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Snatch成長後編BL(完結)
39、ぐるぐる
◇◇◇

夕方になってテツは目を覚ました。

けたたましい叫び声と共に。

「いってぇ〜、足に穴があいた」

また2匹が噛み付いて引っ掻いたのだ。

「モゾモゾ動くから、狙うんだよ」

ソファーに並んで座ってるが、テツは片足を膝に乗せてじっくり見ている。

「ったくよ〜、早く成長して落ちつきゃ、ちっとは違うだろ」

ぶつくさ言ってるが、翔吾の事を話すチャンスだ。

「あの、翔吾の事でちょい話したい事があるんだけど」

「なんだ、まさか……また若が付き合えっつったんじゃねぇよな?」

テツはいきなり疑ってきた。

「違う、お見合いの事」

ここは要点を率直に出した方がいい。

「ん、おお、親父が性懲りも無く女をあてがおうとしてるが、それか?」

「そう、翔吾は精神的に参ってる、親父さんを説得してやめさせられないかな?」

「うーん……、あのよ〜、親父はもう70代だ、あと数年もすりゃ80だぞ、ぼちぼち余生が少ない事を感じ始める歳だからな、死ぬ前に孫の顔を拝みてぇってのは……わかる気がする」

しかし、テツは同調してこない。
余生が少ないと言っても、今は100歳もザラな時代だ。

「いや、あの〜、親父さん、めちゃくちゃ元気なんだろ? 酒で肝臓いかれてるとか、そういうのも聞かねぇし、未だに筋トレしてるんだ、そんな元気だったら大丈夫だよ、つか……、そんなんで翔吾に負担かけちゃマズいだろ、翔吾は元は組を継がねぇって言ってた、それが今は2代目として立派にやってるじゃん、それだけでもすげー事だと思う」

孫見たさに我が子を追い詰めたりしたら、本末転倒だと思う。

「ああ、わかってる、確かに若は頑張ってる」

テツは翔吾の事を理解している。
そんなのは分かりきった事だ。

「だったら、なんとかならねぇ?」

「俺に説得しろって言うのか? 無理だな、俺は補佐を外れた、今は黒木だ、頼むなら黒木が頼みゃいい」

黒木が翔吾の事を全力でフォローしてるのはわかる。
だけど、黒木は親父さんの側近だった。
ただでさえ、親父さんと翔吾の板挟みになってるのに、これ以上親父さんに意見できるわけがない。

「それこそ無理だよ、黒木さん、板挟みになってんじゃん、なあ、俺も行くからさ、テツと2人で話をしたら……親父さん、ちょっとは聞いてくれるんじゃね?」

テツは乳母だったし、俺は翔吾とは親友だ。
親父さんも、俺達の言う事なら耳を傾けるかもしれない。

「2人でか?」

「うん」

「なーんか嫌な予感がする、お前のこたぁさすがに誘っちゃこねぇとは思うが……」

嫌な予感っていうのは、過去に親父さんが色んなことをやからしたから、それでだと思う。

「大丈夫だよ、余生が少ないって気にする位だし、70代だよ、いくらなんでも減退するだろ」

いつまでもあると思うな性欲と勃起力……。

「ふっ……、そう思うか?」

けど、テツはニヤリと笑って聞いてきた。

「あっ、そういえば」

親父さんはニューハーフと付き合ってると、翔吾が言っていた。

「バイアグラじゃねぇが、親父は前からあの手の薬を入手してる、親父にとっちゃ、やれなくなった時こそ終わりだ、だからよ、意地でも勃たせる」

「意地でもって……、釣りとか趣味があるんだから、なにもそこに固執しなくても」

「ああ、釣りもたまに行くが、そっちの遊びは親父にとって必要不可欠だからな」

「う〜ん、そっか……」

親父さんは……死ぬまで現役を貫きそうだ。

「だからよ、関わらねぇ方がいい、また無理難題をふっかけてきたら、面倒だ」

確かに、親父さんは一筋縄じゃいかない。
本当なら関わらない方がいいだろう。
でも、それじゃ翔吾は俺を誘い続けるし、翔吾自体壊れてしまいそうだ。

「言いてぇ事はわかる、ただ、このままほっといたら、翔吾は絶対いい事にはならない、下手したら若頭をやめるって言い出すかも、それでもいいわけ?」

「そりゃ……、よくはねぇが、めんどくせー事になっちまっても知らねぇぞ、それでも話をする覚悟はあるのか?」

「ある」

上手い事説得する自信はないが、覚悟はある。

「はあー、お前のお節介にも困ったもんだ、わかったよ、じゃ、いつにするか、予定を考えとくわ」

テツは呆れてため息をついたが、一緒に行ってくれるようだ。

「うん、ありがとう」

まだこれからだが、ひとまずホッとした。

「にしてもよ、若は随分こまけぇ事までおめぇに話したんだな?」

すると、翔吾の事を聞いてきた。

「そりゃ、親友だから」

「そうか、そりゃそうと……、小森の息子はどうなった?」

なにか突っ込まれるかと思ったが、テツはそれ以上突っ込まず、小森の事へ話題を変えた。

「うん、まだ翔吾がいるし、なにもねぇけど〜、無愛想」

「ふーん、ま、だろうな、前にも言ったが、若がいなくなったら、俺か寺島、ケビンが寄るからよ」

そこは有り難〜く恩恵にあずかる事にする。

「うん」

「あのボンは……まさかバイじゃねぇよな〜」

だが、不意に思わぬ事を言い出した。

「え〜、まさか、だってさ、お疲れのひと言もねぇし、見た目寺島さんだよ〜」

そんな風には見えないし、もしそっちのけがあったら、もうちょい当たりがいいと思う。

「あぁ? 寺島ぁ〜、おお、言われてみりゃちょっと似てるか、なははっ……、寺島か……、いや、待てよ、寺島はいっときおめぇにちょっかい出してたじゃねぇか、やっぱりわからねぇな」

テツはちょっと考えた後で笑ったが、古い事を持ち出して小森を疑っている。

「そりゃ確かに、バイの人は多いけど、だったら噂くらいたつんじゃね?」

組関連の人はバイが多いし、絶対噂になると思う。

「噂は特にねぇな、つーか、あの息子は組は継がねぇからな、あんまし話題にならねぇ」

「あ、そっか……」

最初に会った時、小森はやりたい事があると言った。
組を継がなきゃ、話のネタにされる機会も少ないだろう。

「こりゃ、独自に調べる必要があるな」

「そんな大袈裟な」

「いいや、人のモノをオモチャにされるのは懲り懲りだからな」

テツは本気で調べるつもりらしいが、ちょっと気にしすぎだ。

「やめなよ……、気を悪くしたらどうすんだ?」

コソコソ身辺調査なんかして、もしバレてへそを曲げられたりしたら、たまったもんじゃない。

「ふん、向こうの親父にゃわりぃが、俺個人としては、息子だからって特別扱いするつもりはねぇ、だいたいよ、本当に余所の釜の飯って言うなら、同業じゃなくカタギに頭ぁ下げて頼むべきだ、舎弟企業でも構わねぇ、それに……いきなり店長じゃ駄目だ、下っ端、平……、職人なら見習い、そっからやれって話だ」

そんな事はやめて欲しかったが、テツは何気に的を射る事を言った。

「あ、うん、それは……そうだな」

やっぱ……テツは凄い。
さらっとそういう事が言えるところが、感動を超えて感服させられる。

「だからよ、ちょいと調べる」

そこまで言うなら、仕方がない。

「じゃあ、まあ……、あんまし目立たねぇようにやった方がいいよ」

ただ、ひっそりとやって貰いたいところだ。

「そんなのは言われなくてもわかってら、まぁとにかく、お前はあんまし近づくな、用心した方がいい」

「それを言うなら、俺も……言われなくてもわかってるってやつだよ、ああいうタイプは苦手だし」

四六時中むくれた顔をしてるような奴に近づきたくない。

「おお、ならいい、で、俺はこれからちょいと出なきゃならねぇ、最近な、浮島のシマを怪しげな奴らがうろついてるんだ」

テツは返事を返し、最近ご無沙汰だった事を口にする。

「ん、またアジアとか?」

「いいや、どっかに雇われたチンピラだ」

「あ、そうなんだ、鷲崎一家の事があって、あれから静かだったのにな」

「ああ、ま、縄張り争いは常に付き纏う事だからな、終わりはねぇんだよ、浮島に挑戦する根性は認めてやるが、一か八かに賭けたとこで、返り討ちにあうだけだ」

「うん、そうだよな」

浮島の田上組長は親父さんより若い。
まだまだ飛ぶ鳥を落とす勢いって感じだろう。

「だからよ、シマを見張る手伝いだ、俺らは浮島とは切っても切れねぇ仲になっちまった、ま、親父も歳だからな、若は襲名するにはもう少し時間が必要だろう、浮島と懇意にしてりゃ、自然と諍いも遠退くって寸法だ」

霧島は浮島とは違って、合法的な商売をシノギとしてる割合が高い。
浮島のようにシャブや大麻、違法ドラッグは扱ってないし、債権回収も非道な真似は避けている。
唯一カジノや賭博はやってるが、浮島ほど派手にやってるわけじゃない。
拝金主義な今の世の中で、仁義を貫こうとするのは大変な事だ。
下手したら不利益を被るし、周りからは古臭いと笑われて一蹴される。

「そっか、でもいいんじゃね? だってさ、水野さんや竜治さんと楽しくやってるし」

でも、だからこそ霧島みたいな組は貴重だと思う。
霧島であり続ける為なら、多少の妥協は仕方がない事だ。

「おお、まあな、浮島の親父は好きにはなれねぇが、あいつらは別だ、次の水曜にまたコスプレやるっつってたぞ」

テツも2人に対しては好意的だが、また水野のコスプレショーが開催されるらしい。

「あ、そうなんだ、次はどんなのかな? つーか……、まさか、もう購入したんじゃ」

ポイントがどうだとか言ってたし、懲りもせず水野に変態コスチュームを押し付けるに違いない。

「へへへっ、今度こそ女装だ」

チラッと話していたが、マジに考えてるとは思わなかった。

「いや、女装はやめた方がいいって、だいたい見なくてもわかるだろ? いくらなんでも水野さんが気の毒だよ」

汚いオカマになるだけだし、最早、ただのイジメに過ぎない。

「いいんだよ、単なる余興じゃねぇか、そういや……、おめぇ、ヅラやら化粧品がねぇぞ、俺に内緒で使っちゃいねぇよな?」

テツは全く聞く耳を持たないが、俺が女装するのはあくまでも強制されての事だ。

「使うかよ、そんな趣味ねぇし、ヅラと化粧品は……青木にやった」

青木にあげた事をバラした。

「やっちまったのか?」

「うん、俺はあんたに言われて仕方なしにやってるだけだ、青木は仕事として必要だから、プレゼントした」

「しょーがねぇな〜、じゃ、特別に水野用に仕入れてくるか、そうだな〜なにがいいか、ピッチピチのタイトなドレスとか、たまんねぇなおい、なっはははっ!」

テツは怒りはしなかったが、買う気満々でゲラゲラ笑っている。

「そんなの金の無駄遣いじゃん、いくら水野さんだって、拒否るに決まってる」

「ふっ、俺には木下っていう、心強ぇ味方がついてる」

「ちょっと〜竜治さんとグルになって虐めるなよ」

竜治は浮島にも関わらず、テツと一緒になって水野を追い詰める。
テツと竜治は、悪ふざけという事に関しては完全に意気投合してるから、水野は太刀打ちできない。

「人聞きの悪ぃ事を言うな、虐めちゃいねぇ、俺達はそうやって親睦を深めてるんだ、なっはははっ!」

「あのさ〜……」

やめるように訴えたが、テツは『こりゃ趣味だから黙ってろ』と言って、いうことを聞かなかった。

そうする間に、猫達がソファーにやってきたが、テツはもう行かなきゃならないらしい。
遊びたそうな2匹を後目に、さっさと用意をして出て行った。

部屋に取り残されたひとりと2匹……。
次郎長と次郎吉を見ながら、色んなことが頭の中をぐるぐると回った。

「はあ〜あ」

とりあえず、猫のトイレ掃除をする事にした。






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あきゅろす。
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