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SMILE!
迷子



手にジョウロを持って、歩いていると背中に突然衝撃がきた。痛みに少し、ほんの少し顔が歪む。
後ろを振り向くと、少年が転んでいた。


「…っいてぇ」


顔を上げたその少年は、とても可愛かった。ふわふわの明るい茶色の髪。おれとは異なる大きな目。
ぼーっと、その少年を見ていると突然立ち上がり、わたわたと慌て始めた。
背も小さい。小動物みたいだ。


「…っごめんなさい!前見てなくて…急いでて、それで…えっと」


慌てすぎて、いまいち何を言いたいのかよく分からない。


「…とにかく!本当にごめんなさい!」


ガバッと頭を下げてきた少年に、今度はおれが心の中で慌てる。
ぶつかっただけなのに、そこまで謝られても。たいしたことないのに。


「……だ、大丈夫」

「ケガとか、してないですかっ」

「……してない、」


ジョウロを持ってない方の手を握ったり開いたりしてみた。


「よかったぁ」


安心したようにふわりと笑った少年は可愛いというよりは綺麗だった。


「ってあぁッ!」


いきなり叫ぶ少年にビックリして、ちょっとだけ肩がはねた。


「あのっ、職員室ってどこに、ありますか?」


職員室、
この子、迷子だったりするのか?まあ、広いし迷っても仕方ないよな。


「……向こう、に」


左の方を指差す。


「マジですか!」


コクンと頷く。
あっちですよねっ?と少年は指を差すが、明らかに間違っていて、一人で行かせると確実にまた迷子になる可能性があった。


「じゃあ、俺行きますね!」

「…待って、」

「?」


不思議そうな顔で見上げてくる。純粋な目で見つめられ、緊張した。こんなに見られた事は今までないから。


「……案内、す、する」


断られたらどうしようとか、考えていたがそれは杞憂に終わった。


「本当ですか!いや俺、正直一人でたどり着く自信なくて…」


にこりと笑う少年に癒された。
いい子そうでよかった。ほとんどの生徒からはこの見た目のせいで避けられているが、この子は気にしていないようだった。


「……急がないと、」

「あっ!そうだった!」


歩き始めたおれの後ろを小走りでついてくる少年は、本当に動物みたいだった。



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