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■本編06*

 ミナトの膝の上で丸くなって、気持ち良さそうに寝ている。背中を撫で、温めながらも、いとおしそうに見つめていた。
「くしっ……寒いな」
 鼻を啜り身震いをする。起こすのは勿体無いが、ミナトの方が少し肌寒くなってきたので移動をしようと、マコを揺すった。
「マコ、マコ」
「ふあ」
 まだ眠たそうだった。
「眠たい?」
 返事もそこそこに頷く。
「おはようのちゅーしよっか」
 首をしっかり横に振る。あれからマコはキスをする事に抵抗を覚えてしまったようだ。
 しかし、寝起きでも否定する所は否定するんだなぁと感心してしまう。
「……晩ご飯にしようか」
「うん、食べるー」
 腑に落ちないまま、小屋へ戻る事に。

***

「あちっ」
 寒いと思い、スープを熱めに作っていたのを、マコは冷まさずにすすってしまったようだ。
「早く冷やさないと」
 そう言ったが、氷や水などの類を持ってくる素振りもせずに、すぐ傍に寄って来た。
「ん!? ……んっ」
 キスを施した。確かにミナトの舌は少し冷たくて気持ち良かったが、火傷を冷やす効果は全く無かった。
「に〜や〜」
 唇が離れるとマコは抵抗してみせたが、頭をしっかり固定され、舌は容易に入って来た。
「んんぅ」
 火傷で痺れているのか、キスで痺れているのか分からない程、しつこく攻められて、息が若干乱れていた。
「まだヒリヒリする?」
「大丈夫!」
 全力でアピールをする。もちろん、嘘だった。
「そ、まぁまだ熱いだろうから、俺が飲ませてあげるよ」
 返事も待たずに、お皿のまま持ち上げて口に含む。そしてキスをするように、スープを流すと同時に舌もぬると滑り込んで来た。口内にクリームの味が広がる。
「んっ……あ……の、飲めっ」
「熱い?」
 受け取ったスープは、確かに熱くはない。
「ちが……んっ」
 意地悪く喋らせてくれないのは明らかだった。
「んっんっ……っ」
「違うの?」
「ひとっ……り…あ、ふ…飲める、よぉ……」
 食事より長いキスの繰り返しに息は上がってしまい、上手く喋る事が出来ない。
「マコの可愛い舌がまた火傷したらどうするの、遠慮しなくても良いよ」
 スプーンで真っ白いじゃがいもをすくい上げ、ミナトは噛まないように含み、それをマコの口に移す。
「にぅ……ん」
 反論も出来ないまま、言いくるめられてしまった。
「はぁはぁ……にゃっ!?」
 短冊切りにされた緑色の物をすくった途端、信じられない、という顔をした。
「それって」
「ピーマン」
 少し噛んだだけで苦味が拡がる、マコの嫌いな野菜だった。
「大丈夫だよ。小さく噛み砕いてあげるから」
 噛み砕いたからといって、苦くない訳がない。むしろ、それによって苦い汁が出るのではないだろうか。
 逃げようとした拍子に椅子が勢いよく倒れ、足につまずきそうになった。助けるのに手首をがっちり掴まれてしまい、余計に抗えない状態になってしまう。
 親指を下唇に引っ掛け、こじ開ける。
「嫌……ん、ふぁ……あ!」
 舌にピーマンが触れた。
「ん〜〜」
 泣き叫びたかったが、ミナトの口で塞がれている為、それも出来ない。
 飲み込むまで離さないつもりなのだろう。細々としたピーマンが口内に広がり、眉間に皺が寄る。
「んん」
 ごくんと喉が鳴った。
「ちゃんと飲み込んだね」
 涙目のマコの頭を撫でてやり、苦手な物を食べたご褒美だと称して、キスは続行した。
「あっ、に……兄っぃ」
「んん………?」
「ん、ふっ……苦し」
「ごめん」
 クスクス笑い唇を離すと、つ……と透明な糸が引いた。
 頬を撫でる。
「ぁっ」
「ご馳走さま。顔、すごい熱いね」
 さすがに暑過ぎたのか、マコは耳で扇ぐように動かしていた。
「ん、マコったら溢して……だらしがないね」
 スープではない口元のそれを楽しそうにペロっと舐めとる。
「に〜……」
「美味しかった?」
「わ、かんない」
 正直、食事よりキスの時間の方が長かったお陰で、何を食べていたのかさえも、もう分からなかった。
「息継ぎが出来るようになれば、料理も楽しめたかもね。マコ、本当に大丈夫?」
 覗き込めば、頭を抱えて恥ずかしそうに丸く縮こまった。

 お腹も程よく脹れ、くつろぐ。ミナトに膝に来るように、手招きをされたが、躊躇った。
「どうしたの?」
「お兄ちゃんは何でマコにキスばっかりするの?」
 耳を垂れさせて、困った顔で相談をする。
「マコはキスが嫌い?」
「キスをするときのお兄ちゃんが怖いの」
 目がいつもより優しくないし、息が苦しいと訴えても止めてくれないし、何より、恥ずかしくなるそうだ。
「ごめん。マコが可愛いからつい夢中になってたみたい」
「……よく分からない」
 ミナトは少し考え込んで。
「キスはね、大切だと思う猫とだけするんだよ」
「たいせつ?」
「大事だったり、好きって意味」
 それを聞いた途端、マコはぽっと赤くなる。
「マコは俺の事、大切?」
 こくりと頷く。
「俺もマコの事が一番大切だから沢山キスしたくなる」
 再度、手招きをすれば、マコはゆっくり近付いて抱き付いた。
 ふわふわの毛を撫でつけながら、少しの間見つめた後、啄むようにキスをすれば、更に赤くなり顔を隠した。
 その反応に、どうしたの? と意地悪く問いかけた。
「恥ずかしい」
「ふふ、こういう風なのが好きなんだ? じゃあ明日から、マコから『おはようのちゅー』をしてもらおうかな」
「にっ」
 マコの顔が歪む。
「やっぱり嫌? 大切じゃない?」
「嫌じゃない、けど」
 想像してまた赤い顔になる。
「俺からだと、またマコに夢中になって沢山キスをするけど良いのかな?」
 悩んだ末、マコからキスをする流れになってしまった。
「ふふ、楽しみにしてるよ」

2010.05.07 完成
2012.01.11 加筆

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