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■本編3-09

 悠斗の疑問の答えは、裕也に投げ掛けられた。
「あのねぇ、戸島君は下ネタな疑問イコール俺なの?」
「え!? あ、いや違うんだけど…………違わないね」
 思い返してみれば、他にも相談した覚えがあるが、どれも性に関する話だ。
「ってか、前に言ったよね? セックスの仕方まで相談されそうだから笠井さんに頼むって……本当にしてくる君は馬鹿なの!?」
「し、仕方じゃないもん」
「似たようなもんだよ……ったく、真面目だねぇ」
 裕也は少し詮索を入れようと思ったが、聞いたら聞いたで面白くない結果になりそうな気がした。
「ごめん。男同士でってなると裕也しか思い当たらなくて」
 悟に聞けば良いのに、いつまで恥ずかしがっているのかと呆れる。
「っていうか、俺したことないから」
「あ、え、そ、そうなんだ……」
 悠斗は落ち込んだが、事実は事実なので仕方がない。
「そもそも、俺が笠井さんのこと好きだったの知ってるんだよね? どういう神経してるの?」
 言われてはっとする。確かに裕也の気持ちを全く考えずに聞いてしまった。容赦ない罵倒と申し訳なさに、悠斗は小さくなるばかりだった。
「ごめんなさい」
「はぁ……あ、へんちくりん」
 裕也の視線を辿ると、教室の廊下側の窓に、目を細めながらこちらの様子を見ている人物がいる。
「和正?」
「誰がへんちくりんだ。それより、悠ちゃんに何してんだよ」
 最初から、牙が見えそうな勢いで威嚇をする。
「俺は何もしてないよ」
「嘘つけ、怯えながら謝ってたの見てんだからな!」
「お門違いも良いところだね。俺はただ戸島君の相談を聞いただけ」
「はぁ? 悠ちゃんがお前なんかにそんなことする訳ないだろ?」
 なぁ、と悠斗を見たが、
「えっと……」
 と、少し困った顔をしていた。
「う、嘘っ。本当に相談したの!? お……お、俺には言えないことっ?」
 条件は、和正も該当しているが、言えばきっと大騒ぎになりかねない。
「えと」
 さすがに何度もあの単語を言うのは憚れる、とまごつく悠斗に対して、裕也が代わりに言った。
「セックスしたらどんな気持ちになるか」
「せ!!!!!?」
「ゆ、裕也!!」
 和正の脳内は、様々な思いがメリーゴーランドのようにぐるぐると駆け巡った。あの、天使のように純粋で無知で繊細で怒りっぽくて恥ずかしがりで、今も頬を真っ赤にしながら慌てていて、相変わらずなのに。そんな可愛かった悠ちゃんがアダルトな発言をして、しかも相談するなんて……。ってか今、裕也って言ったような気が――。
「あ」
 和正の鼻から赤いものが一筋垂れた。
「か、和正!?」
「興奮して鼻血出す人初めて見た……」
 裕也は立ち上がり、やれやれと和正を保健室へと連れて行こうとする。
「君達は本当に世話が焼けるね。戸島君、携帯持ってるんだろ? だったら自分で調べてみれば」
「……!」
 悠斗の中で視界が明るくなった。

***

 今日は悟はバイトで、迎えが出来ないので一人で家に帰った。自室にこもると、悟とやり取りする以外、殆ど使わない携帯を開き、検索サイトに繋ぐ。
「えぇと?」
 四角の枠に、文章を入れてみた。
『セックスをしたらどんな気持ちになる』
 文字を打つだけで少し恥ずかしかった。躊躇いつつ、検索ボタンを押すと、通信中の表示が出る。悪いことをしているようで、どきどきしてしまう悠斗だった。
 五秒ほどしてそれらは出て来たが、どれも男女のことばかりである。見出しと一文を見ると、どうしたら気持ち良くなるだの、初体験は中学生だの、と当たり前だが下の文が沢山で、頬が熱い。
「は〜」
 今度は、検索ワードに男、と追加をしてみる。
 出て来たのは、男をエッチな気分にさせる方法、男性はセックスさせてくれるなら誰でも良い? など、意味深長なワードの一つに悠斗は恐る恐る押してみた。
「!?」
 男性同士でキスをしている画像が大きく表示され、焦りながら戻るボタンを連打し、誰もいないのは分かっているのに、周りをキョロキョロしてしまう始末だ。
「……えっと」
 気を取り直して、携帯の画面を見ると、連打したときに当たったのか、メニュー画面が開いてしまっていた。そこの一覧に目が止まる。
「あ、画像見えないように出来るのか」
 表示設定をオフにした途端、なんだか気分は無敵になった気がして、次から次へと気になることを、調べていると……。
 ジリリリリリ! ジリリリリリ!
「!?」
 聞き慣れたシンプルな着信音だったが、またも盛大にびくついてしまった。
「に、兄ちゃんから?」
 一呼吸おいて、電話に出る。
「はい」
「おう悠斗、今何してる?」
「宿題だよ」
「そっか、忙しいか?」
「大丈夫だけど、どうしたの?」
「いやなぁ、ちと、飯作りすぎちまって、持って行って良いかお母さんに聞いてくれないか?」
 そのまま伝えると、母親は会う口実なんじゃないかと詮索され、悠斗は怒って否定をする。
「……もう。あ、大丈夫だって」
「はは、大変だな。じゃあ、また後でな」
 保留をしていなかった為、電話越しから聞こえていたようだ。そして、数分後に呼び鈴が鳴らされる。

「里芋の煮付けです」
「悟君の手料理は美味しいから大歓迎よ」
(さっきまで、怪しんでたくせに)
 母親の隣でむっとしながら、悟の持ってきた料理を覗くと、里芋や蓮根、椎茸、絹さや、にんじんで彩られた煮物がタッパーに詰まっている。一つ、と摘まみ食いをした。
「あむ……おいし」
 最近、悟には内緒で母親の付き添いで料理を始めたが、どうやったら上手くなるのだろうか。
「こんなに貰っても良いの?」
「大丈夫です」
「ん〜やっぱり悪いから、これ食べていって」
 そう言って、出てきたのは赤くて美味しそうな林檎だった。悠斗の父の実家から贈られて来たものらしい。
 ……しかし今日は、機嫌が良いのか何か裏があるのか、リビングの椅子に勧められ、母が林檎を剥く。悠斗も悟の隣に座ろうとしたが、母に手伝えと言われ、阻止されてしまった。
「お皿洗って、拭いて出して頂戴」
「はぁい」
 渋々な悠斗を見て、悟はほくそ笑みながら、リビングを見渡す。久し振りの悠斗の家は、ソファーや棚の位置だったり、所々模様替えをしていた。
 視線を親子に戻すと、何やら持て成しは林檎だけではないらしく、紅茶を作ってくれているようだ。そういえば、二人が並ぶ姿も久し振りで眺める。
(おっ)
 ふと、机に悠斗の携帯が置いてあるのが目に止まり、悪戯を思い付く。悠斗が自分の携帯を開いた瞬間、親子の写真だったら恥ずかしがるだろうかと、にやけながら携帯を開いたが。
「へ」
 とても間抜けな声が、悠斗の背後から聞こえて振り返った。
 悟が悠斗の携帯を開いている。悟が悠斗の携帯を開いている? 悟が悠斗の携帯を開いている!!
「……う、あ、ああああああああああああ!!」
「悠斗!? どうしたの」
 隣で大きな声を出して叫ぶ息子に、母もびっくりした。
「あ、み、観たいテレビが終わってて」
 悠斗は母がいる事を忘れる程、取り乱してしまった。とりあえずは残念そうに振る舞う。
「そんなのあったかしら? まぁ、もう終わってしまったんだったら仕方がないでしょ。落ち着いて二人で食べなさい」
 そう言って、今日に限って母はどこかへ行ってしまった。

「……はは、頂きまーす」
 悟を睨みながら、悠斗も林檎を頬張る。
「えっとー悠斗、すまん」
「何勝手に見てんの!?」
 怒鳴ると母が来かねないので、悠斗は声を落として怒った。
「携帯を勝手に見たのは失礼だったかもしんねぇけど……なぁ」
 悠斗が不利なフラグがびんびんに立っている。
「もう流れは分かってると思うが、何であんなサイトを?」
 悟が見たのは、初めて同姓とセックスした、という内容の一文だった。
「あ〜も〜最悪だ〜」
 真っ赤にして頭を抱える。
「そかそか、悠斗も思春期だもんなぁ」
「ち、違うよ! 兄ちゃんが……兄ちゃんが、嬉しいって言ったから、昨日」
「昨日……? ……あぁ、あぁ!」
 確かに、セックス出来て嬉しいと言った。それに対して、悠斗が難しい顔をしていたのを思い出す。
「何が知りたかったんだ?」
「……したら、他の人はどんな気持ちになるのかなって」
 そんな事を検索したり、嘘を付けば良いのに、正直に答えてしまう辺り、やっぱり真面目で可愛いなぁと思う。
「悠斗はどんな気分になるんだ」
「も! もう……」
 ずっと顔が真っ赤のままで、面白い。
「気持ち良い、天に昇りそう、恥ずかしい、痛い、とか? あっ兄ちゃん大好き〜とか?」
「ばか!」
 さすがに答えてはくれず、さらには林檎を口に突っ込まれ、帰されてしまう悟だった。

2016.04.10 完成

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