あれから毎日のように、親の目を盗み、悟のバイトの時間になるまで、悠斗のお願いに付き合っている。
「っやっぱりだめ」
何度、指を入れられても恐怖感に襲われてしまう。どうしても嫌な記憶が蘇る事に、落ち込む悠斗だった。
「あの、兄ちゃんっまた明日も」
色気はないものの、誘ってくれるのは嬉しいが、これではまた変になってしまいそうだと思った。
「気分転換に久し振りにどっか出掛けようか」
「え、うん」
出掛けようと言ってから一週間後。朝六時の寒空の中、悠斗の家の外で悟は待っていた。
「おはよう」
「……おはよ?」
悟は背中に何かを隠しながら手招きをする。悠斗もそれを確認して、恐々と近付くと、首に何かが巻かれる。
「これ、どうしたの?」
黒の生地で、白で花や草木の模様が鮮やかにデザインされているマフラーで、触り心地も良い。悠斗の記憶では確か、悟は寒色系のマフラーをよくしていたはず。新しく買ったのだろうか。
「悠斗に似合うと思って」
喜ぶ前に、首を傾げた。悠斗の誕生日は五月なのだ。
「前に寒がってたろ?」
「ありがと……」
悟は喜んでくれるとばかり思っていたから、元気がない悠斗の反応に困惑してしまう。
「嬉しくなかったか」
「あ、嬉しいよ! 嬉しいんだけど。なんか僕、貰ってばっか」
イヤリングに指輪、ストラップと物だけではなく、手作りの料理など色々してもらった事を思い出す。
「何言ってんだ。俺の方が悠斗に貰ってばっかだけどな」
「何もあげてないよ?」
思い当たる節が全くなかった。
「嬉しい気持ちとか、安心も、快楽も」
「もう、ばか」
照れてそっぽを向いてしまう。
「そうそう、その反応で十分だ」
「本当ばか」
貰ったマフラーで顔を隠した。
「……兄ちゃん、いつもごめんね?」
「だから、ごめんじゃないだろ?」
「ごめん、ありがとう」
また、ごめんと言った悠斗の額を小突く。
「さ、行くぞ」
行くぞと言ったが、どこに行くかは教えてもらえなかったので、悟の後を付いて行くしかない。しかも、知らない間に、一日悠斗を借りる事をちゃんと母親に承諾を得ているらしく、どこに行くのか、ますます謎だった。
通学用の自転車を走らせ、最寄りの駅に着いた。切符の販売機に千円を入れ、大人と子供のボタンを押す。大人で六百円の距離で行ける場所とはどこなのだろう。
電車に揺られながら、悠斗は考えた。
「何難しそうな顔してんだ?」
「どこに行くのかな、って」
「はは、着いたら分かるんだ。景色見て楽しもうぜ」
住宅街だった景色が、川を境に田んぼや一軒家が目立って来て、数十分後には、緑が多くなって来る。
「ハイキング?」
「はずれ」
一時間と十分後、駅の回りは森が茂って、建物は見当たらない。結局、着いても全く分からずだった。
「全然分かんないじゃん!」
「気持ち良いな」
悟は一人、自然の匂いを嗅ぎながら、背伸びをする。
「本当にどこなの?」
「まぁまぁ」
勿体ぶる悟にムッとしながらも、後を追った。
今度はバスに揺られて二十分、徒歩で車が通れない細い道を十五分ほど歩いた先に、屋敷のような佇まいの家が一軒見えて、すごいなぁと眺めていたが、悟はそこへ入って行くではないか。
「え、え?」
悠斗はとにかく付いて行く。“伊村”と表札に書かれた屋敷の中に入り、いらっしゃいませ、と着物を着た仲居と思われる人が出迎えて、ここが旅館だとやっと分かった。
「予約していた笠井です」
「本日は、お寒い中、当旅館へお越し頂き、誠にありがとうございます。笠井様、露天風呂付き客室、三時間貸し切りで賜っております」
「!?」
驚く悠斗を他所に、悟は雑談をしながら宿帳に記帳し、タオルを受け取った。
館内の雰囲気を楽しみながら、仲居に部屋を案内される。
「こちらになります」
“椿”とだけ書かれた名札が下げられていた。
「鍵は中から掛けられるようになっております。お時間には気をつけて下さい。それではお楽しみ下さい」
二人もお辞儀をしてから、扉を引いて開け、鍵をかける。
「おぉ、思ったより広いな」
「すごい! 兄ちゃんすごいっ!」
さっきの不満も忘れて、無邪気にはしゃぐ悠斗に笑う。
「こういうのって中々予約出来ないんじゃないの?」
「普通はな、ちょっと辺鄙なとこにあるからじゃないか? さすがに一泊は色々と無理だったけどな」
なるべく近場で探していると一件引っ掛かったのが、この旅館らしい。
「子供同士でも大丈夫なの?」
「大丈夫らしいけど、念の為に二十歳って書いた」
ニッと笑うが、本当に大丈夫なのだろうかと不安になった。
「時間もねぇし、メインにしようか」
そう言いながら、ボディーショルダーを取って、上着を脱ぐ。
「メインって?」
「聞いてたろ? 露天風呂付き客室だって」
確かに、帳場にいた人が、そう言っていたのを思い出し、急に静かになって、頬を染めた。
「忙しいやっちゃ」
上着をハンガーにかけて、シャツやズボン、下着は座椅子に適当にかけ、早くも素っ裸になる。
「悠斗も早く来いよ」
悟が声をかけてから風呂へ向かい、かけ湯をしているまでもが見えた。部屋のすぐ隣が露天風呂で、しかも透明のガラス張りだったから、嫌でも視界に入ってしまう。
「……」
自分が落ち込んでいるのを見て、プレゼントをくれたり、ここに気晴らしに連れて来てくれたのだろう。悟の好意に答えないと、と決心をして三時間しかないのを思い出し、服も揃えず裸になった。
「やっと来たか。って何で隠してんだよ」
帳場で渡されたタオルで胸から大事な所を隠している。
「やっぱり恥ずかしいし」
「はは、悠斗らしいか」
そう笑って、早々にタオルを剥ぎ取る。
「あ! ちょっと、ん……う」
手首を掴まれ、熱いキスを送られる。
「はぁ……いつもより興奮するな。早くかけ湯して来いよ」
桶を手に取り、背を向けて湯を肩から流す。それらをじっと見られている事にとても緊張する。
階段を登り、手ですくい温度を確かめてから湯船に浸かると、足は少し伸ばせるものの、思った以上に狭くて、更に緊張してしまう。
「気持ち良いだろ」
「うん」
それで会話は途切れ、静かになる。
「……何そんなガチガチなんだよ」
「だ、だって……!」
悠斗は入るときに、見えてしまった。
「何で勃ってるの」
恥ずかしそうに言う。ちらと見ると、悟のペニスが黒い毛をかき分けて、今も首を持ち上げようとしているのだ。
「何で、って……なぁ」
美味しそうな肢体が目の前にあるのだから、反応せずにいる方が無理だった。
「わっ」
後ろ抱きにし、悟は色白の肩に頭を凭れさせる。
「好きな子がこんな格好で一緒の風呂に浸かってんだ。食べて下さいって――今更だろ」
「もう、兄ちゃんが入ろうって……ん」
首に擦りつく。
「食べても良い?」
「何言っても離さない癖に」
耳まで真っ赤だった。
「やっぱ可愛いな」
甘い言葉を耳に、唇で首筋から背に愛撫した。
「ぁ……んっ」
口付けを交わす為、密着をすると硬いペニスが背に当たり、いたたまれなくなる悠斗だったが、悟はもちろん離してくれない。
「んっ悠斗、可愛い」
舌や唇を貪る時の音も、湯の跳ねる音がかき消してくれている。そう思わないと、羞恥に囚われそうだった。
頭を掴んでいた手を肩、腕へと滑らせ、脇腹に差し込み持ち上げる。
「え、何」
悠斗を立たせると、悟の顔に臀部を突き出す姿勢にさせた。そこを両手でしっかりと持たれ、身動ぐ事が出来ない。バランスを取ろうと悠斗は、浴槽の縁を掴む。そうした事によって、より突き出て蕾が見えるようになった。
「ちょっと腫れてる……」
毎日、指を挿入され、よく濡らしていても摩擦している事には変わりないので、少し赤くなっているのだろう。
盗み見ると悟は真剣だったが、臀部をじっくり眺められる事などそうない上に、卑猥な格好のお陰で恥ずかしさは倍増だった。
「口押さえとけよ?」
「え? ひゃ!」
羞恥に耐えていると急に声をかけられ、我に返る隙もあまりなく、ビクンと腰を跳ねさせ、何が起こったのか再び振り返る。
「兄ちゃ……何、して」
悟の顔が先程より、臀部の近くにあるのが見えて、舌で蕾を舐めたのだと分かった。
「……悠斗、怖くないか?」
忘れていたくらい恐怖は微塵もなく、その逆で全身が熱くて、悠斗の中心は特に反応していた。
「大丈ぁっ、いじわる!」
喋る前に、舌がくすぐる。
「……ん、すまん」
まだ真剣だった悟にドキっとした。赤くなっている部分を舐められると、皮が薄くなっている所為もあってか、敏感に反応してしまう。指で蕾を拡げて舌が更に侵入してくる。
「あ、う……!」
舌の根元が入り口を強くなぞり、腰が弓なりになりながらも、浴槽の縁にしがみつき耐える。その様を見て、気持ち良いのだろう、そう思うと堪らなく興奮してしまい、もっと奥まで舐ろうと舌に力を込めて動かした。
時折、鼻息が肌にかかり、悠斗はピクンと体を震わしていると、舌が引き抜かれたが、何もして来ない。
「兄ちゃん……?」
悟は意を決した。
「っこ、今度は何」
さっきより硬い物が、内璧を掻き分けながら入ってくる。
「!?」
それが、指だった事に衝撃を受けた。既に二本目が入り口をくすぐるように引っ掻いている。目が合うと、悟は苦笑をしながら聞く。
「怖い?」
「……ううん」
二本の指の腹で内壁を押されると、不思議な感覚に悠斗は身動く。何かを探っているようで、場所を変えてはいたる所を押していた。
「あぁ!」
声を抑える間もなく嬌声を上げる。一瞬だったが、蕩けてしまうのではないかと思った。
「……これか」
悟に聞こうとするが、再び強く押される。
「あ! あ、あっあっ」
何度も押され、熱は一気にペニスへ集中し、白い液を悟の手に放ち、脱力してしまった。