Snatch成長後編BL(完結) 1 ◇◇◇ あれから10年余りが過ぎた。 早いようで短い。 テツとは上手くいってる。 翔吾はドーベルマンを飼ったが、大型犬は寿命が短いらしく、既に他界した。 凄く可愛がっていたし、見た目とは違って人懐っこい犬だったので残念だ。 結局、翔吾の傍にいるのはドーベルマン黒木オンリーに戻った。 でも黒木の愛は、亡くなったドーベルマンと同じか、それ以上だと思う。 親父さんは元気にしている。 テツと一緒に筋トレをしてるし、新しい彼女も出来た。 ニューハーフだが……そっちもまだまだ現役らしい。 それはいいが、やっぱり孫が見たいらしく、翔吾に何度か女を紹介した事がある。 しかし、そう簡単じゃない。 ことごとく破談になった。 親父さんは自分に責任があると思っているので、今は諦めかけている。 翔吾が普通に話せる女性は、俺の姉貴と母さんだけだ。 その姉貴は、火野さんと仲良くやっている。 ただ、元火野さんの愛猫だった龍王丸は、ドーベルマンと同じであの世に旅立ってしまった。 寺島んちのチワワもだ。 動物は寿命が短いから仕方がないが、やっぱり死んだら泣ける。 いつも傍にいて励ましてくれたし、思い出が沢山ある。 たまに遺影を眺めて話しかけたりしている。 蒼介は中学一年生になった。 幼稚園の年長さんになった時、火野さんは蒼介を鍛えると言って毎朝鍛錬していたが、小学校の高学年になって蒼介が拒否するようになり、今はやってない。 進学祝いに、俺とテツはそれぞれプレゼントをする事にした。 テツはラブドールを贈るとか馬鹿な事を言ったが、俺は腕時計、テツは電子辞書と六法全書に決めた。 ラブドールとはえらい違いだが、テツは何気に蒼介に期待しているらしい。 火野さんは恐縮した様子でテツに頭を下げていた。 俺はシャギーソルジャーのマネージャーをやっている。 旧店長が辞めてハルさんが店長に昇格した。 ニューハーフ達は殆どが入れ替わってしまったが、マリアだけは今も働いている。 それなりに年を食ってるから、自分で『あたしはシャギーソルジャーの主よ、長老で古狸なんだから』と言い、自虐ネタで笑いをとり、客からも人気がある。 ミノルは引き続き日向さんに愛されている。 三上はまだ成仏していない。 ミノルの体を借りて楽しくやっているようだ。 竜治はたまにマンションに立ち寄る位、テツを交えて親しく付き合っている。 テツと竜治は、俺の事を除けたら相性が合うようだ。 竜治はちょっとやり過ぎて暴走するところがあるが、2人共恩義や人情に厚い。 基本的な部分で話が合うらしい。 水野は俺達の部屋でコスプレを披露するようになった。 勿論、浮島の他の仲間には内緒だが、俺やテツ、竜治の前では構わない。 すっかりコスプレイヤーになって、様々な変態コスチュームを見せてくれる。 ケビンは一時イギリスに帰っていた。 ママが病気で倒れたからだ。 あんな風にキツく言っても、やっぱり唯一の身内だから、見捨てるわけにはいかないんだろう。 今は日本に戻ってきているが、たまに性懲りもなく俺に誘いをかけてくる。 ケンジとイブキはよりを戻し、今は一緒に住んでいる。 松本と道明寺鈴子のカップルも、籍は入れてないが仲良くやっている。 鈴子は調味料を貸してくれと言ってやってくるが、年齢的にソープはキツくなってきたらしい。 デブ専御用達だから、客はそれなりにつくのだが、本人が体力的にキツイようだ。 引退して結婚したら?と言ったら、お互いに束縛されるのは嫌だと言った。 そういうのは人によって考え方が違うし、俺はそれ以上なにも言えない。 寺島は本気で付き合ってた彼女がいたが、残念ながら別れてしまった。 かなり凹んでいたが、しばらく経って失恋の痛手が癒えた頃、カタギの娘さんと付き合いだした。 今は結婚秒読み段階だが、その娘さんは債務者の娘だったらしい。 債務者となった娘の父親は、事実上霧島が経営するサラ金で金を借りていたが、小さな町工場を営んでいたらしく、このところの不景気と大手製造会社に仕事を奪われて、首が回らなくなったようだ。 最終的には自己破産する事になり、借金はそれでチャラになったが、そこに至るまでに寺島が力を貸した。 つまり……それをきっかけに付き合うようになった、という話だ。 寺島も、そんな事ができるほど成長したという事だろう。 さすがはテツの崇拝者、一番弟子だ。 信楽焼の狸みたいな体型をしていても、ちゃんとテツの教えを受け継いでいる。 寺島は無類の愛犬家だが、今は新しい犬を飼うどころじゃなさそうだ。 「ふう〜」 ひとりきりになると、いつも龍王丸がそばに来てくれた。 やっぱり寂しい……。 もう夕方だから、そろそろ行かなきゃならない。 俺は免許をとったので、自分で車を運転して店まで行く。 車は軽四だ。 テツは車を変えている。 前はレクサスだったが、今はBMWのスポーツタイプになった。 借金のカタで取ってきたやつを親父さんから貰ったのだが、テツは嫌がっていた。 外車なんか持ったら維持費が尚更高くつくからだ。 大人の玩具は惜しみなく買うのに、車となったら途端にケチになる。 着替えは済ませてるし、そろそろ行かなきゃならない。 立ち上がってカバンを取りに行ったら、ピンポンが鳴った。 「鈴子さんかな……、また味噌?」 玄関に行ってドアを開けた。 「よお、叔父貴」 蒼介だ……。 「あのさ、今から仕事なんだ」 ちょっと困惑した。 「あ、そう、へへっ、なあ〜叔父貴ぃ」 なのに、玄関に入ってきて肩を抱いてきた。 火野さんが背が高いものだから、ガッツリ遺伝して蒼介も背が高い。 中一なのに俺より身長がある。 その上、鍛錬されただけにガタイも屈強だ。 「な、なんだよ……」 そして今は……生意気なマセガキに進化した。 だから当時案じたような、テツとの関係云々は説明する必要がない。 「昔さ、俺〜叔父貴にチューしたよな?」 顔を寄せて懐かしい事を言う。 「ああ、赤ん坊の時によくやられた、涎でどろどろになった、悪い事ばっかしやってたな、ぬいぐるみはすぐ破くし」 悪戯は色々やったが、中でもチューと目潰しはダメージ大だった。 本人は覚えてない筈だから、姉貴か火野さん、どちらかが話したんだろう。 「あんな、今は上手にできる、やらせろ」 昔を思い出して懐かしんでいると、とんでもない事を言いだした。 「また馬鹿な事を言って……、テツに六法全書貰っただろ? あれで勉強しろ、ガキは変な事を考えず、ひたすら勉学に励め」 実は……蒼介は俺達の関係に憧れてる節がある。 それで妙な事を言い出したに違いない。 「俺さ、バイになりてぇ、だからさ、叔父さん練習台になって」 やっぱりそうだ……。 「あのな、そんなのは憧れてなるものじゃない、大体、赤ん坊じゃないんだぞ、こんなバカデカくなった中学生とチューできるか、だめだめ、姉貴に告げ口するぞ」 ちょっとキツイ言い方だが、蒼介には普通に生きて貰いたい。 「いいよ、お袋なんか怖くねぇもん」 小さな頃は姉貴に従順だったが、今じゃすっかりなめてかかっている。 だったら……もうひとりの方だ。 「じゃ、火野さんに言うからな」 「えー親父ぃ?うーん……、それはマズいな」 さすがに火野さんには太刀打ちできないらしい。 「わかったら、隣に帰って宿題しろ」 子供は子供らしくしなきゃダメだ。 「わかったよ、な、だったらさ、今度背中見せて」 すると刺青の事を言ったが、蒼介はたまに刺青を見たいと言う。 「また?」 「うん、見てぇ」 「そりゃまあ〜いいけど」 刺青を見せる位、別にどうってことない。 「約束だからな、へへっ、んじゃ、おかまバー頑張って〜」 蒼介は機嫌よく笑い、手を振って隣に帰っていった。 [次へ#] [戻る] |