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■本編3-14* 文化祭

 誰もいない静かな図書室で、悠斗は責められていた。
「……何、普通に着てんだよ」
「だって、女子がどうしてもって」
「もっと嫌がれよ」
「……ごめんなさい」
「あ〜すっげぇ腹立つ」

 さかのぼる事、五時間前――。

「エントリーナンバー五番! 最後にこのコンテストを飾るのはあぁ、戸島あぁーーー……悠斗ちゃーーーん」
「ごほっ」
 戸島悠斗ちゃんと呼ばれた人物が、のろのろと出て来た瞬間、体育館が沸いた。悟学生の作った味のうっすいコーヒーで噎せたあと、目の前の見せ物に開いた口が塞がらない。
「これは私も驚きです! とても男の子には見えません! まさしく“男の娘”です!!」
 俺の悠斗が学校で女装をしている。何を疑ってもそれは変わらなかった。
「……まじかよ」

 周りでは口々に発言をする中で、
「やっぱり戸島君可愛い〜い〜」
 とか、
「男子なのにヤバくない!?」
 などの女子の発言ならまだしも、
「うおぉぉ! 超可愛くね!?」
 とか、
「写メ! いや、最高画質のカメラプリーズ!!」
 とか、
「……あとで交際申し込もう」
 とか……野郎の冗談に聞こえない発言に、焦りと同時にイラつかせた。
(我慢だ……がまん)
 この間の健人には流石に感情を露わにし過ぎたが、今回の相手は学生だ。人によっては、青春の思い出の一つとも言える文化祭をぶち壊してしまっては大人気ない、そう自分に言い聞かせ、変な輩が悠斗に近寄らないか見守ることに専念した。

 が、悟の拷問は続く。

 質問タイムだとか、お色直しだとか、お披露目タイムだとか、我慢の限界もそろそろピークになる頃――。

「優勝は……言わずもがな、一年の戸島悠斗ちゃんの圧勝だぁぁぁぁ!!」
 他のことを考えているといつの間にか、イベントが終盤に差し掛かっていた。優勝するのは当たり前だろうと悟も納得した。
「戸島ちゃん、感想はありますかね〜」
 ぐいぐい来る司会者に困る。
「や、止めて下さい」
「おっとぉ〜これはエロい発言です!」
 まずは司会者を絞めよう、悟は思った。
「これは圧勝も納得の出来ですねぇ。ご自身も驚きなんじゃないですか?」
「そ、ですね」
「本当可愛いですね〜。実は女なんじゃないんですか?」
 じろじろと全身を舐め回すように見てくる。
「違うから、早く締めて下さい」
「あまり攻めると嫌われちゃいそうなので、ここら辺で。第三十八回、美少女? コンテスト! 来年も戸島ちゃんよ〜ろしくぅ!!」
 大歓声の中、悠斗は足早に壇上から姿を消した。コンテストで文化祭の締めだったようで、皆それぞれの持ち場に戻ったり、片付けを始め出す。
「あ、戸島、戸島ぁー」
「打ち上げしようぜ」
 着替える余裕もなく、女装のままで声をかけられる。
「用事があるんで」
 悠斗が何かを言う前に、どこからともなく現れた悟が口を挟んだ。蛇に睨まれた蛙のように、悟から放つオーラが凄まじくて、声をかけた同級生達は何も言えず。
「兄ちゃん!?」
 突然どこからともなく現れた悟に肩を組まれ、連れ去るように、体育館の出口に向かう。

「ってか……今のって笠井さん?」
「嘘、まじ!?」
「最近見ないと思ったけど。え〜レアじゃん〜写メれば良かったあぁ」
「お兄さんとの用事じゃ仕方がないかな」
 我に返った女生徒の一言で、連鎖反応のように悟の話で体育館内は盛り上がった。

 悠斗を連れて、母校である知り尽くした廊下を迷わずに進み、玄関へ向かう。悟の横顔を盗み見ると少し怒ったような表情である。
「ちょっと待って、着替えは!?」
 悠斗の元の制服が置いてある教室を過ぎ、そのまま郊外に出ると思った悠斗は焦って止める。
「……それもそうだな」
 この女装を学校内だけではなく、公にまで晒す事になってしまう。
 悠斗の制服を持ち、着替える場所を探す。周りを見渡すと“図書室”と書かれた表示を見て、悟はそこへ入った。よく使われる教室より少し遠い為か、文化祭でも使用せず人もいない。
 念の為、内から鍵を締めた。

「あの、ごめんなさい」
 眉間に皺を寄せたまま、返事のない悟と悠斗の間に、気まずい空気が流れる。
「……何、普通に着てんだよ」
 お色直し後は、王道のセーラー服だった。そんな悠斗を一瞥する。
「だって、女子がどうしてもって」
 一斉にお願いをされたら、断るにも断れなかったようだ。
「もっと嫌がれよ」
「ごめんなさい」
「あ〜すっげぇ腹立つ」
 居たたまれない悠斗は、とりあえず着替えなければ、と袋から制服を取り出そうとして、腕を取られる。
「ん!」
 何度も角度を変えて唇を交えた。
「はあぁ……腹の虫が治まらねぇ」
 額を抱えて盛大な溜め息をはく。長いキスから解放された悠斗は、よろけて壁にへたり込んでしまった。
「っはぁ、はぁ」
 怒っているのは確実なのだが、それだけではないのも確かで、どの表情が本当か読み取れない。
「生足まで見せやがって」
「ごめんなさい」
 はぁ、と悟が溜め息をついた後、沈黙が続く。無言に耐えられないのか、悠斗が恐る恐る口を開いた。
「兄ちゃん、すごく……怖い」
「あぁ、イラつくし、興奮してるしぐちゃぐちゃだ」
 思っていた通り、悟の声は怒りで低く、しかし目は欲情していて。この後の事を考えると、悠斗も移ったように、困ったり恥ずかしかったりと忙しく表情を変えていた。
「くそ……駄目だ」
 悪態をついて、悟も悠斗の目線までしゃがむと、今度は服の中に手を忍ばせる。
「ぁ」
 過去に見たときは、筋肉が付いているかいないかの肉付きで、女の子っぽかったが、今の悠斗は、肉が締まり、全身が細くなっていた。
「こんな事、されてたかもしれねぇんだぞ」
「ん……ごめんなさい」
 微弱な電気がはしる。
「俺がどんだけ焦ったか」
「ごめん、なさい」
 責められる内に、気分が沈んで悲しくなってきた。そこに、指の先を綿で擽られているかのように肋を撫でる。
「あ……ぁ」
「そのやらしい声を聞いたヤツは怖がっても止めてくれねぇだろうなぁ」
「いや、やだっ」
「変な虫が付いても知らねぇ」
「ごめんなさい……っ」
 目には涙が溜まっていた。
「……何本気にしてんだよ」
「だって」
 完全に泣いてしまった悠斗の頭を撫でながら、悟の袖で涙を拭う。
「怖がらせたか?」
 悠斗に泣かれて悟のイライラする気持ちが少し和らいだ。
「んん、兄ちゃん怖い、意地悪」
「すまん、大人気無かったな」
 ぐすぐすと鼻を啜り、首を横に振った。
「悠斗には敵わねぇよ」
 やっと、優しい悟に戻った事に安堵した。

 ――図書室に入ってどれくらいの時間が経ったか、なんて気にもせず、悟と秘めた行為に耽る。

「あっ……あっあっ」
「声」
 悟の指を差し出され、控え目に銜えた。
「ふ、うっ」
 覆い被さるように抱き締めながら、後ろから突かれる。本棚を支えにしないと、体が崩れそうだった。
「ふぁっにぃちゃん、だめぇっも、抜いて、あぁ!!」
 銜えた指もすぐに意味なく外れ、喘ぎ声を上げてしまう。
「だめ? ……抜いて? その割りには締めてっけどな」
 そう言って、腰を下から突き上げるように何度も打ち付ける。
「んん!」
「きゅうきゅう締め付けて、離したくないって」
 悟の言う通り、中を突く度に肉壁がペニスを圧迫していた。
「違うもん。い、言ってなひっ」
 悠斗ももう分かっているのに、口にするのは恥ずかしくて、否定をする言葉しか出ない。
「本当か?」
「ああっ」
 緩急を付けて抜き挿しをすると、それに釣られて悠斗の腰も動いていた。
「ほら、体は喜んでるぜ」
 ……本当に、いつもながら体は正直だ。
「薄情しろっ、久し振りで興奮してんだろ?」
 亀頭で奥深い部分をゴリゴリと擦り付けられ、体が何度も跳ねてしまう。
「あ、っ、あ、あっあ、あ」
 揺すられると、頭がおかしくなりそうな程、快感が駆け巡り、立っているのもそろそろ限界で。
「あぁもっ、そう、そうだからっ」
 自棄になれば、恥ずかしさも紛れると思った。
「……俺もだ」
「!」
 耳元から痺れが全身を凌駕した後は一点に集中し、放ってしまった。
「汚した?」
「うぅ」
 床は悟がどこからともなく出したタオルのお陰で汚れずに済んだが、借り物のセーラー服を白い液体で彩った。泣きたくなる思いで途方に暮れていると、悠斗の気持ちを知ってか知らないでか、悟はスカートを捲り上げては、放った部分を眺める。
「沢山出したな」
「いっ言わなくていいからっ」
 後始末をしようも、生憎拭くものがなかった。それが分かった悟は、少しでも洗濯の手間をと手を貸そうと提案する。
「いい」
「まぁまぁ、俺の責任だから、な?」
 苦笑しながら、悠斗からペニスを引き抜いて、今度は前にしゃがんだ。
「ほら、舐め取ってやるから」
「……ん」
 スカートの端を両手で持ち、汚れた部分を悟に向ける。……これでは自ら誘っているように見えて、恥ずかしくなった。
「はは、変態っぽい」
「……もういい」
「怒んなって」
 悠斗の足を掴み、帰ろうとするのを止める。
「これが悠斗様のお出しになられた液とは、ありがたや〜」
「ばか」
 急に色気もなく、そんな下品な事を言うもんだから、悠斗はつい笑ってしまった。
「いただきます」
 律儀に言った後、舌を大きく出して舐めた。
「ん」
 染みがなるべく残らないように吸い上げてゆく。アドバイスをしてからも、あまり自慰をしていないのか、それは濃い塊だった。
 悟が密かに興奮している中、スカートを吸う度に鳴るじゅるという音、時折聞こえる息継ぎ。悠斗は音に犯されそうだった。
「はぁ……」
 ある程度は綺麗になったと思い、スカートから口を離す。一息ついた悟の横で何かがチラついた。
「…………おぉ」
 綺麗にする事に夢中で気が付かなかったが、悠斗のペニスがひくついている。というのは、横を向いた本人は分かっていないらしく、まだスカートをしっかり掴んだまま、終わりの合図を待っているのだろう。
「はは、うまそ」
「え?」
 悟が何かぼやいたと思った次には、腹部から衝撃が走っていた。
「ひ! あぁ!」
「ん……んっ、ん」
「何、してっ」
 ちろちろと裏筋をくすぐるように舌を動かす。
「んっ横で……食べて欲しそうにねだってた」
「も、あぁっ、喋んっないで」
「悠斗が何って、んんっ」
「だからっ喋っ――」
 再び音が悠斗の耳を支配し、今度はペニスを吸い上げる感覚がプラスして、早くも達してしまう。
 もちろん、悟の口内で果てる事に。

 後で、下だけ脱げば良かったのかとぼやくも、気付いてなかったのかと悟に突っ込まれる。
「意地悪!」
 そう言って睨み、帰ろうとした。
「ちょっと待て、その格好」
「え? ……あ」
 来たときとは逆に止められ、苦笑するしかない悠斗だった。

2013.08.15 完成
2016.08.15 修正

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あきゅろす。
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