Snatch成長後編BL(完結)
43、水野の災難
◇◇◇
今日は水野がコスプレショーをやる。
小森はシマに連れて行くと言ったが、テツには内緒にしている。
やっぱりハルさんがよかったが、泣き言を言っても仕方がない。
テツはあれから小森の事を調べてきた。
そしたら、どうやらバイだとわかったらしい。
今正直に話したら、絶対直に文句を言いに行くだろう。
叔父貴だなんだと、そういうしがらみで受け入れたのに、いざこざを起こすのはマズい。
だから、小森との事は内緒だ。
「おお、矢吹、また何か入手したか?」
前と一緒で、先に竜治が来ている。
俺とテツは並んでソファーに座り、竜治は向かい側に座っているが、変態コスチュームについて聞いてきた。
「ああ、ちょい待て」
テツは元磔台に紙袋を取りに行ったが、次郎長と次郎吉は竜治の隣に座り、竜治のネクタイを狙っている。
「お〜、いっちょ前に狙ってやがるな、へへっ、ほれほれ」
竜治は猫好きだから、面白がってわざとネクタイを揺らした。
次郎長が先んじて飛びつき、竜治の手に爪を立てた。
「いてぇ〜、こいつ〜、へへー、おめぇは悪だな」
竜治は次郎長を片手で掴み、持ち上げて目の前でじっと見ているが、次郎長は足をバタつかせて藻掻いている。
その足を次郎吉が狙っているが、笑えるから黙っていた。
次郎吉は身をかがめ、ケツをふりふりして次郎長に飛びついたが、不意をつく攻撃は、あてがはずれて竜治の手首を引っ掻いた。
「いててっ……、お前もか」
竜治は面食らって次郎吉を見たが、次郎吉はコロッと態度を変え、尻尾を立てて竜治に擦り寄った。
「ニャ〜ン」
甘えた声を出して喉を鳴らし、竜治の体に頭を擦り付けている。
「おっ、お前は変わり身はえーな、よーし、そういう事なら交代だ」
竜治は次郎長をわきに下ろして次郎吉を抱っこした。
まんまと猫なで声にやられたらしい。
「おう、持ってきたぞ」
テツが戻ってきて隣に座った。
「へへー、可愛いな〜、やっぱり猫はいいわ」
竜治は変態コスチュームの事を忘れて次郎吉を撫で回している。
「お前、そんなに猫が好きだったのか」
テツは少し呆れた顔をして言った。
「ああ、飼ってたからな」
竜治は大きな手で優しく撫でながら答えたが、次郎吉はリラックスして寝転がっている。
「ん、そうなのか、猫は……死んじまったのか?」
テツは猫の事は知らないらしい。
「いいや……、嫁が連れてった」
竜治は目を伏せてボソッと言った。
「そうか……」
テツは失敗したと思ったのか、罰が悪そうに短く返す。
何だか……沈んだ空気になってしまった。
「あの〜、で、変態コスチュームは……、見ないんですか?」
水野には悪いが、この空気を払拭する為に利用させて貰う。
「おお、それだ、前回は際どいやつだったが、今回はなにを買ったんだ?」
竜治は思い出したようだ。
「ああ、へへー、これだ」
テツは例のドレスを出して見せた。
「んん〜、なんだぁ、ドレスか?」
「おう、こんな感じだ」
更に、目の前で吊るして見せる。
「こいつはまた……、場末のBARのママが着てるようなやつだな」
キラキラ鱗ドレスは、まさに竜治が言った通りのイメージだ。
「なははっ! だからいいんだよ、でよ〜、まだあるぜ、これだ」
テツはカウガールのヅラを引っ張り出した。
「おいおい金髪かよ、すげー組み合わせだな、並のセンスじゃ思いつかねぇぞ」
竜治は褒めてるようで、実はそうでもない事を言う。
そこでピンポンが鳴った。
「水野が来たな」
「あ、俺、出ます」
立ち上がって玄関に行ったが、水野はあれを見てどう言うか……。
いくら温厚な水野でも、ちょっと心配になってきた。
「おお、来たぞ、あんな、久しぶりに着ぐるみだ」
ドアを開けたら、水野は張り切って言った。
「そうっすか……」
「毎度買ってたら家中コスプレ衣装の山になるからな、カオリがいらねぇやつをオークションに出した、でな、一番初めに着た、兎だけは記念に置いとこうって事になって、今日は持ってきたんだ」
今日はピンク色の兎の着ぐるみを着るつもりらしい。
懐かしく感じるし悪くはないが、問題はあの2人だ。
「あ、上がってください」
どんなリアクションをするか不安だが、兎に角、上がって貰う事にする。
「ああ、邪魔するぜ」
水野は手に紙袋を提げてソファーに歩いて行った。
「おう水野、へへー、座れ」
竜治が笑顔で手招きする。
「ああ、なんだ? またどうせ変な衣装を買ったんだろ」
水野はテツの足元に置かれた紙袋を見て言った。
紙袋のそばに次郎長が座っている。
「おお、こら、お前ら……、またこれを狙ってやがるな」
衣装やヅラは中に戻したらしく、テツは紙袋をソファーの上にあげた。
「猫が悪さをするのか、ははっ、猫は袋が好きだからな」
水野は次郎長に気を取られている。
「おお、水野、今日はな、特別な衣装を用意した」
テツは遂に明かすつもりだ。
「なんだよ〜、俺は着ぐるみを着るんだからな」
水野は主張したが、着ぐるみも本来なら有り得ない格好だ。
しかし、テツが押し付けるやつはそれを遥かに上回るから、着ぐるみがごく普通な事のように聞こえてしまう。
「ふっふっふっ……、これを見ろ!」
テツは紙袋からドレスを引っ張り出した。
「な、なんだよそりゃ……」
水野はキラキラを見て狼狽えている。
「ドレスだ、あのよ、お前の為に大盤振る舞いしたんだぜ、これもセットだ!」
テツは恩着せがましく言って、カウガールのヅラも出した。
「お、おい……、ちょい待て……、お前ら、まさか……それを着ろっていうんじゃねぇよな?」
あまりの事に水野はビビっている。
「なあ水野、俺はよ〜、ひとり寂しく暮らしてるんだ、せめてお前のコスプレショーを楽しみてぇ」
竜治が水野の肩を抱いて泣き落とし作戦に出た。
「いやいや、ちょっと待て、俺に女装しろって言うのか? そりゃ……いくらなんでもあんまりだろ」
水野は怒るというよりは情に訴えている。
「俺はよ〜、昨日叔父貴の付き添いをしてきた、叔父貴はもう駄目だ、じきに逝っちまう、そんな叔父貴が言うんだよ、『木下ぁ〜、人間いづれは死ぬ、だからよ、悔いのねぇようにやりてぇ事をやれ』って、俺はおめぇの晴れ姿を拝まねぇと、死んでも死にきれねぇ」
竜治は更にパワーアップして泣き落としにかかる。
「いや……、あのよー、今叔父貴の事は出すな、お前……俺をおちょくってんのか?」
水野はとうとう腹を立てたようだ。
「おちょくっちゃいねぇ、俺らは純粋に楽しみにしてる、なんだったら友也も一緒に女装しろ、2人なら出来んだろ」
テツは俺を巻き込んで説得しにかかった。
「ちょっとテツ〜、なに勝手な事言ってるんだよ、だいたい、俺のは青木にやったし、ねぇだろ?」
飛び入り参加はごめんだ。
「ふっ……、そう思うか? あめぇな」
けど、テツは不敵に笑って言った。
「って……、まさか」
「おめぇのもちゃんと買ってある」
やっぱり……。
「マジかよ〜」
せっかく処分できたと思ったのに、ちゃっかり買ってた。
「なははっ! ちょっと待ちな、天袋にしまってある」
テツは高笑いすると、意気揚揚と衣装を取りに行った。
「なあ水野、友也もやるって言ってる、だったらいいだろ?」
竜治は勝手に俺が飛び入り参加する事にしている。
「そりゃ……、いや待て! あのな、友也は似合うかもしれねぇが、俺はあんなキラキラ着て、金髪のヅラつけたら……ゲイバーの汚ぇカマじゃねぇか」
水野は承諾しかけたが、ハッとして文句を言った。
「それはそれで価値があるんだよ、おめぇだってゲイバーに行った事あるだろ、つか……俺らがやってる店も山ほどそんなのがいる、そういう奴らもちゃんと商売として成り立ってるんだ、バカにしちゃ失礼だろ」
竜治は真面目に話をしているが、要は水野の女装が見たいだけだ。
「くう〜、お前ら……、毎度毎度俺に恥ずかしい格好させやがって、そんなの見てなにが楽しいんだか、泣けてくるぜ」
水野は嘆いている。
「へへっ、ほれ、友也、お前のだ」
テツが戻ってきて紙袋を渡してきた。
「あ、うーん……」
一応中を見なきゃ気になって仕方がない。
袋の中を探って出してみると、ロン毛のヅラに花柄のワンピースだった。
ついでに化粧品まで入っている。
「どうよ? 気に入ったか?」
「まあ〜、普通かな」
横から聞いてきたが、テツが選んだ中では無難な方だ。
「へへっ、友也の女装も久々に見てぇな」
竜治はニヤケ顔で言った。
「おいコラ、欲情すんなよ」
テツがすかさず釘を刺した。
「心配するな、寝とりゃしねぇよ、そんなにカリカリしなくても、お前らはベッタリくっついてるじゃねぇか、たまには楽しませろ」
竜治は悪びれもせずに言ったが、話題が俺に移ってしまった。
「じゃ、友也だけでいいな?」
水野はここぞとばかりに聞いた。
「いーや、駄目だ、2人でやれ」
だが、竜治は譲らなかった。
「はあー、ったく〜、どうせ言い出したら聞かねぇんだろ? わかったよ……、やりゃいいんだろ、やりゃ」
水野は意外と早く折れた。
「友也、お前もベッドんとこで着替えてこい、ついでに水野に化粧をしてやれ」
テツが言ってきたが、俺はひとこともやるとは言ってない。
「え〜、勝手に決めてるし」
「水野をひとりでやらせちゃ可哀想だろ」
水野をだしにしてやらせるつもりだ。
「そりゃそうだけど……、わかったよ」
ゴリ押しなのは分かっているが、俺は慣れてるし、水野が気の毒だからやる事にした。
水野と一緒に女装する。
こんな日が来るとは……夢にも思わなかった。
「水野さん……、行きますか」
「お、おう……」
声をかけると、水野は紙袋をテツから渡された。
俺も紙袋を持って立ち上がり、連れ立って隣の部屋に向かった。
「おい、楽しみにしてるぜ〜、なははっ」
竜治が次郎吉をヒョイと持ち上げると、次郎吉の前足を掴んでバイバイさせている。
「ったく……、どんな趣味だよ」
水野はぶつくさ言ったが、こんな事までさせられてその程度で許す、その寛大な心には感動を覚えた。
ベッドのわきに立ち、紙袋をベッドの上に置いて服を脱いでいった。
俺はジャージだからあっという間にパンイチになり、紙袋からワンピースを出して頭から被っていった。
「友也、お前、相変わらず毛がねぇな、それに肌がやたら綺麗だ」
水野もちょっと遅れてパンイチになったが、手をとめて俺を見て言う。
「っと〜、肌は一応気をつけてます、もう若くはないんで」
「気をつけるって、なにをだ?」
「ボディソープとか、いいやつを使うようにしてます」
「へえー、マジか? そんな事を気をつけてるのか、あっ……、やっぱ矢吹がうるせぇのか?」
「いえ、テツはなにも……、自分でそう思ってやってるだけです」
「ふーん、そんだけ好きって事か、すげーな、お前らは……、いつまでも仲良くってよ、俺なんかカオリでもマンネリだぜ」
水野は苦笑いを浮かべて言ったが、俺は聞かれた事に答え、たわいもない話をしつつ……水野の裸を見てドキドキしていた。
そりゃテツの事は一番だが、ノーマルな男がナイスバディな女の裸を見てドキドキする……それと同じ感覚だ。
俺は女性にもドキドキするが、男も筋肉質ないい体をしていると、ついドキドキしてしまう。
水野とは昔寝たが、あの頃とさほど変わってない。
「水野さん、いい体をしてるし……、大丈夫ですよ」
何気なく目を逸らして言った。
「そうか? へへっ、まあ〜一応筋トレしてるからな」
水野は照れ臭そうに笑い、ドレスを足から通した。
「うおっ、こりゃピチピチだ」
ボディコンシャスだから、筋肉質な肉体にジャストフィットしている。
水野は無理矢理肩紐まで通したが、凄い光景だ。
屈強な肉体にキラキラ鱗ドレスがぴったりと張り付き、ミニスカから逞しい太ももがのぞいている。
だめだ……申し訳ないが、我慢できない。
「ぷぷっ……」
半魚人だ……。
「やっぱ可笑しいよな? だから嫌なんだ、あいつら、俺を笑いのネタにして楽しんでやがる」
「い、いえ、すみません……」
笑ったら悪いので我慢した。
「でー、ヅラか……」
水野はヅラを出して裏側を見ている。
「中にピンがあると思います、それでとめてください」
初心者だから教えてあげた。
「おお、わかった、っと〜、こうか? めんどくせぇな〜」
頭に被ってゴソゴソと弄っている。
「あ、じゃ、俺も……」
俺もヅラを被って髪にとめていった。
程なくして、互いに無事ヅラを装着したが、水野はブロンドヘアーになり、俺はありふれたロン毛スタイルだ。
「ま、あれだ……、開き直ろう」
水野は正面を凝視して呟いたが、迷いを断ち切ったような、そんな雰囲気を感じた。
「あの、じゃあ〜化粧します、ベッドに座ってください」
「ああ、わかった」
化粧品を出して水野の前に立ち、少し屈んでファンデーションを塗っていった。
リキッドだからそのまま塗ればいい。
ただ、青木とは違って髭が邪魔だ。
そこだけザラザラした感触がしたが、気にせずに塗りまくった。
「うーん……、ずっと前にバカ殿をしたが、あん時みてぇだ」
「ああ、ですね、似たようなものかも」
ファンデーションを塗ったら、アイラインを引く。
「あの〜、目を閉じててください」
「おう……」
水野にアイラインをひくのは、青木とは違って違和感を覚えたが、水野は案外嫌な顔をしてない。
やっぱりバカ殿で経験があるし、それでだろう。
アイラインが終わったらシャドウだ。
テツは派手な赤色を買ってきている。
できるだけぼかして塗っていき、最後に口紅を出した。
「口紅、自分で塗りますか?」
「いや、面倒だ、塗ってくれ」
「分かりました」
口紅はベージュ系の渋い赤だ。
リップブラシを使って輪郭から丁寧に描いた。
「はい、出来ました、完成です」
出来上がって見てみると、バカ殿よりはマシに思えた。
バカ殿は水野が自分で雑にやったし、あれはそもそもギャグだ。
こうしてちゃんと化粧をしたら、真っ向から可笑しい……とまではいかない。
「おお、出来たか、な、可笑しいか?」
水野は顔が気になるらしい。
「いえ、バカ殿よりいけてますよ」
「いけてる? おい、よせよ〜、冗談だろ」
「ははっ、いえ、ほんとマジっすから」
「ったく……、参ったな〜、で、お前も化粧するんだろ?」
俺は本当にいけてると思ったが、水野は困った顔をしている。
「はい」
「じゃあよ、待つわ、じゃねぇと……、俺ひとりで、この格好で行けるわけがねぇ」
「はい、じゃ、すみません」
ちょっと待って貰い、水野の隣に座って化粧をしていった。
「おめぇ、慣れてるな〜」
水野は感心したように言ったが、誤解されちゃ困る。
「あの、テツにやらされるので、それでです」
「ああ、そうか、あいつも好きだな〜、そういうの」
誤解されなくてよかったが、口紅を塗り終わったので、化粧品を紙袋に放り込んで立ち上がった。
「んじゃ、行きますか」
水野に声をかけた。
「行きたくねぇな〜、あいつら、ぜってぇ大笑いするぞ」
だが、立ち上がろうとしない。
「まあ〜、これもコスプレの一種だし、お笑いの芸だと思えば、ウケたって事になるので」
お笑いのネタだと思って割り切ったら、気が楽になる。
「おお、そうだな、確かに……そう思や、気楽だ」
水野はウケると喜ぶ体質なので、ちょっとは勇気が出たようだ。
紙袋は脱いだ服と一緒にベッドの上に置き、水野と2人でソファーのところへ歩いて行った。
「おお〜っ! 場末のBARから来やがったな」
すると、竜治が水野を見て叫んだ。
「うっせー! お前らがやれっつーからやってやったんだ、感謝しろ!」
水野はキレ気味に言い返した。
ウケ狙いに走るかと思ったが、やっぱりカチンときたんだろう。
竜治の隣に勢いよく座り、思いっきり足を開いている。
「おい、ママさんよ〜、股ぁおっぴろげるのは勘弁してくれ、俺んとこから丸見えだ」
テツは苦笑いして指摘したが、とにかくテツの隣に座った。
俺達が用意する間に、水野は場末のBARのママという事になったらしい。
「だはははっ! すげーなおい、ムッキムキに鍛えたママだ」
竜治は水野を間近に見て、腹を抱えてゲラゲラ笑った。
「木下ぁ〜、おめぇ、よくも俺にこんな格好を……、死んだら化けて出てやる、あぁ"〜コラ、どうなんだよ〜」
水野は竜治の肩をガシッと抱き、顔を近づけている。
「おまっ……、ち、近づくな〜、なっはっはっは! よせ、そんなもんを目の前で見せられた日にゃ、腹筋が……やべぇ、崩壊する〜」
竜治は水野ママに迫られて、横に倒れそうになっている。
次郎長と次郎吉が竜治の足元にいたが、危険だと思ったのか、ソファーの下に潜り込んだ。
「へっ、同じ浮島同士ちちくりあって、結構なこった、なあ友也、お前は似合ってるぞ」
テツが肩を抱いて言ってきた。
「いや、まあ……」
褒められても、俺は女装趣味はないし、別に嬉しくはない。
「ちょっ、水野……、なにとち狂ってやがる」
竜治はソファーに押し倒され、水野が片足をソファーに上げてのしかかっているが、パンツが丸見えだ。
「ふっふっふっ、俺を笑いものにしたバツだ、チューしてやる」
水野は逞しい二の腕で竜治を押さえつけ、不気味に笑って宣言した。
「ば、ばか、よせ……、遂におかしくなっちまったか」
竜治はマジで焦っている。
「木下ぁ、おめぇ、寂しいんだろ? だからよ〜、慰めてやるっつってるんだ」
単なる脅しかと思ったら、水野は本当にキスするつもりらしい。
ちょっとびっくりしたが、毎回変な格好をさせられて、相当鬱憤が溜まってるんだろう。
「ば、馬鹿野郎〜、このっ……」
竜治は怒りが頂点に達したらしく、遂に正体を現した。
「おわ〜っ!」
水野の体を両脇からガシッと掴むと、そのまま強引に起き上がった。
凄いパワーだ、さすがは重量級の大魔神……。
「アホだな……、俺らもたまにバカをやらかすが、浮島も大概だな、しっかしよ〜、さっきからパンツがずーっと見えてる、おい水野、少しはカマらしくしろ」
テツは2人のバカ騒ぎを見て、呆れ顔で水野に言った。
「なにぃ〜? 矢吹、今カマって言ったな」
水野はソファーに投げ出され、背もたれに寄りかかっていたが、金髪を振り乱してテツを睨みつける。
「んん、お前、今木下にチューしようとしてたじゃねぇか、完璧にカマだろ」
よせばいいのに、テツは煽るような事を言ってしまった。
「んにゃろ〜、よーし、わかった」
水野は力強く立ち上がり、テツを凝視して歩いて来る。
「お、おい、まさか……俺に迫る気じゃねぇよな? 俺は霧島だ、お前らとは組が違う」
テツは狼狽えて肩から手を離した。
「矢吹、おめぇにも熱〜いチューをおみまいしてやる」
水野はテツに襲いかかり、両肩をガシッと掴んだ。
「バ、バカ、よさねぇか!」
テツは俺の方へ体を傾けて逃げたが、俺はやばいと思ってすっとよけた。
「友也、こっちに来な」
竜治が手招きしている。
「はい」
テツは水野に押し倒されたので、安全地帯に避難した。
「へへっ、久々だな〜、こうやってそばに座るのは、矢吹の奴がうるせぇからよ」
竜治は笑顔で肩を抱いてきた。
「ははっ……、ええ」
今は腹を割って話す仲になってるし、軽い接触くらい構わないと思うが、テツはどうしても拘りがあるらしい。
ただ、そうは言っても……テツの気持ちもわかる。
あんな事があったんだから、当然と言えば当然だ。
「おっ、おめぇ〜、コスプレするうちに、とうとうイカレちまったか」
けれど、たった今テツは……人生最大のピンチに陥っている。
「ふっふっふっ、お前が変態コスチュームを押し付けたせいだ、因果応報ってやつだよ……報いを受けろ」
水野はチューを報復に使うようだが、確かに、何気にダメージが大きい。
テツにのしかかって口をタコみたいに尖らせている。
「ちょっ、マジかよ、つか……その面はよせ、なっはっはっは! 変過ぎる」
テツは噴き出したが、そのせいで力が入らないようだ。
「ま、仲良くやるのはいい事だ、へへっ……、お前も昔よりは歳をとったが、俺はそれよりももっと歳をとった、けどよ〜、こうしてくっついてると、昔のまんまのような気がしてくる、楽しかった頃を思い出すぜ」
竜治は2人を見てニヤリと笑い、俺の頭を手でガシガシ撫で回して言った。
「はい……、懐かしいです、本当にお世話になりました」
そんな風に言われたら、しんみりとした気持ちになる。
「だっはっはっ! バカヤロー、よせぇ〜っ!」
「いくぜ、覚悟しな!」
「ちょっ、ま……」
テツはバカ笑いしていたが、とうとう水野にチューされてしまった。
しかも、マウスtoマウスだ。
「あーあ……、すげー事になっちまったな、ま、ほっとこう」
竜治は2人を見て唖然としたが、俺の頭を自分の方へ引き寄せた。
「へへっ……、はい」
つい笑顔が零れた。
こんな事でもなければ、竜治のそばに寄る機会はない。
テツには悪いが、今だけ……少しだけ竜治に甘えさせて貰う。
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