「尾山はずるい」
「は?」
何かしたか、と尾山は考えたが、思い当たる節がない。
「七尾の名前と被ってんだぜ!? しかも、苗字に二文字も!」
意味の分からない事を言われているも、尾山は付き合う事にして、それぞれの漢字を思い出し、考えた。
小松七尾と尾山隆史。“尾”だけ被っている。だが、陽希は二文字と言った。こまつななお、おやまたかし。
「いやいや平仮名て」
「しかも、松と山とか、自然に関する漢字だし」
「……お前、どんだけ小松厨なんだよ」
このままだと、更に理不尽な言いがかりや喚きかねない陽希を宥めなければ、と一か八か提案をした。
「だったら小松っぽいあだ名を付けたら良いだろ?」
「そうか! よおぉぉし、名前。良い名前〜」
たいらようき、こまつななお、たいらようき、こまつななお、たいらようき、こまつななお。
陽希は頭を抱えた。
「尾山、ちゃんとした名前な!」
「……」
思い付かなかったようだ。仕方なく、尾山は考えた。
「しちよう」
「……変」
「松平」
「マツケンみたい」
「いきな」
「なんかエロい」
「たいまつ」
「ダサい」
「お前ね。どんだけ捻り難いと思ってんだ」
「うおおおお!!!! ななおおおおお!!!!!!!!」
陽希は壊れて、叫び出してしまう。
「さっきから馬鹿でけぇ声で人の名前呼んでんじゃねぇよ」
「あっななお〜」
大好きな主人を見付けた犬のように、七尾の周りをくるくると回り出したが、鬱陶しいと牽制されてしまう。
尾山に事の原因を聞いた七尾の反応はもちろん、
「あほらし」
だった。尾山も大きく頷く。
「酷い!」
「はぁ、俺の名前が入ってたら良いのか? ……もう陽尾で良いだろ」
「適当な! あっ小松陽希」
「あ?」
「すみません」
「……たいつようき」
「ぶっ」
尾山がぼそっと呟いた名前に、七尾は噴いてしまう。
「超変〜」
「ははは、もうお前ら結婚して戸籍変えたら良いだろ」
「はぁ!? てめ、尾山!」
「戸籍を変える……!」
陽希の顔はみるみる明るくなり、七尾の手を取って頬を赤らめる始末だった。
丸く治まったと尾山は安堵したが、後で覚えてろ、と七尾の目がそう訴えていた。
2015.04.26 完成