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Snatch成長後編BL(完結)
44、シマ
◇◇◇

テツは水野にチューされて、口の周りが口紅で真っ赤になっていた。

フラフラと起き上がり、魂が抜けたような顔をしていたが、俺を見てハッとした。
竜治に文句を言ったが、竜治はさらっと受け流し、俺は水野と交代してテツの隣に戻った。
テツは意外にも、しつこく腹を立てる事はなく、その後は例によって撮影会となったが、竜治を必要以上に責めなかったのは……これまで交流してきた成果だと思う。
ただ、場末のBARのママのインパクトが強すぎたせいか、結局、水野は兎を着る機会がなかった。
兎は次回に持ち越すという事になり、預かっといてくれという事だ。




コスプレショーから、数日が過ぎた。
シャギーソルジャーは年中無休でやってるが、この夜、俺は小森に呼ばれて店長室に行った。
何かと思えば、小森は定休日を導入すると言い出した。
月曜日にすると言う。
それは構わないが、その定休日にシマに行くと言いだした。
でも夜だと……。
テツがいなければいいが、もし居たらマズい。
そういう事はあんまり話したくなかったが、他にいい理由が見つからず、勝手な行動をしたらテツに叱られると話した。

「ふーん、いい大人が、束縛されてるのか、そんなもん、文句を言ってきたら俺が話をしてやる」

小森は簡単に言うが、それはもっとマズい。
こうなったら……テツが調べたバイ云々は抜きにして、事情を話すしかないだろう。

「それは駄目です、他所のシマに行くと言ったら……テツは絶対怒ります、だから、俺は行く事を隠してます、あなたは……あなたのお父さんが霧島のオヤジさんや翔吾と親しくされてるから、それでここに来たんですよね? テツが怒ってあなたと揉めたりしたら、翔吾に迷惑がかかる」

「ほお、お前はそんな事に気を使ってるのか、というより……、ちょっと気になってたんだが、おめぇは若頭を名前で呼び捨てにしてるな、何故だ?」

「翔吾は……高校時代の同級生で、友達だから」

「なるほど、同級生か……、ふーん、ふっ……、わかった、俺もすぐに辞めたら親父をがっかりさせるからな、それじゃあ、矢吹にバレねぇようにしたらいいんだな?」

小森は同級生だと知って鼻で笑ったが、なんとかわかってくれたようだ。

「はい……」

「わかった、それじゃあな、月曜に電話するわ」

だが、また厄介な事を言う。
これを言ったら更にバカにされそうだが、電話も駄目だ。

「いえ、あの……、テツの予定がわからないし、もし家にいたら……電話は困ります」

「お前な、そんな事まで……いちいち監視付きかよ、よくそんなんで我慢できるな、マネージャーさんよ、おめぇは俺より年上だろ? 養子だなんだと、そういう事をするのは勝手だ、但し、一生監視付きで自由に動けねぇって、まるで軟禁されてるみてぇじゃねぇか」

やっぱりそうきた。
俺達の事を何も知らない人間に、勝手な事を言われたくない。
けれど……逆に言えば、知らないからそう思うわけで、それに、人には様々な考え方や捉え方がある。

「どう思われても結構です、メールにしてください」

そんな事は無視して頼んだ。

「そうか……、ふっ、ああ、わかったよ」

小森は嘲笑うようにニヤついて承諾した。



帰宅して猫達の世話をした後で、シャワーを浴びた。

風呂から出てソファーに座ったが、テツはまだ帰らない。
次郎長と次郎吉を抱っこして一緒にベッドに行った。

布団に潜り込んだら、次郎長と次郎吉は布団の上にしがみついてきた。
わざと動いてやると、ジャレてバシッと飛びついてくる。
でも布団の上だから痛くない。
テツがちょくちょく噛まれて喚いてるが、あれは足が布団からはみ出してるからだ。

龍王丸がいなくなった後、ひとりきりになると妙に寂しく感じたが、今はこの2匹がいる。
しばらく2匹と遊んでいたが、やたら眠くなってきた。
猫達にはわるいが、先に休ませて貰う。





首が締まる……。

「うっ……」

瞼を開けて寝ぼけ眼で見たら、テツの腕が首に乗っていた。
深夜に帰宅したんだろうが、隣で大の字になって寝ている。

「ちょっ……、重っ」

腕を退かした。

「はあ〜あ……、今、何時だ?」

あくびをしながら壁掛け時計を見たら、8時半だった。
だるいけど、そろそろ起きよう。

「ニャーン」

ベッドからおりると、2匹が足に纏わりついてきた。
期待を込めて甘えている。

「わかった、ご飯出すから」

棚に置いた餌を取って、猫部屋に餌をやりに行った。
餌を餌入れに入れたら2匹は競って食べ始めたので、餌袋を元に戻してトイレの掃除をした。

「ふう〜」

顔を洗いに行き、歯磨きしながら朝飯のメニューを考える。
先日、テツがアジの干物をゲットしてきたので、それを焼く事にして、味噌汁は手抜きでインスタントにしよう。
だし巻き玉子位は作るか……。
あとは漬物でもつければいい。

メニューが決まったところで口をゆすいで顔を洗った。
キッチンへ行って早速料理にとりかかる。

鼻歌でも歌いながら……といきたいとこだが、ゆうべの小森の事がじわっと陰を落とす。
シマなんか見たところで、客引きなんかできるわけがない。

「はあ〜」

卵を焼きながらため息が漏れた。
アジはグリルで焼き中だ。

「ニャー」

猫達が匂いを嗅ぎつけてやってきた。

「こーら、まだ駄目だぞ」

どうせ食べる時にテツが分け与えるだろう。
グリルの火を止め、卵をひっくり返して仕上げ焼きだ。

全部完成したらアジと味噌汁以外をテーブルに運んだが、猫達が悪さをしそうなのでソファーに座って見張っていた。

すると、ピンポンが鳴った。

「こんな早くから、誰だ?」

まだ9時過ぎだ。
猫達は気になるが、玄関に行ってドアを開けた。

「あ……寺島さん」

寺島がジャージ姿で立っている。

「おう、朝っぱらからわりぃ、兄貴は……まだ寝てるか?」

少し屈んで小声で聞いてきた。

「はい」

「そうか、起こしたら叱られそうだ、だったらよ、友也、お前でもいい、ちょいと相談があるんだが」

彼女の話かもしれない。

「あ、じゃあ、上がって……、と言いたいんですが、猫がいます、2匹」

上がって貰いたいが、寺島は猫が苦手だ。

「ああ、大丈夫だ、俺もな、マメやボスがいなくなっちまっただろ? だからよ、獣が恋しくなった」

そう言われても、あんなにビビってたのに、ちょっと信じられない。

「ほんとですか?」

「ああ」

けど、自信ありげに頷いた。

「じゃ、どうぞ」

そこまで言うなら、上がって貰う事にした。

「どうぞ、座ってください」

テーブルの周りには2匹がいるが、ソファーに座るように促した。

「あ、ああ……」

寺島は2匹を見て表情を硬くしている。
絶対無理してるに違いない。
だけど、猫がいるのをわかっていてやってきたのは、よっぽどの事だろう。

「珈琲入れましょうか?」

声をかけてキッチンへ行った。

「あ、いや……、飯の用意してあるしよ〜、悪い時に邪魔したな、気ぃ使わなくていいぜ」

寺島はテーブルの上を見て言ったが、テツはまだ寝てるし、気にする事はない。

「ああ、全然構いません、面倒だから先に運んでるんです、じゃあ、コーラでもどうです?」

お手軽に出せるコーラを勧めてみた。

「おお、じゃあ……わりぃな、つか……猫が食いもんを狙ってるぞ」

寺島は遠慮がちに言ったが、猫達の様子が気になるらしい。

「すみませんが、悪さをしたら抱っこしといてくれませんか?」

ちょい酷だとは思ったが、前よりはビビってないし、猫に慣れるいい機会だ。

「お、おう……、抱っこか、わかった」

コーラをグラスに注ぎながら、さりげなく寺島を観察した。
次郎長はテーブルの上を気にしていたが、ピョンとジャンプしてテーブルに飛び上がった。

「あっ! こら、駄目だ」

寺島は慌てて手を出し、次郎長を両手で掴んだ。

「あ……、ははっ、も、持てたぞ」

一瞬固まったが、次郎長を膝に乗せて座り直した。

「へえ〜、犬より柔らけぇんだな、へへっ」

子猫だからっていうのもあるとは思うが……。
あんなに猫を恐れていた寺島が……次郎長を撫でている。
奇跡と言っていい程の進歩だ。

「ニャーン」

次郎吉もソファーに飛び上がり、寺島に甘えてスリスリし始めた。

「お〜、お前も来たのか? ははっ、なんだ、ちっとも怖くねぇじゃねぇか」

寺島は自分に言い聞かせるように言って、片手で次郎吉を撫でている。

「寺島さん、猫を克服しましたね」

ソファーのそばに歩いて行き、声をかけてグラスを寺島の前に置いた。

「ああ、だな……、まだちいせぇからよ、へへっ、犬が死んじまって動物を撫でるのは久々だが、やっぱりいいもんだな」

つい『なにか飼ったら?』……と言いそうになったが、今はそんな余裕はないだろう。
こんなに朝早くから来たのが、その証拠だ。

「あの〜、で、相談って、ひょっとしたら……彼女の事ですか?」

向かい側に座って聞いた。

「ああ、それなんだが……、あのな、前にコンビニで話しただろ? 千尋がよ、どうしても怖いって言うんだ、けどよ〜、まあ〜松本の兄貴んとこは別として、それ以外はみんな気さくでいい人間ばかりだ、千尋に……それをわかって貰いてぇんだが、なんせ関わる事がねぇし……、関わる機会を作るしかねぇと思ったんだ、で、友也、お前か兄貴……、いや、2人一緒でもかまわねぇんだが、千尋と会って話をしてくれねぇか?」

当たりだったが、寺島は彼女が抱く、ヤクザ=怖いというイメージを払拭したいようだ。

「そうですか、じゃあ、どこかカフェにでも行って話をするとか……」

そんなんで上手くいくかどうか、それはわからないが、協力はする。

「ありがてぇ、あのよ、できりゃここがいいんだが……、いや、俺はな、結婚したらやっぱここに住みてぇ、だからよ、このマンションで話をするのがいいんじゃねぇかと思ってな」

なるほど……言われてみれば、確かにその方が良さそうだ。

「そうですね、それがいいかもしれません」

「じゃあよ、俺はこれ飲んだら退散するが、兄貴にも伝えといてくれるか?」

「はい、わかりました、ちゃんと話しときます」

可愛い弟分が、人生の帰路に立たされてるわけだし、テツも快く協力してくれるだろう。

「そうか、へへっ」

寺島は嬉しそうに笑ってコーラを一気飲みしたが、その間も次郎長は寺島の膝に座っていた。

「はあ〜、朝から悪かったな、じゃ、行くわ」

グラスを置き、次郎長をソファーにおろして立ち上がったので、俺も立ち上がった。

「あ、はい……」

一緒に玄関に向かったが、猫達はついて来ない。
悪戯しそうな予感がしたが、兎に角、玄関で頭を下げて寺島を見送った。

すぐにソファーへ戻ったら、次郎長がまんまとテーブルの上にあがっている。

「こらこら……、駄目だ」

抱き上げてソファーに座った。
膝に乗せて抱っこすると、次郎吉も隣に飛び上がってきた。

「へへっ」

小森の事で憂鬱になっていたが、寺島が猫を克服できた事で気分が良くなった。

テツが目を覚ますまで……2匹と遊びながらのんびりと待つ事にした。







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あきゅろす。
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