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GOD GAME
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ヴァンヘイレン――――

「では今から、組んでもらったペアで実戦に向けた模擬戦を始めてもらう」
ヴァンヘイレン1年生が集うヴァンヘイレン第3校舎グラウンド。東京ドーム7つ分の広大なグラウンドには、神を形容したCGの的が浮遊している。それを狙って攻撃するというもの。
「ただし。神を形容した的はグラウンドだけではない。1年生の第3校舎全ての棟にも配置しておいた。ペアのリーダーが付けたカウント計で倒した神の数が50になった者から本日の任務終了とする」
「この前の実戦で100体の泥人形と戦った俺達には今更って感じだよな」
「そうですわね。実戦と模擬戦の順序が逆ですわ」
トム&アイリーンペア。リーダーのトムが腕時計のようなものを付けているが、これが倒した神の的をカウントするカウント計。
「1Eのカナか。クラスは異なるがよろしく」
「は、はい!よよ、よろしくお願いします!」
1Dの黒髪で厳格な少女とペアを組むカナ。(因みにこのペアは教師陣が決めたもの)カウント計をつけた手を差し出され、オロオロしながらも握手を交わす。
一方…。
「何でまたアガレス君と…」
はぁ〜…下を向き肩を落とし溜め息を吐くメア。の隣でやはりいつもの如しポケットに手を入れて表情の薄いアガレス。アガレス&メアペアは、仕切るの大好きメアがリーダーに立候補した為、仕切るのが面倒なアガレスは調度良かったそうな。














「では各自…始め!」
「うおお!」
「トップで終わらせてやる!!」
「来伝が居なくなり、椎名が遠征中の今!1年トップになってやる!」
主に男性陣は模擬戦開始と同時に、まるで獲物を見つけたライオンのように猛ダッシュで神の的を狙いに行く。メアは唖然。
「す、すごいねみんな…」
「アガレス様〜!終わったらお茶をご一緒致しましょう〜!」
「アイリーン!のんきに転入生に手を振ってるんじゃない!行くぞ!」
「はい!分かりましたわトム!」
「転入生!修道院の時はお前に手柄を譲っただけだ!今回は負けないからな覚悟しとけよ!」
アイリーンに良いところを見せようと奮闘する意気込みが強いトムに言われてもやはりアガレスはぼーっとしているだけ。トムとアイリーンはグラウンドの神の的1年生集団の中へ入っていく。出遅れたメアペア。
「あー!もうみんな的をバンバン倒しちゃってるよ!どうしようアガレス君!」
「校舎」
「え?」
「誰も校舎へ行っていない」
「そっか!じゃあみんなが校舎へ来るまでに校舎の的全滅させちゃおうっ!えいえいおー!」
「……」
「ちょっと!ノリ悪いなぁ!えいえいおー!ほら!」
「えいえいお」
「何か違うよー!」
さっさと校舎へ走っていくノリの悪いアガレスに、メアも渋々ついていくのだった。






















校舎内1階玄関――――

「オオオオ…」
「オオオオ…」
「アガレス君の予想通り!やっぱり校舎にはまだ誰も来てないから神の形をした的がいっぱいだねっ!」
生徒が出はからった校舎には神の形をした的が数100体以上ふよふよ浮遊している。これはCGだ。
「この神の形ってマライタ神じゃない?」
黒い影に白いくり貫いた目と口があるだけの神の的を目を凝らしながら言うメア。
「オオオオ!!」
「きゃっ!?」
暢気にしていたら的が一斉に襲い掛かってきた。本物ではないからといって油断していたメア。慌てて剣を構える。


スパン!スパン!!

「オ"オ"オ"オ"!」
しかし一瞬にしてCGの的20数体は倒された。アガレス1人によって。
「偽者だからと言って油断し過ぎだ」
「ご、ごめん」
「これだから雌豚は」
ムカッ。
背を向け、さっさと階段を登っていくアガレスに青筋たてたメアはガッ!とアガレスのフードを後ろから引っ張る。
「今何て言ったのっ!」
「雌豚」
「だからそれ言っちゃダメって言ったでしょ!」
「こんな楽な模擬戦ならペアを組む必要性を感じられん。俺1人で充分だ」
「カチーン!ああそうですかー。お荷物ですみませんでしたーっ」
メアを無視したアガレスは2階へ到着。すぐ続いてメアも(かなりイライラお怒りだが)
「あれ?」
2階へ到着すれば、1階同様神の的がうじゃうじゃ浮遊していると思っていた。しかし1体も居ないのだ。生徒が外へではからい誰もいないガラン…とした2階校舎は昼間だというのに不気味。自然とアガレスの後ろへ隠れるメア。
「的がいないよ?」
「恐らく、いないと油断し廊下を歩いているところを教室から飛び出してきた的が攻撃してくるのだろう」
「あ!そっか。突然の襲撃にも対応できるか?ってやつ?」
アガレスはコクン、と頷く。メアはニヤニヤしながらアガレスを肘でつつく。
「アガレス君バーカだと思ってたけど案外頭良いんだね〜このっ、この〜」
「煩わしい煩わしい煩わしい」
「あはは。照れてる照れてる。さーて!そうと分かれば先へ進もう!」
アガレスの前に出て、両手を前後に大きく振りながら先頭をきって歩くメア。そんなメアにはぁ、と溜め息吐きつつついていくアガレス。
















「あれ?でも教室にもいないよ?」
「ん」
ぴょこっ。
ツインテールを揺らして各教室を覗くメア。メアの頭の上から教室を覗くアガレス。しかし、アガレスの予想はハズレ。各教室はガラン…としているだけで的が1体もいないし、気配すらしない。
「おかしい」
「アガレス君の予想ハズレ〜」
「煩わしい煩わしい」
「2階はあと一番奥の1A教室だけだよ」
廊下に出て一番奥の教室を指差すメア。2人歩き出し1Aの教室を目指す。


タンッ…

「え?」
すると。一番奥にある1Aの教室から1人の人が出てきた。ヴァンヘイレンの制服ではない、見た事の無い黒い服に黒い小さなシルクハット、真っ青な髪。そして真っ赤な目の下には赤いペイントの描かれた小柄な少年。
「あれ?誰だろう?見た事無いよね?1年生じゃないのか、」
「うあ"あ"あ"あ"あ"!!」
「!?ア、アガレス君!?」
少年を見た瞬間アガレスは目を見開き頭を抱え、その場に崩れ落ちる。苦しそうに叫び続けながら。メアは慌てて、背を擦ってやる。
「アガレス君!?どうしたの?!大丈夫?どこか痛いの?」
「うあ"あ"あ"あ"!!」
「アガレス君!」
「見付けましたよ堕天神アガレスさん」
「…!!」
少年は2人の方を向きながら高い声でそう呟く。















キィン…!
アガレスが堕天された神だと知っている少年を危険と判断したメアは、自分の愛武器である2本の短剣をクロスさせて構える。そんな彼女の後ろでアガレスは未だ頭を抱え、喚いている。
「うあ"あ"あ"あ"!!」
「…君は何者なの?先生達が用意した模擬戦のCGではなさそうだね」
「貴女からも人間ではないニオイがします。でも貴女は堕天されたわけではない。何故なら…」
「答えて!!」


タンッ!

少年が話途中でもお構い無し。メアは踏み込むと高くジャンプし、短剣を頭上でクロスさせ、少年に斬りかかる。少年は真っ赤な目でメアを見上げ…


ヒュン!

「嘘!?消えた!?」
「消えてはいませんよ。こちらです」
「!!」
少年はアガレスの真後ろへ瞬間移動。メアはバッ!と後ろを振り向く。少年は、まだ喚くアガレスの肩を掴む。
「うあ"あ"あ"あ"!!」
「彼女達は魔界へ来ましたよ。来ていないのは貴方だけですアガレスさん。さあ早く。僕達の世界へ」


スパン!

「……」
「瞬間移動くらい何だって感じだよっ!」
メアは少年の右頬を短剣で切る。据わった瞳でメアを見る少年の右頬からは、ツゥッ…と黒い血が伝えばメアはビクッ!と目を見開き驚愕する。
「黒い血…!君、悪魔!?」
伝う血を手で、そっ…と拭き取る少年。すると…


ドスッ!

「かはっ…!」
背中から突然生えた真っ黒い悪魔の羽でメアの腹部を突き刺した。壁に腹部を突き刺されたメアは青い血を吐く。
「青い血…。そうですか。貴女は神…いえ、元・神…。通りでアガレスさんと親しいと思いました」















「がっ…、あ"っ…!」
腹部から口から血を吐き、あまりの激痛に言葉が出ず瞳孔が開ききるメア。しかし少年はゆっくり。ゆったり。余裕を見せている。
「元・神であった貴女が居るからアガレスさんがなかなかこちらへ来ないのでしょう。下界へ降りてみてよく分かりました。貴女は堕天され悪魔になったわけではない。ただ、神の力を奪われ天界を追放されただけの元・神。しかしアガレスさんは悪魔となりソロモン72柱入りも果たした逸材。アガレスさんは僕達魔界の仲間ですから、アガレスさんは引き渡して頂きますよ」
メアをまだ羽で壁に突き刺したまま少年は、喚くアガレスの手を掴む。
「うあ"あ"あ"あ"!!」
「下界に居ては衣食住人間に合わせずにはいられず不便でしょう。今日から魔界へ戻りましょう。アガレスさん貴方はもう神ではない悪魔なのですから、僕達と一緒に、」


スパン…!

「……」
痛みは感じているのかいないのか。表情を崩さない少年は、ゆっくり後ろを振り向く。そこには、無惨にも付け根からバッサリ斬られた自分の黒い羽が…。


キィン!

少年の黒い羽を斬り落としたメアは自慢の短剣に黒い血を付着させ、腹部と口から自分の青い血を滴ながらも笑う。
「私も…はぁ、はぁ…いつまでもアガレス君に…助けられてばかりじゃ…はぁ、はぁ…ダメだもん…!」
「追放された身で…」


バサバサッ…!

しかし少年の背からは、何事も無かったかのように再び黒い羽が生える。メアは一瞬驚くも、すぐキッ!と戦場を駆ける眼差しへ戻る。















「魔界へ連れて行く?アガレス君は人間を造り直しの儀から守りたいからこうして下界へヴァンヘイレンへ来てるんだよ!悪魔になっても悪魔として生きるのが嫌だからだよ!アガレス君の意思を無視して勝手になんて連れて行かせないんだから!」
「人間を造り直しの儀から守りたいから…?元・神。貴女はアガレスさんから何もお聞きしていないのですね」
「何が言いたいの!?」
「アガレスさんが下界…ヴァンヘイレンへ来た理由はそんな立派なものではありませんよ。ですから、彼は堕天されたのでしょう」
「…?何が言いたいの?」
「どうやらその様子ですと堕天された理由も聞いていないようですね。アガレスさんは造り直しの儀から人間を守るなどという正義感溢れる事は考えてもおりません。彼がヴァンヘイレンへ来た理由はある人間…いえ、元・人間に会いたいが為。そう。私利私欲の為なのです」
「…!?」
既に気を失い、少年の後ろで倒れているアガレスをよそに、メアと少年は話す。全てを知っている少年が語る話の内容に、メアの思考回路は追い付かない。
「嘘…?一緒に造り直しの儀から人間を守ろうねって…だからこうして今も、造り直しの儀と対神に備えた模擬戦をやっているのに…」
「彼は仮面を被ります。いつもそうです。貴女も騙されています。あの元・人間のように」
「元・人間?騙されている?…ふん!悪魔の話を真に受けた私がバーカだったみたいだね!悪魔は何万年も前からそうやって嘘偽りの言葉で人を惑わしてきたの!君もアガレス君を悪人に仕立てて私がアガレス君を手渡すように仕向けているんだよ!そうでしょ!」
指差す得意気なメアに、はぁ…と溜め息を吐くと。少年の羽がゴキゴキ…と音をたてて巨大化していく。
「決めつけの激しい元・神ですね。宜しいでしょう。貴女が頑固として彼に騙されていないと言い張りたいのならばそういう事にしておいて差し上げます。いずれ、嫌でも真実を知る羽目になりますから…ね!!」


ドガンッ!!

巨大化した羽で攻撃してきた少年。しかし同じ手は二度と食らわないメアは避けると、自分より重いアガレスを何とか担いで最上階5階へとエレベーターで登っていった。
ランプのついたエレベーターの"5"を見上げながら少年は窓に手をかける。
「こちらの方が速い」


バサァ!!

窓から飛び出せば、その巨大な羽で5階へと飛んで行くのだった。




















エレベーター内――――


「アガレス君!アガレス君!」
すっかり気絶しているアガレスの体を揺すったり何度も名前を呼ぶ。だが、一向に目を覚まさず。こんな彼を始めて見たからこそ、メアの表情に不安が表れる。ポケットから出ている彼の左手をきゅっ…、と自分の両手で握るメア。
「大丈夫。大丈夫だよ。私もカナちゃんもトム君もアイリーンちゃんも。アガレス君の仲間。だから、悪魔になったって魔界へなんて連れて行かせないから。大丈夫だよ」
握ったアガレスの左手薬指にはめられているほとんど錆びた銀色の指輪がキラリ…力無く光る。

『彼がヴァンヘイレンへ来た理由はある人間…いえ、元・人間に会いたいが為。そう。私利私欲の為なのです』
『ではダーシー殿は造り直しの儀に反対派なのだな』
『アガレス君って何で堕天されたの?』
『帰る』

「……」
先程の少年の言葉と、アガレスとの会話が甦るメア。
「私、アガレス君が私利私欲の為にヴァンヘイレンに居るなんて思えないよ…。転入初日も、マルセロ修道院でも、カナちゃんを襲った神を倒してくれたのもアガレス君だもん…」


ドガンッ!!

「!」
ビクッ!
突然エレベーターが外から蹴られ、大きな音と共に揺れたエレベーター。
そしてエレベーターはまだ4階なのに緊急停止する。


ドガンッ!!ガンッ!!

「っ…!」
きゅっ…!
外から何者かに蹴り続けられるエレベーター。メアはアガレスをきゅっ…、と強く抱き寄せつつ、両手には短剣を強く握り締め、いつでも戦える準備をしている。


ガンッ!!ガンッ!!

――さっきの悪魔?!っ…!私しかいない。私しかいないんだ。アガレス君は気絶してて、悪魔はアガレス君を狙ってる。私しかいないんだ今、戦えるのは。それに私もう…――
対トラロック神達、対ベルベットローゼ神達でアガレスに助けられた場面を思い出す。
「助けられてばかりのお姫様じゃいられないもん!」













スッ…、

立ち上がり、顔の前で短剣をクロスさせ、ガンッ!!ガンッ!!蹴られるエレベーターの扉に剣の刃先を向ける。
「敵が来るのを待ってちゃダメ。私から攻撃を仕掛けなきゃ!」


ガンッ!!ガンッ!!

蹴られるエレベーターの扉を中から斬りかかろうとする。


ドガンッ!!

「!!」
しかしそれより先にエレベーターの扉が外から蹴破られてしまった。外の敵がまだ見えないが、メアはタンッ!と踏み込み短剣を振り上げる。
「はああっ!!」
「大丈夫か!ルディ!アガレス!」
「せ、先生!?」


キキーッ!

自分に急ブレーキをかけるメア。何と、エレベーターを外から蹴っていたのはヴァンヘイレンの教師。1Eの担任教師だったのだ。危うく先生に斬りかかるところだったが、敵の襲撃ではなく内心ホッ、とするメア。















「先生っ!敵かと思ったじゃないですかっ!」
「悪い悪い!ルディとアガレスだけ校舎へ入ったのをさっき見てな。それでエレベーターが動いていたから乗っているのはルディとアガレスじゃないかと思っ…アガレス!?お前どうしたんだ!?」
エレベーター内で気絶して横たわっているアガレスに教師はギョッ!と目を見開く。
「まさかあいつ程力のある奴でも敵に!?」
「ち、違います!大丈夫ですアガレス君は!えっと…ぐ、具合が悪くなって寝てただけです!というか先生。敵って何ですか!?」
「ああ。最悪だよ。模擬戦でグラウンドや第3校舎内全体に神の形容をしたCGの的を張り巡らせていただろう?その中でグラウンドに変なCGが1体だけ居てさ。俺達教師陣で、あれ?見た事ねぇ生徒だな。や、あんなCG作りましたっけ?って言ってたらそいつが悪魔で生徒達に襲いかかってきてよ!」
「…!その悪魔って青い髪をしたシルクハットのですか?!」
「いいや?真っ黒い影みたいな奴だ。ルディお前、青い髪にシルクハットの悪魔を見たのか?」
「え!?えっと…」
「隠すなよ!一大事なんだ!ハンクス達含む生徒達は全員今、第4校舎医療棟に搬送されてる!しかも悪魔は2年坊主達のいる第5校舎へ移動したんだ!」
「え!トム君達が!?カナちゃんは!アイリーンちゃんは!カナちゃんは!?先生!カナちゃんは!?」
「ナタリーか?あの場に居たお前ら以外の1年全員襲撃にあったから…」
メアは目に涙を浮かばせる。
「そんなっ…!カナちゃんっ…!」


ガクン!

泣いて崩れ落ちるメアの肩を叩く教師。
「おい!大丈夫だ!全員死んじゃいないし死ぬような怪我じゃない!ルディ!立て!此処は危険だ!第4校舎医療棟に行くぞ!お前が言ってた青髪にシルクハットの悪魔ってのも気掛かりだ、し…がはっ!」


ドサッ…!

「先生…?」
突然血を吐き、その場にうつ伏せで倒れた教師。涙で濡れた瞳で前を見ると、教師の背後には教師の背中に右腕を貫通している先程の青髪シルクハットの少年悪魔が立っていた。
「僕の事教えちゃ駄目ですよ、元・神」
「先生ー!!」
しかし教師に泣きつく隙すら与えない少年悪魔は、教師の背から腕を引き抜くと教師の真っ赤な血が付着した右腕でメアを狙ってくる。


ドガンッ!!

避けるメアは、自分より大きいアガレスを担いで再び階段を駆け降りる。
「逃がしません」


バサァ…!

少年悪魔は真っ黒い羽を広げると、廊下を飛行。





















「はぁ!はぁ!」
タン!タン!タン!
アガレスを担ぎながら二段飛ばしで階段を駆け降りるメア。
「先生…!みんな…!カナちゃん…!」


バサ、バサッ

「!」
ビクッ!
背後から少年悪魔の羽音が聞こえてビクッ!とし、後ろを向くメア。しかし、羽音は聞こえるが少年悪魔の姿はまだ見えない。このまま階段を駆け降りたいが、そうしている内に追い付かれてしまうだろう。
キョロキョロ見回すメアの視界に図書室が飛び込んできた。



















バサ、バサッ…
バサ、バサッ…

「っ…、はぁ…、はぁ…」
息を殺して図書室の一番奥の本棚の裏に隠れたメア。少年悪魔の羽音が図書室の前を通り過ぎ、階段を降り遠ざかる。
「はぁっ…」
一安心。肩の力を抜き、息を吐く。
「早くしろ!」
「急げ!医療棟へ運べ!」
図書室の外からは教師達の怒声が聞こえてくる。悪魔の襲撃にあった生徒達を医療棟へ搬送しているのだろう。メアはきゅっ…、と自分の左胸を掴む。
「カナちゃんっ…」
未だに気絶しているアガレスを見る。
「悪魔が襲撃なんて…。神の襲撃なら分かるけど、悪魔が?何で?神も悪魔も下界へ襲撃だなんて。もう何がなんだか分かんないよ…」
体育座りした膝に顔を埋めるメア。しかしすぐ顔を上げ、図書室の壁掛け時計を見上げる。時刻は11:20。
「50分になったら校舎を出て医療棟へ行こう。30分も経てばさっきの青い髪の悪魔も諦めて、もういなくなってるよね」
メアはアガレスの額にかかっている長い前髪を手で透く。
「アガレス君このまま目、覚まさなかったらやだな…。いつもムカつくけど、同じ境遇の仲間がいなくなっちゃったら心細いもん…。アガレス君…」
メアは両手を組み、目を瞑り祈る。
「御殿さん…。アガレス君を…みんなを助けて下さい…。御殿さんお願いします…」
メアはゆっくり目を開く。
「!?貴女、誰!?」
すると。目を瞑るまで居なかったはずの少女が1人、本棚の脇に立っていた。















ヴァンヘイレンの制服を着て真っ黒い髪を黄色い質素なリボンで束ねた少女。
「…あ!」

『あ、ありがとうございますっ!拾って頂いて…!』
『さっきの子には優しいんだね〜。プリント拾ってあげてさぁ〜。私がプリント散らかしても拾ってくれないよね〜?』

メアの脳裏で、先日廊下で散らかした少女のプリントを拾ってあげていたアガレスを思い出す。そのプリントを散らかしていた少女が今目の前に居る少女だと気付くメア。
「貴女確かあの時の!」
しかし少しおかしいのは、少女の目はぼーっと遠くを見ていて虚ろだし何より、黄色だった瞳が真っ赤に変色しており、目の下にはあの時と違い、赤いペイントが描かれている。そのペイントは先程の青髪少年悪魔と丸っきり同じ。
「あ、貴女もしかして悪、」
黄色いリボンの少女はボーッとしたままアガレスの前に屈む。メアの話は聞こえていない様子。アガレスの顔を静かに持ち上げる。
「ちょ、ちょっと!何!?貴女もさっきの悪魔の仲間!?だからアガレス君を連れて行こうとしてるの!?アガレス君は魔界が嫌だからヴァンヘイレンに来たんだよ!絶対連れてなんて行かせないんだか、」


ズッ…、

「!!」
黄色いリボンの少女はアガレスに接吻する。メアは言葉が途切れ、目を見開き呆然。


ズッ…、ズズッ…、

しかし接吻と呼ぶには深過ぎるし、まるで何かを口移ししているかのような音が聞こえる。


ズチュッ…!

唾液と赤い血を口角から滴らせながら口を離すと、黄色いリボンの少女は口を手で拭い、立ち上がる。何事も無かったかのようにスタスタ歩き出し、図書室を出て行く。
「ちょ…、ちょっと!待ってよ!アガレス君に何したの!?貴女何組の何て名前…あれ?」
図書室を出て廊下を覗くと。今廊下へ出て行ったばかりの黄色いリボンの少女の姿が無い。忽然と消えている。階段までは距離があるから、一瞬にして降りたとは考え難い。ならば?先程の青髪少年悪魔のように黄色いリボンの少女も瞬間移動したのだろうか?
「やっぱりあの子も悪魔なんだ…!絶対そうだ!早くみんなに知らせなきゃ!」
「ん…」
「アガレス君!?」
図書室からアガレスの唸る声が聞こえ、メアは図書室へ戻る。
「アガレス君!」
そこには、頭を押さえながら上半身をゆっくり起こして瞬きをパチパチしているアガレスが。メアはホッ…とする。
「アガレス君良かった!目覚めたんだね!」
「ああ…。俺は…?ん…何故図書室に…?模擬戦の最中だったはずでは…」
「悪魔が来てすぐアガレス君気絶しちゃったでしょ!覚えてないの?」
コクン、
頷くアガレスにびっくりしつつも、メアは力が抜けてへにょんと床に足をハの字にして座る。
「でも良かったぁ〜!アガレス君このまま目、覚まさなかったらどうしようと思ったんだよ!良かったぁ!アガレス君いなくなったら私…」
そこで、先程黄色いリボンの少女が接吻(口移し?)していた場面を思い出すと…
「バカーーッ!!」


バッチィン!!

「!??」
アガレスの右頬を思いきり叩いた。アガレスは右頬を押さえ、頭上にハテナをたくさん浮かべ、何が起きたのか全く分からない。
そんな間にメアは頭から湯気を吹きながら立ち上がる。
「ダ、ダーシー殿?」
「早く来なよっ!」
「あ、ああ。すまない。模擬戦中だったというのに」
「そうじゃなくて!悪魔がカナちゃんや先生達模擬戦中のみんなを襲撃してきたんだよ!!模擬戦は中止!!」
「何っ…!?それは本当かダーシー殿」
「みんな第4校舎の医療棟に運ばれてるって。先生もさっき悪魔にやられたの」
「悪魔…」
「もうわけ分かんないよ。神々が造り直しの儀を施しに人間を襲撃。悪魔も人間を襲撃。空の上で一体何が起きているの?」















図書室を出て、第4校舎へ向かう2人。
その時。自分より前を歩くメアの背中制服に血が滲んでいたのを見付けたアガレスはメアの前に出る。メアの腹部には、青髪少年悪魔に刺された傷が。しかしメアは、自分をジーッと見るアガレスに眉をひそめる。
「な、何?アガレス君」
「腹部」
「え。あ…ああ。これ?アガレス君が気絶しちゃったから私が守る為に悪魔から攻撃された傷だよ!アガレス君が悪魔ごときに気絶してなければこんな事にならなかったのにな!なーんて。こんな傷平気だけ、」
「肩を貸す」
「え!」
そう言って肩を貸してくるアガレスにギョッ!とするメア。


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