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□番外3-03* 兄ちゃんの髪
本編に沿った順番→3-15の後
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 ふと、悟の髪を見て、綺麗に染め上がっているなぁと思う。眺めている内に、一つの疑問が浮かんだ。

「ねぇ」
「ん?」
「兄ちゃんっていつから金髪なの?」
 再会したときには、既に今の髪色と髪型だった、と悠斗は記憶している。
「中二ぐれぇかな、怖いか?」
「今更それはないよ。むしろ目立つから見付け易いと思う」
「目印かよ」
 素早い突っ込みに、悠斗はくすくす笑う。
「何で金髪にしたの?」
「思春期だったってのと、初見だと怖がられるだろ?」
 元々、人と関わるのが煩わしいと思っていた悟だったから、当時は染める奴も少なかったので効果覿面であった。
 しかし、父親には相当叱られたが、いつの間にか言われなくなっていたなぁと思い出していた。
「まぁ、悠斗に変な輩が近付かないように出来るし」
「今の付け足したでしょ?」
「いやいや、結構役立ってるんだぜ?」
「ふーん」
「ふーん、って実際そうだろうが」
 悠斗が道に迷ったときや悟の誕生日の飲み会、まだ記憶に新しい学園祭だとか、道端でナンパされそうになった事など、ずらずら並べて行く。
「大活躍だろ?」
「え〜嘘でしょ〜」
 そこまで誘われた覚えがなくて、よく覚えているなぁと思う。しかし、本当にそうだとしたら恐ろしい……。
「……ん、ん?」
「どした」
「でも、女の人には効果が逆じゃない?」
「あ〜あ〜あぁ、そういやぁ、そうだな」
 バイト先、悠斗や悟の学校……マダムキラーと呼ばれていた事など思い出せば思い出す程、悠斗の眉間に皺が増え出す。
「髪型、変えないの?」
 悠斗の目は笑っているが、口調は殺気が立っていた。

 そうしてイメージチェンジが始まる……。

「いてててて!」
「硬い! 何でこんなに硬いの!?」
 長年、オールバックでいる所為か、癖が付いていて中々崩れない。
「乱暴にすんな!」
「だって、硬いんだもん」
 悠斗は唸りながらも、簡単そうな頭の天辺を手で一つ括りにしてみる。
「ふっキューピーみたい」
 厳つい顔付きと髪型の可愛さに吹いてしまった。
「これとか?」
 手で何ヵ所か括ってみる。
「……おい」
 さすがにこれで外に出るのは嫌だと突っ込みが入る。悠斗もこれで隣を歩きたくないと思った。
「ええと、どんな髪型にしようかな」
 悠斗も髪型を変えない為、引き出しが少ない。携帯を取り出し、『ヘアスタイル』と入力して検索をする。
「ここら辺が良いかな」
 そう言って、再び髪を弄り出した。まずは、鳥頭にしてみる。
「ん、だめだぁ」
 気を取り直し、分け目を変えてみた。
「う……ううん、駄目かな?」
「何で疑問なんだ」
 これも駄目、あれも駄目と何度か繰り返していった。
「……」
「こうなったら」
 最終的に、手間要らずの標準的なストレートにしてみる。
「あ…………う、わ」
 ジェルのお陰で少しボサついているものの、いつか見た髪型だった。
「今の間はなんだよ、しかもうわって」
「ん〜」
 悟の前では言わないが、何をやっても良くなるばかりで、もどかしい気持ちになる。
「じゃあ……黒色にしよ?」
 さすがに色を戻すのは、少し面倒だと思った。
「降ろしたり、黒くすると幼くなるって聞くけど?」
「も〜元のままで良い」
「お前ね」
 散々髪を弄ばれ、結局いつもの髪型で良いと言われ、何か一発仕返ししないと気が済まない。

「つーか、ずっと気になってたけどよ、顔赤いよな?」
「うっ嘘!?」
「見とれたかぁ〜」
 自身の頬っぺたを触って確かめていると、ずいっと悟が迫って、悠斗はたじろぐ。
「どれが一番良いと思ったんだよ」
「全部ダサかったから止めたんだってば」
 照れ隠しの嘘なんだろうが、ダサいと言われ、少しだけダメージをくらう。
「……そもそも、一番ダサいヤツにしないと駄目なんだよな?」
 このイメージチェンジの主旨は、悟が女性に声を掛けられないようにする、だ。
「ってか、ヘアスタイルで検索しても変なのなんか出ねぇだろ?」
「う……」
 直ぐ様、盲点と矛盾を指摘され、怯む。
「ほら、どれが良かったんだよ」
「どれも変! 似合わない! キモい!」
 否定の言葉をこうも立て続けに言われると、嗜虐心に火が点いた。何かないかとしばし考えに耽る。
「あぁ、これか」
 顔が更に真っ赤だという事、悟の顔をチラとしか見ない事に気付く。
「え? わあぁっ」
 悟が何かぼやいた後、前から抱き竦められ、顔が近付く。
「この髪型が良かったのか」
「違……う」
「違うなら見れるだろ」
 言われてチラっと見ては、逸らした。
「はは、言葉と態度がちぐはぐじゃねえか。悠斗がそんなに照れんなら、今日からこれにしようか」
「えっ!? ……あ」
 思わず悟を見た悠斗は、一人で気まずくなる。
「簡単だしなぁ」
「それはっ……」
 抗議する間も、耳まで真っ赤になってゆく。
「それは?」
「だめ」
「何で?」
「だって」
「うん」
「僕は、その……それが、好き」
「やっぱな。じゃあ、問題ねぇだろ?」
 やっと白状した悠斗を笑う。だが、本人は困った顔で首を横に振った。
「それにすると、きっと女の人が来るよ?」
「ふうん」
 にこっと悪魔の笑みを浮かべ、唇に吸い付く。
「っん…………慣れないもんには素直じゃねぇんだからなぁ」
 下唇を啄む。
「悠斗の前だけにしとく」
「…………っ……だめ」
「……だめ?」
 再び悠斗は主張をした。
「ん、だめっ」
 また、目を反らしながら、答えにくそうにしている。
「だから」
「ん」
「いつもと違うし」
 今度は、拒否をしている感じではないが、どういう意味なのか、と悟は聞いた。
「は……恥ずかしくて」
「恥ずかしいなら良いじゃねぇか」
 キスを止めて、少し体を離す。
「ほら、たっぷり見て良いぜ」
 恐ろしいものでも見るように、ゆっくり悟に視線を向けるも、一秒も経たない内に、悠斗は目を瞑り、反らしてしまう。
「はは」
 反応が可愛いくて覗き込むが、目を開けてくれない。
「ひ……っ」
 首筋を舌先でくすぐるように撫で上げた。驚いて目を開けると、悟と目が合ってしまう。
「どう思ってんだ?」
「……格好良い」
 意識をして褒め言葉を言う機会がない悠斗は、口から火が出るとはこの事かと思った。
「そっか、悠斗がそんな反応じゃあな。このままで良いか」
「……変えるの?」
「悠斗限定でな。ってか、就職先が別にいつものでも大丈夫だって」
「ん……? 就職先って?」
 聞いた事のない話をしれっと当たり前のように言う。
「バイトしてる喫茶店で直接雇用してもらえる事になった」
「ええーーー!?」
 悠斗にとって大事な事だったようで、あっさりと言われてショックだった。
「あれ、言ってなかったか?」
「聞いてない! お祝いしようと思ってたのに」
「まじか、俺としては体で良いぞ」
「ばか!」
 真剣なのに、と軽く叩く。
「冗談だろ。ずーっと好きでいてくれるだけで良い」
「ううん、僕が何かしたいの」
「じゃあ楽しみにしとくわ、って事でこの続きな?」
 ずっと抱き締められた体勢だった事を忘れていた悠斗は、再び顔を真っ赤にしては、悟に唇を塞がれてしまった。

2016.12.23 完成

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