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■本編3-15

「ひ〜寒い〜」
 厚手の服を来ても、寒さが身に凍みる季節になった。そんな中、悠斗が一人で買い物に出掛けていると、男性に声を掛けられる。
「ねぇねぇ、道教えて欲しいんだけどぉ」
 辺りを見渡すが、悠斗以外は誰もいない。
「僕?」
「そうそう」
 目的地が示された携帯画面を見せられる。
「ん〜すみません、分からないです」
 知っている場所ならば、と携帯を見たが、そもそも方向音痴の悠斗には、どっちが西か東か分かるはずがなかった。
「え〜分かんないの? じゃあいいや、ちょっとそこまで付き合ってくれたらさ」
「え、え!?」
 話の展開に付いていけないまま、背中に手を添えられ、ぐいぐいと悠斗の行きたい場所とは逆に歩かされる。
「あのっ用事が」
「ちょーっとだけだから、お茶しよ」
 どこに連れて行かれるのか分からない恐怖に体がすくみ、悟から貰ったマフラーを握り締めた。
「悠斗」
 願いが通じたのか、助けに来てくれたのだと思い、振り返る。

***

 悠斗はファミレスのドリンクバーを頼み、ジュースをすする。
「はぁ〜。ありがとう、健人さん」
 助けてくれたのは、健人だった。
「たまたま通りがかったから良かったけど、気を付けなよ?」
「でも、僕は分からないって言ったのに」
「口実に決まってるだろ」
「……え」
 健人は当たり前のように言うので余計に思考が停止した。
「気が付いてなかったのか? 明らかに軟派が目的だろ」
「なん……ぱ」
 健人が声を掛けてなければ、本当にどこかへ連れて行かれていたと思うと、ゾッとする。
「性格も相変わらず鈍感なんだな」
 苦笑されてしまった。
「なんかごめんなさい」
「ううん、悠斗はいつまでも目が離せないなぁ」
 嬉しそうにじっと見つめて来る健人に、悠斗は首を傾げる。
「大きくなっても可愛いなぁと思って」
 悟も可愛いといつも言ってくるが、やはり健人の可愛いは親が子に言うような口調である。
「ねぇ……? 本当にあいつと付き合ってるの?」
「あいつって、兄ちゃんは悪い人じゃないよ」
「悠斗に無理強いしてそうで心配だ」
「ふふ、見た目があんなのだからそう思うだけだよ」
 強面なのは昔からだったが加えてあの髪型だ、そう言われてしまうのも理解出来る。けれど、悟からすれば思惑通りなのだ。容姿だけを見て怖いと思う人には普通は近付かない。
「兄ちゃんは大丈夫なんだ」
 理由の一つに、自分の為だと聞いて悪い気はしない。健人は心配だろうが、あまりこういった事情を話すのは悟が嫌がりそうなので内緒にしておくことにした。
「だけど……」
 温厚な性格だと外見で分かる健人とは真逆に見えるのかもしれないが、二人は似た者同士である。だから、相容れないのかもしれないと、悠斗は思った。
「やっぱり、悠斗の性格からして考えられない」
「何が?」
「……性行為も無理矢理されたんだろ?」
「健人さん!」
 公共の場で何て事を言うのだろう。
「ごめん、あれからずっとモヤモヤしててさ。悠斗の事好きだったし」
「え!?」
 さらに、とんでもない事を暴露して来たではないか。この場合、どう対応したら良いのかと、変な汗が出てくる。
「いや、まぁ過去の話だけどね。女の子っぽかっただろう?」
「そう……かな」
 そうだったのかと内心胸を撫で下ろす。しかし、小さい頃の事はよく覚えていなかった。
「むしろ、女の子だと思ってたから、何か悔しいな。本当に酷い事されてないんだよね?」
「うん、優しいよ」
 善からぬ展開になるかと思ったが、話も落ち着いてきた頃、それはやって来た。
「え……え?」
 急に窓に影が射し、鬼の形相で二人を見ている。
「兄ちゃん!?」
「悠斗の彼氏は凄いな」
 GPSでも付いているのかという程、現れることに呆れを通り越して関心してしまった。

 店内に入って来た悟は、何の遠慮もなしに悠斗の隣に座る。
「俺の悠斗とこそこそと何してんだよ」
「たまたま会っただけだけど?」
「そうだよ」
 健人を庇うように頷く悠斗を見て、悟はムッとした。
「悠斗が浮気するなんてよ」
「違うってば!」
 この流れは埒が開かなくなりそうだと思い、健人が助けてくれた事を話す。
「へぇ……あれか、助けた所に付け入って悠斗を」
「もう! いちゃもんつけない!」
 何を言っても、健人を悪者扱いをする悟と言い合いを続けている中、健人は置いてけぼりだった。
「悠斗はやっぱり鈍感だな」
「え? 何が?」
「そこが良いんだよ」
 ふん、と自慢するように肩を抱く。
「ったく……君と一緒なのは癪だけど、それは分かるかな」
「????」
「まぁ、悠斗を助けてくれた礼は言う。ありがとう」
 健人は少し驚いた顔をした。
「へぇ礼は出来るんだね」
「悠斗の為だ」
 仲が悪いと思えば、急に仲が良くなった二人に、悠斗は理解が出来なかった。

2016.12.20 完成

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あきゅろす。
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