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GOD GAME
ページ:1





タンッ!タンッ!

「や、やめて下さい…、放して下さい!アガレスさん貴方は私や両親の仇なのですから!」
キユミの腕を引いたまま、家屋を伝って跳んでいくアガレス。キユミがアガレスの腕を放そうとしても放せず。


ドドドドドッ!

「ギャアアアア!」
すると、ようやくあの生き物が居る繁華街へ辿り着いた。奇妙なあの生き物は繁華街の宙に浮き、あの生き物が居る場所の天から無数の十字架達が街を攻撃している様子がこの屋根の上から見える。
「酷い…。あれもヴァイテル王国の神ですか?」
「……」
「アガレスさん…?黙ってばかりいないで答えて下さ、」
「お前は見なかったのか…あの生き物の目を」
「え…?見えませんでした…ずっと瞑った目から血を流していたので…」
「……。俺は見えた。一瞬…」
「…アガレスさん?」


ギュッ…!

繋いでいるキユミの手が痛い程アガレスは強く握る。
「アガレスさ、」
「あれは…あいつは俺と同じ目をしていた…」
「え…」
アガレスは眉間に幾重もの皺を寄せ、254年前アドラメレクにバラされた日と同じ酷く哀しみに満ちた顔をしてその瞳に、繁華街を攻撃する半神を映す。
「あの生き物は…あれは…あいつは清春だ…!!」
「清春…!?あれが…ですか…!?」


ドドドドッ!!

「ギャアアア!」
「アアアア!!」
十字架が降り注ぐ地鳴りにも似た爆音と人々の悲鳴が轟く。アガレスの言葉にキユミはまだ信じ難い様子。
「う…嘘です…嘘です!あんな化け物が清春なわけないじゃないですか!」
「自分の子をそんな風に呼ぶな!!」
「…!!」
初めてアガレスの怒鳴り声を聞いたキユミは畏縮してしまう。
「…声を荒げてすまなかった」
「い、いえ…私こそ…」
我に返ったアガレスが謝罪すれば、キユミも下を向いて謝罪。するとアガレスは槍を繰り出す。
「あっ…」
「お前は其処で待っていろ」
「ま…待って…待って下さい…!あれが清春なら…アガレスさんは攻撃をするんですか…!?」
アガレスのシャツを後ろから引っ張るキユミ。
「…見たところ正気を失っている。多少手荒な真似をする事にはなるが…極力攻撃はせずにあいつを止めてくる」
「…っ!私も…私にも何か手伝わせて下さい!」
「いい。お前は其処で待っていろ」
「嫌です!!あの子は私の子供なんです!!」
アガレスはふっ…、と優しい表情を浮かべ、キユミの頭を撫でる。
「だがあいつがあのような体になると分かっていて産んだのは俺だ。責任は俺がとる」
「そんな…!」
「清春だけは必ず連れて戻るよ」


タンッ!

アガレスは家屋を伝い、跳ぶ。
「アガレスさん!!」


ドドドドッ!!

降り注ぐ十字架の音でキユミの声は掻き消され。アガレスの姿は燃え上がる炎と十字架の大群に紛れてすっかり見えなくなってしまう。























「っ…!こんな時ばかり…。こんな時ばかり父親面をしないで下さいっ…!」
キユミはふるふる震えながら、自分の胸元に爪をたてる。その頬には一筋の涙が伝う。
「それに何ですか…。何なんですか…。清春だけは必ず連れて戻るよ、って…。貴方は私や両親、ココリ村のみんなを騙しました…。けど…けど…!!」
キユミは顔を上げる。ボロボロ涙を流して。
「アガレスさんも戻って来なきゃ意味が無いじゃないですか…!!」


ゴオッ…!

「…っ!?」
すると突如強風が吹き、キユミが頭上を見上げる。
「ギャッ!ギャッ!面白クナッテキタナァ!」
「サッスガアドラメレク様ダ!裏切ッタ清春ヲ我ヲ忘レタ本来ノ姿ニサセテ母国ヲ壊滅サセ、両親ヲ殺サセルナンテナ!」
「コノ上ナイ復讐ダゼ!」
「俺達モアドラメレク様ニ逆ラワナイヨウニシナクチャナ!デナイト清春ミタイニナルゾ〜!」
「ギャッ!ギャッ!アガレスモ向カッタミタイダナ!アガレスモロトモブチ殺セトノ、アドラメレク様カラノ命令ダ!」
「今宵ハ宴ダナァ!ギャッ!ギャッ!」
ヴァイテル王国の神々の大群が、アガレスや清春の方へと向かって宙を飛んでいっている。キユミには気付いていないが。


ギュッ…!

キユミは両手を強く握り締めると、バサァ!と悪魔の羽を広げた。

























「君達騒ガシイヨ。黙ッテオ嬢様ノ命令ヲ完遂サセナヨ」
「チェッ。相変ワラズ、シロクロ様ハ厳シイ、ナッ、」


スパン!スパン!

「…!!」
アガレスと清春の方へ飛んでいた神々3体の首が跳び、ブシュウウ!と青い血が噴水のように噴く。シロ×クロは目を見開く。他の神々は一斉に騒ぎ出す。
「何ダ!?アイツラノ首ガイキナリ跳ンデッ、」
「下ガッテナ下級神!」
「ヘッ?!」
ビュン!とシロ×クロが神々の間を素早く通り抜ける。


ドンッ!!ドン!

シロ×クロは先程アガレスに攻撃した光の輪で攻撃。
「くぅっ…!」
その光の輪で体を固定され身動きが取れずにいるのは悪魔の真っ黒な羽を羽ばたかせたキユミ。
「ギェッ!?アガレスノ女ダ!」
「イツノマ二!?」
「君達下級神々ハドンクサイカラ気付カナカッタンダヨ」
シロ×クロはストン…、と屋根の上に立つと恐ろしい目でキユミを見下ろす。
「元ハ人間ノ分際デ、ボク(クロ)達神々二楯突コウダナンテ愚カダネ」


パァンッ!

「…!何ッ…!?」
何とキユミは、光の輪を破壊した。シロ×クロは目を見開く。キユミはキッ!とシロ×クロを睨み付ける。
「私の大切な家族の元へは行かせません!!」
そのキユミの目に、シロ×クロは真っ赤な歯茎が見える程ニタァッと笑む。
「ヘェ!面白イ女ダネ!殺シ甲斐ガアル!!」


グワン…!

「!?」
途端、辺りが蜃気楼のように歪み出すから平衡感覚を失い、キユミがよろめく。
「うっ…!これは…!?」
「キユミ」
「母さん!」
「…!!」
すると。たった今の今まで闇夜のヴァイテル城下町だったというのに。辺りには昼下がりのココリ村の穏やかな風景が広がっていた。そしてキユミの前にはアガレス、清春、キユミの両親、兄ヒビキ、亡くなった筈のココリ村の村人が笑顔でキユミを迎えていた。
「な…、何…!?これは…!」
「母さん何してるの?」


ぐいっ、

清春に腕を引っ張られる。
「今日は村のみんなでパーティーをするって言ってたじゃん!」
「えっ…、」
「まさかキユミお前。パーティーを忘れていて料理を作り忘れていたのではないだろうな」
「あはは!キユミちゃんらしいねぇ」
「あははは!」
穏やかな風景が広がっている。キユミもつられて笑…もうとしたが頭を抱える。
「違う…これは違う…。お父さんとお母さん…牛飼いのおじさんや村のみんなは殺されたの…。お兄ちゃんは悪魔にされて…アガレスさんは今、清春を助けに行ってるの…!これは違う…これは夢…違う…!」
「母さん?どうしたの?」
清春が不安そうに顔を覗き込む。

『全てボク達の幻影だったんだよ!』

「…ハッ!」
先程王宮でシロとクロがアガレスに言っていた言葉を思い出したキユミはハッ!とする。
「母さん?どうしたの?母さん?」
「っ…!私の大切な人達に姿を変えるなんて…許せない!!」


スパン!スパン!

キユミは悪魔の羽でアガレス、清春、両親、兄、村人の首を跳ねていく。そうすれば穏やかなココリ村の風景がグワン…と歪み、其処はたちまちあの闇夜の城下町へと戻る。
「チィッ!コノ女、ボク(クロ)達ノ幻影ヲ見破ッタヨ。ツマンナイ奴。ムカツク奴!!」
幻影を見破られたシロ×クロは舌打ちをして面白くなさそうに顔を歪めると、両手を天高く掲げる。すると…


ゴゴゴゴッ…!

「な、何あれは…!?」
真っ黒い雲の切れ間から、先程のヴァイテルの神々が1つに集結した巨大な化け物が現れる。





















「アハハハハ!神ヲナメルナヨ女ァ!イッケェ!!」
シロ×クロがキユミを指させば、巨大な1体の化け物と化した神々がキユミに襲い掛かる。


ドドドドッ!!

「きゃあ!!」
神々の開けた大きな口からは銃弾のような無数の攻撃が放たれ、キユミは羽で払うが追い付かず、羽や服に穴が開き、そこから黒い血が滲み出す。
「うっ…、こんなっ…、」
「ボサットシテルト死ヌヨ!!」
「…ハッ!」
よろめいているとシロ×クロが目の前まで迫っており、大きな十字架をキユミに振り上げた。


ドゴォンッ!!

キユミは王宮を突き破る程派手に吹き飛ばされる。崩れた瓦礫の下敷きになり、呻きながら起き上がろうとするが…、


グシャッ!

「うぅっ…!」
シロ×クロが容赦無くキユミの頭を踏みつけ、ケタケタ笑う。
「アハハハハ!アハハハハ!!ザマアミロダネ!今ハ悪魔デモ所詮悪魔堕ちシタ元ハ人間!神様二ハ敵ワナイコトヲ思イ知ッタカナ!?アハハハハ!」
ズゥン…、ズゥン…と地鳴りがすれば、巨大な神々の集合体もやって来る。
「オ前ラ後ハコイツヲ好キニ殺ッチャッテ良イヨ。ボク(クロ)達ハ、オ嬢様二加勢シニイクカラサ」
そう言えばシロ×クロは宙を飛んで去っていく。
「うっ…、」
瓦礫の下敷きになり、霞む視界でキユミは巨大な神々の集合体と、遠ざかっていくシロ×クロを辛うじて捉える。
「待っ…て…、行かない…で…、そっ…ちには…、私の…大切な…家族…がっ…、」

『お前を絶対に幸せにする!だから断るな!』
『でも良かった。母さんの記憶が戻って。これから3人ずっと一緒じゃん!』

キユミの脳裏で鮮明に甦るのはアガレスと清春との楽しかった思い出。
「女ァ、元ハ人間ノ分際デ、俺達神々二逆ラッタ天罰ダァ!」
巨大な神々の集合体がニタリ…笑む。
「…さん…、はる…」
「アァン?女ァ、最期ニ言イ残ス言葉デモアルノカ?聞イテヤロウカ?ギャッ!ギャッ!」


カッ!

見開いたキユミの瞳が真っ赤に光った。































その頃。アガレス達が居る方へ飛んでいるシロ×クロ。
「ニシテモアノ女、悪魔堕チシタ分際デ、ボク(クロ)達二楯突イテキテ生意気ダッタネ。デモマア今頃下級神々二肉片ニサレテイルカァ!アハッ!アハ!」


ドォンッ!!

「…!?」
爆音が背後からして振り向くと。煙幕の中、赤く光る目をした者がこちらへ向かって飛んで来た。
「何ッ…!?」


ドンッ!!

寸の所で十字架を繰り出したシロ×クロがぶつかり合っているのは、目を真っ赤に光らせたキユミ。
「アイツラヲ殺ッタノ!?オ前ガ!?」
「私の大切な家族にもう指一本触れさせません!!」
「ッ…!コンノッ…悪魔風情ガァアアア!!」


ドン!ドンッ!!

堪忍袋の緒が切れたシロ×クロは容赦無く十字架でキユミを攻撃。キユミも悪魔の羽で応戦。


ドン!ドンッ!!

「っ…、」
「弱イクセニ調子二乗ルナヨ!!」
しかしシロ×クロの攻撃の方が上手。キユミは羽や腕から血を流し、よろめく。その隙を…
「モラッタァア!!」
シロ×クロはキユミにとどめをさそうと十字架を振り上げる。


ビチャッ!!

「…ヘッ?」
その瞬間。キユミが自分の悪魔の血をシロ×クロの顔面に噴きかけた。

















一瞬動きが止まったシロ×クロだったが…
「ギャアアア!悪魔ノ汚ラワシイ血ィ!血ィ!アアアアア熱イ熱イィイ!焼ケル!焼ケル!!」
顔面にかかった悪魔の血に暴れるシロ×クロの顔面がジュウゥッ…と火傷を負っていく。


ガシッ!

全身血塗れのキユミはシロ×クロにわざと抱き付く。そうすればシロ×クロの体に悪魔の血が付着し、シロ×クロの全身が火傷を負う。
「ギィヤアアァアア!離レロ!離レロ汚ラワシイ悪魔ァアア!」
「っ…、さっき…アガレスさんの血が効いていたのを思い出したんです…。っ…、貴方達は悪魔の血を酷く嫌う…それが弱点。だから…!!」


バサァ!

シロ×クロと間合いをとったキユミが羽を広げる。
「…ハッ!」
シロ×クロが気付いた時には既に…
「ヤメロ!ヤメロ!ヤメロ悪魔ァアア!」
「私の家族を傷付けた罰です!!」
「ヤメロ悪魔ァアアアア!!」


ドンッ!!

キユミの羽が、全身火傷を負ったシロ×クロを真っ二つに切り裂いた。バラバラになる体。死に逝く中シロ×クロは呟く。
「アァア…オ嬢様…ゴメンナサイ…オ…嬢、サ…マ"…」
跡形も無く死んだシロ×クロ。キユミは呼吸を荒げる。
「はぁ…はぁ…、」


パタン…、

力を使い過ぎたのか、近くの家屋の屋根の上に気絶し倒れた。
「アガレス…さ、ん…、清…春…。今…行く…から…今っ…、」
































キユミがシロ×クロと対峙している同時刻―――


ドドドドッ!

「ギャアアア!!」
十字架が降り注ぎ、繁華街はとっくに火の海。街を焼くと清春は次の街、次の街へと進み破壊していく。
「清春!やめろ!清春!」
アガレスの声は、我を失っている清春には届かず。本来の化け物の姿をした清春は天から十字架を降り注がせ、故郷ヴァイテル王国を火の海にしていく。
「きゃあ!」
「お母さん!逃げよう!」
「あ、あなただけでも…逃げなさい…お母さん…足が切れて…動けない…から…」
「お母さん!やだよお母さん!」
清春の攻撃で家屋の下敷きになった母子。子が母を引っ張る。その頭上から再び十字架が降り注ぐ。


ドドドドッ!

「やだ…やだ…やだよ誰か助けて!!」


ドンッ!!

「っ…、大丈夫か」
「…!?貴方は…!?」
直前で母子を抱き抱え、安全な路地裏へ避難させたアガレス。母は涙を浮かべ何度も礼を言う。
「ありがとうございますありがとうございます!!何処のどなたか存じ上げませんが娘を悪神から助けてくださりありがとうございます!!」
「いや…。貴様らを巻き込んだのは俺のせいだからな」
「え…?」


タンッ!タンッ!

アガレスは母子にそう言い残すと、再び屋根を伝って跳び、清春の元へ向かった。
























ドドドドッ!


ドォンッ!!

「駅が崩れたぞ!こっちだ!こっちへ逃げ、ギャアアア!」
「ワアアアア!!」
攻撃は無情にも止む事無く勢いを増し、ヴァイテル王国の人間は次々と十字架の餌食になったり、倒壊した家屋や駅舎に押し潰され圧死。辺りには真っ赤な血の海に浮かぶ人間の死体がゴロゴロ転がっている。
「清春!やめろ!清は、」


ドドドドッ!!

「ぐああ!」
清春はアガレスと分かっておらず、清春がアガレスを指差せば十字架達は一斉にアガレスを集中攻撃。蜂の巣にされアガレスの体からは黒い血が噴水のように噴き出す。
次の街へと宙を浮きながら飛んで行く清春。


ガッ!

清春の体を掴んだのは、頭から爪先まで黒い血をドクドク流すアガレス。そんなアガレスを、黒いヒトガタの姿で、アガレスと同じ青い目から血を流す化け物の風貌そのままな清春が振り向く。
「っ…、行かせるもの…かっ…、清は…、」


ドォンッ!!

「ぐあっ!」
クロコダイルの尾でアガレスを簡単に凪ぎ払えば、清春は次の街へと飛んでいってしまう。吹き飛ばされたアガレスは体がもうほとんど動かないそれでも、清春を追い掛ける。




















ドドドドッ!

「ギャアアア!」
「き、来た!神が来た!ギャアアアア!」


ドドドドッ!

天から降り注ぐ十字架。
「清春!!」


ドスッ!!

手荒だがもうこれしか策は無い。アガレスは自身の武器である黒い槍で清春を突き刺す。ボタボタッ!と突き刺された左半身から青と赤の混ざった血を垂らす清春はゆっくりアガレスの方を向くと再びクロコダイルの尾を振り回す。


ドォンッ!

「二度も同じ手は喰わん!」
アガレスは尾を避けると清春の前に飛び出し、槍を振り上げるから清春はハッ!としてアガレスを指差し、十字架を天から呼ぶ。


ドドドドッ!

再び十字架がアガレスだけを集中攻撃。
「ぅ"ぐあ"あ"あ"!!」
これでもう死ぬだろう、そう予期した清春がアガレスから離れるが…
「行かせるものか!!」
ガシッ!と清春を掴むアガレス。清春は暴れる。しかし掴んで絶対に離さないアガレス。
「約束…ハァ"…しただろう…、今度は…絶対…守ると…、」

『約束しよう。今度こそアドラメレク殿や神々から守ると』
『ッ…!ぜってぇだぞ…ぜってーだかんな…!』
『ああ』

清春とのやり取りを思い出しそう言う。しかし清春はまた天から十字架を呼び出し、街を破壊していく。


ドドドドッ!!

「やめろ清春!!」


ドスッ!

アガレスは容赦無く清春の右の天使のような羽に槍を突き刺す。しかし清春は全く怯まずそれどころか十字架は数と勢いを増すし、アガレスに襲い掛かってくる。


ドドドドッ!


ドンッ!!ドンッ!!

「清春!」
十字架で街を破壊しながら清春自身はアガレスと対峙。ヴァイテルの街の屋根を互いに伝いながら攻撃を繰り返す。


タンッ!

アガレスが間合いを取り、離れた家屋の屋根に跳び移るが…
「…!!」
清春は目にも止まらぬ速さでアガレスの真ん前まで移動するとアガレスを指差す。


ドドドドッ!!

「ぐあああああ!!」
十字架が再びアガレスを集中攻撃し、真っ黒な血が一斉に噴き出した。


ドサッ…、

「ハァ"…ハァ"…」
ドクドク血を流しながら遂に屋根の上に倒れてしまったアガレス。我を失って人格も失っている清春はアガレスに背を向けるとふわっ…と宙を浮く。


ガシッ…、

しかしまたアガレスが清春の体を掴む。清春はギギギギ…とゆっくり、化け物な顔を振り向かせる。すると、アガレスはもう瀕死の状態なのに笑っていた。

















「っ…、だ…な…、お前…はっ…本当…に…、やんちゃな…奴だっ…、そう…やって…いつ、も…キユミ…を困らせ…て…、」


バシッ!

「う"あ"!」
クロコダイルの尾でアガレスを叩きつければアガレスは口から血を吐く。しかし絶対に手を離さない。
「っ…ぁ"…、お前…が…言う…事を"っ…利かない"…時…は…こう…するんだっ…だ…な"…」


♪――♪――♪――

「…!!」
するとアガレスは瀕死の状態ながらも、歌を口ずさみ出した。穏やかで優しい気持ちになれる子守唄を。
その瞬間清春はガクッ!と頭を抱え膝から崩れ落ちる。
「オ"オ"オ"オ"!!」
抱えた頭をぐわんぐわん横に揺らし、クロコダイルの尾もバシバシ暴れさせながら化け物の声で喚く。アガレスは子守唄を唄いながら、もうほとんど動かない体をゆっくりゆっくり動かして屋根を這いながら、清春に近付く。


♪――♪――♪――

「オ"オ"オ"オ"!」
「きよ…は…る…、」
「オ"オ"オ"オ"!!」


ギュッ…、

血塗れの体で清春を抱き締める。まだ清春は暴れているが。
「オ"オ"オ"オ"!」
「すまなかった…本当にすまなかった…。だが…もう大丈夫だ…もう大丈夫だよ清春…。心配するな…俺が…父さんが居るだろう…清春…!!」
力強く名前を呼べば、清春は目を見開く。


ギギギギ…

ゆっくり、化け物な顔をアガレスに向ける。
「…ン…、サン…父…サン"…」
「清春…!」
ボタボタ目から流れる血に混ざって涙を流しながら清春はアガレスを呼ぶ。だからアガレスは目を大きく見開き、更に清春をきつく抱き締める。
















「清春…!分かるのか…?俺が分かるのか清春…!」
「サン"…父サン"…!」
「清春ッ…!!」
アガレスは切なそうに…だが笑顔を浮かべ、清春をきつく抱き締めて頭を撫でる。
「清春、清春、清春!良かった…良かった清春!正気に戻ったんだな清春!」
「父サン"…父サン"…!」
「清春!良かった…本当に良かった!」
「父サン"…父サン"…!」
「嗚呼もう大丈夫だ。俺が居る。キユミも居る。もう大丈夫だから泣かなくて良い。ずっとずっと3人一緒だよ清春!」
「父サン"…今マデ…ゴメン…ナサイ"…」
清春はボタボタ血と涙を流しながら笑んだ。アガレスは首を傾げる。
「…?何を謝っているんだ清春。お前をこんなにしたのは全て俺のせいだ。だからお前は何も謝らなくて良、」


パンッ!!

「なっ…?」
笑みながら清春の頭から爪先にかけて全身がまるで水風船のように破裂した。


ビチャビチャッ!

血と肉片となった清春の全身がアガレスの顔や体にビチャビチャッ!と飛び散る。
「清は…、」
破裂した清春の背後には。たったさっきまでは居なかった人物が笑って立っていた。その人物の制服にも清春の青と赤の混ざった血が飛散している。
「ご機嫌ようアガレス氏。最期の家族水入らずの刻を過ごせまして?」
その人物はアドラメレク。

















ドォンッ!!

地鳴りがし、ヴァイテル王国の地面に大きな亀裂が入る。
タンッ!と屋根をヒトガタの姿のまま跳ぶアドラメレク。
「あらあら。久し振りですわね。貴方の本来の姿を見るのは。ねぇ?アガレス氏」
其処には、オオタカ×クロコダイル本来の姿をしたアガレスの姿が。


ドォンッ!!

オオタカの翼を羽ばたかせた、クロコダイルの巨大な尾をアガレスが振り回せば街はあっという間に吹き飛ぶ。だがアドラメレクはヒトガタのままひょいひょい簡単に避けてしまう。
「アハハハッ!鈍い!鈍いですわアガレス氏!!」
「貴様ガ清春ヲ操リ、殺シタノカ!!」
「ええそうでしてよ!あの子はわたくしを裏切った!わたくしに内密で貴方達両親に会い!果てには人間の恋人を作った!裏切り者!大罪人ですわ!!」


ドォンッ!ドォンッ!

アガレスが攻撃するも、本来の姿をしていないのに軽々バック転をしたり跳びながら避けてしまうアドラメレク。
「何故アイツナンダ!貴様ガ憎イノハ俺ダロウアドラメレク殿!!俺ヲ殺セバ良イダロウ!!」
アドラメレクはふっ…と笑う。
「ふっ…。貴方もあの子同様分かっておりませんのね。あの子だからです。あの子だからわたくしは殺したのです。あの子がわたくしを裏切ったから殺したのです!アガレス氏貴方やベルベットローゼ、マルコ、マリア、ダーシー氏が裏切っても殺意も芽生えません。あの子だから!清春だから殺したのです!!」
「何故ダ!何故アイツナンダ!!」


ツウッ…、

アドラメレクはアガレスの方の宙を指で×印になぞる。
「貴方は分からなくて結構でしてよアガレス氏」
アドラメレクがパチン!と指を鳴らすと。


ブシュウウ!!

「ウグア"ア"ア"ア"!!」
アドラメレクが宙をなぞった×印にアガレスの体が切れ、×印に黒い血が噴き出す。
「グアアアア!」
「アハハハッ!それではご機嫌よう。また会う日までアガレス氏」
スウッ…と消えていくアドラメレクにアガレスはオオタカの翼を差し出す。
「待テ…待テ…貴様ッ…!」
































「うっ…、アガレスさんは…?清春は…?」
意識が戻ったキユミが起きると。辺りは火の海と化していた。


スタッ!

「あ…アガレス…さん…!」
するとヒトガタに戻ったアガレスが血塗れの姿でキユミの前に現れた。
「…?アガレスさん…それは…?」
キユミは首を傾げる。アガレスが抱えている青と赤の混ざった血に塗れた、もう原型を留めていない肉片を見て。
「アガレス…さん…?」
「…清春だ」
「え…」
「…すまない…。キユミ…約束…守れな…っ…!」
アガレスは清春の肉片を抱えたまま下を向き、泣き出す。キユミは顔を真っ青にして今にも死んでしまいそうになるが…
「ぐっ…うっ…、清春っ…清…、」


ギュッ…、

「…!キユミ…?」
ガタガタ震えて真っ青になりながらもキユミは、アガレスと一緒に清春の肉片を抱き締めた。ボロボロ泣きながら。
「…ましょう…、」
「え…」
「帰り…ましょう…、ココリ村…に…、我が家に…3人でっ…!!」





























254年前、天界――――

「何ダ何ダ?騒ガシイナ」
「お前知らないのか?今日アドラメレク様が天界へ連れて来る化け物を」
「化ケ物?」
「ヴァイテル王国の村のアガレス神と人間の女との間にできた子供だよ!」
「アア!ソノ話カァ!」
「おっ。来たぜ来たぜ。神と人間の血を引くこの世で唯一の化け物が」
天界の入口。雲に覆われたゴシック調の門の周りには本来の姿をした神々の野次馬が大量に集まっている。皆本来の姿をしているからワニ×イノシシの姿だったりワシの姿だったり…まるで架空の生き物のような姿をしている。
そんな彼らの目線の先には。ヒトガタ時の姿をしたアドラメレクに手を引かれてポロポロ涙を流してアドラメレクの背後に隠れながらやって来た清春(当時6歳)の姿。
「何だ何だ?神と人間のガキっつーもんだからどんな人面妖怪かと思いきや見た目は人間のガキそのものじゃねぇか」
「本当ニ、アガレスト人間ノガキナノカァ?」


ガヤガヤ。ザワザワ。

見た事の無い化け物達から視線を注がれ噂をされ、清春は、化け物や妖怪のような神々の姿を見た瞬間目を見開き顔を真っ青にする。
「ひっ…!」
「お黙りなさい。そのような声を出したら失礼でしょう?」
「っ…、ひっく…ひっく」
洩らした小さな嗚咽にすらアドラメレクに叱咤されてしまい、清春はまたポロポロ涙を流すのだった。

























幹部館――――

ロココ調の白い館はアドラメレク、ベルベットローゼ、マルコ、御子柴の4幹部が住まう場所だ。まるで中世イギリス貴族の館のような豪勢な内装にすら驚かない程清春は下を向いてヒクヒク嗚咽を洩らして泣きっぱなし。そんな彼の小さな手を半ば強引に引きながらベルベットローゼ、マルコ、御子柴の前に出すアドラメレク。其所には本来の巨大コウモリの姿をしたベルベットローゼ。ドラゴンの姿をしたマルコ。大蛇の姿をした御子柴が物珍しそうに清春の事を覗き込むから清春は更に更に、ヒトガタのアドラメレクの後ろに隠れてガタガタ脅えて泣く。
「お〜さっきココリ村では見たけどよ。こう間近で見るとやっぱり全然神の血引いてるようには見えねぇなぁ。人間そのものじゃねぇか」
「お嬢…こいつは…ワタシ達のような本来の姿があるのかしら…?」
「ありますわ。でもわたくし達のように清春は本来の姿になったりヒトガタの姿になったり自由自在に姿を操れませんの。それに本来の姿になると異常を来しますわ。なのでいつもヒトガタの姿で居させる事にしましたの」
「ふぅん…」
「ひっ…!」
ギョロッとした黄色い瞳で顔を間近に近付けてまじまじ眺めてくる大蛇の御子柴にまた清春は顔を真っ青にし嗚咽を洩らして一歩後退り。


ドンッ、

「!!」
しかし後退りした真後ろには巨大コウモリのベルベットローゼが居てぶつかってしまう。ベルベットローゼはニンマリ笑む。
「おっと〜。後ろへ逃げようったってオレが居て逃げられないぜ?」
「ひっ…!」


ドンッ、

今度は右側へ。しかし其処にはドラゴンの姿をしたマルコが居てぶつかってしまう。
「おやおやこれは。穢らわしい血で出来たリトルモンスター君。逃げようとしても無駄ですよ」
「うっ…、うわああああ!!」
清春はバァン!!と扉を開けて部屋を飛び出すと気が狂ったように叫びながら廊下へ逃げ出した。



















「ふぅ…」
そんな清春に、アドラメレクは腕を組ながら不機嫌そうに溜め息。
「お嬢…溜め息を吐くと可愛いお嬢でも老けちゃうのよ…」
「もう充分老けてしまいそうですわ。あの子の泣き虫には手を焼いて」
「お前らしくねぇなぁアドラメレク。ガキが大嫌いで人間のガキが息をしていただけで皆殺しにしちまうお前がさ。アイツ…えーっと。清春だっけか。清春を連れて来たなんてさ」
「正直私も驚いております。お嬢様の子供嫌いと人間嫌いは天界一ですから」
「そうですわね。子供も人間も大嫌い。ましてや人間の血を引く子供なら尚更」
ボフッ、と宝石が埋め込まれたゴージャスなアドラメレク専用ソファに沈むアドラメレク。
「でも…」
ニヤリ…。脚を組み、両手の甲の上に顎を乗せて不気味に笑む。
「この世でたった1人しか居ない存在…。どのような力を持つ生き物なのか。そして魔界の悪魔達や天使達が喉から手が出る程欲しがる稀少な存在をわたくしが保有しているというだけで天界中にわたくしの力を誇示できますわ」
「ハハッ。さっすがアドラメレク。自分のプライドの為なら大嫌いなガキでも連れて帰るってか。お前の性の悪さは昔から変わらねぇな」
「ふふ。でも…使い物にならないようでしたらいつでも棄てますわ。それこそあの子の故郷下界でのごみの捨て方に習って。焼却炉にね」


ゾワッ…!

笑顔で言い放った残虐な言葉にベルベットローゼ、マルコ、御子柴の3人は背筋がゾクゾクしたが同時にアドラメレクの残虐性に感動して笑みを浮かべた。
「やっぱり」
「さすが…」
「お嬢様ですね」
アドラメレクは「ふふ♪」と得意気に笑っていた。
































一方。
「ひっく…ひっく…」
部屋を飛び出し、館内を走り回った果てに辿り着いた最上階の広い一室。灯りのつけ方も分からないから暗い室内のまま、片隅で膝を抱えて膝に顔を伏して泣くのは清春。
「ひっく…お父さん…お母さぁん…」

『清春。お母さんと一緒にお歌を唄おっか。上手に歌えたらお父さんからご褒美が貰えるよ』
『本当!?お父さん!』
『ああ。明日街へ出掛けた時好きな菓子を買ってやろう』
『わぁい!ありがとうお父さん!お母さん!』

楽しくて幸せだった…取り戻せなくなった思い出を思い出しながら泣く。
「ひくっ、ひっく…お父さんっ…お母さぁん…僕…じょうずに唄うから…いつもみたいに頭撫でてよ…お父さん…お母さぁん…」

♪――♪――♪―

すると清春はヒクヒク泣きながらも家族3人で歌っていた歌を歌い出す。初めて聴く者にもどこか懐かしくどこか温かくそしてどこか哀しい音色。
「わたくしの部屋で雑音を奏でるのはやめてくださる?」
「ひぃっ…!」


ピタッ…。

背後から気配もたてずに現れたアドラメレクの低く冷たい一言に清春は唄うのをやめる。いや、やめざるを得なかった。
ゆっくりゆっくり…顔を真っ青にしてガタガタ震えながら後ろを振り向く。
「あ…あぁっ…」


ガンッ!!

「っ…!!」
途端アドラメレクは清春の胸倉を掴むと壁に強く背を押し付ける。痛みと恐怖で更にボロボロ涙を流す清春の青い瞳には、ヒトガタなのにまるで鬼のように恐ろしい形相のアドラメレクが映っていた。
「あ…、あっ…」
「勝手に逃げ出したかと思えば勝手に他人の部屋へ侵入するとは、お馬鹿なアガレス氏の子供らしい低俗さですこと」
「あ…、あぁ…ごめ…なさ…い…、ひっく…」
「わたくしから逃げられると思いまして?」


ガンッ!!

「うあ"っ!!」
胸倉を掴んだまま床に叩き付ける。清春が起き上がろうとしたところで彼の小さな頭を踏みつける。清春は青い大きな瞳でアドラメレクを見ながらボロボロ涙を流すのに、アドラメレクときたら彼を踏みつけて上から見下ろす。とても楽しそうな満足げな表情で。
「何ですのその目は?わたくしに許しを乞おうたって無駄でしてよ」
「うぅっ…ごめん…なさいっ…ひっく、ごめ、なさ…いっ…」
「嗚呼穢らわしい声。わたくしの耳が腐ってしまったらどうなさいますの?」
「っ…!」
そう言われてすぐに自分の両手で口を覆い、更に涙を溢れさせた清春を見てアドラメレクはまたニヤリ…と笑むと清春の前髪を鷲掴みながら立たせ、顔をまじまじと見る。
「あら。随分と聞き分けの良い子供ですこと。ならわたくしが奴隷になれと言えば奴隷になりますの?」


コクコク!

涙をボロボロ流しながら頷く。
「ではわたくしが死ねと言えば死んでくれますの?」
「…!」
「ふふっ。冗談ですわ」


ドサッ、

「あぅっ…!」
そのまま手を放せば、清春は床に無惨にも落とされ叩き付けられる。



















アドラメレクは部屋の灯りを付ける。室内も外装と同じで中世イギリス貴族の館を思わせる家財道具ばかり。白いソファに脚を組んで座るアドラメレク。その前。床つまりアドラメレクの足元には清春がガタガタ震えてアドラメレクからは目を反らしている。
「先程も仰いました通り。貴方の父親はヴァイテル王国ココリ村の農耕神。貴方の母親は人間。つまり貴方は神と人間から生まれたこの世にたった1人しか存在しない生き物なのですわ」
ただただ泣きながら返事の声すら恐怖で出せない清春。アドラメレクは笑みながら話を続ける。
「貴方の父親は自分が神である事を秘密にして貴方の母親やココリ村の人間を騙していた。勿論。実子である貴方の事も騙して。本来神と人間では格が違いますの。よって相容れ無い関係。しかし貴方の父親はルールを破り、人間と結ばれ貴方を生んだ。そして貴方の母親は騙されていたとはいえ神との子を産んだ人間つまり悪しき魔女。そんな罪深き2人から生まれた貴方は生まれながらにして大罪者なのですわ清春」
「ごめんなさい…ごめんなさい…ひっく…、謝ります…からっ…、お父さんと…お母さんに…会わせてくださいっ…」
「絶対に許しませんわ」
「…!」
あまりにも絶望的なその一言に清春は目を見開き、へにょん…、と力無くその場に腰を抜かしてしまう。
そんな彼を笑いながらアドラメレクはソファから立つとコツン…コツン…と一歩一歩清春に近付く。放心状態の清春に。
「貴方の両親は罪人なのですよ?そんな両親に会いたいだなんて。何て卑しい子なのでしょう」


コツン…コツン…

「貴方は神としても生きれず。人間としても生きれず。神程の年齢は生きれず…しかし人間以上の年齢は生きれる。神からも人間からも化け物と後ろ指を指され果てには殺されるかもしれない存在。そんな望まれない化け物を拾ってあげたのはこのわたくしですのよ?」
アドラメレクは清春に顔をぐっ、と近付けて笑む。
「恨みなさい。貴方をこんな半端者の体に生んだ両親を。貴方の両親だけではいずれ、半端者な貴方を育てていけなくなったはずですわ。だって貴方の体。神にも人間にも属さない特殊な体をしていますもの。そんな貴方を扱いこなせるのはわたくしだけ。貴方は今日からその命を全うするまでわたくしのモノ。わたくしに従い、わたくしに尽くして生きる。良いですね?清春」
「っ…、は…いっ…、」
半ば無理矢理言わせた拷問。涙を溢れさせて返答した清春にアドラメレクは白く綺麗な歯を覗かせて笑んだ。





























それから1ヶ月後―――

「はろー♪アドラメレクちゃん。今日はアドラメレクちゃんの新しいペットに餌を届けに来たわよ〜♪」
バァン!!と扉を開けて笑顔で館へやって来たのは黒とピンクの奇抜な髪型をしたマリア。
「煩わしいですわマリア」
「アドラメレクちゃんったらつれないわね〜うふふ♪」
マリアにイライラしながら腕を組み、迎えるアドラメレク。
「ねぇねぇ。何処に居るの?アドラメレクちゃんの新しいペットは?何でもアガレスの子供なんでしょう?」
「貴女には見せません」
腕を組み、ツーンと外方を向いてカツカツ足音を鳴らして館の奥へ戻っていくアドラメレク。
「ちょっとー!顔くらい見せてくれたって良いじゃないのアドラメレクちゃんのドケチー!高飛車ー!インチキお嬢様ー!」


カチン…

ギギギギ…、アドラメレクはゆっくり顔をマリアに向ける。般若のような怒りの顔を。
「今…何て仰りましたの…?マリア…?」
「こ…こんにち…は…」
「あら!?」
ヒョコッ。
アドラメレクの陰に隠れて物珍しそうにマリアを見上げながら顔を覗かせた清春。マリアは両手を顔の脇で合わせて喜ぶが、アドラメレクは慌てて清春を隠す。




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あきゅろす。
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