Snatch成長後編BL(完結)
31、シャギーソルジャーにて
◇◇◇
シャギーソルジャーに出勤したら、翔吾がハグをして出迎えた。
「いや、翔吾……」
廊下の真ん中だし、向こうで嬢達が見ている。
「おお、これは若、こんなところでどうなさいました?」
三上が控え室から出てきて、そばに歩いてきた。
「ミノル君、お見舞いは楽しかった?」
翔吾は体を離してお見舞いの事を聞いたが、お見舞いなのに『楽しかった?』と聞くのは変だ。
「えっ? そりゃ……はい……」
三上も違和感を覚えたらしく、戸惑いながら返事を返した。
「そうか、それは良かった、マリアから電話があって、ハルさんの手術は無事終わったと言ってた、ハルさんは君達が2人で来た事を喜んでたらしい、また友也と一緒に見舞いに行ってやってくれ」
ハルさんの手術が上手くいって良かったが、再び行くように言ったのは……鎌をかけてるように思える。
「あ、そっすか? いや……、ハルさんは良かった、見舞いは是非また行きたいっす!」
三上は翔吾にバレた事を知らないし、笑顔で張り切って答えた。
「ふふっ……、じゃ、僕は仕事をするから、友也、また後で」
翔吾は含み笑いを浮かべると、俺にひと言言って店長室に歩いて行った。
ドアを開けて中に入ったので、ついでに周りを見回したら、いつの間にか嬢達は居なくなっていた。
「ハルさんのこたぁ良かった、けどよ、なーんか変だ」
三上は首を傾げて呟いたが、やっぱり話した方がいいだろう。
「ちょっとミノル……こっち、店に入ろう」
腕を掴んで店の方へ引っ張って行った。
「おう、レジは弄っといたぜ」
ドアを開けて中に連れて入ったが、三上は仕事の事だと思ったらしい。
「はい、ありがとうございます、いや、あの〜、そうじゃなくて」
レジを開けてくれたのはありがたいが、俺が話したいのは翔吾の事だ。
「なんだ、あれから矢吹に疑われたのか?」
「いや、実は、翔吾にバレて……」
「ん? もしかして……俺とホテルに行ったのがバレたのか?」
「はい、翔吾は俺とあなたの事を疑ってたらしく、GPS発信機を車につけてたみたいで」
「ほお〜、つー事は俺と2人で行かせたのは罠か?」
さすがは三上、勘がいい。
「そうです」
「へへー、そうだったのか、なはは〜、バレちまったか」
けど、何故かデレている。
「いや、あの〜、なに喜んでるんですか、で、翔吾はそれをネタに……自分と付き合わなきゃ浮気をバラすって言ってきました」
一番肝心な事を明かした。
「ひゅ〜、やるじゃねぇか、いや〜あんなに弱々しかった若が……随分成長したもんだな」
三上は全く動揺してないばかりか、むしろ……感心している。
「いや、しんみりと語ってる場合じゃないです、俺は今日帰りに付き合うって言いました、だからバレる事はないと思いますが、もしバレたら、俺は刺青……ミノルは日向さんに責められる、俺はまだしもとしても、ミノルに被害が及ぶのはマズい、三上さん、くれぐれもバレないようにしてください」
なんだか不安になってきて、三上に念押しをした。
「ああ、日向さんなら大丈夫だ、これっぽっちもお前との事を疑っちゃいねぇ」
三上は自信たっぷりに言う。
「そうですか……」
そこまで言うなら大丈夫だろう。
「で、発信機は外したのか?」
ホッとしていると、発信機の事を聞いてきた。
「いえ、俺はよくわからないし、そのままにしてます」
「じゃ、あれだ、帰りは俺が早めに出て、発信機外しといてやるわ、用済みだしよ、処分しても文句は言わねぇだろ、なんか言われたらお前が外したっつっときゃいい、多分外側につけてる」
「はい、助かります」
三上はそういう事に詳しいようなので、お任せする事にした。
「で、矢吹は大丈夫なのか?」
「はい、あなたとの事は全然疑ってないです、それより……翔吾の事を疑ってます」
今夜はなんとか躱せたが、この後も……となると、厳しいものがある。
「ふーん、俺は日向さんがいるからな、やっぱミノルは役得だわ、へへー」
三上はニンマリと笑ったが、それを聞いてふと気になった。
「あの〜、今日は長時間入れ替わってますが、ミノルは大丈夫なんですか?」
「おう、あんな、こっそり覗いてみたらよ、例の爺さんと遊んでた」
「そうですか……」
ミノルは相変わらず田中の爺さんと一緒にいるらしい。
「まぁ〜あれだ、若と付き合うのは仕方がねぇ事かもな、目と鼻の先に好きな相手がいるんだ、我慢しろって方が無理な話だ」
三上の言う事はわかる。
「ええ、はい……、翔吾の気持ちはわかってます、ただテツが……」
でも、俺はまた罪を重ねる事になる。
「あのな、矢吹だってわかんねぇぞ、誘いを断ってるって言っても、証拠がねぇ、そんなもんいくらでも誤魔化せる」
すると、三上はテツを疑うような事を言いだした。
「それはないと思います」
あんなに口うるさく言う位だし、浮気は考えられない。
「そりゃあな、お前の事を疑ってるからよ、さもお前に意識が向いてるように思えるが、男なんて勝手な生き物だからな、お前は自分だけのものにしてぇ、けど……自分は浮気してるってパターンはよくある話だ」
なのに、マジな顔で言うからちょっと心配になってきた。
「いや……、俺は信じてます」
それでもやっぱり、俺は信じている。
「ははっ……、そうか、じゃ、まあ〜、いいんじゃねぇか? おめぇがそれでいいなら、余計な事を考える必要はねぇ」
三上は呆れたように笑って言った。
「はい……」
そんな事は……有り得ない。
お喋りは終いにして、真面目に仕事をする事にした。
客足はぼちぼちといったところで、適度に賑わって閉店時刻を迎えたが、今夜も平穏無事に営業出来た事に感謝したくなる。
たまに難癖をつける客がいるので、そういうのが来たら厄介だ。
トラブルはできるだけ避けたい。
やる事を済ませて帰る事になったが、三上は迎えが来る前に裏から出て、発信機を外しに行ってくれた。
俺は売り上げを渡しに翔吾の所へ行った。
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