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■本編04 名前

「尾山はずるい」
「は?」
 何かしたか、と尾山は考えたが、思い当たる節がない。
「七尾の名前と被ってんだぜ!? しかも、苗字に二文字も!」
 意味の分からない事を言われているも、尾山は付き合う事にして、それぞれの漢字を思い出し、考えた。

 小松七尾と尾山隆史。“尾”だけ被っている。だが、陽希は二文字と言った。こまつななお、おやまたかし。
「いやいや平仮名て」
「しかも、松と山とか、自然に関する漢字だし」
「……お前、どんだけ小松厨なんだよ」
 このままだと、更に理不尽な言いがかりや喚きかねない陽希を宥めなければ、と一か八か提案をした。
「だったら小松っぽいあだ名を付けたら良いだろ?」
「そうか! よおぉぉし、名前。良い名前〜」
 たいらようき、こまつななお、たいらようき、こまつななお、たいらようき、こまつななお。
 陽希は頭を抱えた。
「尾山、ちゃんとした名前な!」
「……」
 思い付かなかったようだ。仕方なく、尾山は考えた。
「しちよう」
「……変」
「松平」
「マツケンみたい」
「いきな」
「なんかエロい」
「たいまつ」
「ダサい」
「お前ね。どんだけ捻り難いと思ってんだ」
「うおおおお!!!! ななおおおおお!!!!!!!!」
 陽希は壊れて、叫び出してしまう。
「さっきから馬鹿でけぇ声で人の名前呼んでんじゃねぇよ」
「あっななお〜」
 大好きな主人を見付けた犬のように、七尾の周りをくるくると回り出したが、鬱陶しいと牽制されてしまう。

 尾山に事の原因を聞いた七尾の反応はもちろん、
「あほらし」
 だった。尾山も大きく頷く。
「酷い!」
「はぁ、俺の名前が入ってたら良いのか? ……もう陽尾で良いだろ」
「適当な! あっ小松陽希」
「あ?」
「すみません」
「……たいつようき」
「ぶっ」
 尾山がぼそっと呟いた名前に、七尾は噴いてしまう。
「超変〜」
「ははは、もうお前ら結婚して戸籍変えたら良いだろ」
「はぁ!? てめ、尾山!」
「戸籍を変える……!」
 陽希の顔はみるみる明るくなり、七尾の手を取って頬を赤らめる始末だった。

 丸く治まったと尾山は安堵したが、後で覚えてろ、と七尾の目がそう訴えていた。

2015.04.26 完成

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