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GOD GAME
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「何故そう仰るの御殿氏…」
「神という特権を使い、気に入らないという不当な理由で人間を殺める事は下界の均衡を崩します。もしも貴女方が仰るように人間が愛欲による犯罪を犯したとしても下界には下界の法的機関があり、その機関が罪人を裁く下界のルールがあるからです。遥か昔から我々神と人間は天界と下界で住み分けていたからこそ世界の均衡がとれていたのです」
「けれど不浄な人間は増える一方だわ…ワタシ達神は人間をあんな欲集りに造った覚えはないのよ…造り直しの儀を施されて当然…」
「僕には貴方方のお考えには賛同できかねます。それでは失礼致します」
「…チッ。オンボロ神社の弱小神の分際で…。フフ…でもまあ…ワタシはいつでもアナタを堕とせる方法を握っているのよ御殿氏…フフフ…フフフフ…」





























日本―――――


ガタンガタン…ガタンガタン…

車窓に田園風景が移り行くローカル列車。客は老夫婦がぽつりぽつり数組乗車しているだけで閑散としている。
「……」
ガタンガタン…
電車に揺られ、4人掛けの席窓際にメア、向かい側の通路側で肘掛けに頬杖ついたアガレス。メアはこの任務が始まって以降アガレスとは一切口をきいていないし、顔を伏せている。
――き、気まずい…――
こちらに非は無いものの、表面では無表情を保つが罪悪感で頭の中がぐるぐる。任務の事など二の次なアガレス。
『きさらぎー、きさらぎーお降りの方はお忘れもののございませんようー』


スッ…、

「!」
やはり伏せたまま立ち上がり電車を降りていくメア。降りる駅名などとうに忘れていたアガレスは、メアを追い掛ける形で慌てて降りた。





















京都、きさらぎ――――

江戸時代にタイムスリップしたかのような建造物が建ち並び、日本の和を肌で感じる事のできる町を歩く2人。初めて来る日本に、小学生のようにキョロキョロ辺りを見回し、新鮮な光景に感動しているアガレス。一方のメアはスタスタ先頭を黙って伏して歩いていくから…
「ん。ダーシー殿?」
アガレスは見失ってしまった。
「ダーシー殿?」
少し引き返して路地裏を覗くと。けして通路ではなさそうな路地裏をさっさと歩いて行くメアの後ろ姿を発見。慌てて追い掛けるアガレス。





















メアを追い掛け路地裏を抜けると。そこは新緑が美しい木々が広がるちょっとした隠れスポット。
そよ風に揺れる木々の葉達が奏でる葉音がまた、涼しげで心地良い。
「ダーシー殿」
メアは新緑の中に見落としてしまいそうな、苔の生えた古い石段を登っていく。アガレスも石段に一歩足を踏み入れる。
「御殿…神社」
石段の脇には、風化して文字がなかなか読めないが確かに石碑に『御殿神社』と彫られていた。
「……」
ふと石段の一段目から見上げる。生い茂る新緑の中にひっそり佇む長い長い石段。メアはもう中頃まで登っている。
「これが日本の神社というものか」
ポケットに手を入れたまま石段を登るアガレスだった。



















御殿神社拝殿――――


ジー、ジー、ジリジリ、
「はぁ、はぁ…」
200段は楽にあった石段を登り終え、額から吹き出る汗を拭うアガレス。頂上にも新緑の木々が生い茂げ、木々に住み着いた蝉達の鳴き声が暑さを倍増させる。
「此所が…はぁ、はぁ…ダーシー殿が言っていた御殿神社…か」
拝殿と本殿がしっかりある神社…と言っても名の知れた立派な神社のそれとは違い、赤が剥げて下の木の茶色が見えていて、苔も生えた本殿。賽銭箱の木も風化してボロボロ。神主の居なくなった忘れ去られた寂れた神社という例えがまさに相応しい外環。だが、此所は下界かという程静寂に包まれており、人知れず場所に在る為か心地良く、心が安らぐ場所。
「なかなかに良い場所だな」
「……」
メアは相変わらずアガレスに背を向けて黙り。原因は自分だからとアガレスも怒るに怒れないし、どう接して良いのか分からず。


パタパタ、

そんな間にメアは本殿の裏へとパタパタ足音をたてて行ってしまう。
「ダーシー殿」
たとえ走っていてもメアの歩幅ならアガレスは歩いてで追い付く。歩いて裏にある本殿へまわる。そこには縁側があり、口元が欠けたヨモギ色の湯呑みが一つ置いてあるだけ。人の気配はしない。
「御殿さーん」
外から縁側に両手を着き、本殿を覗きながらようやく今日初めての言葉を発するメア。
「御殿さーん。御殿さーん。お留守ですかー。ダーシーでーす。ダーシー・ルーダでーす」


しん…

居ないのだろうか。昼間でも真っ暗な本殿の中からは返答は返ってこないし、物音一つしない。
「御殿さーん」
それでもまだ呼び続けるメア。アガレスも辺りを見回す。すると…
「あ…」
「?」
本殿正面から姿を現した紺色の学生服(ブレザー)を着た1人の少女と目が合った。
――参拝者か――
ツンツン、
メアの肩を指でつつく。
「何?」
やっと振り向いたメアの目が泣いて真っ赤に腫れていたから一瞬ギョッとしたがアガレスは、学生服の少女を顎で指す。
「人が」
「あ。参拝に来た人間の子かな」


パッ!

「あれ」
すぐ本殿の柱に隠れてしまう少女。アガレスとメアは顔を見合わせる。


















「あまり人間が来るような場所ではないから驚いただけだろう」
「そうだね。おーい。私達怪しいモノじゃアリマセーン」
その片言が余計怪しいとアガレスは内心思っていたが昨夜の罪悪感もあり、口には出せなかった。
ひょこっ。
「!」
メアが柱から顔を覗けば、少女はビクッ!としてジリジリ後ろへ下がる。
「大丈夫。怪しいモノじゃアリマセーン!私達もお詣りに来たんだよ。貴女もいつも来てるの?あんまり知られてない神社なのに。それに貴女みたいに若い子が。珍しいね!」
「あ…えっと…その…」
オロオロ。人見知りなのか下を向いてもじもじしてしまう少女の手の中には5円玉。賽銭だろうか。
「御殿さんの事…呼んでいましたけど…。御殿さんの事…知ってるんですか…?貴方達も御殿さんが見えるんですか…?」
「えっ!?貴女、御殿さんが見えるの!?」
コク、
恥ずかしそうに頷く少女。
アガレスとメアは神ではなくなり低俗となった故、人間に姿が見えて仕方ないのだが、ちゃんとした神である御殿の事を知り、見えるという少女にメアは目をギョッとさせている。
「稀に居る」
「えっ?」
「幽霊が見える霊感体質の人間が居るだろう。要はそれと同じ事だ」
「そっか。…あ。だからアガレス君も人間の彼女がいるんだね」
「……」
スルーするアガレス。
「あ、あのっ…貴方達は一体…?」
「うーん。話せば長くなっちゃうよねっ」
「ああ」
「今は違うけど一応私達前は神様だったんだよっ!」
「あっ…だ、だから御殿さんの事をご存じなんですね…!」
「うんっ。貴女はいつも此所にお詣りに来てるの?」
コク、恥ずかしそうに人見知りしながら頷く。
「じゃあ御殿さんがこの時間何処に行ってるか分かったりするかな?」
「あ…。多分、お散歩中です。この時間よくお散歩する、って…」
「お散歩?御殿さんらしいほのぼのしてるなぁ〜」


ドサッ、

「ん?」
石段の方から物音がし、3人一斉に振り向く。
そこには白と紺の着物姿で黒髪おかっぱ頭の15、6歳くらいの容姿の1人の少年が。地面には今の物音の正体であろう、鼈甲飴、お茶缶、金平糖が入った袋。
「はわわわ…!そこにいらっしゃるのはもしや、ダーシーちゃんとアガレス君ではありませんか?」


ダッ!

メアは一目散に少年の元へ走る。
「御殿さーん!!」


















ぎゅっ!
御殿の両手を満面の笑みで握り締め、ぶんぶん上下に振るメア。御殿も満面の笑み。
「御殿さん御殿さん!1000年振りです!ダーシーです!お元気にしてましたか!」
「はい〜!僕はとっても元気でしたよ!ダーシーちゃんが天界を追放されたとお聞きしてとても心配していました」
「私の心配を!?ありがとうございます〜!!すっごくすーっっごく嬉しいです!!」
きゃっきゃ楽しげに再会を喜ぶ2人。メアがいつもの笑顔に戻っていたからアガレスはふぅ、と溜め息を吐き安心。


チラッ…

「ん」


パッ!

アガレスを横目でチラッと見て、その視線に気づいたアガレスが見れば少女はパッ!と顔を伏せる。かなりの人見知りとみえる。
「アガレス君も大変でしたね」
「ああ」
御殿は買い物袋片手に、アガレスとは正反対の優しい笑顔で話し掛ける。
「あっ。アガレス君とこうしてお会いするのは初めてでしたでしょうか?」
「会議で」
ポン!
なるほど!手を叩く御殿。
「それがありました!でも実際にこうして話した事はありませんでしたよね」
「ああ。そうだな」
「遠路遙々よくいらっしゃいました。さあさあ。狭い場所ですが、中へ御上がりください。調度今しがたお茶とお茶菓子を買ってきたところです。由樹ちゃんも。ね」
にっこり。
人見知りで恥ずかしそうにする少女にも優しく御殿が微笑めば、少女由樹はコクコク、恥ずかしそうに頷いていた。





















本殿――――――

寺の住職の家のよう(広さは無いが)に二間続きの木造部屋に案内された。壁は傷み、畳は色褪せ、古来より使われてきた風格が漂う。陽射しが調度あたらない位置だからか、室内は昼間でも薄暗い。けして広くは無いし綺麗ではないが、縁側から射し込む風や虫の音、葉音が安らぎを与えてくれる。
長い木製のテーブルを真ん中に、アガレス、メアそして向かい側に由樹が座布団に腰掛け、御殿がお茶を持ってくるのを待っている。
待っている間もやはり由樹は正座し、顔を恥ずかしそうに伏せて肩は上がっている。メアはテーブルに手を伸ばして乗せて、由樹の緊張を解してあげようと考える。
「由樹ちゃんだっけ?」
コクコク、頷く。
「由樹ちゃん高校生?」
コクコク、
「何年生?」
「に、2年生…です」
「そっか!でもよく御殿神社を見付けたね!此処、あの路地裏からじゃないと来れない道の造りになってるから。昔は建物も全然無かったから御殿神社はきさらぎ駅からも見えたんだけどね。今は高いビルや建物がたくさん建っちゃったから。ほとんどの人間が分からない場所なのにすごいねっ!」
「ち、中学で仲間外れにあってて…学校に行きたくなくてふらふら歩いてたらたまたま辿り着いて…お詣りしていたら御殿さんが見えて…」
「そうだったんだ…。由樹ちゃん辛かったね」
由樹は顔を上げる。可愛らしい整った顔立ちで、頬を恥ずかしそうに赤くして微笑む。
「でも御殿さんが居たから…今は幸せです…!」
その笑顔にアガレスとメアは察するものがあったが、敢えて口には出さなかった。
「皆さーんお茶のお時間ですよー」
おぼんに湯呑みと茶菓子を乗せて運んできた御殿。各自の前に湯呑みを置く。
「はい。メアちゃんどうぞ」
「わあい!私、御殿さんが淹れてくれたお茶大好き!」
「それは良かったです。はい。アガレス君」
「……」
「おや?あっ。大丈夫ですよアガレス君。このお茶とお茶菓子は人間界に流通しているものではない神用に作られたものです。味がするだけで、消化器官が無くとも大丈夫な、味を楽しむ神用の飲食物です。日本にしか売っていない物ですからアガレス君は知り得ませんよね」
「ホッ…」
「はい。由樹ちゃんには人間用のお茶とお菓子ですよ」
「あ、ありがとう…ございます…」
照れながら湯呑みを両手で受取り、ペコペコ頭を下げる由樹。

















「本当だ。吐き気を催さん」
「でしょう!」
恐る恐るお茶と菓子を口にしたアガレスだったが、全く吐き気を催さずしかも初めて感じるお茶と菓子の美味な味わいに感激。表情こそ薄いが、目がキラキラ輝いている。
それを見た御殿がメアにピースをするから、メアも満面の笑みでピース返し。
「アガレス君とメアちゃんはヴァンヘイレンに入ったのですよね。今日はヴァンヘイレンの御用事で日本へ?」
「はいっ!日本の京都に造り直しの儀を施される予定がある人間が居るって報告を受けて私達が来ました!」
「造り直しの儀ですか…。恐ろしいですね…。それはどの辺りで起きる予定があるかは分からないのですか?」
「残念ながらそこまでは…」
「そうですか…。僕も造り直しの儀には反対です。人間を神々のしもべとするだなんて神々の傲慢ですし、天界の権力を下界に行使しては何万年と均衡のとれてきた天界と下界との関係が崩れてしまいますから」
「やっぱり御殿さんも私達と同じ考えでしたね!優しい御殿さんならきっとそう思っているって信じてました!」
目を輝かせ、久し振りの再会に能弁になるメア。
「あ。そういえば。昔、御殿さんから貰った御守りをこの前ヴァンヘイレンの任務で行った先でベルベットローゼ神に壊されちゃって…」
そう言ってブレザーのポケットから取り出したのは、ボロボロで原型をとどめていない御守り。御殿は裾で口を隠しながら「あらあら!」と言い、由樹は悲しそうにうんうん、頷いている。
「これではもう御守りの効力がありませんね。後で新しい御守りをお渡ししましょう」
メアは目を輝かせ、両手を合わせる。
「本当ですか?嬉しいっ!」
「確か由樹ちゃんと色違いの御守りが一つ残っていましたから」
由樹は恥ずかしそうにしながらも、首に紐でかけてあるピンク色の御守りを見せる。恥ずかしそうに。
メアは一瞬目を開いてすぐ笑う。
「あ…。あはは。じゃあ由樹ちゃんと色違いのお揃いだねっ」
コクコク、恥ずかしそうにしかし嬉しそうに頷く由樹。アガレスは、メアをチラッと横目で見ていた。


















「そういえば。日本の神は御殿氏以外アドラメレクの配下となったのか」
アガレスは正座で痺れをきらした為、胡座を組む。
優しい笑顔だった御殿の表情が真剣になる。
「はい。神といいましても僕のような小さな神社の神も日本には数十万と居ります。が…全員アドラメレク神の配下つまり、造り直しの儀に賛同しています」
「そうか」
由樹は悲しそうに、うんうん、頷きながら話を聞いている。
「昔は神主さんが居たこの神社ですが、時が経ち神主さんの居なくなったこの神社は衰退してゆくばかりでそれに伴い、僕も昔のように神の強い力を使えなくなってしまいました。それ故アドラメレク神達には立ち向かえず、造り直しの儀を行う神々にも対抗できず…此処でただただ造り直しの儀を施されていく人達を見ているしかできないのです。情けないです…」
「仕方ない。見たところ神主が居なくなって数1000年は経っている。社殿の傷みも激しい。老体の御殿氏が戦いに出たところで結果は見えている」
「そうですよ…。何も、御殿さんが悪いわけじゃないんです!悪いのは全部ぜーーんぶアドラメレク神達ですよっ!御殿さんが罪悪感を感じる必要は無いです!だから御殿さんは無理しないでくださいね。もう3000歳を越えているんですから…」
メアも心配そうに言うから御殿は「ありがとうございます」と、申し訳なさそうに礼を言う。
「そうだっ」
パン!と手を叩く御殿。
「アガレス君とダーシーちゃんは任務期間中何処かのお宿にお泊まりになられるご予定がありますか?」
「あ"…。そういえば先生何も言ってなかったよっ!きっと先生も忘れてるんだー!バカーーっ!」
「でしたら、せっかく1000年振りにお会いできた事ですし期間中は是非本殿に泊まっていって下さい。此処なら僕も居ますし、人間は神々を理解している由樹ちゃんだけですし、アドラメレク神の配下達も来ないでしょうし他所より危険は少ないと思いますよ。如何ですか?」
にこっ。
首を傾げて優しく微笑まれたらメアははい!はい!と元気よく挙手。元気が良すぎて由樹はビクッ!としたが。
「はい!はい!私泊まりたいです!」
「アガレス君はどうですか?」
「申し訳ない」
ペコリ。頭を下げるアガレス。御殿は優しい笑顔で微笑む。
「ふふ。決まりですね。久し振りに賑やかになって僕も嬉しいです!任務期間中との事ですが、此処では戦闘の事は忘れてゆっくり羽を休めて下さいね」





















ゲコゲコ、ゲコゲコ
リーン、リーン

遠くで蛙の鳴き声と鈴虫の音が聞こえる。社殿から灯りが外に洩れている。
「由樹ちゃん、お家は?」
先程の部屋で神用の夕食鮭の煮付け・煮物・お浸し・白飯・味噌汁をとる神3人。と、同じメニューだが人間用の夕食をとる由樹。メアに質問を受け、恥ずかしそうに御飯の方を向く由樹。
「由樹ちゃんは今日から夏休みですから、夏休み中は本殿にお泊まりなさるのですよ」
「そっか…。良かったね由樹ちゃん」
コクコク、恥ずかしそうに何度も頷く由樹。にこにこ由樹に微笑む御殿を見て、メアは笑みながら口を開く。
「御殿さんと由樹ちゃんって恋人同士?」
「え!?」
「!?」
顔を真っ赤にして飛び上がるその行動が全く同じ2人。御殿は両手を前に出して横に振り、由樹はフルフル首を横に振る。
「ちち違いますよ!ダーシーちゃん何を仰るのですか〜!」
フルフルフルフル。首を振る由樹。メアは味噌汁茶碗を持ちながら
「仲良さそうだったから」
と、笑っていた。アガレスはそんなメアをまたチラッと横目で見てすぐ前を向き直し、黙々と夕食を食していた。






















22:00―――――

「はぁ〜。久し振りのお風呂気持ち良かった〜」
用意された二組の布団が敷いてある和室に、浴衣姿でタオルで汗を拭きながら戻ってきたメア。自慢の長いツインテールをほどいている。和室ではアガレスが布団にうつ伏せになって読書。
「……」
アガレスと極力話をしたくないメアは、パタン…、障子戸を閉めるとペタペタ足音をたてて廊下を歩いていった。




























「御殿さんから2個目のプレゼント貰っちゃった。ふふん♪」
裸足で暗い廊下をペタペタ歩きながら、先程御殿から貰った新しい赤色の御守りを嬉しそうに眺めるメア。
「由樹ちゃんと色違いなのが…なぁ。ま。いっか!御殿さんどこ行ったんだろう?1000年振りに花札やりたいなぁ〜」
ひょこっ。廊下の角を曲がり、縁側のある先程集まった部屋を覗くと。
「……」
暗い中、月明かりに照らされ縁側に並んで腰掛けている御殿と由樹の後ろ姿を発見。2人は会話もせず手を繋いでいたのを見て、メアは気付かれない内にこっそり…足音をたてないよう部屋へ戻った。

















ガラガラ…

用意された和室へ戻ってきたメア。布団にストン…と膝から着く。
「そういえばダーシー殿。今回の任務内容の事だが。何故御殿氏に嘘を吐いた。造り直しの儀が起きる予定の地点は…、」
顔をメアに向けると。正座をして顔を覆っているメアが居た。肩をヒクヒク動かして、泣き声を押し殺して。
「ひっく…、ひっく…」
「……」
先程の御殿と由樹のやり取りを見ていれば、彼らが否定しても一目瞭然だったからアガレスは本を閉じ…
「ひっく…、ひっく…」
昨夜のように何も言わずに、メアの頭を右手で撫で左手で背中をポンポン軽く叩いてやりながら慰めた。メアは顔を手で覆ったまま。
「ひっく…ひっく…御殿さん…、御殿さんも…、」
「……」
ポン、ポン
「私…フラれてばっかりだね…笑っちゃう…。愛欲神だったのに…ね…ひっく、ひっく…」
「……」
「愛欲神だったからかな…ひっく…、愛欲神は人間を好きな人と幸せにするのが…ひっく、仕事だったから…。ひっく、御殿さぁん…ひっく…」
「すまない」
「アガレス君は悪くないよ…ひっく…御殿さんも悪くない…。でも涙が止まんないよっ…泣いてていいかな…」
「ああ。大丈夫だ」
泣き止むまで頭を撫でて肩を叩いて慰めてあげていた。罪悪感もあったからだろう。





























「御殿殿」
「おや。アガレス君こんばんは」
「ああ」
由樹は奥の部屋で既に眠り。先程の縁側で1人、月を見上げている御殿の後ろに立つアガレス。表情が薄く無愛想なアガレスにもにっこり優しく微笑む御殿。
「アガレス君もお掛けになって下さい」
「雌ぶ…由樹という人間の事だが」
「?由樹ちゃんがどうかなさいましたか」
首を傾げる御殿。アガレスは立ったままポケットに手を入れて話す。
「単刀直入に聞く」
「…?はい」
「恋人関係だろう」
「え!?ちちち違います!違いますよ!ままま全く!ダーシーちゃんといいアガレス君まで突然何を言い出すのかと思えば〜!!」
真っ赤にして両手をぶんぶん振って否定する御殿。しかしアガレスは真剣。
「真面目な話だ。ダーシー殿の前では聞けん事が多々あるからな。御殿殿。あの人間と恋人関係になってどれくらいが経つ」
御殿は観念したのか、顔を真っ赤にして着物の裾で口を隠し、目線を外しながら恥ずかしそうに答える。
「ま、まだ2週間程でしょうか…。正確に数えてはおりませんが」
「あの人間とは金輪際関わるな」
「え。ど、どうしてですか…?そ、それは確かに神と人間では住む世界が異なります。で、でも…」
「あの人間の事を思うなら尚の事だ。今すぐにでも恋人関係を解消しろ」
「な、何故ですか?僕と由樹ちゃんがそうであって困る事とは何ですか?」
「俺と同じ末路を辿る事になる」
「…!堕天…される…のですか?」
「ああ」














しん…

ゲコゲコ、ゲコゲコ、
蛙の鳴き声しか聞こえてこない静寂に包まれた辺り。2人の間に沈黙が起きる。
「ダーシー殿は嘘を吐いたが」
「ダーシーちゃんが…嘘を…?」
「この任務。京都で行われる予定の造り直しの儀はこの御殿神社で。由樹に行われる」
「…!!」
御殿は目を見開く。
「これで分かっただろう。由樹は不浄な恋愛感情を御殿殿に抱いてると見なされての事だ。…本当に大切ならば関係を解消しろ」
「…分かり…ました。人間の由樹ちゃんには由樹ちゃんが生きる世界があります…。人間の由樹ちゃんが幸せになる相手は人間でしかない…。分かっていた事なのですけれどね…。こんな廃れた誰も来ない神社に毎日熱心に参拝に来てくれる由樹ちゃんが一番大切に思えてしまったのです…。アドラメレク神達の方針に対し"天界が下界に手を加えると下界の均衡を崩す"と偉そうに発言しておきながら…。僕は何も分かっていない…由樹ちゃんの事を考えていない自分の事しか考えていない駄目な神でしたね…」
しゅん…と下を向く御殿。ゲコゲコ、蛙の鳴き声だけが聞こえる。
「御殿殿の気持ちはよく分かる」
「アガレス君もどなたか人間の方に恋心を抱いた事があるのですね」
「…ああ。もう向こうは忘れているがな」
「…?…それにしても僕はどう由樹ちゃんに償えば良いのでしょう…」
「全力で守る。それしかない」
「はい…」
「俺とダーシー殿も手を貸す。その為に日本へやって来たのだからな」
御殿は、畳に額を付けて深々土下座をする。アガレスはびっくり。
「よろしく…お願い致します…」
アガレスと御殿の会話は、奥の部屋で布団に入りまだ眠っていなかった由樹に筒抜けだった。
「……」




















ガラガラ、

和室へ戻ってきたアガレス。泣き腫らした目のメアはアガレスを見るとパッ!と背を向ける形で布団の上で寝返りを打つ。
アガレスは隣に敷いてある布団に片膝を立て、頬杖着いて読書再開。
「…どこ行ってたの」
枕に顔を伏せて話し掛けるメア。
「御殿殿の所」
「…何話してたの」
「関係無い」
「……。こんなのが何でモテるんだろうっ!」
また寝返りを打ち、アガレスに背を向け、枕に顔を突っ伏す。


〜♪〜♪〜♪〜

ガバッ!

「どうした」
遠くから微かに聞こえてくる音楽にメアはガバッ!と顔を上げる。
「祭り囃子だっ!」
「祭り…バヤシ?」
「日本のお祭りで笛とか鈴の音楽を鳴らすんだよ。それが聞こえる」
「こんな夜中にか」
「だって聞こえるんだもん」
「?」
アガレスは耳を済ます。
「…笛の音」
「でしょ!笛の音だけじゃないけどね!」
微かに。本当微かにだが遠くから聞こえてくる祭り囃子。メアは枕を抱きながら目をキラキラ輝かせる。
「お祭りだぁ!私一度で良いから日本のお祭り行ってみたかったんだよね!どこでやってるのかな?御殿さんに聞いてこよっ!」
「だから。こんな夜中にやる祭りなのか」
「え?あ…本当だ」
壁掛け時計を見ると時刻はAM2:00を指している。
「丑三つ刻だな」
「こ、怖い事言わないでよ〜!!」















アガレスは本を閉じ、布団の上に胡座をかき、着物の裾を腕捲りする。
「アガレス君?」
「何か嫌なモノが来たな」
「え!私何も感じないよ?」
「鈍感」
「ムカッ!」
ぷうっ!と頬を膨らませるメア。
「嫌なモノって…由樹ちゃんを造り直しの儀にする神々?」
「それも混じっているが、それとは別のモノも祭り囃子の他に別に居る」
「え!?どうしよう!早く御殿さんと由樹ちゃんの所に行かなくちゃ!」
メアはほどいた長い髪をなびかせ立ち上がり、障子戸に手をかける。
「ダーシー殿」
「何?」
「元気になって良かった」
「…!アガレス君と一緒だからかなっ。…やっぱり好きだよ。すぐに忘れらんないよ。私の気持ちには答えられなくて良いけど、これからも仲間として一緒に居てね」
「ああ」
「うんっ!」
やっと普段のメアの笑顔に戻ると、部屋を出て2人は暗い廊下を走っていった。



















♪〜♪〜♪〜

「音が近付いてきたな」
「御殿さーん!由樹ちゃーん!」


ガラッ!

「アガレス君!ダーシーちゃん!」
襖が開くと、血相変えた御殿が、白装束に身を包んだ由樹の手を引き現れた。
「御殿さん!由樹ちゃん!」
「先程アガレス君からお話を伺いました」
「え"!アガレス君、私達の任務の事全部喋ったの!?」
「ああ」
「サイッテー!アガレス君のバーカ!えっと!なら話は早いです!御殿さん。祭り囃子聞こえますよね?」
「はい!あれはこの神社が造られた時からこの神社を我が物にしようとしている隣山の御子柴神社の御子柴さん達なんです!」
「え!祭り囃子の正体をご存知なんですか?」
「はい。何千年もこうして丑三つ刻に祭り囃子を鳴らして仲間を引き連れては神社を譲れと迫ってきましたから…」
「通リャンセ。通リャンセ。ココハドコノ細道ジャ。天神サマノ細道ジャ。チョット通シテクダシャンセ。御用ノナイモノ通シャセヌ。コノ子ノ七ツノオ祝イニオ札ヲ納メニ参リマス。行キハヨイヨイ。帰リハ怖ヒ。怖ヒナガラモ通リャンセ。通リャンセ」
「…来た!」
祭り囃子に混じり、通りゃんせの歌が石段を登ってくるのが聞こえる。
「由樹ちゃんが居る時に御子柴神達がやって来るのは初めてです!アガレス君とダーシーちゃんの任務内容からすると、アドラメレクの配下である御子柴神は由樹ちゃんを狙って来ています!由樹ちゃんは先程水と塩で清めておきました。アガレス君!ダーシーちゃん!本殿の裏の雑木林を降りるときさらぎ駅が見えます!どうか…どうか由樹ちゃんを連れてヴァンヘイレンへ…!」
「!?」
御殿の思いもよらぬ発言に由樹は勿論、アガレスとメアもびっくり。目を見開く。
「ヴァ、ヴァンヘイレンって!?大丈夫ですよ御殿さん!御子柴神達を今私達が倒せば由樹ちゃんはずっと此処に居れま、」
「たとえ今御子柴神を倒せたとしても、僕の傍に居たら由樹ちゃんは造り直しの儀の対象としてすぐまた別の神に狙われてしまいます!!」
「…!」
目を強く瞑り、必死にしかしとても悲しそうに声色を強くして言う御殿が何を言いたいのか、アガレスとメアそして由樹は分かった。















「嫌です…!私…、私っ御殿さんと一緒に居たいです…!ずっと…ずっと…!私の夢、御殿さん知ってますよね…?なら私は此処から離れる事なんて…!」
「ごめんなさい由樹ちゃん!!僕が…僕が由樹ちゃんの人生を全て狂わせてしまったんです…!僕が、神である僕が人間の由樹ちゃんを好きにならなければ由樹ちゃんは造り直しの儀の対象になる事は無かったのにっ…!」
「御殿さん…」
「通リャンセ。通リャンセ。ココハドコノ細道ジャ。天神サマノ細道ジャ。チョット通シテクダシャンセ。御用ノナイモノ通シャセヌ。コノ子ノ七ツノオ祝イニオ札ヲ納メニ参リマス。行キハヨイヨイ。帰リハ怖ヒ。怖ヒナガラモ通リャンセ。通リャンセ」
「…!石段をもう登ってきた…!アガレス君、ダーシーちゃん本当に申し訳ありません…。どうか…どうか由樹ちゃんを…!」
フルフル首を横に何度も振る由樹。しかし御殿はメアに初めて見せるとても切ない表情で必死に頼み込むから、メアは自分の左胸をドン!と叩く。
「任せて下さい御殿さんっ!小船に乗ったつもりでいて下さいっ!」
「大船な」
「ムカッ!アガレス君に言われるとイライラ〜〜!」
「よろしくお願い致します…!」
深々土下座をする御殿に、メアは複雑な切ない表情。
「行こう!由樹ちゃん!」
行きたくないと首を振る由樹の手を握り、本殿裏口へ駆ける。メアに連れられながらも由樹は顔だけを後ろに向ける。
「御殿さん…!」
にこっ。
無口で声が小さい由樹が振り絞った声に呼ばれ、御殿はにこっ。と優しく笑むと…


パタン!

襖を閉めた。閉めると障子戸に映る室内の影。障子戸に映る影が鷹の形になり、由樹はびっくり。
「神様ってね。ヒトガタに化けてるだけで、本当は動物や架空の生き物のような形だったりするんだよ。だから御殿さんはアレが本当の姿」
「え…」
由樹の隣を走りながらメアがそう言えば、由樹はもう一度後ろを振り向く。障子戸に映っていた鷹の影はもう居なくなっていた。





















♪〜♪〜♪〜♪〜

「通リャンセ。通リャンセ。ココハドコノ細道ジャ。天神サマノ細道ジャ。チョット通シテクダシャンセ。御用ノナイモノ通シャセヌ。コノ子ノ七ツノオ祝イニオ札ヲ納メニ参リマス。行キハヨイヨイ。帰リハ怖ヒ。怖ヒナガラモ通リャンセ。通リャンセ」
「あら…。御殿氏自らお出迎えとは…。3000年も御殿神社譲渡を粘った甲斐があったわ…」
本殿正面入口。石段を登りきった場所に御殿が立っている。石段を先頭に登ってきた黒い長髪に昭和の小学生を連想させる衿有り赤地に白い水玉模様のシャツ。そして黄色いスカートと黄色い肩掛け鞄の顔色が悪く目付きも悪い女。彼女が御子柴神社の御子柴神。
御子柴の後ろには石段の一番下までズラリ1000もの日本の下級神々(天狗や架空の生物のような容姿)が連なっている。下級神々が吹いている笛や、持っている鈴が先程の祭り囃子の正体だ。
「でも残念…。今日は御殿神社譲渡を頼みに来たのではないのよ…。御殿氏…アナタ最近、神社に人間の少女を呼び入れているわね…。フフフ…。今日は彼女の方に用があるのよ…。彼女…居るのでしょう…会わせて頂けるかしら…?」
「居りません」
「嘘は良くないわ…。ワタシ達に嘘は通用しないわよ…。早く会わせ、」
「居りません」


グワッ!!

御子柴は髪をぶわっと逆立たせ、目は血走った眼をカッ!と見開く。まるで妖怪の容姿。しかし御殿は凛とした顔つきのまま。
「嘘は通用しないと言っているでしょう!!早く早く早く!!少女を出しなさい!!嗚呼早く!!御殿氏!貴方がワタシの前に哀れに膝まづかせてやりたいぃいい!!」
「御殿神社譲渡の件に由樹ちゃんは関係無いでしょう。それに…。人殺しも窃盗もしていない由樹ちゃんを罪人と見なし造り直しの儀の対象にするなんて神々の横暴だと気づかないのですか御子柴神」
「オンボロ神社の神が偉そうにィ!!人間に恋愛感情を抱いた神が偉そうにィ!!居るのよ!!居ないはずないのよ!!アナタ達!本殿の中を隈無く探しなさいィ!!」



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