「悠斗ーこっち来いよ! すげぇ綺麗だ」
「ちょっと待ってー」
悟に呼ばれた悠斗は、雪景色の写真をカメラに収めている。
二人は地元から北に位置する、他県の佐上河(さがみがわ)に一泊二日の旅行に来ていた。
佐上河は、氷点下になると滝が氷る現象が見られる、冬の観光地として有名な場所である。その現象は、半日以上かけて山を登らないと見れないので、断念したが雪自体を目にする事が少ない所為か、悠斗が楽しそうで安心する悟だった。
「すごい! すごい、すごい、すごい」
「大袈裟だな」
「本当にすごいんだもん」
人混みは避けられないものの、景色は本当に綺麗で、辺り一面に積もった雪が、木漏れ日で反射してキラキラと輝きを放つ。
「まぁ、そろそろホテルに荷物預けようぜ? もうチェックインも出来るし」
「あ」
景色に感動し過ぎて、二人分の荷物を悟に持ってもらっていたことを忘れていた。しかも、悠斗の方が一回り大きい……。
「ここ?」
「そ」
少し新しい雰囲気のコンクリートの建物が目の前にそびえ立つ。旅館かビジネスホテルかと迷ったが、予算の都合上、ビジネスホテルという結果に。
「予約していた笠井です」
「笠井様、一泊のご予約ですね。本日は当店をご利用頂きまして、誠にありがとうございます。こちらにサインを頂戴してもよろしいでしょうか」
伝票へ記入していく。
「こちらがお部屋の鍵です」
悟は荷物を持つ為、悠斗が鍵を受け取り、チェックインを済ませた後はエレベーターに乗る。
「三一三は〜? あった」
鍵を開けて中に入ると狭くもなく、広くもなく丁度良いくらいの部屋だと思った。悠斗は入り口のすぐ隣にあった扉を開けると、ユニットバスになっていて、中に置かれている洗面用具などを物色しては、探険気分でわくわくした。
「悠斗ー、出掛ける用意しろよー」
「はーい」
悟に呼ばれるがまま、ベッドルームへ来て、驚愕してしまう。
(!? ベ、ベッドが一つしかない)
そして、枕は二つ。こういう仕様なのか……家族旅行に行ったときは旅館で、ビジネスホテルに泊まるのは初めてだった。新しい記憶では、ラブホテルの仕様と似ている……。予算の都合も嘘ではないだろうが、だからあんなにホテルが良いと言っていたのかとも思えてしまう。しかし、悟なら旅館になっていても変わらない気もする……。妙な事を考えてしまって変な汗が出た。
なんと言っても、今日はーー。
「おい、出掛けるぞ?」
「あ、うんっ」
悠斗は慌てて荷物の整理をし、小振りの鞄だけを持って、再び銀世界へと出掛けた。
「さっぶ」
相変わらず人は多く、観光客の中には外人も結構見られる。三が日ということもあって、家族連れやカップルも多い。
「寒ぃし、手ぇ繋ごうぜ?」
手を差し出し、迷子対策だと笑うが、悠斗は躊躇う。
「……大丈夫かな」
と言いながらもぎゅっと掴み、二人は歩き出す。そわそわしていたが、人混みとこの景色のお陰か笑う人も、内緒話をする人もいない。悠斗の杞憂だと分かった途端、嬉しくなってきた。
(外で繋ぐの久し振りだな)
恋人らしい事と言えば、どちらかの家の中でいちゃついたり、セックスしたり……。熱が上がりそうになる前に悟の手を引っ張り、ご飯屋さんへと向かった。
「なんだ上機嫌かぁ?」
「早くご飯が食べたいなって」
悟が腕時計を見ると、四時を過ぎている。
「もう晩御飯だな」
悠斗の手を引き寄せて、楽しそうに言った。
「まぁ、飯屋はこっちだけどな」
旅先でも方向音痴を披露してしまい、真っ赤にする悠斗だった。歩いて五分の所に目当ての定食屋があったが、大行列が出来ていた。さすがに寒い中を何時間も待つのは気が引けて、少し歩いた場所に小鍋が食べられる店があり、そこに入る事に。
「はぁ〜温まるなぁ」
「うん、美味し〜」
悠斗は白身魚の鍋を、悟は鶏肉の鍋を頼んだ。
「悠斗、ちょっとくれ」
「じゃあ僕も」
それぞれ、取り皿に具を盛り付け交換する。
「ん〜鶏も美味しいね」
「だろ? 悠斗、作ってくれ」
「ごほっ!」
突拍子もないことを言う悟に、噎せてしまう。
「修行中なんだろ〜?」
「そうだけど……」
「今度、二人きりで鍋しようぜ」
ストレートな物言いに、今日は終始心が穏やかではない。いつの間にか相手は完食していて、慌てて食べるも、まだ熱々の具材で舌を火傷してしまった。
「ん〜ひりひりする」
「慌てて食べるからだろ? ほら、行くぞ」
会計を済ませ、外に出ると、再び手を引かれ人混みに紛れた。十分ほど歩いて悟が店を指を差す。その方向を悠斗は見たが、ピンと来ないようだ。
「良いから入れって」
重い扉を開くと、目の前には至るところに食器が並んでいた。
「あっここ!」
「行きたかったとこだろ?」
うんうん、と目を輝かせながら頷く。
「しかし、悠斗が食器好きとはなぁ」
「ん〜ちょっと違うんだけどね」
そう言えば、この旅行の話をしていたときも含みのある言い方をしていたのを思い出し、悟は気になった。
「何が違うんだよ」
「兄ちゃんとお揃いの食器が欲しいなって」
「……うん?」
「二人暮らしするんでしょ? だから二人で選ぼ?」
だからあんなに行きたがっていたのかと、追い討ちをかけるように、次には悠斗が可愛いことを言うもんだから、悟は衝動を抑えるのに時間がかかった。
「分かった」
シンプルなものから、ポップなデザインや模様の食器が沢山だった。
「迷うねぇ」
「何に使うかだな」
二人暮しをするのは大分先の話なので、何がいるかなぁと悠斗は考える。
「僕はコップとかご飯茶碗が良いかなぁ」
「なんもないだろうし、いっそ全部揃えるのでも良いけどな」
確かに二人共、一人暮らしをしている訳ではないので、全て買い揃えないといけないと気付かされ、お金が心配になった。
「つか、もちろん、悠斗が飯作ってくれる想定だよな?」
「っ分かんないよ、下手くそかもしれないし」
「そうなったら一緒に修行だな」
悩んだ結果、ワンプレート式の皿にした。ご飯茶碗やおかずのみを入れるお皿を一枚一枚買うより割れてしまったときや持って帰るときのことを考えると、この方が良いと思った。悠斗は嬉しそうに、二枚の皿を持って会計へと向かう。
悟が財布を出そうとしたが、色々貰ってるからと悠斗に止められてしまう。
もうひとつの目当ての本屋は祝日で閉まっていた為、断念をせざるをえなかった。
「ちと早いけど、帰るか」
「うん」
***
食器を抱えてるんるん気分の悠斗は、部屋に着いてすっかり忘れていたが、ベッドの事を思い出して固まってしまう。
「悠斗、悠斗?」
「へっ!?」
肩を叩かれて、はっとする。
「疲れたろ? 突っ立ってないで、座ろうぜ? それか早いとこ風呂入るか?」
「あ、え、えっとー?」
悠斗の頭がパニックになる。どういう意味なのだろう、と。
「悠斗ー?」
「えっ」
「はは、疲れてんなぁ。やっぱ先に風呂入れよ」
肩をぽんぽんと叩かれ、風呂場へ促された。
「……どういうこと?」
慣れないユニットバスと葛藤しつつ、湯船に浸かりながら、今日の悟の言動を思い出す。悟にしては、健全過ぎる事が怪しかった。
が、風呂から出て来ても、悟は普通にテレビを見て、和んでいるではないか。
(……ううん、まだ分からないよね)
悟が風呂に入る番だ。テレビの音で、紛らわせようとしたが集中出来ず、シャワーの音に身構えてしまう。腰にタオルだけを巻いて出て来たときは、一人で慌ててしまった。幾度となく見ているのに、家とは違う雰囲気の所為で落ち着かない……。しかし、悟は家から持ってきたスウェットを鞄から出して身に付けると、何を話すでなく一緒にテレビを見ていた。
「?」
あの約束は冗談だったのか? そもそも、今日がなんの日か分かっているのだろうか? そんな疑問さえ浮かぶ。
「さぁ、寝るか」
「え!?」
備え付けの時計を見れば、十時を過ぎたところだった。
「え、って明日は早いしな」
何の疑問もなく、明日が楽しそうだと言わんばかりの顔をする。
「そっか」
とは言ったものの、まだ気が抜けないでいた。悟がピンと張られた掛け布団を捲り、入るよう促す。
悠斗が入ったのを確認すると、サイドテーブルの電気を消した。真っ暗になって辺りは見えない。衣擦れの音とベッドの振動で、悟が布団に深く入ったのが分かった。すると、悠斗の体に腕であろう物が巻き付いて来た。
「ひゃ! ……って大丈夫? 体冷めたいよ?」
昼間も手を繋いだときに思ったが、体温が低いのだろうか。などと考えている内に、しっかりと抱き締められてしまう。
「だから抱き枕代わり」
平然を装っているが悠斗の心拍数は一気に急上昇である。ついに来た、と。しかし、悟は笑いながら、おやすみと言って、悠斗の温もりを堪能しているだけで。
「……」
悟の事だから、何か企んでいるに違いない、と悠斗は何度も疑う、なんと言っても今日は悟の大事な日なのだから……。歩き疲れて眠たい筈なのに、余計な思考が邪魔をしてそれどころではない。じっと悠斗は微動だにせず、悟が寝息をたてるのをただ待つ。しばらくして、寝たことを確認してから小さく安堵し、悠斗も考え疲れて眠りにつこうかと思った頃――。
「……そろそろか?」
寝たはずの悟が急に話しかけて来たので、飛び跳ねるくらい驚いてしまう。再び、サイドテーブルの明かりが点き、悟の笑っている顔がはっきり見えた。
「可愛いよな。部屋入ってから悠斗がすげぇ意識してんの」
「!? ……さ、最悪」
ずっと見透かしていました、と明かされた言葉に絶句する。腰に巻き付いた腕を、悠斗は払いのける。
「ごめんな、でも嬉しいんだぜ? だから望む通りに」
「っもういいよ」
「良くねぇ、俺はしたい」
ふかふかのベッドが何度か弛み、悟と向き合うと、悠斗の両足を開かせ、その間へ悟は腰を降ろそうとする。
「や、やめっ」
「……へぇ」
悠斗は急に焦ったが止めるには遅く、そこは布を少し押し上げた形のものがあった。期待していた自分と、バレた事が恥ずかしくて泣きそうになる。
「去年の約束、覚えててくれたんだろ?」
「ん……そうだよ」
弱々しく言う悠斗に優しく笑いながら、股間を擦り付けた。
「!?」
「俺も我慢してた」
それを見ると自身よりも張りは大きくて、鼓動は再び早くなる。
「茶化してすまん」
「ばか」
「悠斗が意識すっから抑えるの大変だった」
肩に頬擦りをして甘えた声を出す。
「可愛くてすぐにでも押し倒したかったけど、どんな反応するのかも見たくて焦らしてた」
いつもストレートな言葉に悠斗はドキドキしてしまう。
「そう、なの?」
「あぁ、だからしても良いか?」
「…………うん」
悟のバッグから少し大きめのバスタオルを出し、悠斗の体を浮かせて敷くと、今度は薬品のような小さなチューブに、アルミの小さな袋を数枚出し、サイドテーブルの上に無造作に置いた。それは何かと尋ねる前に悟の唇に塞がれてしまう。
「ん、悠斗……」
甘いキスのやり取りをしながら、悠斗のホテルの寝間着を捲る。何度そうされるも恥ずかしいものは恥ずかしくて、裾を握って直そうとするが、両手を悟の片手によって頭の上へと移動させられた。そうして結びを紐解けば、きめ細かな白い肢体が表れる。
「こんなに綺麗なんだから隠すなよ」
鎖骨から胸へといやらしい音を立てながら、唇と舌で白い肌を汚していく。
「っ、は」
焦らされた分、熱が上がるのも早かった。
「あっ、そこばっかり」
「メインはまだだぞ」
背中に両手を差し込んで胸を反らし、舌で片方の乳首を潰す。
「あぁっ……あ、ん」
「ん?」
悠斗は悟のスウェットに手をかけ、脱がそうとする。脇の所まで捲り上げると、右手で乳首に触れた。それが、慣れない手つきだからか悟はくつくつと笑い出す。
「悠斗、こそばい」
余裕の悟にむっとした悠斗は止めようとした。
「止めんな」
そう言われ、元の位置へ戻し、ぐっと近づいて肌を寄せた。そして、悟が動いた瞬間。
「やぁっ!? ……あっ……に、いっ」
愛撫とは違った感覚に、また大きな声を上げてしまいそうで、空いた片方の手で口を押さえる。更に乳首を擦り合った。
「……っ気持ち良いか……なぁ」
「う……ん」
唇を震わせながら正直に返事をすると、悟のモノが反応したのが分かって、悠斗が恥ずかしくなった。悟は身に纏うもの全てを脱いで、放り投げてしまう。引き締まった筋肉と反り勃ったモノが目の前に晒された。
「あっ」
悠斗の下着も剥ぐと、苦しそうに先走りの液を垂らしている。悟はその張りに手で掴もうとした。
「ま、待って」
「?」
悠斗からストップをかけられるとは思わなかった。悟の肩を掴み、起こしてベッドに座らせると、四つん這いになった。
「……まじか」
「うん、僕ばっかりだから」
緊張しているのが見てとれた。悟の腹部の中心に顔を近付け、両手を添えると、ゆっくりとした動作で、まず舌が触れる。
「……」
また蕾とは違った温かさで、身震いをした。しかし、次にはキャンディーを舐めるような感覚だったことに思わず笑うも、悠斗は真剣なのか聞こえていないようだった。
少ししてチラっと見上げては、悟の反応を伺って来る。
「上手い上手い」
そう言って、頭を撫でると嬉しそうな顔で舐めるもんだから、悟の欲望が更に疼きだす。
「……あ、ん」
含んだ。とうとう愛しい口も犯してしまったことに、恍惚としながら悠斗の愛撫を眺めていた。
「ん、ん、んっん」
「は…………は、ぁ」
ぎこちない舌でくすぐられるのも悪くないなぁと思っていると、悠斗がまたチラチラと悟の反応を伺う。笑ってあげると、恥ずかしそうに視線を逸らした。
舌が亀頭の笠を舐ると、悟も気持ち良いのか、時折声を上げる。それを聞いて、悠斗はまた嬉しそうにして続けた。
「はぁ…………可愛いな」
「ん……っん、ふ……うっ」
疲れてきたのか、ゆっくりだったのが更に遅くなり、悟も手伝うことに。
「ん!?」
急に動き出して、つい離しそうになる。
「はっ……はっはっ、はぁっ。悠斗っしっかり銜えとけよ」
喉に当てている所為か、少し涙目になっていたが、悟は嗜虐心にそそられる。
「んんっう、っふ、ん」
「も、出るぞ」
「んっ!?」
悠斗の口内で、悟のペニスが跳ねたのが分かった。そうして放たれたものは、悠斗の喉元へと流れていく。
苦い所為で少しずつ飲み込んでいるのだろう、喉を鳴らしている。舐めたことはあるが、塊で飲んだのは初めてだった。
「悠斗」
悟が優しく名を呼んで手を広げると、悠斗は虚ろな目をしながら、吸い寄せられるように体を起こして抱き付き、キスをする。
「ん……ん、んん、ん!」
口の中を舐め回し、自身の精液の残りを味わう。
「……はは、くっそまっじぃな。ん?」
悠斗が不満そうな顔をしていた。
「はぁはぁ…………も、せっかく」
「せっかく?」
「……全部、飲むって……決めてたのに」
いつも、悟が阻止してしまうから、今日の特別な日だけでも、と言うことらしい。
「へぇ、嬉しいこと言ってくれるねぇ」
「あっ」
悠斗は仰向けにされてしまう。
「勃起した」
「もう!?」
サイドテーブルに置いていたアルミの袋を一枚手に取り開封すると、円形で半透明の薄い膜が張ったものが出てきた。コンドームだ。悟の方に着けた後に悠斗のペニスを持ち、それを根元まで被せる。
「あれ? 僕も??」
いつも悟だけが着けていたが、今回は悠斗にまで装着されて疑問に思った。
「シーツに付くと面倒」
「あ、ぃ!」
短く答えて悠斗の片方の腿を持ち上げ、チューブの蓋を開けて、透明なゼリーのようなものを中指に乗せる。それを悠斗の蕾に撫でるように塗り付けていく。
「兄ちゃん、や……あ、ぁ、や」
滑りの少ないタイプを買ったので、大丈夫だろうと思う。悠斗の顔色を窺うが、良い方の拒否だった。
「いやじゃないだろ」
ゼリーを増やしながら中を塗られる度、悠斗の全身は奮い立つ。
「気持ち良いって、言ってるけど」
証拠に先端からは先走りの液がコンドームの中に出ていた。挿入を繰り返しては指が増えてゆく。それと同時に悠斗のモノが更に疼き、触ろうとするとすぐに牽制されてしまう。悟も触れてくれないから次第に足をモジモジと動かし出す。
「すぐ気持ち良くさせてやるから」
悠斗の足にキスをして、奥を探った。
「! ま、また、そこ……っ!!」
奥で優しく撫でられた場所を、くっと力を強めただけで、悟の宣言通り、すぐに達してしまった。
「ふっんんーーーっ」
とっさに口を塞いで声を抑えた。コンドームの先がぷくっと膨らみ、精を受け止めた。飛ぶより量が分かって恥ずかしい。悟が早々と零れないように外しては、袋を一枚破り、また悠斗にモノに付ける。今度はゼリーを悟のコンドームの被ったペニスによく塗りたくった。
「悠斗もっと開いて」
恥ずかしい、嫌だ、と言っても悟自身が開かせてくるだろう。
「ん……」
白く肉の薄い双丘の間に隠された一番柔らかな部分を目の前へ晒した。
「ふうん……最高」
「あっ」
惹かれるように蕾の辺りをチロっと舐め、愛おしくキスをする。悟は起き上がり、自身の腿で更に開かせ、よく濡れた蕾に、勃起しているペニスの亀頭までをくわえさせた。
「っ……キツいか」
眉間の皺を緩めてううん、と首を振った。悠斗の首の側へ片手をつくと、押し進めてゆく。その都度、悠斗は小さな喘ぎをもらした。
「ん……はぁっはぁ、入った……?」
「あぁ、ちゃんと根元まで、動くぞ」
始めはゆっくり……何かを探るように動かす。
「あ…………あ……あ、ん」
「すげ、締まる」
動く度に蕾は開いたり閉じたりして悟のペニスを絞ろうとする。
「悠斗の気持ち良いとこどこだろうな」
知っているくせに、じらして楽しんでいるのがあからさまだ。顔を覗き込んでくる。
「ん、知らない」
「そうか、悠斗も知らないなら探さないとな」
器用にいろんな所に当たるよう、足を持ち上げ、角度を変えながらペニスを出し入れしていく。
「んん……ぁっ!」
「奥が良い?」
「知ら……ないってばぁっ」
「ここじゃない?」
もう焦らす事を止めて欲しかった。亀頭の笠で肉の壁をゴリゴリ擦られるだけでも気持ち良くてとろけてしまいそうなのに……。
「ふ、ぁ……!」
そんな事を思っていると、ピンポイントな刺激につい腰をビクつかせてしまった。
「ここ? ここか」
そこばかりを攻め続けながらスピードも増す。
「はぁ……っあぁ! あ、あ!!」
完全に熱に浮かされた悠斗は考える事を放棄した。ただ悟と気持ち良い事をして、欲望に従順になって、悟との約束を果たす。
「兄ちゃんっあ、あっ」
「気持ち良いかっ?」
「んっ……うんっん、近くに来てっ」
今でも充分、繋がっているから近いのに手を広げて悟を求める。体を近付けると背中にぎゅうっと手でしがみついた。そんな姿が可愛いくて悟の動きは更に早くなった。
「あ、兄ちゃんっ大好き、大好きぃ」
「俺もっ悠斗っすげ、可愛い。大好きだ……もう、出そっ」
「ぼくっもっんっんっんっんっ……んあぁああ!!!!」
口を塞ぐのも忘れて盛大に声を上げ、コンドームにはさっきよりも大量の精液が溜まってしまった。
「すげぇ……」
悠斗と悟のコンドームをそれぞれ取り去るとまた袋を破り、ペニスに装着した。
「に……兄ちゃん?」
「コンドーム足んねぇかも」
嬉しそうに言うと、入り易くなった蕾にまた、挿入し犯してゆく。
「悠斗が意識なくすまでな?」
「……ばか、あぁんっ!」
***
「あれ……?」
本当に意識をなくしていたらしい、目が覚めると暗かった部屋の中は、隙間から少し光が射し、夜が明けていた。悟がしてくれたのだろうか、服は着せられていたし、汗まみれだったはずの肌も、あのよく分からないゼリーの滑りも気にならない程度だった。体は軋むが、風呂に入っておこうと思った。悟を起こさないように、ゆっくりベッドから降りる。
「……ん? 風呂入るか」
眠りが浅かったのか、ベッドのちょっとした反動で起きてしまったようだ。
「うん、ごめん起こした」
それだけ言って、夜に用意しておいた服を持ってユニットバスの扉を開ける。閉まる寸前で扉が重たくなった。
「えっちょっと!?」
「一緒に入った方が早い」
扉は閉まり、強引に浴槽へ連れ込まれてしまう。昨夜と同じように、寝間着の紐を解き、下着は履かせなかった為、あっという間に素っ裸になった。
冷水と温水の蛇口を調整しながら捻り、シャワーに切り替える。
「昨日の悠斗、いつも以上にむちゃくちゃ可愛かった」
「うるさい……っも」
悟の手で隅々までよく洗われてしまう羽目になったのは言うまでもない。お風呂に入ってさっぱりした後、悠斗は体が重いというので、ホテルの朝食を簡単に済ませた後、チェックアウトまでベッドで休む事にした。
うとうとしかけていたときだった。背中に重たいものが負荷される。
「っ!?」
「可愛い」
若干息を荒くしていた。
「まだ言ってるの!? も、もう…! んんっ変態」
「悠斗が可愛いのが悪い」
「寝たいんだけど!」
寝不足で機嫌が悪いのか声を荒らげてしまった。
「……戻ったらこんなことしばらく出来ねぇし、気軽に手すら繋げねぇし」
真剣な声になった悟に、悠斗は黙ってしまう。
「すまん、休みたいんだったな」
悟はそう言ってベッドから降りると、テレビをつけてソファーに座った。やってしまった、と思うには遅くてそればかり頭を巡って眠ることが出来なかった。
チェックアウトを済ませ、街をただ道が続く限り歩いた。悠斗は気まずくて、半歩下がって後ろをついて行く。何の為に悟と旅行に行くって決めたのだろう、これではだめだと思った。
「ご、ごめんなさい」
横に来たけど、やはり勇気がなくてボソッと呟くように謝ってしまった。無言でいる悟が少し怖かった。
「いや、俺も急に怒ってすまん。調子に乗って無理させたのによ」
「ううん、兄ちゃんの大事な日なんだから悪くないよ」
「……手ぇ繋ぐか」
「でもさっき……」
「兄弟にしか見えない」
そうなのだろうか、昔はそう見られた事もあったが、今は悠斗は身長も少しだが伸びている、顔立ちもそれなりに幼さが抜けつつあると思う。不安だった。
「意識するからだろ、大丈夫だ」
ぎゅっと悠斗の手を握られ悟を見た。
「ほら、赤らむな」
優しい顔で言われて赤くなるなと言う方が無理だった。
「はは、更に赤くなってんじゃねぇか」
「に、兄ちゃんこそ……!」
そういう悟も若干赤らんでいる。改めて繋ぐことを意識したからだろう。
「悠斗のが……おあいこだな」
「兄ちゃん」
「ん?」
「遅くなったけど、誕生日おめでとっ!」
急に飛び付いて来た悠斗に、帰りも二人分の荷物を持っていた悟はバランスを取れず、新雪にダイブしてしまった。
2008.07.27 完成
2018.01.01 追加
2024.04.08 加筆・修正