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Snatch成長後編BL(完結)
5同級生
◇◇◇

テツは飯を食ってシノギに出かけて行った。
仕事に行くまでひとりぼっちだ。
たまにはドライブにでも行くか……。

気が向いたら、たまーに車で出かける。
行先は……人気のない寂れた公園や港なんかだ。

早速用意しようと思ったら、電話が鳴った。

通話ボタンをポチッと押して電話にでた。

『はい』

『あ、あのさ、石井君? 』

俺を旧姓で呼んだって事は、親しい人間じゃない。

『そうだけど? 』

何となく警戒する。

『俺、覚えてる? 』

『覚えてません』

気色悪いから素っ気なく答えた。

『高校ん時に一緒のクラスだった青木だよ、ほら、3年の時』

青木……そう言えばいたような、確か陰キャで目立たない奴だった。

『あ、ああ……、うん、思い出した』

知ってる奴だったのでちょい安心したが、俺はほとんど話をした事がない。

『よかったー、思い出してくれたんだ、石井君ってさ、いつも霧島君とくっついてたし、俺、話しかけるの戸惑ったんだ、だって……霧島君は噂では……お父さんがヤクザの親分だって聞いたし、怖いじゃん』

翔吾は学校じゃヤクザって事を隠してた。
だから親父さんが学校の行事に来る事はなかったけど、どうやら……翔吾の事は密かに噂されていたようだ。
そりゃ、屋敷に行ったらバレバレだから、当たり前と言ったら当たり前かもしれない。

けど、関わりのない青木が何故電話してきたのか謎だ。

『あの、で、なにか用事? 』

同窓会ならお断りだ。

『いや、卒業アルバムみてたら、懐かしいな〜と思って、連絡してみた』

懐かしい?ちょっと待て……冷静に考えたら肝心なところがおかしい。

『携帯番号教えてないし、どうしてわかるわけ? 』

『あ、っと……、実は実家に電話したんだ、そしたらお母さんが出て、番号を教えてくれた』

母さん……勝手に教えられたら迷惑だ。
多分、同級生だから……せっかく電話してきたんだし〜とか思って教えたんだろう。

『そっか……』

『あの、よかったら会わない? 久しぶりに石井君と会いたい』

『えっ……』

会いたいって……青木とわざわざ会う意味が分からない。

『いや、でもさ、俺はお前と話とかした事ねぇし……』

『うん、わかってる、俺、石井君と話がしたかったんだ、だから頼むよ』

まさか、そんな風に思っていたとは知らなかったが、そうは言っても……ちょっと困惑する。

『いや……、俺と会ってもつまんねぇから、青木はさ、太った奴と仲良かったじゃん、そっちに連絡したら? 』

青木は陰キャのデブとつるんでいた。

『ああ、あの……前原君は昨年死んだ』

『えっ、 死んだ? 』

30代で死ぬ奴はそんなにはいない。

『太ってたんで心臓に来ちゃったみたい、呆気なく逝っちゃった』

心臓発作か?
まぁーけど、かなり太ってたし、無きにしも非ずだ。

『そうなんだ……』

『だから、会ってくれる? 』

『うーん……』

一応同級生だから、別に会っても構わないんだけど……。

『俺、話す事ねぇよ? 』

プライベートな話をするつもりはないし、共通の話題もない。

『うん、構わない、じゃあ、いいんだね? 』

『ああ……』

全然気乗りしないが……そこまで言うなら、会ってみる事にする。

『じゃ、いつにする? 』

青木はノリノリできいてくる。

『あのさ、俺は今からでも構わねぇ』

面倒な事は早く片付けた方がいい。

『ほんとに? 今からいいの? 』

『ああ』

どうせ暇だし……。

『じゃあ、学校の近くに小さいスーパーあったじゃん、そこで待ち合わせしたい』

『うん、わかった、車で行くからさ』

『わかった、時間は……』

『11時位でどう? 』

昼飯でも一緒に食って、それで別れりゃ納得するだろう。

『うん、いいよ、じゃ、待ってる』

『ああ、じゃ……』

ちゃちゃっと用意をした。
何を着ようか迷ったが、仕事着のスーツに決めた。
テツの真似をして開襟シャツだ。

シャツもお揃い、チンコもペアルック……。
テツは小便するたびにスマイルマークを拝むだろう。
パッと見ヤバイ系なのに、チンコにスマイルマーク。

「ぷっ、くっくっ……」

俺はテツが描いたホラーな顔を拝む羽目になるが、そういうのも悪くない。



キーとカバンを持って玄関を出た。

すると、前方から大きな人影が近づいてくる。

──道明寺鈴子だ。

「あっ、友也君、どっか行くの? 」

ドスドスと走ってくると、真ん前で足を止めて聞いてきた。
また何か借りにきたんだろう。

「はい、友達と会いに」

「あら、そう、じゃいっかな」

鈴子にしては珍しく遠慮する。

「なんですか? 醤油とか、調味料ならとってきますよ」

ちょっと戻れば済む事だ。

「ううん、いい、ごめんね、ひきとめて」

けど、いいらしい。

「あ、いえ、っと……それじゃあ、俺、行きますね」

だったら行かせて貰う。

「あ〜、あのさ」

だが、ひきとめてきた。

「はい、なんですか? 」

「今度さ、話しに来ていい? 」

振り向いて聞いたら、思わぬ事を言った。
立ち話ならちょくちょくするが、わざわざ話をしにくるのは初めてだ。

「あ、はい、いいっすよ」

ご近所さんだし、別に構わない。

「うん、ありがと、じゃ、行ってらっしゃい」

「はい、じゃあまた」

鈴子に見送られてエレベーターに乗った。
にしても……話ってなんだろう。
ソープを引退するか悩んでるみたいだから、それかもしれない。


下に降りて、足早に車の傍に行って乗り込んだ。
駐車場を出て道路に出たが、学校周辺に行くのは物凄く久しぶりだ。
ちょっと懐かしい気持ちになる。
思えば……高3は転機だったような気がする。
ヤクザなんか別世界の人間だったのに、翔吾と仲良くなったのがきっかけで、テツに散々からかわれ、もみくちゃにされた。
三上は意地悪だったし、寺島は変な奴だと思ったし、親父さんが登場した時は怖すぎてちびりそうだった。

当時は葛藤したり、色々悩んだりしたが、過ぎ去ってみればなんて事ない。

ハンドルを握って懐かしい思い出に浸ってるうちに、目的のスーパーにやってきた。


駐車場に車を止めて辺りを見回したら、スーパーの出入口付近にそれらしい男が立っている。

車を降りてそっちへ行ってみた。
柄物の短パンにチェックのシャツ……上下で柄が違うのも変だが、服がよれっとしていてかなりダサい。

「あの……青木? 」

あんまり声をかけたくなかったが、顔は同じだから間違いないだろう。

「あ、石井君? え、嘘……むかしと全然違う」

青木はびっくりして俺を見ている。

「そりゃ、あれから随分経つし、変わるよ」

俺はごく普通の高校生だったし、驚くのは無理もないが、ただ、俺が思うに……青木は多分昔と変わってないんじゃないかと思う。

「えー、でも……、なんだかホストみたい、そういう仕事? 」

「ああ、まぁー、水商売やってる」

プライベートな事は適当に受け流すつもりだ。

「えー、そうなんだ、それって、もしかして……霧島君の関係だったり? 」

けど、意外とそういうのは分かるらしい。

「まあな」

翔吾とは実際仲が良かったし、そこは認めてもいいだろう。

「やっぱりそっか、霧島君は元気にしてる? 」

青木は翔吾と話をする事もなかったが、今の翔吾を見たらビビるかもしれない。
何はともあれ、スーパーの出入口で立ち話もなんだ。

「ああ、元気にしてる、あのさ、昼だし、何か食べに行かない? 」

「うん、そうだね、じゃあさ、ハンバーガー食いにいく? すぐそこだし」

「あ、うん」

バーガーショップに行くのも何年かぶりだし、たまには寄ってみたい。

スーパーからほど近い場所にあるバーガーショップに歩いて行った。

スマホで注文出来るらしいが、よくわからないので、普通に金を払う事にした。
青木が払うと言ったが、割り勘にしてくれと言った。
今は俺もちゃんと収入があるし、悪いから、そんな事をして貰わなくていい。

窓際の席に向かい合って座った。

ハンバーガーとポテトを食いながら、外を眺める。
そういえば……明日、テツが父さんに会いに行くと言っていた。
母さんは喜ぶだろうけど、父さんは俺よりもテツが来るのを楽しみにしている。
テツは父さんが回復するまで、地道にリハビリに付き合っていた。
病院にも通っていたが、あれは……ちょうど竜治とテツが和解して、数ヶ月経った辺りだった。
リハビリ仲間の片山さんは、旦那さんが自宅で倒れてそのまま急逝した。
年もいっていたので、元からあった持病が原因だとテツが言っていた。
当然片山さんは来なくなってしまったが、暫く経って不意にリハビリルームにやってきたらしい。
片山さんはテツと父さんの傍にやって来ると、見舞いの品を渡して『まだお若いし、絶対よくなりますから、どうか諦めないで頑張ってください』と、そんな事を言ったようだ。
テツと父さんが礼を言うと、片山さんは『いいえ、私こそ、ここに通うのに、随分励まされました、頑固な主人でしたから……正直こっちが参ってたんです、そしたら、ある日石井さんに怖い人が付き添ってる、私ね、警戒して見てたの、だけど……その怖い人が石井さんに叱られてた、あら?って、首を傾げたわ、ふふっ……、矢吹さん、あなたには色々力を貰いました、どうしてもお礼を言いたくて、今日やって来たんです』と、そんな風に話したらしい。

俺は思わず『テツ、すげーじゃん』と言ったが、テツは『いや、そりゃあな、わざわざ礼を言いに来てくれた事は素直に受け取る、但し……本人にも言ったが、あんまり誤解されると困るんだ、俺がたまたまそうだからって、ヤクザなんか迂闊に信用しちゃならねぇ、あの婆さん、変に誤解しなきゃいいけどな』と言った。

テツが過去に同じような事を言ったのは覚えているが、ただのリハビリ仲間なのに、まだそうやって気にかけている。
だから……俺はやっぱりテツの事を凄いと思う。
あの父さんがテツの事を信用したんだから、間違いない。



「あのー、石井君」

名前を呼ばれてハッとした。

「あっ……、ごめん、なに? 」

無意識にパクつきながら、つい長々と考えていた。

「結婚してるの? 指輪してるから」

青木は指輪を見て聞いてきた。

「あ……、いや、これは……何となくはめてるだけ」

別に恥じる事はないが、誰彼構わず言える事じゃない。

「そっか……、よかった〜、俺も独身だから」

「あ、そう、そっか……」

青木はホッとしたように笑みを浮かべて言った。





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