「七尾……オレ、七尾のこと好きなんだ」
「知ってる」
「もう少し寄っても良い?」
「んん、少しな」
あからさまに鬱陶しそうに答える七尾。
「何だよさっきから……! ってかこの状態が何なんだよ」
内から鍵をかけた扉のすぐ側で二人はしゃがみ込み、陽希は甘えて来る。
「ドキドキしない?」
「しないな」
「えー。青春をもっと楽しもうぜって事で、七尾……」
もじもじと手遊びを始めて、長身を屈めながら上目でおねだりをする。
「ここでオレに抱かれてみない?」
「あ、あほか!!」
「もーオレだけ好きみたいじゃん〜。告って一週間なのにあれからエッチはおろか、キスすらないし!」
「普通だろ」
今にも泣きそうな声で、必死になっている陽希に対して、七尾は冷静に問いかけた。
「……よっちゃん、もしかしてさっきの気にしてるのか?」
「さ、さっきって?」
それは、ほんの三十分前の事――。
二学期の始業式が終わり、七尾は秋谷に呼び出しをされた。
「あのさ、小松。私ね」
「あ! なな〜っ」
七尾の姿が見えた陽希は、声をかけようとしたが、隣に秋谷の姿もあり、瞬時に隠れた。
「小松の事、好きなんだ」
(!!!!!?)
いけない事を聞いてしまったと教室まで全力で走って逃げた。
扉を閉め切り、頭を抱えながら立ち往生している。
「う〜〜〜あああああ。お〜〜七尾、七尾七尾うぉぉぉぉぉ!!!!」
「わ!」
「うわあぁぁ!?」
陽希は驚くあまり、二メートルも飛び退く。
「七尾っ何で分かった!?」
「分かるも何も、廊下まで唸ってる声響いてんだよ」
それにしても、扉まで静かに開けて、七尾は実は忍だったのかと勝手に解釈する。
「何だよ人の名前叫んで」
「な、七尾、ちょっと話しよう?」
悟られないように、陽希なりに自然に振る舞った。
***
「いただろ?」
「いませんよ」
「お前の声が、ちょっと聞こえた気がしたんだけど」
「兎さんか鳥さんかなんかじゃない?」
「動物は喋らない」
陽希は嘘が下手なのに、隠そうとする。
「よっちゃん」
「すみません」
呆れた態度に焦ったのか、いつも折れない陽希が謝った。
「で、でも内容は聞いてないぞ!?」
「でも、気になってる癖に」
「う……教えて下さい」
観念した陽希に溜め息を吐いた。
「断った」
それを聞いた瞬間、全身の力が抜けて、床にへたり込んでしまった。
「良かった、良かったよ〜ななおぉ〜」
「大げさだな」
ぐすぐすと鼻をすすり出す陽希の頭を撫でてやる。
「秋谷って七尾が良かったのか……。もーてっきり隆史が好きなんだとばっかり」
「隆史とは、ただの幼馴染みだろ」
「だから余計に分からなかったんだよ。ああいうキャラだと思ってたし」
確かに、秋谷は男にも女にも好かれるキャラなのだが、くっつき虫の陽希がいない二人きりのときは、あからさまな態度だったと七尾は言う。
「マジか!? う〜すっげぇ迂闊だった。七尾もモテる人種だったって」
「おい、どういう意味だ」
「だって、目付き怖いじゃん? ぶっきらぼうじゃん? 冷たいじゃん?」
「もういい」
皆まで言われるとへこんで来る。
「でも、良かったーオレが先に告って」
「……別に秋谷が先でも断ってたけど」
「…………!? ほんとか! じゃあ、じゃあ」
両手をすかさず握る。
が、無言で睨まれ、再び肩を落とす。
「う〜七尾は言葉が足りないんだよ。本当にオレの事、好きなの?」
しょんぼりとする陽希に仕方なく、軽く唇にキスをする。
「!?」
「さっさと帰るぞ」
自身のと陽希のショルダー型の鞄を勝手に持つと、鍵を開錠して教室を出た。
「お前ら! 何やってる!!」
見回りだったのだろう。出た瞬間、当番の先生に見付かってしまい、二人は速足で学校を出て行った。
2010.01.22 完成
2013.11.04 加筆