女喰い男女陵辱系時代劇エロファンタジー短編(完結) 7 彦兵衛の息子、弥八郎が屋敷に戻ってきたが、屋敷に寝泊まりする事はなかった。 それから数日が過ぎていったが、五作がお美代のところにやって来て、お菊の行方を教えてくれた。 五作が調べたわけではない。 庭仕事をしている時に彦兵衛の座敷から話し声が聞こえてきて、何気なく聞いていたらお菊の名が出た。 その時に来ていたのは、彦兵衛が懇意にしている女郎屋の女将だったのだが、五作は思わず聞き耳を立てた。 すると、お菊は玉屋という女郎屋にいる事がわかり、早速お美代に知らせに来たのだ。 お美代は五作の気遣いを嬉しく思い、今まで以上に愛おしく思ったが、お腹に彦兵衛の子を宿す身では……叶わぬ願いだと諦めた。 更に数日経ち、お美代は番頭の茂平に用事を頼まれた。 お菊がいなくなり、新たな下女を紹介して貰う為に、顔馴染みの口入れ屋に手紙を届けるように……との事だ。 手土産に菓子折りを持って行けと言われ、手紙と菓子折りを持って屋敷の門を出た。 屋敷から出る時は余所行きの着物を着る。 着物は彦兵衛が与えてくれるが、使用人は店の看板でもある為、あまりみすぼらしい格好をさせられないからだ。 身重の体で風呂敷包を抱えて口入れ屋を目指して歩いた。 この日は町で祭りごとがあったらしく、町中はあちらこちらに屋台が出ている。 飯屋や食事をする為の茶屋も、いつもより出入りする人が多い。 お美代は飴細工や金魚売りを珍しそうに眺めながら、口入れ屋の前にやって来た。 入り口のわきに田倉と書かれた看板があり、お美代は暖簾を潜った。 帳場格子の中に主人が座っていたが、下に向いてそろばんを弾いている。 「あの、すみません……、廻船問屋、郷田屋の者ですが、番頭さんから手紙を預かって参りました」 お美代が頭を下げて声をかけると、主人は上目遣いでお美代を見た。 「ああ、そうかい、またアレか? 下女だな」 主人は呆れた顔をして言いながら、腹の膨らんだお美代をジロジロと眺めまわす。 「はい、あの、これはつまらない物ですが……」 お美代は上がり口に風呂敷包を置き、中身を出して遠慮がちに主人に差し出した。 「ああ、悪いね」 主人は一言言って菓子折りを受け取った。 「あ、それで……こちらが預かった手紙でございます」 お美代はすぐに懐から手紙を出し、それも主人に差し出した。 「ああ、わかった」 主人は手紙を受け取ったが、なにか言いたげな顔をしている。 「あの、それでは……私はこれにて失礼致します」 お美代はもう一度頭を下げて踵を返そうとした。 「あ、待ちなさい」 「はい」 だが、呼び止められて足を止めた。 「あんたは下女だろ?」 「はい、そうです」 「まだ若いな、歳はいくつだい?」 「あの……それは、旦那様から言うなと言われています」 「ふーん……、なるほどな、じゃ歳はいい、その腹の子は彦兵衛さんの子だね?」 口入れ屋の主人は突っ込んだ質問をする。 「あ、それは……」 お美代は口ごもった。 「可哀想に、どうせ手ごめにされたんだろう、あの旦那も、商売はやり手だが、色事はちょいとやり過ぎだ、その腹の子を産んだら……どうすると言われてる? それともあやふやにされてるのかい? 」 口入れ屋の主人は同情するような事を言ったが、ここの主人も彦兵衛の悪癖をよく知っている。 しかしながら、お美代は見るからに子供じみた見てくれをしている。 いくらなんでも酷すぎると思って、黙っていられなくなったのだ。 けれど、お美代は困ってしまった。 彦兵衛からは歳の事は言われているが、その他の事については特に注意を受けてない。 とは言っても、先日死罪と聞いた事もあり、迂闊に喋っていいのか不安になった。 「あ、あの……わたし、わかりません」 とりあえず、知らないふりをした。 「そうかい、わしが余計な事を言ったらなんだからな、ま、気を落とさずに……、生きてさえいればいい事もある」 口入れ屋の主人は、お美代が女郎屋に売られる事を想像し、元気づけるように言った。 「はい……、あの、ではこれで……」 お美代は再び頭を下げ、挨拶をして口入れ屋を出た。 空になった風呂敷包を折り畳んで懐にいれ、色町の方へ向かって歩いて行く。 お美代は用事を頼まれた後で、この機会にお菊に会いに行こうと思っていた。 賑やかな通りを歩き、様々な店を眺めながら歩いていると、やがて雰囲気の違う場所に出た。 門があり、柄の悪い番人が座っている。 番人はお美代をジロッと見た。 お美代はなにか文句を言われるかと思ったが、番人はなにも言わずに座ったままだった。 門の中に入ったが、ここは小さな遊郭だ。 通りの両側には女郎屋が立ち並び、見世に遊女の姿がある。 お美代は独特の雰囲気に緊張しながら玉屋を探した。 「よお、あんた」 キョロキョロと左右を見回していると、突然後ろから声がかかった。 足を止めて振り向けば、傾奇者らしき男がニヤついた顔で傍にやってきた。 「あ、はい……」 「なかなかのべっぴんだな、しかもまだ随分若いんじゃねぇか? なのに腹に子を仕込まれてるのか、へへー、そんなガキみてぇな面ぁして、やるじゃねぇか」 男は下卑た事を言ってお美代の肩を抱く。 「あの……、やめてください」 酒臭い匂いがして、お美代は警戒した。 「いいじゃねぇか、こんな場所をうろついて、女郎屋に用があるのか? 」 男は遊郭にはそぐわぬ清楚な雰囲気を持つお美代に、邪な欲を膨らませていた。 「はい、友達を探してます」 お美代は男から離れたかったが、兎に角正直に言った。 「女郎屋に友達か、女郎屋は沢山ある、そう簡単にゃ見つからねぇ、俺が一緒に探してやるよ、その前に……少し付き合ってくれ 」 男は調子のいい事を言い、お美代の肩を掴んで歩き出した。 「あの、いいです、自分で探しますから……」 お美代は足を踏ん張って抗い、キッパリと断った。 「おい、そりゃねぇだろ、俺はもうすっかりその気だ、な、そこの茶屋へ入ろう、しっぽりと楽しもうぜ」 男は斜め前の茶屋にお美代を連れ込むつもりだ。 「や、やめてください……、離して」 「いいから来な」 「や、いや……」 お美代は抵抗したが、肩と腕を掴まれてズルズルと茶屋の入り口へ連れて行かれた。 「観念しな、さ、来い 」 男はお美代の背中を押して暖簾をくぐろうとした。 「おい、待ちな」 後ろから不意に声がかかり、男は足を止めて振り返った。 「なんだよ、てめぇは」 傾奇者の男は苛立つように言い、お美代は恐る恐る振り向いた。 「あ……」 すると、そこにいたのは弥八郎だった。 「その女はうちの店の者だ、おめぇ、今無理矢理連れ込もうとしてたよな? 」 弥八郎はお美代の事を覚えていた。 「なんだと? そんななりで店? ああ、女郎屋か、なんだ、この女は女郎だったのか? だったら別にかまやしねぇだろ」 傾奇者の男は弥八郎の出で立ちを見てお美代を女郎だと思った。 弥八郎は傾奇者と似たような格好をしているからだ。 「女郎屋じゃねぇ、廻船問屋、郷田屋だ、うちの使用人を返して貰おうか」 弥八郎は店の名を出して言った。 「はあ? 廻船問屋だと〜、嘘つくな、あのな、せっかくこれからお楽しみだって言うのによ、邪魔するな」 傾奇者の男は弥八郎の言った事を信用せず、お美代の肩を抱いて茶屋へ入ろうとする。 「ちっ、しつけー野郎だな、よせと言ってるんだ」 弥八郎は男の腕を掴むと、力任せに通りの方へ引っ張り出した。 「おっ……、こいつー、ふざけるな! 」 傾奇者の男はよろついたが、弥八郎を睨みつけて殴りかかってきた。 弥八郎はスッと躱し、男の背中に腕を振り下ろした。 「う"っ! 」 男は前のめりになって地面に倒れ込んだ。 「馬鹿な真似はよしな、俺は嘘は言ってねぇ、この娘はうちの使用人だ、お前に渡すわけにゃいかねぇ、連れて帰る」 弥八郎はお美代の肩を抱いて歩き出した。 「くっそーっ!」 傾奇者の男は頭に血がのぼり、弥八郎の背中目がけて襲いかかった。 「きゃっ……」 弥八郎はお美代をわきへ押して退かし、お美代は足元がよろついたが、突然の出来事にびっくりした。 一体何が起きたのか混乱しながら弥八郎を見たら、弥八郎は小刀を持つ男を捕えている。 「い、いてーっ! 」 男は後ろ手に腕をねじ曲げられ、顔を歪めて喚いた。 「だからやめろと言っただろ、いい加減にしねぇと、そこらの岡っ引きにひき渡すぞ」 弥八郎は男の腕を捻りあげて言った。 「い"っ!あ"ーっ! わ、わかった……、女は諦める、離してくれ」 傾奇者の男は必死の形相で訴える。 「ああ、だったら行け」 弥八郎は男を突き放し、男はふらついて転けそうになったが、小刀を握って逃げるように走りだした。 「で、おめぇは……お美代っていったか? 」 お美代は脱兎のごとく走り去る男を唖然と見ていたが、弥八郎はお美代に目を移して確かめるように聞いた。 「はい……」 なにを聞かれるか大体見当がつき、お美代は俯いて返事を返したが、たった今、弥八郎に助けて貰った。 「あの……、危ないところをありがとうございました」 何はともあれ、頭を下げた。 「ああ、当然の事をしたまでだ、で、何故こんなところをうろついてた」 弥八郎は何故色町にやって来たのか気になった。 「はい、一緒に働いてた友達が、女郎屋で働いてるんです、たまたま番頭さんに用を頼まれて……ついでに会いに行こうと思って」 お美代はすんなりわけを話したが、弥八郎は彦兵衛の事をよく知っている上に、彦兵衛に対して反感を抱いている。 なんとなく話しやすかった。 「そうか、あのクソ親父、相変わらず女郎屋に売っぱらって汚ぇ銭を受け取ってるんだな、あのな、わりぃ事ぁ言わねぇ、会わねぇ方がいい」 弥八郎は吐き捨てるように言うと、お美代に忠告した。 「っと……、それはどうしてですか? 」 お美代は何故なのか疑問に思った。 「女郎になったら何もかも変わっちまう、まぁー、お前もその腹だからな、俺からすりゃ呆れて言葉もでねぇが……、この遊郭ってとこは牢屋も同じだ、門に番人がいただろ? 」 「はい」 「遊女が逃げださねぇように見張ってるんだ、自由なんてありゃしねぇ、お前は今のところ自由の身だ、そんな身で友達に会ったりしたら、友達を悲しませる事になるぜ、それでも会いてぇって言うなら止めやしねぇがな」 弥八郎は遊郭の事情を話し、お美代に判断を任せた。 「あっ……、はい、そうですか」 お美代は門番の話を聞き、その役目を初めて知った。 確かに……自分は身重の身体になってはいるが、妾という立場に置かれるのだから、お菊とは違ってまだ自由がある。 「どうする? 行くなら連れてってやる」 弥八郎は親切に言ってくれる。 「いえ……、あの、でしたら頼みたい事が」 お美代は会う事を諦め、代わりにお願いしてみようと思った。 「なんだ、言ってみな」 「はい、わたし手紙を書きます、それを渡して貰えたら……」 「おお、構わねぇ、渡してやる、で、どこの店だ? 」 「はい、玉屋でお菊ちゃんと言います、あ、あの、今の名前じゃなく昔の……」 「ああ、分かってるよ、お菊って名で働いてたんだな?」 「はい」 「任せな、届けてやる、折を見て店に寄るわ」 弥八郎は頼み事を快く引き受けてくれた。 「ありがとうございます」 お美代は有難く思いながらお礼を言ったが、とても不思議な気持ちになっていた。 弥八郎は彦兵衛の息子で傾奇者みたいな格好をしているが、物凄くまともだからだ。 それに、弥八郎は背が高く端正な顔立ちをしていて、でっぷりとした彦兵衛とは全く違う。 きっと気の病に罹った母親似なんだと思ったが、母親の世話は長年勤める年長者がお付でやっているので、確かめる術がない。 なんにせよ、この度は助けて貰った事もあり、お美代は彦兵衛とは似ても似つかぬ弥八郎の事を、信用できる人間だと感じていた。 [次へ#] [戻る] |