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■本編3-16* 元旦

 二日前に、悟からメールが届いた。悠斗の顔を見に行くのと、両親に新年の挨拶だけ行くと約束をした。
「明けましておめでとう、悠斗」
 悠斗が出迎えたのを確認して、頭を撫でる。
「……明けましておめでとうございます」
 訳あって、今日は髪を降ろし、色も黒くなっていて、いつもと違う悟にどきどきしてしまう。オールバックの次に好きな髪型だった。恥ずかしそうに挨拶をして、家に招き入れた。

 リビングに行くと、新聞を読みながら珈琲を飲んでくつろぐ父と、食事の片付けだろうか、食器を洗う母の姿があった。
「お父さんお母さん、明けましておめでとうございます」
 深々と礼をする。
「おめでとう。久し振りだな、悟君」
「はい、ご無沙汰です」
 本当に律儀になったなぁと関心する父に対して、母は笑顔でこう言った。
「明けましておめでとう。今年も悠斗と健全な付き合いでお願いね」
「母さん!」
 悟より先に、悠斗が口を出す。
「元旦から血気盛んだなぁ」
「父さんは何でそんなに悠長なの!?」
「怒りっぽい母さんと悠斗は放っておくとして」
 その言葉に対しても、二人からブーイングが起こっていたが、父は笑って済ます。

「……すんません」
 父の隣へ進められ、椅子に座る。
「就職おめでとう」
「ありがとうございます」
「髪が黒くなると別人に見えるなぁ」
 悟の今のバイト先で、正社員で雇ってくれる事になり、年始の営業初日に店長より偉い人と面接をする為、その日だけ髪を戻すようにと言われたようだ。
「はは、真面目に見えますかねぇ?」
「キリっと締まる感じだよ」
 知らない内に、微妙な距離で二人の話を聞いていた悠斗に、父親は手招きをする。それを見て、嬉しそうにしながら、悟の隣の椅子に座る。
「僕は金髪の方が良いな」
 ちら、と見ては恥ずかしそうに目を反らした。本当の兄のように慕っていた幼い頃を思い出すから、黒髪も好きだが、今は今で格好良いから好きだった。
「へぇ、悠斗が恥ずかしがるなんてな」
 すかさず父親が野次を飛ばしてくる。
「恥ずかしがってなんか……!」
 にやにやと自身を見詰めている事に気付き、あからさまな意地悪にまんまとはまってしまった。
「面白い」
 父親は一頻り笑った後、そうだと何かを思い出す。
「これ悠斗が作ったから食べてみなさい」
「ちょっ」
 テーブルに置いてあった、小さめのおせちを差し出し、爪楊枝を取り出すと、芋の煮付けを刺して、悟に渡す。
「へぇ……いただきます」
 悠斗が何か言いたげなのを無視して、一口で食べた。
「ん」
 悠斗の心拍数は、早鐘のように打ち出す。こそこそと練習をしていたが、まだまだ修行中なので、まさかの展開で初めて食べてもらうことになるとは思っていなかった。
「美味しい」
「え……え、えぇ〜嘘だぁ」
「悠斗、言葉と顔がちぐはぐだぞ」
 両方の頬をはさみ、赤くなるのを隠そうとするが、一度点いた火は消えない。疑う気持ちもあるが、嬉しいと全面に滲み出てしまっている。
「嫁になるんだもんなぁ」
「将来が楽しみです」
 悠斗は、父の冷やかしにも気付かず、『美味しい』という悟の言葉を脳内で反復させながら、上機嫌になっていた。

「しかし、悠斗は難しいだろ?」
「わりと素直ですよ。この通りで」
「ひゃっ」
 まだ、顔の火照りが引かない悠斗の頬に触れる。
「はっはっは、母さんに似てるから大変だと思うけどなぁ」
 キッチンで悟の分の珈琲を淹れながら、二人の会話を聞いていた母は、どういう意味と突っ込みを入れる。
「そうやってカッカする所かな」
「あなたがそうさせるような事を!」
 父が笑いながら軽くスルーした辺り、慣れているんだなと悟は思った。
「そういや、悠斗とはどこまでいった?」
 既に知っている父は、からかっているのだろう、顔が笑っていた。
「と、父さん!」
 悟の向かいで聞いていた悠斗は、何て質問をするのかと焦ってしまう。母に至っては、カップソーサーを落として割ってしまう始末だった。
「お父さん!」
 今まで我慢して黙っていた母親も、さすがに下の話には耐えられなかったようだ。
「いやいや、愛は暴走すると止められないのはよく分かっているだろ」
 確か、悠斗の両親も大が付く程の恋愛だったと聞いた事があった。
「何言ってるのよ! まだ悠斗は子供じゃない」
「好きに年齢なんて関係ないよ」
「でもっ悟君は嘘つきなのよ? 一週間に一回会うだけって約束したのに、何度も何度も破って、お父さんも知ってるわよね?」
「……すみません」
 事情はあったにせよ、それを出されると何も言えない。
「悠斗が好きだからだろ? 悟君は悪い子じゃないんだ。そろそろ目くじら立てるのもよさないか?」
「何よ、みんなして私を責めるのね」
「そうじゃない。いつかは話さないといけないんだ。母さんも、もう分かっているんだろ?」
「でも……やだ、悠斗がいなくなるなんて」
 やはり親子なのだな、と悟は思った。目には涙を浮かべていて、悠斗にそっくりである。父は背中を擦りながら宥めていた。
 この状態で長居し過ぎるのも悪いと思った悟は、控え目に挨拶をして立ち去った。悠斗も居たたまれなくて、悟の見送りをしに、玄関の外まで出ることに。

「はぁ、何かいつもごめんね」
「ちとヘビーだったけど、ある程度予想してたから大丈夫だ。……そうだ」
「?」
 悟は小さい鞄から何かごそごそと探しだす。
「ほれ、お年玉」
 昔ながらの赤ベースの、白文字で“大入”と書かれたぽち袋を差し出す。
「えぇ? 良いよ、ってか兄ちゃんもまだ子供じゃない」
「良いから、良いから」
 無理矢理押し付けられ、渋々受け取った。
「……」
「…………??」
 悟は無言でじっと見て来るが、何を言いたいのか分からない。
「何?」
「俺にお年玉は?」
 頬っぺたを指差し、そう言った。
「……それが目当てだったの!?」
「そ」
「もう……」
 辺りを見渡し、親にドアミラーから覗かれないよう少し反れて背伸びをする。頬に触れるとおもったが、唇に当たった。
「ん……!」
 悟は悠斗に顔を瞬時に向けたようだ。始めは驚いたが、大人しく悟のしたいように委ねた。
「……んんっ」
 思ったより長くて、息が苦しくなる。
「もっあんまり……」
「あんまり?」
 悟の目がいやらしい。
「誰が見てるか分かんないし、母さんだって……」
 言葉で制してみるが、目の色は変わらなかった。
「関係ない、あの状態じゃ来ねぇし」
「んっ……あ」
 首筋からじんわりと熱い感覚が拡がって、もっと欲しくなってしまう。そんな悠斗の思いも裏腹に、離れてしまった。
「今年、いや、これからも宜しくな」
 あんな目をしておいて、あっさりと……もて余した熱をどうしたら良いのか分からないまま、悟が離れて行く。
「にぃ――」
「あ」
 何か思い出したのか戻って来て、耳打ちをする。
「明日、楽しみにしてる」
 何故すぐに離れたのか、理解した悠斗は顔を真っ赤にさせ、口ごもってしまった。

2015.12.24 完成
2016.09.19 追加

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あきゅろす。
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