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■本編2-27*

 あれから毎日のように、親の目を盗み、悟のバイトの時間になるまで、悠斗のお願いに付き合っている。
「っやっぱりだめ」
 何度、指を入れられても恐怖感に襲われてしまう。どうしても嫌な記憶が蘇る事に、落ち込む悠斗だった。
「あの、兄ちゃんっまた明日も」
 色気はないものの、誘ってくれるのは嬉しいが、これではまた変になってしまいそうだと思った。
「気分転換に久し振りにどっか出掛けようか」
「え、うん」

 出掛けようと言ってから一週間後。朝六時の寒空の中、悠斗の家の外で悟は待っていた。
「おはよう」
「……おはよ?」
 悟は背中に何かを隠しながら手招きをする。悠斗もそれを確認して、恐々と近付くと、首に何かが巻かれる。
「これ、どうしたの?」
 黒の生地で、白で花や草木の模様が鮮やかにデザインされているマフラーで、触り心地も良い。悠斗の記憶では確か、悟は寒色系のマフラーをよくしていたはず。新しく買ったのだろうか。
「悠斗に似合うと思って」
 喜ぶ前に、首を傾げた。悠斗の誕生日は五月なのだ。
「前に寒がってたろ?」
「ありがと……」
 悟は喜んでくれるとばかり思っていたから、元気がない悠斗の反応に困惑してしまう。
「嬉しくなかったか」
「あ、嬉しいよ! 嬉しいんだけど。なんか僕、貰ってばっか」
 イヤリングに指輪、ストラップと物だけではなく、手作りの料理など色々してもらった事を思い出す。
「何言ってんだ。俺の方が悠斗に貰ってばっかだけどな」
「何もあげてないよ?」
 思い当たる節が全くなかった。
「嬉しい気持ちとか、安心も、快楽も」
「もう、ばか」
 照れてそっぽを向いてしまう。
「そうそう、その反応で十分だ」
「本当ばか」
 貰ったマフラーで顔を隠した。
「……兄ちゃん、いつもごめんね?」
「だから、ごめんじゃないだろ?」
「ごめん、ありがとう」
 また、ごめんと言った悠斗の額を小突く。
「さ、行くぞ」
 行くぞと言ったが、どこに行くかは教えてもらえなかったので、悟の後を付いて行くしかない。しかも、知らない間に、一日悠斗を借りる事をちゃんと母親に承諾を得ているらしく、どこに行くのか、ますます謎だった。

 通学用の自転車を走らせ、最寄りの駅に着いた。切符の販売機に千円を入れ、大人と子供のボタンを押す。大人で六百円の距離で行ける場所とはどこなのだろう。
 電車に揺られながら、悠斗は考えた。
「何難しそうな顔してんだ?」
「どこに行くのかな、って」
「はは、着いたら分かるんだ。景色見て楽しもうぜ」
 住宅街だった景色が、川を境に田んぼや一軒家が目立って来て、数十分後には、緑が多くなって来る。
「ハイキング?」
「はずれ」
 一時間と十分後、駅の回りは森が茂って、建物は見当たらない。結局、着いても全く分からずだった。
「全然分かんないじゃん!」
「気持ち良いな」
 悟は一人、自然の匂いを嗅ぎながら、背伸びをする。
「本当にどこなの?」
「まぁまぁ」
 勿体ぶる悟にムッとしながらも、後を追った。

 今度はバスに揺られて二十分、徒歩で車が通れない細い道を十五分ほど歩いた先に、屋敷のような佇まいの家が一軒見えて、すごいなぁと眺めていたが、悟はそこへ入って行くではないか。
「え、え?」
 悠斗はとにかく付いて行く。“伊村”と表札に書かれた屋敷の中に入り、いらっしゃいませ、と着物を着た仲居と思われる人が出迎えて、ここが旅館だとやっと分かった。
「予約していた笠井です」
「本日は、お寒い中、当旅館へお越し頂き、誠にありがとうございます。笠井様、露天風呂付き客室、三時間貸し切りで賜っております」
「!?」
 驚く悠斗を他所に、悟は雑談をしながら宿帳に記帳し、タオルを受け取った。

 館内の雰囲気を楽しみながら、仲居に部屋を案内される。
「こちらになります」
 “椿”とだけ書かれた名札が下げられていた。
「鍵は中から掛けられるようになっております。お時間には気をつけて下さい。それではお楽しみ下さい」
 二人もお辞儀をしてから、扉を引いて開け、鍵をかける。
「おぉ、思ったより広いな」
「すごい! 兄ちゃんすごいっ!」
 さっきの不満も忘れて、無邪気にはしゃぐ悠斗に笑う。
「こういうのって中々予約出来ないんじゃないの?」
「普通はな、ちょっと辺鄙なとこにあるからじゃないか? さすがに一泊は色々と無理だったけどな」
 なるべく近場で探していると一件引っ掛かったのが、この旅館らしい。
「子供同士でも大丈夫なの?」
「大丈夫らしいけど、念の為に二十歳って書いた」
 ニッと笑うが、本当に大丈夫なのだろうかと不安になった。
「時間もねぇし、メインにしようか」
 そう言いながら、ボディーショルダーを取って、上着を脱ぐ。
「メインって?」
「聞いてたろ? 露天風呂付き客室だって」
 確かに、帳場にいた人が、そう言っていたのを思い出し、急に静かになって、頬を染めた。
「忙しいやっちゃ」
 上着をハンガーにかけて、シャツやズボン、下着は座椅子に適当にかけ、早くも素っ裸になる。
「悠斗も早く来いよ」
 悟が声をかけてから風呂へ向かい、かけ湯をしているまでもが見えた。部屋のすぐ隣が露天風呂で、しかも透明のガラス張りだったから、嫌でも視界に入ってしまう。
「……」
 自分が落ち込んでいるのを見て、プレゼントをくれたり、ここに気晴らしに連れて来てくれたのだろう。悟の好意に答えないと、と決心をして三時間しかないのを思い出し、服も揃えず裸になった。
「やっと来たか。って何で隠してんだよ」
 帳場で渡されたタオルで胸から大事な所を隠している。
「やっぱり恥ずかしいし」
「はは、悠斗らしいか」
 そう笑って、早々にタオルを剥ぎ取る。
「あ! ちょっと、ん……う」
 手首を掴まれ、熱いキスを送られる。
「はぁ……いつもより興奮するな。早くかけ湯して来いよ」
 桶を手に取り、背を向けて湯を肩から流す。それらをじっと見られている事にとても緊張する。
 階段を登り、手ですくい温度を確かめてから湯船に浸かると、足は少し伸ばせるものの、思った以上に狭くて、更に緊張してしまう。
「気持ち良いだろ」
「うん」
 それで会話は途切れ、静かになる。
「……何そんなガチガチなんだよ」
「だ、だって……!」
 悠斗は入るときに、見えてしまった。
「何で勃ってるの」
 恥ずかしそうに言う。ちらと見ると、悟のペニスが黒い毛をかき分けて、今も首を持ち上げようとしているのだ。
「何で、って……なぁ」
 美味しそうな肢体が目の前にあるのだから、反応せずにいる方が無理だった。
「わっ」
 後ろ抱きにし、悟は色白の肩に頭を凭れさせる。
「好きな子がこんな格好で一緒の風呂に浸かってんだ。食べて下さいって――今更だろ」
「もう、兄ちゃんが入ろうって……ん」
 首に擦りつく。
「食べても良い?」
「何言っても離さない癖に」
 耳まで真っ赤だった。
「やっぱ可愛いな」
 甘い言葉を耳に、唇で首筋から背に愛撫した。
「ぁ……んっ」
 口付けを交わす為、密着をすると硬いペニスが背に当たり、いたたまれなくなる悠斗だったが、悟はもちろん離してくれない。
「んっ悠斗、可愛い」
 舌や唇を貪る時の音も、湯の跳ねる音がかき消してくれている。そう思わないと、羞恥に囚われそうだった。
 頭を掴んでいた手を肩、腕へと滑らせ、脇腹に差し込み持ち上げる。
「え、何」
 悠斗を立たせると、悟の顔に臀部を突き出す姿勢にさせた。そこを両手でしっかりと持たれ、身動ぐ事が出来ない。バランスを取ろうと悠斗は、浴槽の縁を掴む。そうした事によって、より突き出て蕾が見えるようになった。
「ちょっと腫れてる……」
 毎日、指を挿入され、よく濡らしていても摩擦している事には変わりないので、少し赤くなっているのだろう。
 盗み見ると悟は真剣だったが、臀部をじっくり眺められる事などそうない上に、卑猥な格好のお陰で恥ずかしさは倍増だった。
「口押さえとけよ?」
「え? ひゃ!」
 羞恥に耐えていると急に声をかけられ、我に返る隙もあまりなく、ビクンと腰を跳ねさせ、何が起こったのか再び振り返る。
「兄ちゃ……何、して」
 悟の顔が先程より、臀部の近くにあるのが見えて、舌で蕾を舐めたのだと分かった。
「……悠斗、怖くないか?」
 忘れていたくらい恐怖は微塵もなく、その逆で全身が熱くて、悠斗の中心は特に反応していた。
「大丈ぁっ、いじわる!」
 喋る前に、舌がくすぐる。
「……ん、すまん」
 まだ真剣だった悟にドキっとした。赤くなっている部分を舐められると、皮が薄くなっている所為もあってか、敏感に反応してしまう。指で蕾を拡げて舌が更に侵入してくる。
「あ、う……!」
 舌の根元が入り口を強くなぞり、腰が弓なりになりながらも、浴槽の縁にしがみつき耐える。その様を見て、気持ち良いのだろう、そう思うと堪らなく興奮してしまい、もっと奥まで舐ろうと舌に力を込めて動かした。
 時折、鼻息が肌にかかり、悠斗はピクンと体を震わしていると、舌が引き抜かれたが、何もして来ない。
「兄ちゃん……?」
 悟は意を決した。
「っこ、今度は何」
 さっきより硬い物が、内璧を掻き分けながら入ってくる。
「!?」
 それが、指だった事に衝撃を受けた。既に二本目が入り口をくすぐるように引っ掻いている。目が合うと、悟は苦笑をしながら聞く。
「怖い?」
「……ううん」
 二本の指の腹で内壁を押されると、不思議な感覚に悠斗は身動く。何かを探っているようで、場所を変えてはいたる所を押していた。
「あぁ!」
 声を抑える間もなく嬌声を上げる。一瞬だったが、蕩けてしまうのではないかと思った。
「……これか」
 悟に聞こうとするが、再び強く押される。
「あ! あ、あっあっ」
 何度も押され、熱は一気にペニスへ集中し、白い液を悟の手に放ち、脱力してしまった。

「寒かっただろ?」
 悠斗を湯船に戻して向き合うが、はっきりしない頭でも悟の様子がおかしい事に気付く。
「どうしたの……?」
 言いにくいのか、苦虫を噛んだような表情だった。
「すまん、悠斗…………挿れたい」
 限界だ、そう顔が訴えていた。
「うん、僕も兄ちゃんと沢山くっつきたい」
 悟は、再びすまんと小さく呟いた。

 準備をした後に体を密着させながら、悠斗は膝で立ち、悟の両肩にそれぞれ手を置く。悟は片手で自身のペニスを掴むと唾を呑み込んだ。悠斗の体をゆっくり落とすよう誘導し、勃起した悟のペニスを蕾にあてがう。
「あ…………っは!」
 予想以上にキツくて、悠斗は悟にしがみつく。
「大丈夫、じゃないよな」
 呼吸が止まりそうな程、圧迫してくる。
「痛、い」
「ごめん、ごめんな」
 頭だけでも、と思うがやはり無理もさせたくない。苦しそうな表情が悟をよりそう思わせてしまう。
「悠斗……悠斗」
 紛らわす為に、声をかけながら悠斗の全身を唇や手で愛撫をしては、少しずつ挿入を繰り返す。
「ぁ、は」
 臀部は痛いが体は甘く痺れるし、こんな淫らな行為を公共の施設でしているし……もう頭がぐちゃぐちゃだった。
 地道に続けた結果、やっと雁首辺りまで悠斗の中に埋まる。少し休憩をしてから、悟は言った。
「……動かすな?」
 悠斗の体を浮かして、ペニスが抜けそうになる寸前に、同じ位置に収める。
「あ」
 雁で蕾の周囲を拡げようと、ゆっくり入り口で抜き差しを始めた。ひりつく痛みに首を振って耐える。そんな悠斗の表情を窺いながら、もう少し早く揺れると、ちゃぽちゃぽと湯船が跳ね出した。
「う、あっ」
 ふとしたとき、指で探った所と思う部分に亀頭を何度もぶつけているのだと気付く。
「あっ、ひっあっあっ」
 変化は徐々に表れつつあり、悠斗が喘ぎながら言った。
「はっはっ、なっ……か、へん」
「どう変なんだ」
「分かん、ないっけどっあっ、体が」
 急に不安になってぎゅっと首にしがみついて来る。
「っ……キスするか」
 過去に不安になったときに、何度か悠斗はキスをせがんで来たのを思い出し、舌を差し出した。
 始めは躊躇いがちに吸い、少しずつ深く唇で挟む。餌をもらう雛のように、夢中になっている悠斗に悪戯をしたくなり、舌を引っ込めると空振って、悟の思惑通りムッとした。
「可愛い」
「ん……ふ、んっ」
 お詫びにと唇にキスを贈られ、何で怒っていたのか忘れてしまう程、熱く激しく交わした。
「はぁっはっはぁっ…………あぁ!」
 急にビクンっと悠斗の腰が跳ねた。
 抱き締めたまま湯船から出てみるたが、火照った体に丁度良い寒さだったので浴槽の縁に座らせると、悟は抜けたペニスを持ち、もう一度、悠斗の蕾の少し奥の同じ場所へ当たるように入れる。
「あぁっ!」
「すげ、もういった」
 悠斗の放った半透明の液は自身を濡らすように飛び散った。
「は、はっはっ……はあっ」
 それを見届けた悟はペニスとゴムを抜いて何度も早く扱くと、ぐったりとした悠斗のお腹に目掛けて射精をした。二人の白い液同士が混ざり合い、悠斗のお臍へ溜まったり流れていくのを見つめる。

 体が冷える前にお湯で流して綺麗に拭うと、もう一度湯船に浸かった。
「……すまん、無理させたよな」
 まだ落ち着かない息を切らしながら言う。

 この所、悠斗が焦った行動になり、自虐してしまう危なさもあったが、悟もまた、危なかった。毎回、理性的になって止めていたが、我慢の限界はいつからか越える寸前にまでなっていた。だから、一度気分を変えて、会わなければ治まると思っての一週間だったが、悠斗の肢体を思い出しては、自慰に走った。

 今日の流れは賭けだったようで、家から離れて気分を一変し、悠斗に安心をしてもらう事が第一だと思った。そして、雰囲気を作ってから誘い、先に舌で舐める。それなら異物感もあまりないだろう。十分に愛撫をし、次に手元を見せずに指を挿入する。怖いかと問い、返って来た返事によって次の段階に進める計画だったらしい。
「俺の事嫌いか?」
 酷く真面目な顔だった。
「ん……好き」
 うわ言のように呟く。昔から耳にタコが出来るくらい好きだと言われたが、嫌な素振りをした事がないのに。今更不安になる悟が愛しくなって、悠斗からキスを求めた。
「兄ちゃん、ありがと」
「何……ん」
 お礼を言われると思っていなかった悟は、理由を聞き返そうとしたが、唇で塞がれてしまう。
 熱烈なキスに悟も負けじと応えると、結局悟のペースに流される。
「ふ、んっ……ん……んっ」
 悠斗のくぐもった声に酔いしれながら、しばらく没頭していた。
「……そろそろ出ないとな」
 言われて、悠斗は時計を見ると後二十分程で旅館を出ないといけなかった。それぞれ上がって身仕度をする。

「当旅館の露天風呂はどうでしたか?」
「また来させて頂きたいくらい良かったです。なぁ悠斗?」
「へ? あ、は、はい」
 振られると思っていなかった悠斗は、まだ赤く染まった顔を更に赤くした。
「お客様、大丈夫ですか」
「ちょっと、逆上せて」
 悟を見ると、余計に恥ずかしくなってしまい、目を反らす。
「それほど良かったという事でございましょう。是非ともまたいらして下さい」
 深いお辞儀で見送られた後、悠斗は悟から少し距離を置いて、歩いていた。振り返る度に目が合うと、体をビクつかせながら足を止めてはにかむ。
「意識してくれてんのは嬉しいけど、隣が寂しいだろ」
 手を差し出す。
「駅までだし」
 戸惑いながら近付き、きゅっと控え目に指を二本だけ掴んだ悠斗に苦笑して、握り返して旅館を後にした。

2014.12.23 完成
2023.02.24




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