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■本編02 放課後

「七尾……オレ、七尾のこと好きなんだ」
「知ってる」
「もう少し寄っても良い?」
「んん、少しな」
 あからさまに鬱陶しそうに答える七尾。
「何だよさっきから……! ってかこの状態が何なんだよ」
 内から鍵をかけた扉のすぐ側で二人はしゃがみ込み、陽希は甘えて来る。
「ドキドキしない?」
「しないな」
「えー。青春をもっと楽しもうぜって事で、七尾……」
 もじもじと手遊びを始めて、長身を屈めながら上目でおねだりをする。
「ここでオレに抱かれてみない?」
「あ、あほか!!」
「もーオレだけ好きみたいじゃん〜。告って一週間なのにあれからエッチはおろか、キスすらないし!」
「普通だろ」
 今にも泣きそうな声で、必死になっている陽希に対して、七尾は冷静に問いかけた。
「……よっちゃん、もしかしてさっきの気にしてるのか?」
「さ、さっきって?」

 それは、ほんの三十分前の事――。

 二学期の始業式が終わり、七尾は秋谷に呼び出しをされた。
「あのさ、小松。私ね」
「あ! なな〜っ」
 七尾の姿が見えた陽希は、声をかけようとしたが、隣に秋谷の姿もあり、瞬時に隠れた。
「小松の事、好きなんだ」
(!!!!!?)
 いけない事を聞いてしまったと教室まで全力で走って逃げた。

 扉を閉め切り、頭を抱えながら立ち往生している。
「う〜〜〜あああああ。お〜〜七尾、七尾七尾うぉぉぉぉぉ!!!!」
「わ!」
「うわあぁぁ!?」
 陽希は驚くあまり、二メートルも飛び退く。
「七尾っ何で分かった!?」
「分かるも何も、廊下まで唸ってる声響いてんだよ」
 それにしても、扉まで静かに開けて、七尾は実は忍だったのかと勝手に解釈する。
「何だよ人の名前叫んで」
「な、七尾、ちょっと話しよう?」
 悟られないように、陽希なりに自然に振る舞った。

***

「いただろ?」
「いませんよ」
「お前の声が、ちょっと聞こえた気がしたんだけど」
「兎さんか鳥さんかなんかじゃない?」
「動物は喋らない」
 陽希は嘘が下手なのに、隠そうとする。
「よっちゃん」
「すみません」
 呆れた態度に焦ったのか、いつも折れない陽希が謝った。
「で、でも内容は聞いてないぞ!?」
「でも、気になってる癖に」
「う……教えて下さい」
 観念した陽希に溜め息を吐いた。
「断った」
 それを聞いた瞬間、全身の力が抜けて、床にへたり込んでしまった。
「良かった、良かったよ〜ななおぉ〜」
「大げさだな」
 ぐすぐすと鼻をすすり出す陽希の頭を撫でてやる。
「秋谷って七尾が良かったのか……。もーてっきり隆史が好きなんだとばっかり」
「隆史とは、ただの幼馴染みだろ」
「だから余計に分からなかったんだよ。ああいうキャラだと思ってたし」
 確かに、秋谷は男にも女にも好かれるキャラなのだが、くっつき虫の陽希がいない二人きりのときは、あからさまな態度だったと七尾は言う。
「マジか!? う〜すっげぇ迂闊だった。七尾もモテる人種だったって」
「おい、どういう意味だ」
「だって、目付き怖いじゃん? ぶっきらぼうじゃん? 冷たいじゃん?」
「もういい」
 皆まで言われるとへこんで来る。
「でも、良かったーオレが先に告って」
「……別に秋谷が先でも断ってたけど」
「…………!? ほんとか! じゃあ、じゃあ」
 両手をすかさず握る。
 が、無言で睨まれ、再び肩を落とす。
「う〜七尾は言葉が足りないんだよ。本当にオレの事、好きなの?」
 しょんぼりとする陽希に仕方なく、軽く唇にキスをする。
「!?」
「さっさと帰るぞ」
 自身のと陽希のショルダー型の鞄を勝手に持つと、鍵を開錠して教室を出た。
「お前ら! 何やってる!!」
 見回りだったのだろう。出た瞬間、当番の先生に見付かってしまい、二人は速足で学校を出て行った。

2010.01.22 完成
2013.11.04 加筆

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