秘密の部屋 08 「デューク。起きなさいデューク」 女性の声がした。 すーっと目を開く。 「母上?」 「何を言っているの」 デュークの寝るやけに清潔な白いベッドの周りにはハリー、ロン、ハーマイオニーの三人がいた。どうやら、ここは医務室のようだ。 「デューク、三日も寝続けていたんだ。調子はどう?」 ハリーがデュークに尋ねた。三日も寝続けたのかとデュークは驚く。リドルはいったい何をしてくれたのだろうか。デュークは自分の体が心配になった。 「ねぇ。デュークはハロウィーンパーティーの日は何をしていたの?」 ロンが聞いた。 「ハロウィーンパーティー…?」 確かリドルに攫われた日だ。しかし、リドルがここの生徒だとは思えない。だから下手な事は言えない。デュークはそう考えた。 「その日は、調子崩しててさ。俺、ハロウィーンパーティー出れなかったんだよ。それで、ちょっと回復したかなと思って外に出たら倒れちまったってわけ。」 ハリー達はそれで納得したようだった。 「それで、ハロウィーンに何かあったのか?」 「うん。秘密の部屋ってデュークは知ってる?ミセス・ノリスが石にされちゃったみたい。そこに『秘密の部屋は開かれたり 継承者の敵よ、気をつけよ』って書いてあったんだ。それから『蛇は蛇のもとに帰るべし』とも」 ハリーが説明してくれた。そのエメラルドのような目は不安そうだった。おおよそ、パーティーに出なかったデュークを訝しんだというところだろう。 「俺を疑ってるなら筋違いだぞ。石にされたノリスをダンブルドアでさえも魔法で戻せないんだろ?そんな高度な魔法は使えない。第一、俺は闇の魔術に詳しいが俺に利益がない。ダンブルドアもきっとそう言ったんだろ?」 「流石デュークだわ」 ハーマイオニーが感嘆と呟いた。ハリーとロンに関してはばつの悪そうな顔をして頭を掻いた。 「継承者の敵──マグル出身の者か。」 デュークがぼそっと言うと、ハーマイオニーが険しい表情をした。 「いや、悪気は無い。ただ1人で出歩かない方がいい。秘密の部屋ってアレだろ?確かサラザール・スリザリンがホグワーツを去る時に残したやつ。」 そこまで言ってデュークははっとした。サラザールといえば蛇。つい先日に自分の前世が蛇と聞いたばかり。つまり、あのハロウィーンでのメッセージの最後はデュークに向けたものだったわけだ。しかし、『蛇は蛇のもとに帰るべし』──?分からない。デュークは頭を捻ったが何の知恵も出てこなかった。 「デューク、デューク!!」 「ん?あぁ、悪い」 「デュークったら急に黙り込んでそれっきりずっと考え事してるんだもん。大丈夫かい?」 ロンが顔色を伺いながらデュークに聞いた。 「ちょっとした考え事だ。気にするな」 デュークが言うと三人ともがほっとしたように息をついた。自分がスリザリンなのにも関わらず、絡んでくれる。その事にデュークは感謝していた。 「それじゃ、僕達もうすぐ授業だから行くね?」 ハリーが時計をちらっと見ながら言った。顔が歪んでいるところを見ると、次はスネイプ教授による魔法薬学の授業らしい。 「あぁ、見舞いありがとな。また何かあったら教えてくれ」 三人はお大事にと言いながら医務室をあとにした。部屋が静寂に包まれる。 残ったデュークはふう、と溜息をつきながら隣のベッドに目をやった。カーテンがびっちりと閉められているそこには僅かだが人の気配がした。 「ドラコ、いるんだろ?」 デュークの声に返事は無かった。一人むなしくデュークの声が医務室に響き渡る。 「ドラコ、出てこいよ。取って食うわけじゃないんだからさ」 「──デューク」 そーっとカーテンが開くとドラコがデュークの名前を呼んだ。いつもの残忍な笑みは何処にもない。 「どうしんたんだ?お兄さんが聞いてあげようじゃないか」 デュークが顔に笑みを浮かべて両手を広げた。ドラコが抱きついてくれるわけではないけれども。何となくデュークはこの重い雰囲気をどうにかしたかったのだ。 「デューク」 「ん?」 「もしもの話だからな?もしもの話。僕とポッターの奴の二人が危ないとする。デュークが救えるのはただ一人だけ。その時、デューク。お前はどうする?」 急に何を言うのかとも思ったが、ドラコにとっては笑い事ですむような問題ではないようだ。ハリーが気に食わない理由にデュークもきっと入っている。ようやくデュークはそれに気がつく事が出来た。そして、しばらく顎に手をあてて考えると口を開いた。 「そういう場面が来るわけないだろ。ドラコには俺がついているんだから。ハリーが危ないときはロンやハーマイオニーが居るだろ?あいつらはあいつらで何とかなる。けど」 デュークが一息ついた。ドラコは真剣にデュークを見つめている。 「ドラコには俺しかいないだろ?俺にもお前しかいない。クラッブとゴイルを入れるなら別だけどな」 そういってデュークはニヤっと笑った。 「お前が思い悩んでる事は正直言うと下らない。でも、嫌いじゃない。俺だってそう思った事があるからな。」 ドラコはその時、自分の中で何かが吹っ切れた気がした。何回も何回もデュークを困らせて。自分とデュークが親友である事以上に何かを求めていたわけでは決してないはずだ。 「さあ、ドラコ。これで解決したか?」 「あぁ、助かったよ。それよりも早く、復帰しろ。クィディッチを一試合落としたからスネイプ先生がたいそうご立腹だ。僕がせっかくスニッチを取ったのにねぇ?」 今度はドラコがニヤっと笑った。デュークの顔から笑みが失せた。 てっきり忘れていた。クィディッチの事を。全くリドルはなんてことをしてくれたのだろうか。 そう思いながらもデュークは親友とまた仲を深めれた気がして気が高揚するのを感じた。 ←→ |