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GOD GAME
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腕をアガレスの肩に回され、びっくり。
「い、いいよ!平気!今の冗談だよ!このくらい平気だよ!力は失っても体は神の丈夫なままだから!」
と言っても聞かずに肩を貸すのは、自分が敵を前にして気絶してしまった事が申し訳なかったからだろうか。肩を貸して並んで歩くアガレスを見ながら、メアは口をへの字にしながら開く。
「肩を貸すんじゃなくて…」
「何だ」
「おんぶが良い…な」




























第4校舎医療棟――――


バンッ!

「カナちゃん!!」
「シーッ…」
「あっ…」
カナと、カナとペアを組んでいた少女が運ばれた病室の扉をバンッ!と勢いよく開き駆け込んだメア。室内の医療班に口の前に人差し指をたてて「シーッ」と言われてしまい、自分の口を覆う。
「大丈夫。この子達をはじめ、襲撃を受けた全員命に別状は無いし後遺症も残らないわ」
「良かったぁ…」
医療班の女性に言われ、胸を撫で下ろすメア。眠っているカナ達患者を起こすと悪いから…と言われ病室をやんわり退出させられた2人。


パタン…、















「カナちゃんもみんな無事で良かったぁ」
第4校舎廊下を並んで歩くアガレスとメア。すると前方から、腕や足に包帯を巻いた他クラスの少女2人が話しながら歩いてくる。内1人はあの黄色いリボンの少女だからメアは目を見開く。
「キユミ、怪我した腕丈夫?」
「ありがとう。大丈夫だよ」
少女2人がアガレスとメアには見向きもせず脇を通り過ぎ、階段を降りていく。
「あの子…」
「あいつを知っているのか」
「え?うん。知ってるっていうか…え!?アガレス君あの黄色いリボンの子知ってるの?!」
バッ!とメアがアガレスに顔を向けるのと同時にアガレスは外方向くからじと目でジーッ…とアガレスを見るメア。
「やっぱりあの子の事知ってるんだ」
「知らん。ただ聞いただけだ」
「知ってるんでしょ!だってさっき!さっき…」
「?さっき何だ」
顔を真っ赤にし、口をもごもごさせて言いたいけど言えないメアにアガレスは首を傾げるのだった。






















講堂――――――

「1年生及び教師陣が先程悪魔の襲撃に合った。死者は出ていないがこれは異常事態だ。本来悪魔というものは神のようにその土地その土地に生まれるものではない。堕ちた人間が悪魔となるのだ。しかし昨今。堕ちた人間は神々による"造り直しの儀"で殺害される。悪魔は神に先を越されるまいと下界へ降りてきたに違いない。よって。我々の敵は神だけでなく、悪魔も加わった。下界に天界の力をくわえ、下界の均衡を崩す神と悪魔に立ち向かおうではないか!ヴァンヘイレン万歳!」
「ヴァンヘイレン万歳!」
「ヴァンヘイレン万歳!」
ヴァンヘイレン全生徒、教師陣が集まった講堂で演説するヴァンヘイレントップの白髪の紳士に続いて、集まった人間達は天高く腕を挙げ、「ヴァンヘイレン万歳!」の言葉しか知らぬかのように永遠と繰り返していた。



























アンジェラの街―――――

「悪魔も加わって。ますますわけ分かんないよ」
「……」
「私達どうしたら良いんだろうね」
「ますます分からんのはこちらの台詞だ。ダーシー殿。何故ついてくる」
「えっ」
丘の上の廃墟小屋(アガレスの家?)を目指して街を歩くアガレスに、平然とついてくるメア。
「だってカナちゃん達私達以外の1年生は第4校舎で入院中でしょ。1年生宿舎に私だけじゃ寂しいよ。だからアガレス君。今日だけよろしくお願いしまーすっ!!」
「それとこれとは別だ」
人1人やっと通れる路地裏を抜け、ゴシック調の静かなアパートの数々の間を歩く。メアは初めて見る風景にキョロキョロ辺りを見回している。
「それにアガレス君のお家気になっていたし。へー。この辺り静かで中世ヨーロッパみたいな建物だね。私こういう雰囲気好きっ!」
「それは良かった。ではさっさと速やかに早急に帰れ」
「むうっ。どうしてそういう言い方しかできないのっ!あ!待ってよアガレス君!」
さっさと慣れた足取りで小高い丘を登っていくアガレスだった。



















ホー、ホー

すっかり陽が暮れ、辺りは真っ暗。アガレスの住む廃墟小屋に到着してしまった。丘の上から見下ろせるヴァンヘイレンのぼんやりした灯りが美しい夜景で、メアは見とれている。
「ほーっ…。すっごい綺麗…。ヴァンヘイレンを遠くから見た事無かったよ」
「閉めるぞ。3、2、1」
「え!?ちょっと待ってよっ!」
小屋の扉を中からカウントする毎に閉めていくアガレスに慌てて扉のノブを掴むメア。
「0」


バタン!

容赦無く閉める。
「アガレス君ーーっ!!」





















「寝ないクセにベッドがあるんだね」
結局無理矢理入ってきたメア。廃墟で家とは呼べぬ小さな小屋を見回す。廃墟から拾ってきたのか元からあったのかとにかくボロボロなベッド、本棚、テーブル、椅子、そして時折床をカサカサ音をたてて走る虫にメアは顔を歪め、内心、
――来なきゃ良かった…!――
と後悔するのだった。
慣れっ子なアガレスはさっさと椅子に腰掛け、本棚からボロボロで表紙が解れている分厚い本を取り出して読み出す。メアは隣に腰掛ける。
「アガレス君って読書家だっけ?何読んでるの?」


ガタガタ、

「!」
メアが隣に腰掛ければ読書しながらあからさまに椅子をメアから離すアガレス。メアはカチーン!ときて、わざと椅子を近付ける。が、アガレスも負けじと更に椅子を離す。メアが椅子を近付ける。離す。近付ける。離す。近付ける…これを繰り返している内にテーブル一周してしまった2人。
「何なのもうっ!!」
黙々読書中なアガレス。
「そんなに嫌われるような事した?!」
「別に嫌いではない」
「え!」
「好きでもないが」


ブチッ!

メアの中で何かがキレる。本を取り上げようと手を伸ばす。
「もう怒った!!アガレス君って神として本っっ当最低、」


カサカサ!

「!!」
伸ばしたメアの手に、黒い虫がカサカサ音をたてて登ってきた。一瞬にして真っ青になる。
「ひっ…!ぎゃああああああ!!」
「何を騒いで、わ!?」


ガシッ!!

無意識の内にアガレスに飛び付き、首を横に何度も振って涙を飛ばしながら騒ぐメア。
「きゃあああああ!助けて助けて助けてー!!」
「なっ…!?煩わしい!へばりつくなダーシー殿!虫の1匹や2匹で」
「きゃあああああ!嫌い嫌い嫌い!虫大嫌いー!!」
「はぁ」


バシン!

仕方なくブーツのヒールで強く踏み潰してやったアガレス。そのまま踏み潰した虫を窓の外へポイッ。














まだ飛び付き目を瞑ったままのメア。
「いなくなった?!虫いなくなった?!」
「とっくにな」
「良かった〜」
安心して目を開くと。目の前にアガレスの顔があり(自分から抱き付いたのだから当たり前だが)ドキッ!と顔を真っ赤にするメア。アガレスは表情一つ変えないが。
「あっ…ご、ごめん…ね」
「煩わしいからさっさと退け」
赤らめ黙ったまま離れるとベッドに腰掛けるメア。アガレスはメアには背を向け椅子に座り読書再開。
「ダーシー殿」
「な、何?」
「悪魔が襲撃した時の事を教えてほしいのだが」
「あ…そっか。あのね青い髪の。シルクハットかぶった小柄な悪魔。アガレス君知ってる?」
「……。知らん」
「その悪魔を見た瞬間、アガレス君頭を抱えて叫びながら気絶しちゃったんだよ。それから悪魔から逃げたりして、図書室に逃げ込んだの。そしたらさっき第4校舎廊下で擦れ違った黄色いリボンの女の子がやって来て…来て…」
「?」
肝心なところで口ごもるメアに、アガレスは後ろを向く。
「来て何だ」
「き、来て何でもないよ!」
「来てそれで帰ったわけではなかろう。何故言わん」
「だだ、だってアガレス君にち、ち、ちゅーして帰って行ったから!そんなの私の口から言いたくないもん!」
「言ったがな」
ムカッ。
相変わらずなアガレスに頬をぷくーっと膨らませるメア。の事など気にもかけず背を向け再び読書再開。



















「それで終わりか」
「うん…。あ。でもその女の子、廊下で擦れ違った時と違ってたんだよ!目は虚ろでまるで自分の意思じゃない誰かに動かされている感じで…。あ!しかも目が真っ赤で目の下に赤いペイントがしてあったの!あれって悪魔の証だよね?!アガレス君、何されたんだろう!大丈夫?」
「ああ」
「ああ。って…」


しん…

沈黙が起きる。遠くで梟の鳴き声が聞こえる。
「あのね。青い髪の悪魔が言ってたんだけど、アガレス君がヴァンヘイレンに来たのって造り直しの儀に立ち向かう為じゃなくて元・人間の大事な人を探しに来たからなの?あと、アガレス君はその元・人間の子を騙したって言ってたんだけど…」
「……」
「…それってやっぱり黄色いリボンの女の子?」
「帰れ。貴様に話したところで何も変わらん」
椅子から立ち上がり、本を本棚に片付けながらやはり背を向けたまま言う。いつもより少しキツい口調で。
「アガレス君って嘘つけないよね」
「何が言いたい」
「事実だと否定しないんだもん。はぐらかすだけで。やっぱり私の予想的中だね。アガレスく、」
「帰れ!」


ドンッ!

「!」
ビクッ!
背を向けたままだが壁を強く叩くアガレスに、メアはビクッ!とする。だがそれも一瞬。少し悲しそうに目線を下げつつ、アガレスの背後にゆっくり近付く。
「大体何なんだ貴様は。転入初日から尾行に質問攻め。いい加減にし、!!」


ビクッ!

背後から近付いてきたメアがポケットの中から、アガレスの左手を取り出す。
「いい加減に、」
「他人に無頓着なアガレス君が外さないくらい大事な人との指輪なんだね。何があったか私には分からないけど、私で良ければ力になるよ」
「黙れ。赤の他人の貴様に何ができるというのだ」
「だって、好きな人が困っていたら誰だって力になりたいと思うよ…!」
「……」
指輪をはめた左手をぎゅっ、と両手で握り締めながら目を強く瞑り、ポロポロ涙を流すメア。アガレスは一瞬驚いて目を見開く。が、すぐに背を向ける。左手はメアに握られたままにしておくが。

















ひっく、ひっく…
メアの啜り泣く声だけが静かな夜に響く。
「ずっと御殿さんの事が好きだったの。けど、アガレス君と会ってからまだ日が浅いのにアガレス君と一緒に居ると楽しくて落ち着けて…。似たような境遇だからかなって思いもしたんだけど、気付いたらアガレス君の事ばっかり考えちゃってて、カナちゃんを応援してたはずなのにカナちゃんと一緒に居るところ見たら苦しくなって…それであとね、」
「最後に御殿氏に会ったのはいつだ」
「え…?1000年前かな…」
「ならば」
アガレスはようやくメアの方を向く。向かい合った彼は無表情なのに目がどこか優しげに見える。
「また御殿氏に会えば気付く。長年会っていないのならば尚更。近くに居る奴が良く見えてしまう。だが御殿氏に会えば御殿氏の方が良い事に気付く」
「私もね!そう思ったんだけど!どう考え直してみてもやっぱりアガレス君の事好きになっちゃってるんだもん!カナちゃんの事応援するって言ったり、アガレス君に大事な人が居るの分かってても…酷いよね私。醜いよね…。こんな私、追放されて当然だ…」
ボロボロひっきりなしに泣きながらメアはアガレスの胸に顔を埋める。アガレスもポン、ポン、メアの背中を軽く叩いてやる。親が赤ん坊をあやすように。
「ひっく、ひっく」
「酷くもないし醜くもない。心がある生き物なら我が身が一番可愛く思えてしまうのは当然だ」
「うぅっ…、ひっく…。アガレス君やっぱり私はダメ?ひっく、」
「……」
「アガレ、」
「すまん」
「ひっく…ひっく…そうだよね…分かってたのに…。困らせてごめんね」
「謝る事は何も無い」
ポン、ポン、まだ背中を軽く叩いてやればメアはまるで赤ん坊。泣き疲れたのか赤い目がとろんとしている。
「じゃあやっぱり黄色いリボンの女の子なんだ…アガレス君が大事な…ヴァンヘイレンに来た目的の人…」
「……」
「ズルいよ…。私が黄色いリボンの女の子より先にアガレス君に会っていれば、もしかしたら…だったのかもしれないのに…」
「すまん」
メアは寝返りを打つように首を反対向きにする。
「アガレス君ともう関わりたくない。でも関わりたい。もうどうしたら良いか分かんないよ…。アガレス君の顔見たら泣いちゃうもんきっと。…じゃあ陽が昇るまでこうしててね。今日だけ。今日だけだから。もうしつこく付きまとわないから」
「ああ」
胸に顔を埋めたまま。背中を叩いてあやしたまま。窓の外から朝陽が射し込むのを待っていた。
「黄色いリボンの女の子。何て名前なの?」
「……」
「また黙りだね。何処で知り合ったの?」
「……」
「むうっ。…はぁ。でもアガレス君に彼女が居るなんて思わなかった。他人に興味無いから。何で黄色いリボンの女の子が悪魔になってアガレス君が堕天されたかは聞いても教えてくれないだろうから聞かないけど…。アガレス君が黄色いリボンの彼女と結婚できるように応援…応援…しないもんっ」
「…ああ」


チュンチュン…

小鳥の囀ずりが聞こえ出し窓の外からは優しい朝陽が射し込んでくる。
「朝なんて来なきゃ良いのに…」






























ヴァンヘイレン
1E教室――――

「アガレス様!皆様無事でしたわ!」
体の箇所に包帯を巻いてはいるものの、元気そうなトム、アイリーン、カナ、そして1Eの教師。
「お前らあの後悪魔に攻撃されなかったのか?」
コクン、と笑顔で頷くだけのメア。
「?」
普段のメアなら、"逃げたので大丈夫ですっ!!"と元気に返事を返すはず。なのに笑顔で頷くだけのメアに教師は勿論、トム、アイリーン、そして親友のカナも首を傾げた。
「ルディどうした?」
「え?何トム君?」
「メア様何だか…」
「え?アイリーンちゃんまで何なにどうしたの?」
「メアちゃん何か元気無いよ…?」
「だってみんなが悪魔の襲撃に合って怪我したから心配だったんだよっ!」
「そっかぁ」
「お優しいですわメア様」
教師は頭を掻く。
「ま、元気なら良いんだけどさ。ん、で、だ。1Eは今生徒が5人しかいないだろう?でもヴァンヘイレンの決まりでは一班3人のペアを組まなきゃいけないんだよなー。で、人数が合わないなりに取敢えず作ったんだけど。ハンクス。セントノアール。ナタリー」
「はい?」
呼ばれたトム、アイリーン、カナは首を傾げる。
「お前らは今日からトム班のメンバーだ」
「先生!わたくしアガレス様とご一緒したいですわ!」
「言うと思ったよ。まあ俺も最初、アガレスとルディの力量なら分散させた方が良いと考えたわけよ。けどどちらにせよ5人だと3人班と2人班になっちまう。なら、2人班をアガレスとルディにすれば1人足りない分も補えるだろう。と俺なりに考えた班構成だ」
「えー!ですわ」
「はいはいはいよ。苦情は一切受け付けないぞー」
パタン!バインダーを閉じる教師。
「トム君、アイリーンちゃん。足手まといだけど頑張るね。よろしくお願いします」
「カナ様、わたくしもよろしくですわ」
「あ、ああ。よろしくなナタリー。それと…ア、アイリーンまた同じ班だけどよよ、よろしくな」
「ふふっ。わたくし達腐れ縁ですね」
挨拶し合う早くも和気藹々なトム班。














一方のアガレスとメア。アガレスは罪悪感で気まずそうにしつつ、チラッとメアを横目で見る。
「!」
ばちっ!思いきり目と目が合ってしまい、咄嗟に顔を背けるアガレス。
「よろしくねアガレス君」
「あ、ああ。よろしく頼む」
――…何だ?――
やはり普段より遥かに元気は無いものの、声のトーンはいつも通りだし表情もにこにこしたままなメアに、アガレスは頭上にハテナをたくさん浮かべて疑問に思っていた。
「で、だ。ハンクス達は怪我が完治するまで前線へは出れないからな。アガレス。ルディ。お前らは日本の京都での任務状がきている。京都の某所某人間に、造り直しの儀が起きる見込みがあるらしいとの報告だ。行ってこれるな?」
やはりにこにこしたままコクン、と頷くだけで元気が無いメア。アガレスは隣で無表情ながらも気まずいし申し訳ない罪悪感でいっぱいだった。














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