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GOD GAME
ページ:2
「煩わしいのは君達さ神々!人間の姿に化けてわざわざ下界で暮らすなんて烏滸がましいよ!清春は死んだって君今言ったよね?!清春はナタリーさんを騙してナタリーさんに怪我を負わせたんだ!死んで当然だよ!あははは!」


ガッ!

アガレスは据わった瞳でロイドを睨み付け、ロイドの胸倉を掴み上げる。
「ヒィッ!?」
「貴様…今何と言った」
「な、何だよ!今?今言った言葉?ナタリーさんを騙して怪我を負わせた清春は死んで当ぜ、」


ドスッ!!

「うわぁ"!?」
アガレスは胸倉を掴んだままロイドを固い床の上に叩き付ける。その拍子にガシャン!とロイドの眼鏡が飛ぶ。
「眼鏡、眼鏡…、」


ダンッ!

「!」
ロイドの前に、ポケットに両手を突っ込んで立ったアガレスがロイドを見下ろす。とても恐ろしい目をして。
「ヒィッ!?」
「何も知らん貴様があいつを馬鹿にするな」
「なっ…、何だよ!あいつのせいでナタリーさんや人間がたくさん怪我をして死んだんだぞ!!だから当然だろ!?あいつは!清春は死んで当ぜ、」
「やめて!!」
「…!」
「ナタリー…さん…?」
ロイドの言葉を遮ったのは、らしくないくらい張り上げたカナの裏返った声。
















キョトンとした2人がカナの方を向くと、カナはカタカタ体を震わしながら相変わらず俯いたまま、毛布に爪を立てていた。
「ナ…ナタリーさんどうし、」
「分かってる…分かってるよ…。あの人のせいでみんなが怪我をして…死んじゃったって事…。でも…でも…」
「ナタリーさ、」
「清春君に酷い事言わないで!!」


しん…

カナの裏返った声の一言で静まり返る病室。床を這ったまま呆然とするロイド。無表情なアガレスは、カナの脇に立つ。
「カナ」


ビクッ。

アガレスの声に、俯いたままのカナは挙動不審。
「私っ…おかしいよね…アガレス君…。清春君のせいで…アンジェラの街が破壊されて…、亡くなった人もたくさん居て…、そんな悪い神々から人間を守るのがヴァンヘイレンなのに…私…おかしいよね…」
「……。ありがとう」
「っ…、」
珍しく優しく…だがどこか哀しい表情をして笑むアガレス。
「アガレス君…、清春君は…本当に…なの…かな…」
「ああ。アドラメレクに殺ろされた。…いや…俺のせいもあるが…。あいつはもう居ない」
「……」
「会いに来てやってくれないか。ヴァイテル王国のココリという村にあいつの墓がある。貴様…カナが来ればあいつも喜ぶだろう」
「……」
「カナ」
「…でっ…、」
「…?どうした」
カナが毛布に立てる爪の力が一層強くなるから、アガレスは首を傾げながらカナの顔を覗き込む。するとカナは顔を上げた。大粒の涙をボロボロ流し、顔をくしゃくしゃにして。
「アガレス君がカナって呼ぶ声っ…、清春君と同じだから呼ばないでっ…!」
カナを見てギョッとする。
「カ、」
「うっ…うわああああん!!」
泣き出したカナに、何も言えなくなってしまうアガレス。



















一方のカナは顔を両手で覆い、わんわんと泣く。救護棟一帯に響き渡りそうな程の泣き声。
「カ、カナ…」
「呼んじゃだめっ…!ひっく、呼んじゃだめだよ…!清春君と重なるから…!」
「す、すまん…」
「うわああああん!清春君!清春君ごめんなさい清春君!私っ…私!清春君に酷い事たくさん言って…!なのに謝れないままさよならなんて嫌だよ!清春君!うわああああん!」
毛布に顔を伏してわんわん泣くカナ。呆然としてしまうアガレスとロイド。

『うぜぇ!!あんたみたいなトロい雌豚に手当てなんかされなくたって俺はあんたらより傷の治りも早いんだよ!余計なお世話だ!』
『昼間はヘアピン馬鹿にしてごめんっつっただけだよ!』
『いつもの場所で待ってるし。だから暇な日来りゃイーじゃん。ぜってー来いよ。無視すんなよ』
『俺と付き合って下さいっ!!』
『だっ、だから前も言ったし俺!あんたはブスだけど好きになっちゃったんだから仕方ねーしって!!』
『俺は人間だよ。でも俺のせいでカナが周りからとやかく言われて、カナに怖い思いさせて本トごめん』
『違う…違う違う違う…俺は…俺はっ…!!』

清春との楽しかったり辛かったり全ての思い出が甦れば、泣き声は更に増す。
「清春君!清春君は私が守るって決めたのに!うっ、うぅっ…!もっとたくさんお出掛けしたかったよ!もっとたくさんお話したかったよ!まだ字、全部教えていないよ!もっとたくさん…っ…、会いたいよ清春君っ…ひっく…、ひっく…。もう会えないなんてそんなの嫌だよ…会いたいよ…!!」
真っ二つに割れた白い花のヘアピンを強く胸元で抱き締めて泣く。
「カ…、……。会いに来てくれ。もう一緒に出掛けられんし話せないが、あいつは待っている」
「ひっく…、ひっく…うん…。うん…うん…!」
「…ありがとう」
「どうしてかな…」
「?」
「アガレス君の声…目…性格も…そっくりなんだよ…。不思議だね…」
「……」
「アガレス君…駄目って言ったのに我儘言うけど…ごめんね…。1回…1回で良いから今…カナって呼んでくれないかな…」
「…ああ。カナ」
カナは涙を拭いながら顔を上げ、笑む。
「ありがとう…。清春君の声だ…」
























「行くぞ」
「え…?い、今すぐかな?」
「ああ」
アガレスは、まだオロオロしていて準備が一切できていないカナの右腕を掴み引っ張る。
「ま、待って私…まだパジャマで…」
「着替えてる時間は無い。俺は1E担任に素性を知られているらしいからな」
「え?ミカエル先生に?どういう事かなアガレス君?」
「……。それは…」


パァンッ!!

「がはっ…!!」
「きゃああ!!」
病室に似つかわしくない銃声が轟けば、アガレスは背から腹に発砲された。体からは黒い血が噴く。カナとロイドは目を見開き驚愕。
「敵地に自ら足を運ぶとは随分と俺達もなめられたものだなぁ」
「う…ぐっ…、貴様…、」
「人外にも効く対神用拳銃だ。効くだろアガレス?」
よろめいてベッドに手を着きながらアガレスが振り向けば。病室扉には拳銃を構えたミカエル。周囲には2人のヴァンヘイレン教師が。
「せ、先生!?アガレス君に何を…!」
「ナタリー!そいつから離れろ!そいつはお前に怪我を負わせ、多くの人間を殺めたお前の恋人の父親堕天神アガレスだ!」
「!?ア…アガレス君が神様…!?」
見開いた目のカナはアガレスを見る。
「離れろナタリー!」
「そ…、だ…だから…清春君の事を…庇って…、」


ガシッ!

「!?」
アガレスはカナの右腕を掴む。
「ナタリーに触れるな悪神!!離れろ!!」
「アガレスく、」
「来てくれ!あいつに会ってやってくれ!!」
「っ…!」
「ナタリーに触れるなと言っているだろアガレス!!」
「頼む!!あいつに会ってやってくれ!!」
「っ…!!」
「ナタリーに触れるな!!」
「頼む!!カナ!!」
「っ…、私っ…!」
「ナタリーから離れろぉおおお!!」


ガチャッ!

「!!」
ミカエルが引き金に手をかけ、叫んだ。アガレス目掛けて。
「しまっ…、」


パァン!パァンッ!!

「!!」
「ナタリー!?」
アガレスに目掛けて発砲された銃弾は、ベッドから飛び降りてアガレスの前に立ちはだかったカナに命中。アガレスの青い髪に赤い血が飛び散る。

















「ナタリー!!」


ドサッ、

倒れるカナに、ミカエルは顔面蒼白。アガレスとロイドも同様に。
ミカエルがカナに駆け寄ってくる。その間にカナはアガレスのズボンをキュッ…と掴む。優しい笑みを浮かべて。
「カ…カナ…、」
「ごめん…ね、御参り…少し遅れるけど…必ず行くから、って…清春君に…伝えておいてくれる…かなぁ…?」
「っ…、」
「ナタリーから離れろアガレス!!」
「アガレス君…逃げて…」
「なっ…!?」
カナはニコッ…と笑む。
「アガレス君は…私の大切な人が大切な人…だもん…お願い…逃げて…」


ドンッ…、

力無くだがアガレスを窓際に押すカナ。
「ロイド!そいつを捕らえろ!」
「は、はいぃ!!」
「!!」
ミカエルに諭されたロイドが立ち上がり、アガレスに襲い掛かる。


ドガッ!!

「うわぁ!?」
読書しかした事の無いインドアなロイドはアガレスに蹴られただけで簡単に倒れてしまう。その隙にアガレスは窓の外を飛び出すと、タンッ!タンッ!と棟を伝って跳び去っていってしまった。
「くそっ…!追うぞ!」
「はい!」
バタバタと病室を飛び出す教師達。
「ナタリー!」
ミカエルは顔面蒼白のカナを抱き抱える。気絶してしまってはいるが、カナが誤って撃たれてしまったのは右腕。
「致命傷に至らなくて良かった…」
ホッ…とするミカエル。しかし、哀しそうに目尻を下げてカナを見る。
「痛かっただろう…ごめんなナタリー…。お前には痛い思いをさせたくないって…誓ったのに何やってんだろうな俺は…。俺が居ながらあの日…お前の家族をマルコに殺られたってのに俺は…」






























一方のアガレス。
タンッ!タンッ!と家屋を伝って跳び、逃げる。だがヴァンヘイレンの方からはアガレスを追っているのであろうサイレンが鳴り響いている。
「くっ…!しくじった」
すると、たまたま丘の上の小屋上空の木々を伝っていたからアガレスは小屋に降りる。扉を開いた。


ギィッ…、

「おい雌豚。俺の素性が知られてしまった。貴様の存在は忘れられているようだがもしかしたら貴様の存在を忘れていないヴァンヘイレンの奴らに貴様も素性を知られてしまう可能性があ…、…居ないか」
メアに話し掛けていたのだがメアは居らず。ベッドには黒いタオルに包まれた子供が居るだけ。
「お父さんですか…?」
「……」
「ダーシーお姉さんなら今…お買い物に行っていて居ませんが…。すぐ戻ってくると言っていました」
まだ赤ん坊だというのに話せる子供の前に立つ。その山羊にも大鷹にもクロコダイルにもコウモリにも見える奇っ怪な姿をした目がアガレスを見ている。
「お…お父さん帰ってきてくれたんですね…お父さ…」
「何故だ」
「え?」
「何故貴様が居て清春が居なくなったんだ」
「え…?え…?」
「せっかく昔のように戻れると思っていたのに…」
冷たい瞳と声のアガレスに子供は目を泳がせる。だがアガレスは背を向けると扉のノブに手をかける。
「お父さ、」
「名前がまだだったな」
「え、」
「悪魔は太陽が苦手だと言ったな」
「お父さ、」
「ならsunny。貴様の名はサニーで良いだろう」


バタン、


タンッ!タンッ!と跳んでいく音が遠ざかりやがて聞こえなくなれば。
「ひっく…、ぐすっ…ひっく…」
子供…サニーの泣き声が響く。


キィッ…

すると扉が開く。
「ひっく…ひっく…」
「おやおやお可哀想に」
「…?貴方は…誰ですか…?」
小屋にやって来た青い髪にシルクハットの少年を前にサニーは目を丸める。泣きながら。少年はシルクハットをとり、一礼。
「初めまして。僕は魔界から参りましたユタと申します」
「ま…魔界…ですか…?」
「はい。清春亡き今。貴方はこの世でたった1人のデミ・ゴッドとなりました。貴方は魔界の大きな大きな力となるでしょう」
「あ…あの…僕は…」
「Happy Birthdayサニー。悪魔と神の血を半分引く第2のデミ・ゴッド貴方を歓迎致します」



































ヴァイテル王国、
ココリ村――――――

「はぁ…はぁ…。どうやらうまく撒けたようだな」
帰ってきたアガレスは息を切らしながら周囲を見回す。此処まで来ればヴァンヘイレンはもう追ってはこないようだ。安堵の溜め息を吐く。
「…ただいま。清春」
自宅のすぐ隣に作った小さな小さな墓に話しかける。屈んで墓を撫でながら。
「カナは少し遅れるが会いに来ると言っていた。何度も謝っていたし、お前に会いたいと言っていた。…良かったな清春」
アガレスは立ち上がると、灯りのついた我が家へ入る。


ギィッ…

「ただいま。キユミ」
「やあ。久し振りだね。おかえりアガレス君」
「こんばんは。アガレスさん」
「なっ…!?」
「あ!おかえりなさいアガレスさん!あのですね!ヒビキお兄ちゃんもヴァンヘイレンを辞めて帰って来てくれたんですよ!こちらの方はヒビキお兄ちゃんのお友達のユタさんと仰るそうです!」
にっこり。笑顔で席に着いて、アガレスの帰宅を歓迎しているヒビキとユタを前に、顔面蒼白のアガレスだった。















































某所――――――

「私立派な巫女になる!」
「頑張ってね雅!」
――これ…は…?――
揺らぐ意識の中。黒い長い髪の少女2人が楽しそうに会話をする光景が御殿の脳内で繰り広げられる。少女2人は真新しい神社の鳥居を潜っていく。
――この神社…何処かで見覚えが…――
鳥居には『御子柴神社』と書かれている。


フッ…、

そこで真っ暗になり、御殿の意識も吹き飛んだ。


































ゴポ…ゴポッ…、

真っ赤な血の海の中。ゆっくり目を開いた椎名。遠くに、若いのに皺が多い白い腕を見付けた途端、腕を精一杯伸ばしてその腕を掴む。
「天人…」
血の海で椎名が掴んだその腕は、気絶している天人のもの。
「天、」

『姉様、お嫁に行ってしまうの?』


ズキッ!

「っ…!」
突然椎名の脳内で少女の声がして尚且つ、神社での光景が浮かんできた。同時に激しい頭痛。頭を抱える椎名。

『そう。椎名さんというお家よ。雅もたまには遊びに来てね』

「っ…う"っ…、何っ…これ…は…、」
頭痛が酷くて、つい放してしまった天人の腕。
「ハッ…!」
ガシッ!危うく離れてしまうところだったが何とか再び掴む椎名。その頃には既にあの謎の少女の光景は脳内からすっかり消えていた。
「っ…、何だったんだろう…。…天人…」
血の海の中。気絶した天人に話し掛ける椎名。
「今度は僕が…天人のヒーローになる番だから…ね…」




















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