SMILE!
2
黒川に聞こえないような小さい声で大神と言った。
「大神くんね」
バッチリ聞こえていたみたいだ。
「…もしかして、襲われた?」
「……っ、」
ビクリと肩が震える。
ぎゅっと傷付いた手の平を握り締める。
「はっちん、そんなに強く握り締めちゃダメだよ」
黒川は握り締めていた手にそっと触れた。
「この手の平の傷も唇が切れてるのも大神くんのせい?」
「……」
「無言は肯定だよ、はっちん」
黒川は手の平の傷に触れた。
「大神くんにどこまでされたの?最後まではヤってないよね?」
「……やって、ない」
「そっか。じゃあキスはした?」
もう隠せないだろうと、正直に頷いた。
「…ウチの担当に何て事してくれてんの、あのヤリチンが」
聞いた事のない様な、黒川の低い声。可愛い容姿からは想像出来ない。
「……あの、黒川…」
「はっちん、怖かったよね。ちぃも襲われた事あるからよく分かるよ」
黒川がぎゅっとおれの頭を抱きしめた。
「同じ男にさ、襲われるなんてプライドずたずたになって、どうしようもなく怖いよ。誰にも相談なんて出来ないしね」
微かに黒川が震えている。過去を思い出しているんだろう。
「でも、ひとりで悩まないで。言いたくない気持ちも分かるけど、ひとりだと、余計に辛いよ」
「……お、れは…」
でも、おれには相談出来る様な人なんかいない。こうやってバレたら、仕方なく話すかもしれないが、自ら話す、相談する事なんて一生無いかもしれない。
「……迷惑、かけたくない」
おれがそう言うと黒川は、むぎゅとおれの頬をつまんだ。
「……いたい…」
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