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番外3-02 屍パーク

 十月になり、世間は秋の催し物で溢れていた。紅葉狩り、梨狩り、秋祭り、芋掘り、読書の秋、さんま祭……日本は催事が好きだなぁ、と悟は思う。

 その一つに、ハロウィンが今や主流となりつつある。悠斗達がいる、遊園地でも開催中だった。
 お馴染みのオレンジ色をしたかぼちゃや、ハロウィンっぽく派手に装飾された物、中には仮装をしている人までいる。
 しかし、そんなものには興味がないと言わんばかりに、道を間違えていると指摘を受けながらも、地図を片手に目的地へと悟を引っ張る。二人とも遊園地は久しく、全部制覇しようと計画を立て、意気込んでいたからだ。

「え……え?」
 さっきまで、絶叫で怖がりながらもはしゃいでいた悠斗だったが、アトラクションを出た瞬間、目の前の風景に棒立ちになる。こんな街並みではない、それは確かだった。
 軽快な音楽は、おどろおどろしいものへと変わっていて、街灯も時折電気が切れかかる演出だったり、そして一般人の中におぼつかない足取りで歩く何かが蠢いていた……。
「!」
 目を凝らすと、血にまみれ、皮膚がリアルに爛れている。その群れに当たり前のように、歩こうとする悟の腕を取り、必死に首を横に振る。
「うう、うじゃうじゃ!」
「そうそう、夜は屍パークになるんだぜ」
 十九時を境目に、昼間の賑やかな雰囲気とは一変して、ホラー仕様になる仕組みのようで。悟の後ろに隠れる。
「あ……そうか、悠斗は怖いの駄目だったな」
「わざとでしょ!?」
「すっかり忘れてた」
 そう言う悟の顔は全く悪びれていなくて、笑っている。
「も〜こんなのになるなんて、聞いてない〜」
「俺がいるから平気だろ? 行こうぜ」
 次のアトラクションに乗るには、ゾンビの横を通らないといけなかった。
「む、無理!」
「大丈夫だって、人間なんだ」
「ヴヴヴー……」
 人間の声ではない、どこから声を出しているのか分からない唸り声にびくつく。
「悠斗、手」
 悟に手を引いてもらっていても、隣をすり抜けるのには変わりなく、身を縮めながら一緒に歩いた。
 ゴンゴンゴンゴン!
「うわあぁぁ!!」
 急に悠斗の背後に何かが迫り来る音が激しく鳴り響き、耐えきれなくなった悠斗は走り出してしまう。
「あっこら、一人でどっか行くな!」
「ひ!」
 目と鼻の先にはゾンビの大群。やはり、ここも横を通らないと先へは進めないようになっていた。
「……」
 血の気が引いた悠斗は、固まって動けない。
「しゃあねぇなぁ」
 悠斗に向き合うとお尻を抱えるようにして、軽々と持ち上げた。
「えっ!? 恥ずかしいからっわぁぁ! も〜やだぁ」
 周りを見た瞬間、ゾンビと目が合ってしまったようだ。悟の首に顔を寄せて、見ないようにする。
「ははっ、忙しいやっちゃ」
 結局、群れを抜けるまで、抱っこをしてもらい、何とか潜り抜けた。途中、くすくすという笑いが聞こえた気がしたが、ゾンビに遭遇する事と比べれば、平気だと思うようにした悠斗だった。
「もう居ない?」
 先程より、静かになった気がした。
「まだ若干いるな」
「う〜」
「次乗り物どうする?」
 前日までは全部制覇しようと意気込んでいたのだが……。
「帰りたい」
 首を横に振りながら、ぎゅっと腕に力を込めた。
「はいよ」
 ふと、アトラクションよりこっちの方が楽しいと思った悟は、悠斗に気付かれないようゾンビが多い場所へと向かい、遠回りをしながら、遊園地を出ることに。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ」
「っうぅ」
 視界に入れていなくても、唸り声が耳には入って来る。その度に、悠斗はびくびくしてしまい、悟は宥めるように背中を軽く叩く。
「ほれ、着いたぞ」
 遊園地の出入り口についてしまい、名残惜しいが、悠斗を降ろした。
「は〜楽しかったな」
「後半は散々だったよ」
 口を尖らせ、うんざりだと顔に出した。
「俺はラッキーだったから良しとしようぜ」
「意味分かんない」

 悠斗の家の前まで送り届けて背を向けた瞬間、裾を引っ張られる。
「どした?」
「あの……」
「ん?」
 口ごもる。
「兄ちゃん」
「うん」
「たぶん眠れない」
「は、まじか……どうすんだよ?」
「母さん説得するから、一緒に泊まって欲しい」
 本当に困っているようで、今にも泣きそうな顔であるが、思ってもいなかった展開に、悟の脳内は小躍りした。
「りょ〜か〜い」

***

 一緒のベッドに潜り込んだは良いが、辺りが暗すぎる。
「電気スタンド点けてて良いかな?」
「ああ」
 暗い上に、静かになると余計思い出して過剰に反応してしまうようだ。
「脅かさないでよ?」
「おう」
「先に寝たらやだよ?」
「大丈夫大丈夫……」
 そう言った矢先に目が虚ろになっている。
「駄目だからね!?」
「冗談だろ? 可愛いなぁ」
 くすくすと笑いながら、抱き締めた後、頭を撫でる。大人しい悠斗を見て、今なら何でも許してくれそうな気がした。
「そうだ、怖いの忘れる方法あるぞ」
「本当?」
「セックスした――」
 悠斗の目が輝くが、瞬時に眉間に皺が寄った。やっぱ駄目かと内心苦笑する。
「もう!」
 いつもの変態発言に、胸を叩く。
「いやいや、快眠出来るって医学的にも証明されてんだぜ?」
「仮にそうだとしても、母さん達がいるから駄目」
「うーん……」
「んん!? い、言ったそばからっ」
 臀部を揉み拉かれ、抵抗する力が出ない。
「柔らかい」
「ぁ」
 悟の腕の中で、蚊が鳴くような声で喘ぐ。
「だ、め……勃っちゃう」
「ほら、そんな事言われたら、俺が駄目だっていつも言ってるだろ?」
 楽しそうに続けながら、悠斗の反応を眺める。
「んぁ、兄ちゃん」
 息を乱し、すがり付く。
「まじ可愛い」
「ぁ………………す〜」
「は? あれ? 悠斗ちゃん、悠斗ちゃ〜ん」
 本当に寝てしまった悠斗に苦笑した。遊園地で、はしゃいで疲れたのだろうと思うが、中途半端に盛り上がった所で寝るなんて。
「はぁ、寂しく耽るか」
 悠斗を起こさないよう、腿に擦り付け、自身を煽った。

 悠斗が目を覚ましたときには、ティッシュの残骸がベッドの上に散らされていた。
「何これ!?」
 悠斗の悲鳴に悟も目を覚ます。
「お? ……あぁ、快眠効果で寝ちまったみたいだ」
「に、兄ちゃんの助平!」

 そんなこんなで、この日から添い寝週間となったが、さすがの母親にわざとだと言われ、本当は違うのに、悠斗は泣く泣く電話で我慢しないといけなくなったようだ。

2016.11.03 完成

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あきゅろす。
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