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GOD GAME
ページ:2
「なっ…!?何をしておりますの清春!あれだけ部外者に接するなとわたくしが申しましたでしょう!」
「やーん!可愛いじゃない!神と人間の子供っていうもんだからどんだけ気色悪い化け物かと思ったら、ヒトガタで可愛いじゃない!」
マリアはすかさず清春を抱き上げるからアドラメレクが手を伸ばす。しかし、アドラメレクより身長の高いマリアはひょいっ、とアドラメレクを華麗にかわす。
「あ!お待ちなさい!勝手な行動は慎みなさいマリア!」
大神アドラメレクを前にしても全く動じないしそんなのお構いなしに自由奔放なマリアは清春を高い高いしてあやす。
「あらあら〜可愛い坊や♪アガレスと同じ目と青い髪しちゃって本当にあの子の子供なのね〜♪ほら。高い高い〜」
「きゃっ!きゃっ!」
「なっ…!?」
アドラメレクと居る時はずっと泣いていた清春が、マリアに高い高いをしてもらいながらきゃっきゃっ楽しそうに笑っている。アドラメレクは目を丸めて硬直。
「アドラメレクちゃんと違って素直で良い子ね♪」
「わたくしに向かって何ですのその口の利き方は!」
「へぇ〜どこからどう見たって人間じゃない。ねぇ?アガレスに似てるけど実際は人間の血の方が強いのかしら?アガレスの子供は」
「わたくしの子供ですわ!!」
「アドラメレクちゃんの子供じゃないのに何ムキになっちゃってるの?」
「そ、それはっ…!」
「あははっ♪玩具をとられるのが怖い子供みたいで可愛いわアドラメレクちゃん♪」
笑いながらアドラメレクの頭を撫でようと伸ばしてきたマリアの右手をパンッ!と強く振り払うアドラメレクはすぐさま清春を奪い返すと清春を床に立たせる。
「あらら。とられちゃった」
「早く出て行きなさい!大体貴女はわたくしの館に自由に出入りし過ぎでしてよマリア!明日からは出入りできないように致します!行きますわよ清春!」
「は、はいっ…!」
ぷんぷん頭から湯気を噴いてお怒りのアドラメレク。その後をパタパタ追い掛ける清春。マリアはアドラメレクの背を見て笑った。
「ねぇアドラメレクちゃん」
「何ですの!」
「貴女昔と随分変わったわね」
「何が言いたいんですの!!」
「わたくしの子供だなんて言っちゃうくらい優しくなったわねって言ってるの♪」


バタァーン!!

「あらら。閉め出されちゃった」
力強く入口の扉を閉められてアドラメレクに閉め出されてしまったマリア。しかし扉を見てまた「ふふ♪」と不敵に笑うとくるりと館に背を向けて帰っていく。
「昔の血にまみれた殺戮兵器のようなアドラメレクちゃんじゃなくなった今なら殺り易いかしら?なんちゃって♪」




























「全く!何ですのあの子供は!このわたくしに楯突くなんて!」
ぷんぷん怒りながら、カツ!カツ!カツ!と足音をたてて廊下を歩くアドラメレク。その隣にはベルベットローゼが頭を掻きながら欠伸をして並んで歩いている。
「だから早く殺っちまえっつっただろ?」
「でもこの世でたった1人しか居ない存在のあの子に強大な力が隠されていたら勿体ないですわ!」
「だからあのガキが成長するまで生かしておくってか?それまでに何100年かかると思ってんだよ。短気なお前の事だ。ガキが成長する前にぶちギレて殺っちまうんじゃねぇの?」
ギロッ!アドラメレクはベルベットローゼを睨み付けるから、ベルベットローゼは慌てて顔を背ける。
「わたくしがそんなに短気な筈無いでしょう!失礼しちゃいますわ!!」
カツ!カツ!カツ!とやはり怒りが態度に露になったままアドラメレクは廊下を歩き去っていった。
「だからそういうところが短気だっていうんだよ…はぁー…」
ベルベットローゼは腰に手をあてて溜め息を吐くのだった。




























カツ!カツ!カツ!

「全く!」
ぶつぶつ文句を言いながらまだ大きな足音をたてて歩くアドラメレク。そんな彼女を、屋敷の柱に隠れて伺っている神々が3体。1つの目玉に悪魔のような羽が付いた低級神々で、彼らはマリアの手下。
「ギャッギャッ!アドラメレクノ奴、頭ニ血ガノボッテイテ、俺達ニ気付イテイナイゼ」
「ソノ隙ニ殺ッチャウ?」
「当然!アドラメレクヲ殺レバ俺達ハマリア様ニ認メラレ、上級神ニナレルンダカラナ!」
スウッー…と飛び、気付かれないようにアドラメレクに忍び寄る神々。
「誰だろう…あのひと達…?」
そんな神々の様子を、離れた柱の陰からこっそり見ていた清春。



















カツ!カツ!カツ!

「もう!腹立たしいですわあの子供も!ベルベットローゼも!マリアも!わたくしに敬意を払えない者は皆殺しで、」


ガバッ!

「!?な、何ですの貴方!?突然飛び付いてくるなんて無礼者!」
アドラメレクの脚に背後からガバッ!と飛び付いてきた清春。突然の事にアドラメレクは目を見開き、すぐに手を振り上げるが…、
「お、お姉ちゃん危ない…!」
「お姉ちゃん!?わたくしの事はアドラメレク様と呼びなさ、…ハッ!」
何気なく、清春の方を向いたら。背後の柱の陰に隠れている3体分の影が床に映っているのを見つけたアドラメレク。慌てて顔が青い清春と、その影を交互に見る。
「貴方…」
アドラメレクは清春を押し退けると、床に映っている影がある柱の元へ近付き、右手を翳す。


ドンッ!ドンッ!!

「ギャァアアァア!」
アドラメレクが翳した右手がクジャクの羽になれば、羽を羽ばたかせただけで強風が吹き、柱や壁を吹き飛ばす。そうすれば、柱の陰に隠れていたマリアの手下の神々3体は強風に体が耐えきれず千切れ、死亡。


カツ!カツ!カツ!

「ひっ…!」
神々を殺した後、アドラメレクはまた足音をたてて清春の元へ歩いてくるから清春はビクッ!として柱の裏に隠れる。アドラメレクの冷たい青い目が清春を見下ろし、右手を振り上げるから、打たれる!と直感した清春はすぐさま目を強く瞑る。


ポフッ、

「…?」
しかし振り上げた右手は清春の頭の上に優しくポフッ、と置かれると撫でているではないか。清春が恐る恐る顔を上げると。そこには初めて見るアドラメレクの優しい笑顔があった。だから清春はキョトン…と目を丸める。
「わたくしに忍び寄った愚かな神々の存在を教えてくれましたのね!お利口さんですわ貴方は!」
なでなで。優しく撫でられたら、アガレスやキユミからよく頭を撫でてもらっていた日の事を思い出す。アドラメレクに対する警戒心がほんの少し薄れた清春がニコッと笑った。
この事をきっかけにそれからというもの、アドラメレクは清春を実子のように可愛がるようになる。

































「わたくしは今からベルベットローゼやマルコ達と次に襲撃予定の下界地域について話し合いがあります。その間。御子柴。その子と遊んであげなさい」
「えぇ!?ちょ、ちょっとお嬢!」
アドラメレクの部屋に呼ばれた御子柴は、まだ幼児の清春の面倒を無理矢理押し付けられてしまう。アドラメレクはさっさと去っていってしまう。
「はぁ〜…。いくらお嬢の頼みだからってどうしてワタシが裏切り者の子供の面倒を見なきゃいけないのよ…」
ぺたん…と床に力無く座る御子柴の真ん前には、積み木を組み立てながら御子柴にニコッと笑む清春。
「み、御子柴お姉ちゃんよろしくねっ…!」
御子柴はムッと口をへの字にすると立ち上がり、ビシッ!と清春を指差す。
「そうやって笑って見せたってワタシには通用しないわよ童ェエ!大体ね…大体ねェエ!アナタが来てから今までお嬢を独り占めできたワタシが独り占めできなくなったのよォオオ!敵よ!アナタは敵よォオオ!呪われなさいィイイ!」


バチィンッ!!

御子柴は黄色のショルダーバッグから取り出した御札を清春の顔面に貼り付けた。























その頃。
別室でアドラメレク、ベルベットローゼ、マルコ、他上級神々がテーブルに輪になり、次に襲撃する下界地域を話し合っていた。
「次は日本なんてどうだ?御子柴っつー新入りが入って来ただろ?あいつ確か日本の神じゃねぇ?」
「そうですね。今まで居た日本の神はお嬢様に刃向かう御殿君しか居りませんでしたから日本の情報が得られませんでしたけれど、御子柴神がこちらに居る今。日本の情報は得やすいですね」
「では次の襲撃地域は日本で異論ありませんわね?」


ガタッ!

「?」
アドラメレクの椅子がガタッ!と揺れ、腰から脚にかけて誰かに掴まれている感触がする。アドラメレクは首を傾げながら、下を見ると。
「清春?貴方何故此処に居りますの?」
椅子に座っているアドラメレクの腰にしがみつき目に涙を溜めてアドラメレクを見上げている清春(顔面には御子柴に貼られた御札付き)が居た。
アドラメレクは御札をベリッと剥いでやる。ベルベットローゼは「げっ」とあからさまに嫌そうに清春を避け、マルコは肩を竦めて「やれやれ」と呆れる。
「お嬢ォオオ!!」
「あら。御子柴まで」
バァン!と部屋の扉を開けて駆けてきた御子柴。清春はビクッ!としてアドラメレクにがっちりしがみつくが、そんな清春を引っ張り、アドラメレクから引き剥がそうとする御子柴。
「何を抜け駆けしているのよォオオ!お嬢から離れなさい童ェエ!!お嬢にベタベタして良いのはワタシだけなのよォオオ!」
「御子柴。清春と遊んであげてとわたくし申した筈ですわ」
「この子なんて嫌いよ!大嫌いよォオオ!!遊んであげるわけないじゃないィイイ!!呪ってやったわ!呪ってやったわァアア!」
「やれやれ。会合どころではなくなりましたねお嬢様」
マルコにそう言われ、アドラメレクはふぅと溜め息を吐きながら首を横に振る。清春はびーびー泣きながらアドラメレクに抱っこされる。
「年下に御札を貼って意地悪をするなんて…。罰として今日御子柴とは遊んであげませんわ」
「ガーン!何よ…何よォオ…お嬢まで…その童を気に入っちゃって…ぐすん…、ワタシだって…ワタシだってまだ来たばかりなのに…ワタシ…、うわあああーん!」
「!?」
御子柴まで泣き出し、アドラメレクの腰にしがみついてわんわん泣き喚く。清春は清春でびーびー泣いているから、会合どころではなくなり、部屋中に2人の泣き声が響くからベルベットローゼ、マルコ、他の神々は耳を手で押さえる。それ程のうるささ。
アドラメレクは深い溜め息を吐いてテーブルに頬杖を着いた。
「はぁ…。どちらもお子様ですわね…」



























晩―――――

「清春」
キィッ…、とアドラメレクの部屋の扉が開いて戻ってきたアドラメレク。床の上で1人積み木をして遊んでいた清春は昼間泣き腫らした目で、まだヒクヒクしながらアドラメレクの方を向く。アドラメレクは清春の目線に合わせて屈む。
「まあ。貴方上手に積み木を組み立てられましたわね。上手上手!」
誉められ、パァッ!とすぐ明るく笑顔になるから「子供というものは単純ですわね…」と呟きながらアドラメレクは清春を抱き上げる。
「貴方は半分人間の血が流れておりますから飲食をし、睡眠をとらなければいけませんの。だから今日はもう寝ますわよ」
抱き上げたままベッドに横たわらせ、毛布をかける。アドラメレクはベッドの脇の椅子に腰掛けて清春の頭を撫でるのだが、一向に寝る気配が無いどころか目がぱっちり冴えている清春の目。
「寝なさいな」
「……」
「寝なさいと言っていますでしょう」
「お父さんとお母さんは…?」


ピクッ。

清春のその一言に、最近は笑顔ばかり振り撒いていたアドラメレクの表情が、最初天界へ連れてこられたばかりの清春を見る恐ろしい目付きに変わる。ハッ!とし、アドラメレクの変化に気付いた清春は毛布を頭からかぶり隠れるが…


バサッ!

「!!」
毛布を剥ぎ取ったアドラメレクは清春に顔を近付ける。アドラメレクの青い冷たい目が恐い。
「ごめ…ごめんなさいっ…ごめんなさい…も、もう言いません…言いませんからっ…」
「寝れない時や言う事を利かない時。貴方のご両親は何か致しまして?」
「えっ…?」
打たれるか殺される…と覚悟していたのに、予想外の質問に清春は目を丸める。
「え…?あっ…。おうた…」
「歌?」
「おうた…歌ってくれたの…」
「貴方が此処へ来たばかりの頃わたくしの部屋で勝手に奏でておりましたあの雑音の事でして?」


ビクッ!

アドラメレクの嫌味たらしい笑みで言う皮肉に清春はまた毛布で隠れる。
「ふふ。冗談でしてよ。あの歌は貴方の子守唄でしたのね。わたくしに教えてくださる?」
ソローッ…と毛布から目だけを出して清春は頷く。
「おうた…歌ってくれるの?」
「仕方ないですから歌って差し上げますわ」
パァッ!と明るくなりやはり単純な清春。清春を抱っこして、仕方ないと呟きながらも嬉しそうなアドラメレク。
「お姉ちゃんがまた…」
「はい?」
少し恥ずかしそうにしながら呟く。
「お姉ちゃんがまた…悪い神様に狙われたら…僕が助けるねっ!」
アドラメレクは目を丸め、しばらくしてからふっ…と笑う。
「失礼な子ですわね貴方に助けられる程わたくしは弱くありませんわよ」
そう言いつつも、とても嬉しそうな笑顔を浮かべていたそうな。


















♪――♪――♪――

「何だぁ?」
夜の天界に、女性の透き通った歌が聞こえる。
ベルベットローゼや、マルコ、御子柴、天界に居る神々は皆立ち止まり、歌声が聞こえるてくる屋敷の方を振り向く。
「お嬢様の声…のようですね」
「お嬢の歌声よォオオ!ベルベットローゼ!直ちに録音しなさい!」
「オレに命令すんじゃねぇ御子柴!!」



































それから月日は流れ――

ギィッ…、

鉄格子の頑丈な扉の部屋。
「清春」
逃げ出さぬよう与えられた鉄格子の自室。物心ついた頃からアドラメレクとは話さなくなり、家族写真を眺めてばかりになった清春にアドラメレクは肩を竦めて呆れる。そして今も、部屋の片隅で家族写真を眺めている。
「清春」
「…?」
240歳。人間でいう14歳になった清春の前に、銀色のペンダントを落とす。
「毎日毎日その写真を視界に入れるわたくしの身にもなりなさい。これからはその写真をこのペンダントの中に入れ、わたくしの視界に入らぬよう密やかに写真を眺めなさい」
渡されたペンダントを首からかけ、家族写真をそこに入れる清春。
自分が置かれている立場やアドラメレク達が悪神だと理解した成長した清春は、まだ何も知らなかった幼少期より暗くこもりがちになり、アドラメレクと会話すら交わさない。アドラメレクはぐいっ、と右手を引っ張る。
「……。234年振りに下界へ連れて行ってあげますわ。ついてきなさい」

































下界、ヨーロッパに位置する国のマテール街―――

人間で賑わう華やかな街。下界に降りたアドラメレクは清春の右手を引く。が、清春は下を向いてばかりで暗い。
「ふぅ…。いつまでもお通夜状態はおやめなさい。止めなければ今此処で殺して差し上げましてよ?」
「……」
それでも無反応だから、アドラメレクはイラッ…としつつも手を引く。
「……。お腹が減りましたでしょう。ついてきなさい」


カランカラン…、

入ったアンティークでこじんまりした喫茶店。客はアドラメレク達しか居らず。人間の食べ物は理解に苦しむアドラメレクだが、適当に注文をする。怪しまれると悪いから勿論自分の分も。
「お待たせ致しました」


カタン…、

運ばれてきた蜂蜜たっぷりのホットケーキ。
「お食べなさい」
「……」
「清春」
「……」


カチャッ…、

ようやくナイフとフォークを手に取り、ホットケーキに手を付ける清春。呆れながらも、アドラメレクは一応自分もホットケーキを頬張る。人間に馴染む為に。(後で吐き出すが)


ポタッ…、

「…?」
テーブルに滴る水にアドラメレクが顔を上げると。下を向いたままホットケーキを頬張る清春の目からポタポタと雨のように涙が滴っている事に気付く。アドラメレクは眉間に皺を寄せ、首を傾げる。
「清春?何を泣いておりますの?しっかりなさい」
「…さんの…、」
「はい?」
「母さんの…味に似てる…、」
「……」
あれだけ両親の話を持ち出すな、持ち出したら殺す。と言っても両親の話を持ち出してきた清春に、アドラメレクの目が冷たく据わっている。ガタッ…、と席を立ったアドラメレクは清春の横に立つ。
「っ…、ひっく…っく…、」
そんなのお構い無しにまだ下を向いて泣きながら頬張っている清春。
「…貴方」


ビクッ!

ようやくアドラメレクが横に居る事に気付いた清春がビクッ!として、恐る恐る顔を上げる。
ガシッ、と顔を両手で掴みこちらに無理矢理顔を向かせるアドラメレク。



















「ご、ごめっ…、」
「本っ当。どうしてこうも人間の子供は反抗期が長く続くのでしょう!」
「…?」
アドラメレクは清春の口に付いた蜂蜜をナフキンで拭き取ってやると髪をくしゃくしゃにして、きゅっと抱き締める。
「幼少期も腹立たしかったですけれど反抗期の今より可愛いげがありましたわ!」
「…?」
「これ以上両親の話を持ち出すようでしたら貴方をもう下界へ遊びに連れて行ってあげませんわよ!」
「え"!やだし…」
「なら!」
コツン!と額にデコピンをする。
「両親の事は忘れてわたくしを見なさい!分かりましたわね清春!?」































晩――――――

「ふぅ〜…疲っっかれましたわ…」
マテール街外れのアンティークでこじんまりしたホテルのベッドに倒れこむアドラメレク。
「…大丈夫?」
ギロッ!と清春を睨む。
「元気になった貴方があちこち店を連れ回したせいでしてよ!!」
こっちは貴方の何億倍も生きているのだから少しは年寄りを気遣いなさい…などとぶつぶつ言っているアドラメレクを無視して、清春は初めて泊まる下界のホテルに興味津々。窓を開けて夜景を眺める。
「すげー。下界の夜景ってチョー綺麗だし」
「!?危ないでしょう!」


バァン!!

「!?」
開けた窓をすぐ閉められ、清春は驚く。アドラメレクは目をつり上げて清春を指差し、お怒り。
「2階でしてよ!?窓から落ちたらどうしますの!」
「そんくらいフツーの人間じゃない俺なら大丈夫っしょ」
「普通の人間でも普通の神でも無い貴方だから心配なのです!!」
ぷんぷん怒りながら窓の鍵とカーテンまで閉め、ベッドにまたバフッ!とうつ伏せで倒れるアドラメレク。
「うー…疲れましたわ…。若い貴方の買い物に付き合うと歩き疲れてしまいますわ…」
「…ババァ」
「何か言いまして!?」
「いえ!何も!!」
ギロッ!と睨むも、すぐまたベッドに顔を伏してしまうから余程疲れたのだろう。こんなアドラメレクを見るのは初めてだから、傍のソファに胡座を組みながら物珍しそうに眺める清春。















「そういやアドラメレクの姉ちゃん。天界に帰んないの?」
「丑三つ刻になったらマテール街を襲撃致しますのよ…。それまでこのホテルで待機ですわ…痛たた…」
「……。昼間遊んだ街を?」
「いけません事?」
「…だって酷くね?」
「人間の血が半分入っている貴方には分からないのでしょうね。我々神々の気持ちが」
清春は立ち上がる。
「だって…だっておかしくね!?この街の人間が何かしたわけじゃねーし!アドラメレクの姉ちゃんは何で人間を殺すの!?」
声を荒げる清春。しかしベッドに伏したまま動じないアドラメレク。
「…子供の貴方には分かりませんわ」
「っ…、」
「それにいずれ貴方にも人間を襲撃してもらいますわよ。わたくしに生かされている半神の化け物の分際でわたくしに楯突かないでくださる?」
「っ…!」
怒り、立ち上がるが、ドスッ!とイライラしながらソファに座る清春。アドラメレクはベッドに伏したまま、目だけを清春に向けている。
















「…意味分かんね」
「……。ハットフィールド家に仕えし神はその昔。霊感があり神々の姿が見えるハットフィールド家末娘アイリーンと友人関係を築いておりました」
「…?」
突然昔話を語り出したアドラメレクに、清春は首を傾げる。アドラメレクはお構い無しに、ベッドに伏したまま誰かの昔話を続ける。
「体の弱い末娘アイリーンは外に出る事もできずアルビノのその体や髪は白く儚く…。友人も居りませんでした。…けど。ハットフィールド家に仕える神の姿を唯一見る事のできた末娘アイリーンはその神と友人になり、毎日を楽しく過ごしました。ハットフィールド家に仕えし神もこの家を、この末娘を幸せにしようと神としての己の力を発揮しハットフィールド家や末娘はそれはそれは幸せな日々を送りました」
「アドラメレクの姉ちゃんソレ何の話?ワケ分かんねーから、」
「そして末娘アイリーンにも人生で一番の幸せが訪れました。社交界で出会ったセントノアール伯爵に一目惚れをした末娘アイリーンはセントノアール伯爵と結婚し、セントノアール家に嫁いだ末娘はアイリーン・セントノアールとなり。ハットフィールド家に仕えし神も末娘アイリーンが幸せなら自分も幸せでした。役目を果たした神は別の家の神に任命され、ハットフィールド家を末娘アイリーンを離れました。しかし…」
「……」
「セントノアール伯爵は女子供を殺める事で快楽を得る異常者だったのです。そんな事も知らずに嫁いだ末娘アイリーンは嫁いだ初日。泣き喚き助けを乞う声も届かない中、セントノアール伯爵に犯されながら殺されたのです」
「……」
「それ以後、ハットフィールド家に仕えていた神は"人間は不浄で穢らわしい生き物。生きている価値が無い"と認識し、人間が抱く強欲や不浄な恋愛感情全てに嫌気が差しました。末娘があのような不浄な感情をセントノアール伯爵に抱かなければこんな事にならなかったのです。それに、人間が生きている限りまたセントノアール伯爵のような異常者がこの世に生を受ける事でしょう。ですからハットフィールド家に仕えし神は神々による人間造り直しの儀を始めましたとさ…」


















そこまで1人で語るとまたベッドに顔を伏すアドラメレク。鈍い清春も気付く。
「…そのハットフィールド家に仕えてた神ってアドラメレクの姉ちゃんの事?」
アドラメレクは返事をしない。
「だから、」
「人間は愚かで残虐な生き物でしてよ」
「……」
「だからあのまま貴方がアガレス氏と共に人間に混じって暮らしていてもいつか貴方が半神である事がバレ、アガレス氏が神である事がバレ、人間に殺されていたでしょう。だから貴方はわたくしに引き取られて正解でしたのよ。清春。人間に関わってはいけませんわよ。人間は恐ろしく低俗で醜悪で穢らわしい生き物ですから」
「……。でも」
清春は、アドラメレクが伏しているベッドの横に立つ。拳を力強く握って。
「でも、母さんや祖父ちゃんや祖母ちゃんや叔父さんは悪い人間じゃない…!」
「……」
「けど…。アドラメレクの姉ちゃんが人間のそーいう悪い姿を見て人間を信じれなくなった気持ちも…分かんないでもないし…」


ガッ!

「?」
伏したままアドラメレクは清春の右手を掴むから、清春は首を傾げる。
「…アドラメレクの姉ちゃん?」
「……」
「アドラメレクの姉ちゃん?どったの?」
清春は床の上に屈み、首を傾げる。アドラメレクはゆっくり清春の方に寝返りを打つ。
「清春」
「何だよ…」
「おやすみの時間でしてよ」
「は…はあ?!」
何か神妙な話をしそうな雰囲気…かと思いきやそんな事を言われ、拍子抜けしてしまった清春は目を見開く。
「何だよ意味分かんね…」
ぶつぶつ文句を言いながら立ち上がり、隣のベッドに行こうとする清春の腕をぐっ、と強く引っ張る。
「何!?」
バシバシ自分のベッドを叩くアドラメレクの行動の意味を理解した瞬間清春は目を見開き声を荒げる。
「マジ意味分かんねー!!」
「幼少期は一緒におやすみしたではありませんこと」
「そんなの忘れたし!!」
イライラしながら隣のベッドにバフッ!と毛布を頭からかぶり横たわる清春。しかし、何やら背後にモゾモゾした感触がし、嫌な予感がしながらもソローッ…と後ろを向くと。
「あんた頭バグった系!?」
清春の毛布の中にモゾモゾ入ってきたアドラメレク。清春は両手両足を使ってぐいぐい押し退ける。
「邪ーー魔っ!!」
「御子柴は自らわたくしを招きましたのに貴方のその反抗的態度は何ですの?」
「それ御子柴の姉ちゃんが頭バグってるだけだから!…!?ちょっ、ちょおっ!?」
ガシッとハグしてくるアドラメレクに清春は顔を真っ赤に上気させ、更にぐいぐい押し退ける。
「何なの!?今日おかしいんじゃねーのあんた!?」
顔を上げたアドラメレクの表情がやけにいつもと雰囲気が違うから清春も少し後退りする。
「…!?な、何っ?」
「人間の抱く欲求はどれも低俗で醜悪で穢らわしいもの。特に他人を愛しむ感情は周りが見えなくなり盲目になる愚かな感情…」
「はぁ?!何いきなり語り出して…、」
アドラメレクは自分の表情が見られないよう小恥ずかしそうに清春の肩に顔を埋めて、細い白い指で清春のシャツのボタンを上から外していき、自分の体を密着させる。が、全く意味が分からないといった様子の清春。
「…??何?」
「…清春」
「は?何?だから何?」

『お姉ちゃんがまた…悪い神様に狙われたら…僕が助けるねっ…!』

言葉を思い出すと、薄ら上気した赤い頬のアドラメレクは肩に顔を埋めたまま躊躇いがちに口を開く。
「わたくし貴方の事を…、」
「お嬢様。丑三つ刻です。出撃致しますか?」
「…ハッ!」
スウッ…と室内に現れたマルコの声にハッ!と我に返ったアドラメレク。
「うげっ…マルコのオッチャンじゃん。神出鬼没だよなー、」


ガバッ!

「っ痛っつー!?」
ガバッ!と慌てて起き上がったアドラメレク。その時たまたまアドラメレクの顔が清春の顎に命中した為、清春は激痛により、ベッドに顔を埋めて痛みにゴロゴロ悶えている。
「っつーー…!!」
「あら清春。失礼」
全く悪びれずアドラメレクはスッ!と立ち上がるとベッドから降りる。そんなアドラメレクの髪を静かに解かし、横たわっていたせいで乱れ皺になった服を整えるのは世話係のマルコ。



















「ご苦労マルコ」
「いえ。何のこれしき」
「丑三つ刻になったようですわね」
「はい。定刻になってもお嬢様からの攻撃指示が出ませんでしたので、何処の馬の骨か分からない者と深夜に何をなさっているのかと不安になりましたよ」


ギロッ!

分かっていて敢えて皮肉を言ってくるマルコを睨み付けるアドラメレク。マルコは肩を竦めて、一歩下がった。
「わたくしに何か言いたい事があるようですわねマルコ」
「いいえ。何も」
「…ふん」
「??」
キョトンとしていて全く理解していない清春をチラッと見るとアドラメレクはいつもの高飛車な顔付きに戻って、髪を手で靡かせている。
「清春。貴方は此処でおとなしく待っていなさい。わたくし達がマテールの街を襲撃後迎えに参ります」
「え!?」
「まだ子供の貴方が戦場に出ては死ぬだけでしょう」
「ではいきましょうかお嬢様」
「ええ」
スッ!と再び姿を消し、先に行ったマルコ。背を向けたままアドラメレクは窓を開く。
「……。清春」
「へ?何?」
くるっ。と振り向いたアドラメレクは先程のように顔を薄ら赤く上気させ、ビシッ!と清春を指差した。
「まだお子様な貴方には分かりかねる様ですけれど!貴方が大人になりましたらわたくしの気持ちを察しなさい!このっ…鈍感お馬鹿さん!!」
「はぁ?」


バサッ!

アドラメレクの両腕がクジャクの羽と化すると、バサバサと窓から街へ飛び立っていった。



























バサバサッ、
既にマテール街はベルベットローゼやマルコ、御子柴達神々によって火の海と化していた。
「お嬢!」
「遅れまして失礼」
ラバ×クジャクの姿をしたアドラメレクが現れれば他の神々は道を開ける。その時。
「くっ…!神々め!ヴァンヘイレンマテール支部の人間をなめるなよ!!」


ドンッ!!

ヴァンヘイレンマテール支部の人間が神々に向けて放った対神用兵器の砲弾が飛ぶ。神々はあっさり回避するが、砲弾が向かった先は清春が待つ例のホテル。
「…ハッ!」
血相変えたアドラメレクはバサバサと羽ばたかせ、砲弾を追い掛ける。
「おい!アドラメレク!?何やってんだよ!?」
「お嬢様!我々神々は全員攻撃を回避しましたよ!?」
「お嬢ォオ!何故自ら砲弾を追い掛けるの!?死んじゃうわよォオオ!?」
仲間の声など無視し、アドラメレクはホテルへ飛ぶ砲弾を追い掛ける。
「くっ…!」


ガシッ!

ホテルに砲弾が直撃する寸前で砲弾を両腕の羽で捕らえたアドラメレク。
「お嬢!?砲弾を放さないと!?」
「おいアドラメレク!何やってんだよ!死にてぇのか!」
「お嬢様!?」
「くっ…!どいつもこいつも…煩わしいですわ…!いつからっ…、わたくしの言動に逆らえるような立場になりましたのッ…!!」


ドスッ!

アドラメレクは砲弾を羽で攻撃。衝撃の加わった砲弾は爆発する。


ドンッ!!ドンッ!!

「アドラメレクゥウ!!」
「お嬢様!!」
「お嬢ォオオ!!」


















その光景を、地上に居るヴァンヘイレンマテール支部の人間達は首を傾げて眺める。
「な、何だあの神?自ら砲弾にぶつかりにいって自爆したのか?」
爆風による灰色の煙幕が晴れると…
「アドラメレク!」
「お嬢様!」
「お嬢ォオオ!!」
其処には、砲弾の爆発を直に喰らった為両腕の羽が焼けただれてしまったアドラメレクが宙に浮いていた。駆け寄るベルベットローゼ、マルコ、御子柴。
「おいアドラメレク!心配かけさせんなアホ!」
「お嬢様何をなさったのですか!」
「お嬢ォオオ!ひっく、ひっく!ワ、ワタシお嬢が死んじゃったらワタシも死ぬわァアア!」
「ふぅ…。大袈裟でしてよ。このくらいでわたくしは死にません」


チラッ…、

アドラメレクは後ろを見る。其処には、アドラメレクが破壊したお陰で直撃を免れた例のホテルが。そのホテルの2階からこちらを目を丸めて見ている清春の無事な姿が見えると、アドラメレクは清春に背を向け、ヴァンヘイレンの方へ進む。
「さて。愚かで穢らわしい人間達をわたくし達の手で造り直して差し上げましょう」

『お姉ちゃんがまた…悪い神様に狙われたら…僕が助けるねっ…!』

清春の言葉を思い出すとアドラメレクはふっ…と鼻で笑った。
「だから申しましたでしょう。わたくしは貴方に助けられる程弱くありませんと」



























場面は戻り、
現在――――――

過去を思い出していたアドラメレクは、清春の冷たい無機質な灰色の部屋の中心で力無く座っている。
「……。ふっ…。不言実行ですわね…貴方は…。わたくし…貴方に一度も助けられませんでしたわよ…」
俯いているアドラメレクの表情は彼女の長い前髪で見えない。
「他人を愛しむ穢らわしい感情を持つ人間など殺められて当然…。…そうです。わたくしはあの子の事を子として…想っていただけでしてよ…。これは決して人間共のような…穢らわしい感情ではありませんの…」
そこでフラッシュバックするのは。アンジェラの街に居た中級神が記録していた街での清春の映像。中級神はその映像を先程アドラメレクに見せた。

『これからは父さんも母さんもずっと3人一緒じゃん!』
『ブスだけどカ、カナの事好きになっちまったんだし仕方ねーじゃん!!』

両親やカナと居る時。アドラメレクには絶対見せる事の無かった心からの笑顔の清春の映像。


ドクンッ…!

その忌まわしい映像を思い出せば、アドラメレクの心臓が大きく鳴る。


ガリッ…、

アドラメレクが床に爪をたてれば、白い爪にジワリ…青い血が滲む。
「わたくしの知らない間に…わたくし以外の者と幸せな刻を共有していた貴方なんて見たくありません…。知りたくありませんでしたのに…」


ポタ、ポタ…ポタッ…

勢いを増す雨のようにたくさんの涙が灰色の冷たい床に染みとなっていく。
「…いいえ…。違います…。この感情は…ずっとずっと前から…人間共と同じ穢らわしいモノだと…気付かない振りをしてきました…」
アドラメレクは目を強く瞑り、青と赤の混ざった乾いた血がべっとり付着した制服の胸元を皺ができるくらい両手でギュッ…!と爪をたてる。
「わたくしの知らないあの子を見るくらいなら…わたくしの知らないあの子をもう一生見なくて済むよう…!殺してしまえば楽ですから…殺しただけなのです…!」
ポタポタ大粒の涙を流しながら口を開いた。
「愛しています…愛しています…!貴方の妻になりたかった…愛しています清春…!!」









































同時刻、現在のヴァイテル王国ココリ村――――


バチバチッ…、

焼け野原と化した祖国。地面にはまだ燻る小さな火。人間が焼けた臭いが充満する真っ赤な空の下。呆然と座り込むキユミ。
「あ…アァ…きよ…はる…きよ…はる…がっ…」
乾いた青と赤の血に塗れて地面に置いた肉片を、震える手で抱き締めるキユミ。そんな放心状態のキユミの目を手で覆い隠し、抱き寄せるアガレス。
「あっ…アァ…、」
アガレスはゆっくり顔を上げる。常に無表情で感情を露にしなかった彼らしかぬ悲しみと怒りが混合した表情にボロボロと大粒の涙を流して。
「死して尚一生許さんぞアドラメレク…!!」


























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