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Snatch成長後編BL(完結)
49、坊主BAR
◇◇◇

黒丸が寿命を迎え、千尋さんがやって来て3日が過ぎた。

寺島はその後テツに経過報告をしてきた。
それによると、俺達の印象はかなり良かったらしく、怖いというイメージは薄らいだらしい。
後は千尋さんの決心が固まれば、話はトントン拍子に進みそうだが、それにはまだもう少し時間がかかりそうだ。

寺島の事は、俺とテツが多少なりとも役に立てたようで、良かったと思った。

ただ俺自身の事は問題ありだ。

小森が次の定休日に付き合えと言う。
またあの店でやるつもりらしいが、自分で運転してこいと言った。

行くしかないので承諾したが、その前に本日夜に坊主BARが待っている。
テツはいない。
日向さんがじきじきに迎えにくるらしい。
妖怪だらけのBARに行くのは腰が引けたが、側近として竜治がお供するとの事で、一筋の光明が差してきた。


午後20時に迎えにくると言ったので、あと10分ほどだが、竜治の事はさっき聞いたばっかしだし、テツには内緒にする。

猫達の世話も済ませたので、ちょい早いが下に降りて待つ事にした。

「次郎長、次郎吉、じゃ行ってくるからな、いい子にしてろよ」

猫達がいるから、部屋の電気はつけて行く。

エレベーターで下に降りて、マンションの周りをぶらついた。

すると、デカいジープみたいな車がやってきた。
厳ついデザインの外車だ。
もしや? と思っていると、ミノルが窓から顔を出した。

「おう友也、来たぜ」

三上だったが、車は目の前に止まり、日向さんが手で後ろに乗れと合図している。

「あ、はい」

後部に回り込んだら、中から竜治がドアを開けてくれた。

「へっ……、ほら、来な」

上がれないほどの高さじゃないが、腕を掴んで引っ張ってくれる。

「すみません……、お邪魔します」

竜治の隣に座ったら、竜治は強面な顔でにっこりと微笑んだ。

「へへっ、急に声がかかってな、ついてたぜ」

嬉しそうに言ったが、俺も竜治と出掛ける事が出来て嬉しい。

「おい木下、悪さをするんじゃねぇぞ、もう昔の話になるが、霧島とはきっちり話をつけたんだ、今頃になって焼けぼっ杭に火がついた……なんて事はやめろよ、俺だって無駄に怒りたくはねぇからな」

日向さんが聞いてたらしく、釘を刺すように言ってきた。

「はい、わかっておりやす、一線を越えるような真似はしやしません、俺ぁ矢吹とも腹を割って話をする仲になった、あいつは憎めねぇ奴だ、ただ、肩を抱いたり、軽い接触は見逃して貰いてぇ、今はもう恨んじゃいねぇが、俺はこいつが原因で大事なもんを失っちまった、それだけムキになってたって事です、せめてもの慰めに……どうか」

竜治は日向さんに頼んだが、俺は申し訳ない気持ちになった。

「ああ、その位は目を瞑る、それと、お前が同行した事は内緒にしてやる」

日向さんは竜治の頼みを聞き入れ、テツにも秘密にしてくれるようだ。

「若、ありがとうございます」

竜治は礼を言うや否や、早速肩を抱いてきた。

「へへっ……」

テツには悪いが、俺は竜治に惹かれていた。
竜治とテツは似通っているが、竜治はテツにはない怖さがある。
怖いもの見たさなのか、なんなのか……自分でもよくわからない。
但し、今はもう全て終わった事だ。
何もかもを踏まえた上でこうして寄り添っていると、なんとも言えない穏やかな気持ちになれる。

「友也、店は友和会の息子に任せたらしいが、奴はバイだからな、ちょっかい出したりしてねぇか?」

竜治は不意に小森の事を出してきたが、口振りからして、テツより小森の事に詳しいようだ。

「いえ……」

だけど、それは言えない。

「おお、あの店長な、来てからずっと無愛想だったんだが、霧島の若頭が引き継ぎ終わらせていなくなった途端、急に態度が柔らかくなった、よく分からねぇ奴だ、俺らより年下だが、ハッキリ言って老けて見える、パッと見50代だな」

三上が聞き耳を立てていたらしく、いきなり俺の方へ振り向くと、シートをガシッと抱き締めて言った。

「ふーん……、本格的に店長としてやり始めたのか、友也、態度が変わったって……、おめぇ、心当たりがあるんじゃねぇか?」

竜治は鋭いところを突いてくる。

「いえ、別に」

「あの友和会の息子だが、霧島も兄弟盃交わして断れなかったんだろう、じゃねぇと、あんなのは雇わねぇ、あいつ、表向きは客をボコしたって事になってるが、実はそうじゃねぇ、気にいった客に手ぇ出したんだ、奴はな、悪い癖がある、極端に言っちまえば……レイパーだ、わけぇ頃から男女見境なく手を出す、相手の意思は無視だ、暴力沙汰になって金で解決したと言ってるが、金なんか払う必要はねぇ、相手が男だからそんな事が周りに知れたら、やられた方も恥をかく、やられた方は泣き寝入りどころか、事実を口外しねぇように頼むしかねぇ」

日向さんが割って入ってきたが、竜治よりももっと詳しいらしく、真実を明かした。

「そうだったんすか、さすがは若、よくご存知で」

竜治は感心したように言ったが、俺はレイパーと聞いて唖然としていた。

「友和会の親父は悪い人間じゃねぇ、ただな、親バカってやつだ、出来の悪い息子でも、我が子は可愛いんだよ」

日向さんの話を上の空で聞いていたが、親バカだと聞いてふと思った。
俺は当初、小森は我儘なお坊ちゃまで、傍若無人に振る舞うんじゃないかと思っていた。
けれど、全く別のところで問題ありな人間らしい。

「おい友也、おめぇやべぇじゃねぇか、矢吹は事実を知ってるのか?」

竜治が顔を覗き込んで聞いてきた。

「いいえ……」

翔吾も知らなかったし、霧島の人間は知らないようだ。

「ったく、しょーがねぇな、俺が矢吹に話してやる」

竜治は勇んで言ったが、それは困る。

「いや、あの……、ちょっと待ってください、翔吾もテツも知らない方がいいと思います、友和会とは上手くやってるようだし、下手に波風を立てない方がいい」

そんな事を言ったら、テツは小森をがっつりマークするだろう。
今は……そっとしておいて欲しい。

「しかしよ、もしまた客とイザコザでも起こしたら、シャギーソルジャーの看板に傷がつくぜ」

確かに、そんな奴だと絶対無いとは言いきれない。

「あの……、俺が見張ります、俺はミノルや皆に助けられてばかりで、マネージャーなんて言っても肩書きだけです、だからせめてその位は役に立ちたいと思って……」

けど、小森は今の所店には出て来ないし、俺が波止めになっていればなんとかなる。

「友也ぁ〜、おめぇ、な〜んか怪しいな」

三上がじとーっと見て言った。

「なんでもないって……、ほら、ハルさんとは全然違うし、俺だって調子狂うよ」

全力で素知らぬふりをして言い訳した。

「そりゃ、まあな……」

三上は納得したようなので安心したが、ふと横を見たら……竜治が険しい顔をしている。

「うーん……、じゃ、黙ってろって言うのか?」

肩から手を外し、腕組みをして聞いてくる。

「はい、そうしてください」

浮島は裏情報に精通している。
誤魔化すのは大変だが、ここはなんとか誤魔化したい。

「そりゃまぁー、まだ来て間もないんだ、まさかとは思うが……どうも気になるな〜」

竜治もテツに負けず劣らず勘がいいので、腑に落ちないといった表情をしている。

「あのー、ほんとにまだバタバタしてて、じきに落ちつくと思います」

あまりややこしい言い訳をしたらかえって怪しまれる。

「木下、まあ〜あれだ、友也が黙っててくれと言ってるんだ、これは霧島の問題だからな、俺らが口出しする事じゃねぇ」

上手い具合に、日向さんが言ってくれた。

「へい、わかりやした」

鶴の一声には逆らえず、竜治は諦めてくれたようだが……正直助かった。

竜治は再び肩を抱いてきたが、当たり障りのない話題を出してきた。

三上も大人しく前に向き直り、やがて坊主BARに到着した。
歓楽街だが、ここら一帯は浮島のシマなんだろう。
お目当ての坊主BARはデカデカと看板があって、派手なネオンがチカチカ瞬いている。
毒々しい感じが、見るからに伏魔殿だ。

「よし、行こう」

「へい、友也、降りるぞ」

車は店の近くの駐車場に止まり、日向さんが声をかけてきたので、皆で車を降りた。
テツから聞いた事前情報を思い出したら、回れ右をして帰りたくなるが、日向さんに竜治がいる。
この2人がいれば、鬼に金棒……なんてものは軽く超え、無敵と言ってもいいだろう。

日向さんと竜治が先に行き、俺と三上は後からついて行った。
店の入り口が目前に迫り、緊張感に包まれていると、三上がギュッと手を握ってきた。

「あの〜」

いいおっさん同士が、手を繋ぐのは恥ずかしい。

「いいじゃねぇか、俺はミノルだぞ」

三上は胸を張って言う。

「ええ、そりゃまあ〜」

確かに……ミノルは童顔だし、そもそもここはオカマBARだ。
そう思えば、どうってことない。
手を繋いで伏魔殿の扉をくぐり抜けた。

「いらっしゃ〜い」

店に入ったら、あちこちから一斉に声がかかった。
妖怪は獲物を待っていたようだ。

日向さんの陰から恐る恐る辺りを見回してみると、ソファーではなく椅子とテーブルだった。
改装でもしたんだろうが、頭テッカテカな女装したガチムチがチラホラ見える。
テツが言った通り、逞しい二の腕にぼよよ〜んなおっぱい……。
実際に見ると、マジで妖怪だ。

「これはこれは……、よく見たら若じゃありませんか、ようこそおいでくださいました、あら、竜治さん、ちょっと見ない間に渋みが増したわね、やだぁ〜ん、いいオ・ト・コ」

坊主頭のカマは日向さんに頭を下げた後、竜治に色目を使って何気なく胸板に触れた。

「よせ、俺はボディガードだ、お前らの面を拝みにきたわけじゃねぇ」

竜治は迷惑そうに言って手を払いのける。
分かっちゃいたが、竜治はこういうタイプが苦手なんだろう。

「あら〜ん、んふっ、つれないわね〜、兎に角、席にご案内しま〜す、えっと〜、後ろにいらっしゃるのはお連れ様であってるかしら?」

坊主頭はお色気たっぷりな仕草で席に案内すると言ったが、体を傾けて俺達を覗き込み、日向さんに聞いた。

「おう、今日はな、後ろにいる片方、背の高ぇ方に礼をするつもりでここに来たんだ」

日向さんは説明したが、出来れば言わないで欲しかった。

「あら〜、じゃあ招待ね、ちょっとちょっと〜、それじゃあ、皆さんVIP席にどうぞ、ご招待をされた方、あなたはゲストなんだから〜、一番前がいいわね、さあ、いらっしゃい、あちらの席にご案内しま〜す」

坊主頭はステージの真ん前、中央を指し示して俺に言ってきたが、多分ここもショーをやる筈だ。
ガチムチおっぱい、坊主頭のショーを間近で見たくない。

「い、いえ……、いいっす」

「あら〜、どうして? せっかくご招待されたのに、行きましょうよ」

坊主頭は腕を掴んできた。

「いや、俺は……」

「こらぁ! 友也に触んな!」

困っていると、三上が怒鳴った。

「あら、ミノルく〜ん、やだ、相変わらず可愛いわね」

坊主頭は三上を見て笑顔で言ったが、ミノルは万人受けする風貌をしてるから、仕方のない事だ。

「うっせー! 日向さん、こいつらはほっといて、さっさと座っちまおうぜ」

だが、三上はキレ気味に言い返し、日向さんに言った。

「ああ、そうだな、悪いが勝手に座らせて貰う」

日向さんは坊主頭に声をかけると、前の方へ歩いて行く。
俺達も後について行ったが、端っこの席にやってきた。
客は他にもいるが、前列には誰も座ってない。
そこに皆で座った。
丸いテーブルに背もたれの長い椅子。
真ん中にはビールグラスとワイングラスが置かれ、小さな籠にチーズが盛ってある。
向かい側に日向さん、両隣には竜治と三上がいる。

「ごめんなさいね、ミノル君を怒らせちゃって」

坊主頭は申し訳なさそうに謝った。
見た目はキモイが、そういう事はちゃんとしているようだ。

「いや、いい、それより注文だ、俺は飲まねぇ、だからよ、ジュースだ、友也、おめぇはなんか食え、ママ、メニューあるか?」

日向さんは坊主頭をママと呼んで聞いたが、この一際ガタイのいい坊主頭は、この店のママらしい。

「あ、はーい、今持ってきます〜」

ママはドレスの裾をヒラヒラさせながらカウンターへ向かった。
露出した背中は鍛えられた逞しい背中だ。
そのままで十分モテそうなのに、何故おっぱいをつけたのか、理解に苦しむ。

ママはメニューをとってくると俺に渡してきたので、開いて中を見てみた。

「ここな、意外と食いもんあるんだぜ、あんな、厨房にいる奴はシェフやってたんだ、だからよ、色々作れる」

三上もメニューを覗き込み、この店の料理人は元シェフだと言う。

「あ、そうなんだ……」

どんな人かと思って厨房の中を見てみると、エプロンをした坊主頭がいた。
料理人まで坊主頭にする必要はないと思うが、他所様の経営方針に口出しするつもりはない。
メニューは肉料理ばっかしだ。
焼肉にステーキ、ハンバーグ……ケバブまである。
面倒だし、簡単なやつにした。

「じゃあ、ステーキで」

「おお、んじゃ、俺も〜、焼きはレア、ミディアムどうする?」

「ミディアムで」

「わかった」

注文が決まり、三上が日向さんに伝えたら、日向さんはそこらにいる坊主頭に注文を言った。
結局、皆で食事をとる事になったが、ママは俺らから離れて他を接客中だ。
今の所、坊主頭達は誰も寄って来ない。
これなら、周りを見なければ気楽に過ごせそうだ。

「ミノル、友也と一緒で嬉しいか?」

日向さんが三上に聞いた。

「ああ、嬉しい」

三上は素直に頷く。

「お前は友也が好きだな、もう大分昔になるが、花車で働いてた時は大変だっただろ?」

日向さんは懐かしい話を持ち出したが、俺に対してヤキモチは焼かないようだ。
俺にはテツがいるから、それでだろう。

「ああ、もう忘れかけてるが、シャギーソルジャーみてぇな綺麗な仕事じゃねぇからな、ソープの裏方なんて、人が吐き出した欲望の後始末だからな、特に地下室がろくでもねぇ」

三上は思い出すようにしんみりと語ったが、地下室の掃除はミノル伍長が担当だった。

「おお、その地下室とやらを前から聞きたかったんだが、SMルームだってな?」

日向さんは少しは知ってるらしい。

「そうだ、そりゃ〜そりゃ、汚ぇなんてもんじゃねぇ」

三上はさも自分が苦労したかのように話す。

「まあな、プレイする側はそれだけの金を払ってる、ただ、掃除する側は大変だ」

日向さんは他人事のように言っているが、実はSMプレイの上級者だと思われる。

「へへっ、友也、もうちょいこっちに来な」

竜治が俺の椅子を動かして自分の椅子にくっつけた。

「あ、この〜、木下ぁ〜」

すると、三上が不満げに声をあげる。

「あのな、おめぇは若に可愛がって貰え」

竜治は指図したが、確かに、今は日向さんのそばにいた方がいい。
いくら俺が招かれた側でも、あくまでも若頭を立てなきゃ駄目だ。

「そりゃ日向さんは……いつもありがてぇと思ってる、けど木下、お前には……」

そしたら、三上は不貞腐れた顔をして口ごもった。

「なんだよ、なにかあるのか?」

竜治は怪訝な顔をして聞いたが、三上は……三上だった時に竜治に裏切られた。
その時の感情が蘇ってきたんだろう。

「なんでもねぇ……」

でもそんな事を言える筈はなく、しょんぼりとして言った。
俺は……三上に新たな人生を楽しんで欲しいと思って、三上を2人目のパートナーに決めた。

「ミノル、たまの事だから、ほら、ミノルとは店で会えるじゃん」

昔の事は忘れた方がいい。

「ああ、そうだな……、わりぃ、日向さん、そっちに寄っていいか?」

どうやらわかってくれたらしく、気を取り直して日向さんに聞いた。

「ふう〜……」

バラさないとは思うが、内心ヒヤヒヤした。

「なんだぁ、なにため息ついてる、矢吹じゃねぇから不満か?」

竜治が肩を抱いて聞いてくる。

「いえ……、そんな事はないです」

うっかり素を出したらマズい。

「はーい、お待たせしました〜」

坊主頭が料理を運んできた。
筋骨隆々なので、両手にトレーを持っているが、手がふさがってるので慌てて立ち上がった。

「あ、すみません……取ります」

トレーに置かれた皿を取り、まず日向さんの前に置いた。

それから竜治、三上、自分と順に置いて行ったら、別の坊主頭がドリンクを運んできたので、それも同様に置いていった。

「じゃ、これで全部ね、みんなジュースだけど、運転する方を除いて〜、カクテルはいかが?」

坊主頭は酒を勧めてくる。

「おお、だったら友也、お前が飲め」

日向さんが言ってきた。
せっかく勧めてくれるのに、断わるのは逆に失礼だ。

「じゃあ……あの、カルーアミルクを」

飲みやすいやつを頼む事にした。

「は〜い、わかりました〜」

坊主頭は注文を聞いてトレーを小脇に抱え、ヒールを打ち鳴らして去って行く。
にしても……やっぱりおっぱいは気になる。
だけど、こういうのが好きな人がいるから店があるわけで……。
気になって他の客席を見回してみると……坊主頭とイチャついて盛り上がっている。
ちょっと信じられない。

「へっ、気になるか?」

竜治がニヤニヤしながら言ってきた。

「そりゃ、はい……」

「筋肉質なマッチョにおっぱいだ、かなりエグいよな? けどよ、ああいう奴らに掘られたい奴らがいるんだ、倒錯的だから現実逃避できる、ま、そういう事だろうな」

柄にもなく、難しい事を言って説明する。

「はあ……、そうっすか〜」

つまり、変態プレイで現実逃避したいって事だろう。

「はぁ〜い、お待たぁ〜、そちらの可愛い旦那さんね、はい、どーぞ」

坊主頭がやって来て俺の前にカクテルを置いてくれたが、見た目を除けば他のニューハーフとあんまり変わらない。

「友也、食いな」

竜治が促してきた。

「あ、はい……」

前に向き直ったら、日向さんと三上は仲良くお食事中だ。
目の前に置かれたステーキは、よくある鉄製の入れ物に盛られ、綺麗な焼き色がついている。
付け合せはポテトに人参、クレソンと、ありふれた感じだが、ナイフとフォークを持って肉を切ってみたら、肉汁がジュワッとしみ出した。
超美味そうだ。
ライスも茶碗一杯分位を小皿に盛ったのがついている。
ひと口食べたら激うまだったので、ついがっついて食べた。
全部食べ終わってカクテルを口にしたら、甘い味がステーキの後にはちょうどよかった。

「美味しい」

自然と言葉が出た。

「ははっ……、良かった、ここはな、こんな風に変わってるが、料理とカクテルが美味いんだ」

日向さんが笑顔で言ってきた。

「あ、そうなんですか」

何故坊主BAR? と思ったが、それでここに来たのかもしれない。


それから程なくしてショータイムになった。
エロい系かと思っていたら、ステージではコントみたいな掛け合いをしている。
ちょっとホッとした。
その後でダンスも披露したが、ボディビルダーのショーを見ているようだった。

ほろ酔い気分も手伝って、楽しく鑑賞する事が出来た。

「友也……」

「はい、あ……」

ふわふわして心地よくなっていると、竜治がすっと近づいてキスをした。
軽いキスだったが、日向さんが見てるんじゃないかと思ってチラッと目を向けたら、ステージの方を見ていた。

「へへっ、可愛いもんだろ? こんな事で喜んでんだからな」

竜治は肩を抱いてニヤリと笑う。

「あの……、はい」

急にやるせなくなって、竜治の手を握った。

「なんだ、ははっ、同情か?」

竜治は苦笑いしながら聞いてくる。

「いえ……」

同情か、もしくは罪悪感か……どちらにしても否定した。

「そうか……、ま、深くは聞かねぇ方がいいだろう、それよりな、友和会……もしなにかあったら言え、叔父貴だなんだとそういう繋がりで雇ってるようじゃ、矢吹にゃ話しにくいだろ、俺が聞いてやる」

竜治は追及しなかった。
代わりに小森との事を心配してくれる。

「はい……、ありがとうございます」

三上を前にして、こんな事を思うのは奇妙な事だが、三上に脅された時と同じようなシチュエーションになっている。

竜治はそうやって俺を助けてくれた。
今もまた助けようとしてくれる。
そんな風に思ってくれるだけで、本当にありがたい。

日向さんは気づいてるかもしれないが、お礼代わりにギュッと手を握っていた。







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