SMILE!
隠岐とおれ
良仁さんと別れて、家に戻った。
当たり前だがシマはおらず、ひとつため息をついた。
とりあえず晩御飯を作ろうと、キッチンに立った。
冷蔵庫からひき肉を取り出す。
ハンバーグでも作ろう。
無心で作っていると、ガチャリと家の扉が開く音がした。
何だ、と手の上で形を作っていたハンバーグをそのままに扉に視線を向けた。
「……え…、」
バタンと扉を閉め、中に入って来たのは隠岐だった。
「…話がある」
隠岐はそれだけ言って、イスに座った。
え、今から?ハンバーグ、作ってるんだけど…このまま続けていいだろうか。隠岐は晩御飯食べたんだろうか?
手の熱でハンバーグが暖かくなってきていた。
「……隠、岐…」
「なんだ」
「…食べる、か…?」
隠岐は少し考える素振りを見せ、おれを見た。
「食べる」
それっきり隠岐は口を開く事はなく、ハンバーグを焼く音だけが無駄に大きく聞こえていた。
隠岐とは、あの食堂以来会ってない。こんなに話さない人だっただろうか。きっと隠岐も知っているんだろう、楢木先生と何があったのか。だから、気をつかってるんだろうか…
出来上がった料理をテーブルに置き、イスに座る。
「……どう、ぞ…」
そう言うと、隠岐は無言で手を合わせ食べ始めた。おれも小声でいただきますと言って、ハンバーグに手をつけた。
カチャカチャと箸と食器が当たる音だけが響く。ちらりと向かい側に座る隠岐を見る。
おれの作った料理は隠岐の口に合うんだろうか。
それが心配でならなかった。
普通に食べているし、まずいという事はないだろうけど
「何、見てんだ」
「……え…あ、あの、」
気付かない内におれは隠岐をずっと見ていたらしく、隠岐は食べるのを止めおれを見た。
「……美味しい、か…?」
恐る恐る聞くと、隠岐はああと頷いてくれた。それを聞いて、安心した。
それからまたおれも隠岐も無言になってしまったが、嫌な空気ではなかった。
食べ終わった後、隠岐は食器を台所に持って行ってくれた。そんな些細な事が嬉しかった。
15分程度で食器を洗い終え、隠岐を見るとベッドに座っていた。
目が合うと、隠岐はおれを呼ぶ。
「来い」
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