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■本編03

 黒とベージュ色の尻尾を揺らし、飛び付く体制でじっと見据える。
 目の前には、マコの大好きな蜜柑があった。近付くとそれは後退し、中々捕まえる事が出来なくて躍起になる。
「に!」
 勢い良く飛び掛かり、やっとの思いで捕まえる事が出来て嬉しそうに蜜柑をカリカリと甘噛みをしていた。
 その時。
「にゃっ!?」
 更に後ろを誰かに羽交い締めにされ、驚きのあまり蜜柑を手放してしまった。
 恐る恐る振り返るとミナトの顔が見えたのでホッとする。
「マコ〜」
「あ……ごめんさい」
 ミナトの口調が明らかに呆れているのが分かり、安堵したのも束の間で、耳が垂れる。
「これじゃ悪い人にすぐ連れて行かれるよ」
 というのも、マコの為に外敵からの誘惑に乗らないようにテストをしてみたのだが、意図も簡単に引っ掛かってしまい、ミナトの眉間の皺を深くさせた。
「やっぱりマコは危機感がなさすぎる。だから前の猫じゃらしに引っ掛かるんだ。あの小屋の周りも誰も居ないとは限らないよ?」
 ミナトの口は止まらなかった。
「大体、蜜柑が動く訳がない」
 そう言って蜜柑を拾い、マコに手渡す。
「少しはおかしいと思わないと、マコは狙われ易いんだから」
 次々と浴びせられる言葉に、目が次第に潤み始めている。
 ミナトは溜め息をついたが、マコを慰める為に後ろから顎を撫でる。次第に気持ち良くなってきたのか、首を少し反らしたのを見て苦笑するミナトだった。
「俺以外の猫に付いて行ったら嫌だよ?」
 先程のキツい口調と打って変わり、優しくなったからマコはチラッとミナトを見た。
「マコは俺の大事な家族なんだから」
 その一言でマコは安心をする。鼻をつんと軽く突いてやると嬉しそうな顔で手にじゃれてきた。
「ずっと一緒じゃないと、嫌だからね」
 うんうんと頷いてはミナトの方を向き、もっと、と顎を差し出した。多分聞いてないんだろうなぁ……と思いながら喉をくすぐった。

「あのね、どうしてマコにそこまでしてくれるの?」
 夜、同じ寝床に二匹並んで寝ているときだった。
「……マコは幼い頃に本当の両親を亡くしてるんだ。生きるのに必要な事を教える猫がいないからね。だから俺が」
「マコはお父さんもお母さんもいないの?」
 ミナトは静かに頷いた。
 純粋なマコは、証拠もないのに初めて知らされた事実を受け、ショックで涙が溢れて来る。
「辛い事だけど……黒い毛色が原因で」
 知らないといけない事だと思い、ミナトは話した。

 マコが住んでいた街に突如、警察が来て、『災いを呼ぶ黒い毛色の者は排除する』という条令が町長から出され、捕まりかけた所を父に助けられ、マコは走って逃げたんだと言う。
 今も昔も変わらず、黒は嫌われる要因だった。

 マコは本当の親に川に捨てられたのだとばかり思っていた。義理の母にぞんざいな扱いをされていたから、尚更そう思うのも仕方がない。
 それがまさか迫害されて亡くなっていたなんて……嘘だと思いたかった。
「泣かないで」
 頭をしきりに撫でる。
「ん……ミナトさんは何で知ってるの?」
「さっきの条令が出た街の話、俺もいたから嫌というほどよく覚えてるよ」
「じゃあ、じゃあミナトさんは同じ街に住んでたって事!?」
「厳密に言えば一緒に住んでた、かな」
「そうなの?」
 ミナトが嘘を付くとしても、悪い嘘ではない。だけど、幼い頃の記憶が殆どないマコにはいくらでもすり替える事が出来る。半信半疑だった。
 混乱している顔を見て、ミナトは苦笑すると、思い切って言ってしまおうと思った。
「実はマコと……俺は血の繋がった兄弟なんだ」
「ミナトさんが!?」
 両親の死に、ミナトが実の兄。
 ミナトと出会ってからというもの、突然な事が多過ぎて頭がパンクしてばかりだ。
 兄だという事に今一つピンとこなくて、しばらくミナトをじっと見ていた。
「マコの」
 忘れかけていたが、初めて出会った際、ミナトに名前を呼ばれて懐かしい気分になったのだ。
 それに、毛色が同じという事が偶然だと思えなかった。

 唖然としているマコを他所にミナトは語りだす。
「六年前、大雨で川が氾濫していた日でね。衰弱していたマコはふらついて川に足を滑らして、流されてしまったんだ」
 確かに川の付近で倒れていた所を拾った、と助けてくれた義理の父が言っていたが……ミナトにはその事は話していなかったのに。
「俺も力がなくて、マコを助けてやれなかった。ごめんね……助け出せなかったのにのこのこ現れて、急に兄だなんて最低だね」
 悲しい表情をしたミナトの顔を触り、ペロリと舐める。
「ううん、最低じゃないよ? マコは元気だし、一人じゃないって分かったんだもん」
「ありがとう……ずっと探してたよ」
 今一度、噛み締めるように抱き締め、そして頬にキスをすると、くすぐったそうに首を引っ込めた。
「でもマコ、記憶がなくて、ごめんなさい」
「幼かったんだから仕方がないよ。もうずっと……一生共にするんだし、思い出はこれから作れば良い」
「じゃあ、お兄ちゃんって呼んでも良い?」
「懐かしいね……うん、兄弟なんだから遠慮はいらないよ?」
「へへ、お兄ちゃん。お兄ちゃん!」
 呼ぶとだんだん幸せな気分に満ちてゆく。甘えるように頭を擦り寄せた。
「あらためて、おかえり」
 ぎゅーっと更に抱き締めた。
「にゃっ……ただいま」

2011.04.03 完成
2011.11.27 手直し

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あきゅろす。
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