、じゃあ、失礼します」

招かれて中に入ると、廊下があってありがちな住宅って感じの家だが、ひとりで住むには広すぎるように思える。

「スリッパいる?」

「いや、いいです、無しで構いません」

マリアは気を利かせて聞いてきたが、普段スリッパは履かないし、気遣いは不要だ。

「そう、わかったわ、じゃ、こっちに来て」

ハルさんのいる部屋に案内してくれるようだが、先に見舞いの品を渡しておきたい。

「あ、あの、これ……ケーキなんですが、どうぞ」

「あらあら、いつも悪いわね」

「いえ、どうぞ」

「ありがとう、じゃ、キッチンへ置いてくるわ、ちょっと待ってて」

「はい」

マリアがキッチンへ行くのを見送り、三上と一緒に待っていた。

「ふーん……、こんな一軒家にひとりで住んでたのか」

三上は辺りをキョロキョロ見回している。

「ですね、ひとりだと寂しいような気がします」

ひとりでこんな広い家に帰宅するなんて、もし俺なら絶対犬か猫を飼う。
生き物の気配がないと、耐えられない。

「お待たせ、ごめんね、じゃ行こっか」

促されて廊下を進んで行ったら、左側に部屋がある。
部屋の前には車椅子。
ここにハルさんがいるんだろう。

「ハルさん、友也君とミノル君が来たわよ、入るわね」

マリアは部屋をノックして声をかけた。

「ああ、入ってくれ」

ハルさんが答えたが、前よりしっかりとした声色だ。

マリアはドアを開けて中に入り、俺達もあとに続いた。

「ああ、君たち」

ハルさんは窓際のベッドに寝ていたが、起き上がって座っている。
病院にいた時と比べたら、随分回復したように見える。

皆でベッドのそばに歩いて行った。

「ハルさん、ミノルも来ましたよ」

「ああ、ミノル君も、嬉しいよ」

ハルさんは俺とミノルを交互に見て笑顔をみせる。

「へへー、手ぇ握って貰いてぇんだろ? ほら」

さっき車中で、ハルさんがカミングアウトした事を三上に話したので、三上はさっそくハルさんの方へ手を出した。

「ははっ、恥ずかしい……」

ハルさんは照れ笑いを浮かべて三上の手を握ったが、左手なのでまだ右側は麻痺しているようだ。

「すげーよくなってるじゃねぇか」

三上も俺と同じように思ったらしい。

「ああ、前よりはね、カタツムリ、もしくは牛歩の歩みだ、本当に僅かずつしか実感はない、自分の足で動きたいよ」

ハルさんはため息をついて言ったが、そんな事はない、牛歩の歩みも千里ってやつだ。

「焦っちゃだめです、僅かずつでも……回復へ向かってる事が大事だと思います」

歩みは遅くても、努力すれば必ず回復する。

「ああ、池崎さんも同じ事を言ってた、そうか……、まだまだ時間がかかりそうだ」

ハルさんは薄く笑って言った。

「なあ店長、こんな一軒家に住んでたんだな」

三上は家について触れた。

「ああ、私は若い時にお屋敷にいた、だから広い家の方が落ちつくんだよ」

なるほど、金持ちのお屋敷にいたから、広い家の方が慣れてるらしい。

「ふふっ、あたしはマンションばっかしだったから、こういうの、新鮮でいいわ」

マリアは店にも復帰したし、今の状況を楽しんでいるようだ。

「そうっすか、マンションは留守にして大丈夫なんですか?」

だけど、空き巣とか防犯面で心配になる。

「ええ、セキュリティはしっかりしてるの、心配ないわ」

「そうですか」

マリアの住むマンションは、高級マンションって感じだったから、やっぱりその辺はちゃんとしてるらしい。

「あのね、リハビリの話なんだけど、デイケアに通ってるの、今は歩く訓練」

マリアはリハビリの事を話したが、思ったより早い。

「あ、もうそんなに?」

「ええ、左側は動くから、バーに掴まる事はできる、動かせる方を積極的に動かす事で、麻痺した方が動くようになるみたい」

ハルさんは片側だけだが、そういえば……父さんは全身だった。
だから、父さんよりリハビリの進み具合が早いんだろう。

「いやー、しかし大変だ、倒れる前は意識した事がなかったが、歩くって大変なんだなって、つくづく思う」

ハルさんの言う事はなんとなくわかる。

「ですね……、赤ん坊だって歩くまでって言うと、早くても1年はかかるし、歩き出した頃は大変です、ふらふらしてすぐ転ける、転けたら……赤ん坊は頭から倒れるから、危なくて目が離せません」

蒼介がバブだった頃を思い出した。

「ああ、そうだね、人間は初めから歩けるわけじゃない、ははっ……、それこそ初心に戻れってやつかな」

ハルさんは冗談っぽく言った。

「ふふっ、蒼介ちゃん、可愛かった〜」

マリアも蒼介の事をよく知っている。

「そうか、マリアは遊びに行ってたね」

「ええ、凄い勢いでハイハイするの、で、人形に噛み付いてたわ、『ばーば』って言ってた、小さな時しか知らないから、きっと立派になったんでしょうね」

今はマセガキでオッサンだ……。

「立派っていうか、見た目オッサンみたいです」

「え〜、そうなの?」

「あの〜、父親の火野さんが背が高いし、父親に似てはいますけど、マセた事ばっかし言うし」

「そうなんだ、ふふっ、じゃあ、彼女でも作った?」

「いや、それが……もう初体験済ませたって言うし、バイになりたいって馬鹿な事を言って……、正直困惑してます」

「えっ、初体験って、今いくつ?」

「13です」

「早っ、凄いわね、早熟〜、で、彼女いないの?」

「ええ、彼女いなくて、で、バイに憧れてしまって、俺とテツの事が影響したんじゃないかって……、凹みますよ〜」

「あらら、そうなの〜、あんなに可愛かったのに、最近の子は早熟なのね」

つい愚痴っていたが、マリアが驚いたような感心したような……微妙な顔をするのを見たら、ちょっと喋り過ぎたような気がしてきた。

「いいじゃねぇか、そんなのは本人の自由だ」

三上は自由主義らしい。

「いや、まあ〜、そうだけど」

「ははっ……、性的指向は持って生まれたものが影響する、例え友也君の影響を受けたとしても、そっちに行かない子は絶対行かないよ」

するとハルさんが言ったが、今言った事、物凄く気になる。

「それは……本当ですか?」

「ああ、無理なものは絶対に無理だ、多分ね、君と矢吹さんの関係に憧れてる、だからそんな事を口にするんじゃないかな? 蒼介ちゃんは君のお姉さんと火野さんから、愛情を沢山貰って育った、だから普通に女性に恋をする筈だが、13って言ったら不安定な時期だ、好奇心も旺盛だしね、悪ふざけのつもりか、背伸びしてカッコつけたいのか……、いずれにしても君が責任を感じる必要はないよ、ミノル君じゃないが、成長後にどうなるかは本人次第だ」

ハルさんはゲイだとカミングアウトしたし、そんな人が言う言葉だから信憑性があるように思える。

「そうですか……、わかりました」

だから、素直に頷いた。


それから後は皆で楽しく話をして過ごし、俺は別れ際にハルさんの手を握った。
ハルさんとマリアには、また必ず来ると約束した。

三上と一緒にハルさん宅を出たが、マリアは玄関まで見送りに来てくれた。
車に乗り込んだら、マンションへ向けて出発だ。

「へへっ、2人共喜んでたな」

三上は笑って言ったが、むしろ、そう話す三上こそ喜んでいるように見える。

「ですね、いける時は行った方がいい、ハルさんもやる気になると思うし」

機会があれば、ちょくちょく訪問するつもりだ。

「おお、お前らの愛の巣へ帰還だな」

冗談にしても愛の巣はちょっと……三上が言う台詞じゃない。

「あははっ……、なに言ってるんですか」

「へへー、なあ、矢吹の奴、アダルトグッズ集めてんだろ?」

ニヤニヤしていたら、三上はテツのコレクションの事を言う。

「ええ、はい……」

「見てやる」

「いや、見てもつまんないっすよ」

三上は生前にそういうのを見てきた筈だ。

「いーんだよ、ふっふっふっ」

だが、見る気満々らしく、不気味に微笑んでいる。

時計を見たら昼だ。

「なにか食わなきゃ、食べに行くか……コンビニでなにか買うか、どっちにします?」

「おお、食いに行ったら時間がかかる、コンビニで弁当でも買おう」

コンビニでOKという事なので、帰りもあのコンビニに寄る事にした。

しかし……それから数分後……。

「へっへー」

痴漢が現れた。
太ももをまさぐっている

「ちょっと〜、なにやってんですか」

「いいじゃねぇか、ほれほれ」

痴漢はチンコを揉んでくる。

「ちょっ、やめてくださいよ〜」

触られると、勝手に反応する。

「お〜、勃ってきたぜ」

「いや、あの〜、コンビニ入れなくなるし」

テント張ってたら、変態だと思われる。

「なははっ、俺が行ってやる」

先端を爪でカリカリやるので、ソコは益々張り切ってしまう。

「う〜、やめてください」

片手で排除しようとしたが、運転中だし、力が入らない。

結局そのままコンビニについてしまい、三上が弁当を買いに行った。

外から中を眺めていたが、店長は不在でバイトだけだ。

やがて三上が戻ってきて隣に乗った。

「あんな、ハンバーグ弁当にしたぜ、あとな、サラダとスープ、ジュースを買った、こりゃ俺の奢りだ」

「ありがとうございます」

痴漢代として、ありがたく奢って貰う事にした。

マンションへ戻り、車からおりて部屋に帰ってきた。

「ニャーン」

「おう猫共、お前らは後だ、友也、飯を食おう」

「はい」

ソファーに隣同士で座って、レジ袋から買った物を出した。
テーブルの上が急に賑やかになったが、猫達が目敏く狙っている。

「あっ! こら上がるな、降りろ」

次郎長がテーブルの上に飛び上がり、三上は叱ったが、声を荒らげたところで猫には効き目がない。

「おい友也、こいつら躾がなってねぇぞ」

ぶつくさ文句を言ったので、次郎長を下に下ろしておやつを持ってきた。

「ほら、お前らはこれだ」

弁当の蓋を裏返しておやつを乗っけた。

2匹はがっついて食べている。
今のうちに食べよう。

焦って食べたら喉に詰まり、慌ててジュースを飲んだ。

「おい……、大丈夫か?」

三上は呆れた顔で言ったが、俺は先に食って猫達を見張ろうと思っていた。

「大丈夫です、俺、先に食って猫を番します」

さっさと食べ終え、床に座って猫の相手をした。

「ほお、俺の為に気ぃ使ってんのか?」

「まあ〜、そうです」

猫は叱っても無駄だから仕方がない。

「へへっ、そうか……、悪くねぇ、やっぱパートナーだな」

三上はパートナーだと言ってニヤついた。

猫達の相手をしながら、三上が食べ終わるのを待った。

程なくして食べ終わったので、空をゴミ箱に捨ててちょっと一服だ。
三上はポケットからショートホープを出して口に咥えた。

「どうぞ」

「おお」

ライターを差し出して火をつけると、美味そうに煙を吸い込んだ。

「吸殻は隠滅しなきゃマズいな」

煙を吐き出して言ったが、確かに……きっちり捨てておかなきゃマズい。

「ですね、ゴミ箱の底に沈めます」

「で〜、お前、やるよな?」

満足そうにタバコを吹かしていると思っていたら、やっぱり言ってきた。

「あ〜、まあ〜」

俺はどっちでもいいが、三上はそのつもりだろう。

「んじゃ、頼むぜ」

「わかりました」

先に済ませる事にした。
『タバコでも吸ってまったりしててください』と言って、準備に取り掛かった。

ちゃちゃっと終わらせて戻ってみると、三上も猫達もいない。
隣かな? と思って行ってみたら、ベッドの上がお祭り状態になっている。
バイブやらローター、手錠にその他諸々……。
三上が勝手に探し出したらしい。
しかも、玩具を動かしてるから、猫達が玩具にジャレている。

「ちょっと〜三上さん」

「おう、来たか」

テツの宝物だし、傷がついたら困る。





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