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■本編03 ハロウィン

 呼び鈴が鳴らされる。ドアミラーを覗くと、陽希なのは陽希だったが。
「七尾〜見て見て」
「……」
 じっと何か言う訳でもなく、見つめ見られ、自分で言ったものの、陽希は次第に顔が熱くなる。
「ねこ……みみ?」
「ちっがう! 狼だっての」
 頭には三角の獣耳、体には毛皮が付いたベストと尻尾付きのズボン、手にも毛が付いている手袋をはめている。
 とにかく、近所に見られたら面倒だと思い、玄関を閉めて、陽希を中へ入れた。

「何でコスプレなんかしてるんだ?」
「まじか〜今日はハロウィンだろ」
「あぁ、なるほど」
 イベント事に興味がなく、ゾンビや幽霊の類が苦手な七尾には、全く関係のない話だった。
「ハロウィンか……」
 眉間に皺を寄せて、思い出す。
 小学校二年生だった七尾は、親にハロウィンホラーショーというふざけたイベントに連れていかれ、泣いて帰った事を……。

「七尾、七尾?」
「あぁ」
 調子が合わない事に、陽希は強行突破する。
「ええい! もういいやっ。七尾っトリックオアトリート!!」
 陽希は勢いよく片手を差し出す。
「……ほらよ」
 細い棒の先に、丸い飴玉が付いたものを渡される。しかも、陽希の好きな味だ。
「〜〜っ」
 撃沈する陽希に対して、首を傾げる七尾だった。
「お菓子が欲しいんだろ。何か不満だったか?」
「ううぅ」
 七尾の家や通学用の鞄には、陽希を手懐ける用のお菓子を常に常備している。
「お菓子も欲しいけど、七尾に、いや……七尾と悪戯したいです」
「はぁ? なんだそれ」
 もじもじと恥ずかしそうに、今の今まで掛けていた、リュックを取り出す。ファスナーを開けて、中から服を取り出した。
「七尾用に持って来た!」
 どん、と陽希が前に付きだし、それを拡げると、膝より上の丈であろうスカートに、胸当てがハート型のエプロンの赤いメイド服だった。見ての通り、ハロウィンと何の関係もない衣装である。
「これ着て悪戯っこしたい」
「キモいぞ」
「ショック!」
 床に伏せて、沈黙する陽希の顔を覗こうとする。
「……大丈夫か?」

 七尾は細身とはいえ、女性用の衣装だ。きっと全体的にキツく、胸は服が擦れ、その所為で乳首は浮き出、丈は股間の二センチ下辺りで歩くと見え――。
「俺のちんこはもう限界だあぁぁぁぁ!!」
「ちょっ、お前!」
 床に押し付け、七尾の膝に股間を擦り付けた。
「七尾っ七尾っ」
「うわっ! よっちゃっやめろ」
 振りほどこうとするが、一所懸命に腰を振る陽希の力は尋常ではなかった。
「はぁっ、はぁっ着てくれないの、分かってたけどっ、想像したらダメだっ」
「ばかやろっ」
 ゴリゴリと硬くなっていくのが膝に直接伝わる。
「可愛い、七尾っ可愛い」
 匂いまで嗅ぎだして、格好の所為か、本当に獣のように見えてくる。
「……ってか、そんまま出すのか!?」
「うんっもうダメ、出す」
 七尾がティッシュを探す前に、何度か痙攣をして陽希は果てた。
「はぁ……あ、う、うぅ。ごめんなさい」
 スッキリしたのも束の間、睨む七尾と対面して、気まずい雰囲気になる。
「最悪」
「っ七尾、七尾〜嫌いにならないで」
 すり寄って許しを乞う陽希。このまま許さなければ、泣き付いて来るに違いなかった。
「はいはい、嫌いじゃない嫌いじゃない」
 陽希が落ち着くまで、撫でてやることに。
「へへ、気持ち良い〜七尾もっと撫でて」
「はぁ、本当に犬だな」
「七尾〜好き」
 甘えてくる陽希に仕方なく、髮をぐしゃぐしゃにしたり、撫でてやったりを繰り返す。
「気持ち良くて勃ちそ……」
「どけ」
 つい口から出た一言が、七尾の怒りを買う事になり、陽希はしょんぼりしながら離れた。
「お前は」
「ごめんってば」
 謝りながら急に下着ごと脱ぎ出し、七尾は慌てて明後日の方を向いた。
「何やってんだよ……!」
「へ? 汚れたから着替えようと思って」
 替えの下着を持っていた辺り、何かをしようとしていたのだろうか。
「はぁ〜これで清潔!」
 どっと疲れてしまい、突っ込む気力もなかった。

 しかし、去り際に。
「……ねぇ、着てみない?」
「は?」
「じゃっ明日!」
 汗を垂らしながら、元気に帰る陽希だった。

2014.11.04 完成

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あきゅろす。
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