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GOD GAME
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霧の中から声が聞こえた。しかし声は「クスクスクス」「ケラケラケラ」と不気味に笑い、その笑い声も遠退いていく。
「おい!あんたらかよこんな風にしたのは!姿現せよくそったれ!!」
するとスウッ…と霧が晴れていき、いつも見慣れた道が姿を現した。
「ホッ…。何だよさっきのは。ま、いーや!早く父さん追わなきゃだし!」
ホッとすると制服姿のままの清春は、街の方へと駆け出す。


ぐいっ、

「?」
すると、後方から自分の制服の裾を誰かに引っ張られてしまい、前へ進めず。清春は後ろを振り向く。
「何だよ?誰っ、」
「制服姿。とても可愛らしくてよく似合っておりますわよ清春」
「…!!ア、ア…アドラメレク…!!」
其処には、清春の制服の裾を引っ張ってにこにこ微笑むアドラメレクが1人立っていた。


ガクン!!

此処に絶対居る筈が無くて此処に絶対居てほしく無い人物が居る…。思いもよらなかった。寧ろ、彼女の事すら忘れていた。ようやく手に入れた家族との幸せな日々に夢中で。
思わず腰を抜かしてしまい顔が真っ青でガタガタ震える清春。そんな彼とは対照的にアドラメレクはにこにこ微笑んだまま清春の目線に合わせて屈むと、青く染まった髪をサラサラ手で鋤きながら撫でる。
「あらあら。よく似た青い髪ですこと」


ガタガタ…ガタガタ…

「青い髪も可愛いですけれど、貴方にはわたくしと同じ純白の髪色の方が似合っておりましてよ」


ガタガタ…ガタガタ…

ぐっ、と笑顔で制服のネクタイを引っ張る。
「人間の学校に入学なさいましたの?」


ガタガタ…ガタガタ…

「ご友人はできまして?」


ガタガタ…ガタガタ…

「254年振りに食したお母様の手料理はわたくしのものと違って、さぞ美味でしたでしょう?」


ガタガタ…ガタガタ…

ニコッ。天使さながらの笑みを浮かべると清春の頬に白い細い指を這わせていく。下へ下へ這わせて顎を持ち上げれば、アドラメレクの青い瞳にはガタガタ震えて真っ青な清春の顔が映る。
「どうしてわたくしに無断でお父様とお母様の元へ戻りましたの?」


ガタガタ…ガタガタ…

「貴方がお父様とお母様の事を気にかけている事は重々承知しておりましたわ。けれど…わたくし申しました筈ですわ。貴方を見捨てたご両親なんかより貴方を255年間育てたわたくしについてきなさい、と」


ガタガタ…ガタガタ…

「貴方がイイコに戻って来るなら見逃して差し上げましてよ」


ガタガタ…ガタガタ…

「清春。戻って来なさい」


ガタガタ…ガタガタ…

「どうしましたの?お返事は?」
「っ…、誰が…」
「はい?」
「誰があんたみてぇな悪神の元に帰るかよクソババァ!!」
ニコッ。アドラメレクはにっこり微笑むと清春の両頬に爪をたてながら顔をぐっ、と向かせる。
「本っ当。下品な言葉を吐く口ですこと」
「離せっ、…!」
アドラメレクの唇が清春の唇に重なると、アドラメレクは冷たい深海のような青い瞳に、目を見開いた清春を映す。蛇のように長いアドラメレクの舌が清春の舌に絡まる。アドラメレクの白い歯が清春の赤い舌を挟み…


ガリッ!!

「っーー…!!」
ドンッ!とアドラメレクを蹴り飛ばした清春はすぐさま両手で自分の口を覆う。しかし、口内からは青と赤が混ざった血がボタボタ引きり無しに溢れる。
「っ…、ーー!」
その様を見てアドラメレクは笑う。
「ふっ…。下品な言葉を吐けないよう躾ただけでしてよ」
ボタボタと溢れる血は噛みちぎられた清春の舌から止まる事無く…。
ガッ!と清春の顔を鷲掴み、向き合わせる。相変わらず口から血が止まらない清春の見開き怯える瞳には楽しそうに笑っているのに目だけは笑っていないアドラメレクが映っている。
「貴方分かっていなかった様ですわね。わたくしをここまでにさせたのは貴方だけでしてよ」
ガタガタ震える清春の瞳に映るアドラメレクが真っ赤な長い舌で自分の唇を舐める。
「さあて…。どう致しましょうか」





















その様子を村の入口にある大木の上を宙を浮いて眺めているシロとクロ。
「ケラケラケラ。面白ーい。アドラメレクお嬢様を怒らせちゃったね」
「でもあんなアドラメレクお嬢様初めて見た…かも」
「本っ当クロはドンクサイなぁ。知ってる?憎しみはそれ以上でもそれ以下にも変わらない。けど、愛は憎しみに変わるんだ」







































ココリ村――――――

梟の鳴き声しか聞こえてこない闇夜に怪しく光る白い満月。村の道端には真っ赤な血を流し息絶えているココリ村の村人があちこちに倒れている。辺りにはクジャクの羽が散乱。そんな中、村の最奥の3階建の一軒家だけに灯る灯り。


ピチャッ…、ピチャ…、

灯る灯りの部屋からは血が口内で混ざり合う音と荒い呼吸が聞こえてくる。両手に手枷を付け、ベッドの上に仰向けに横たわらせた清春の上に跨がるアドラメレク。アドラメレクから唇を何度も重なれば、先程噛み千切った清春の舌から流れる血が互いの口内で混ざり合う。
「ンっ…」
息継ぎが出来ない程繰り返される口付けに清春の呼吸は上がるが、アドラメレクは冷静。
涙を流しながら絶対にアドラメレクの事を見ずに視線を天井に向けている清春の事が面白くないのかアドラメレクは唇を離せば、唾液と血が互いの口から糸を引く。
アドラメレクは長い髪を手で後ろへ靡かせ、口内に溜まった血をプッ!と床に吐く。
「この世で最も力を持つわたくしに魅入られたのですからおとなしく飼われていれば良いものを」
アドラメレクは嘲笑しながら、清春の上気した赤い頬を細い指でツゥッ…となぞる。
「裏切る程嫌いな相手に口付けをされて興奮するなんて。やはり貴方には低俗で穢らわしい人間の血が混ざっておりますわね清春?」
「っ…!」
目を見開き睨み付けてくる清春に動じないアドラメレクは不気味に笑みながら、清春の顎を持ち上げる。
「これが最後の機会でしてよ。もう一度問います。わたくしの元に戻りなさい」
絶対にアドラメレクの方は見ず、涙を流したままふるふると首を横に振る清春。アドラメレクはフッ…と笑んでから…


ドスッ!

「ゲホッ!!」
清春の腹を右足で蹴る。そうすれば清春は口内から血を吐き、吐いた青と赤の混ざった血へどが床にベチャッ!と飛散する。清春の腹に右足を乗せたまま見下ろしながら睨み付けるアドラメレクの冷たい青い目。
「全く。父親に似て要領の悪い出来損ないですわね貴方は。…何ですのその紙切れは?」
「…!」
腹を蹴った拍子に清春の制服のブレザーポケットから頭を覗かせた1枚の紙を手に取り、開くと。
「ふっ…そうでしたの…」
アドラメレクは不敵に笑む。清春の顔は真っ青に歪む。その紙は、カナが渡した告白の手紙。
ベッドに固定されたた手枷を付けられているが、清春は慌てて脚でアドラメレクを蹴ろうとする。だが、アドラメレクの方が何十倍も速く反応し、蹴ろうとしてくる清春の腹を再び蹴る。


ドスッ!

「がはっ…!」
またビチャ!と血が口内から飛散する。
アドラメレクはベッドから降り、狭い室内をぐるぐる歩き回りながら手紙を楽しそうに読み始める。
「いつも仲良くしてくださり本当にありがとうございます。清春さんと一緒に居ると過去の悲しい事を思い出さなくなるくらい楽しくて時間があっという間に過ぎちゃいます。突然の事でごめんなさい。もし迷惑でなければ私とお付き合いしてもらえませんか…?清春さんの事が大好きです。Fromカナ・ナタリー」
にこっ。清春の顔の前で不気味なくらい満面の笑みを浮かべたアドラメレクは…


ビリッ!ビリッ!

「…!!」
カナからの手紙を満面の笑みを浮かべながらビリビリに破いた。破かれ紙切れとなった手紙が無惨にも散る花弁のように清春の頭の上に降り注ぐ。清春は目を見開き、怒りにアドラメレクを睨み付けるが、噛み千切られた舌のせいで喋れず。
「そういう事でしたの。貴方がアンジェラ襲撃の2月14日を避けた理由。恋人達の日ですものね。通りで避けたい筈ですわ。それに貴方が下界にばかり遊びに降りていた理由も納得がいきますわね。下界に可愛い可愛い人間の恋人が居れば毎日降りたくもなりますわよね」
一応睨み付けてはいるもののガタガタ震える清春の青い睫毛と、アドラメレクの白い睫毛が触れる程顔を近付ける。
「貴方。両親の元へ戻る以前からわたくしを裏切っていましたわね。人間から貰ったこんな紙切れを後生大事に持ち歩いてまで」
清春が口を開くが、


ズブッ!!

「っぁ"あ"あ"あ"あ"!!」
アドラメレクは清春の両の目を細く白い指で突き刺し、これでもかという程指をぐりぐり捩じ込ませていくから白い指にも青と赤が混ざった血がべっとり付着する。














ズルッ…、
指を目から引き抜くとアドラメレクは純白のハンカチで指を拭く。清春は両の目からドクドクと血を流し、ベッドに仰向けになったまま呼吸が荒い。
「はぁ"、はぁ"…」
「わたくし以外の名を呼べぬよう舌を噛み千切り。わたくし以外の者を見れぬよう目玉を潰して差し上げましたのよ」


カツン、コツン…

静かなココリ村の闇夜に、アドラメレクが清春に近付く足音がやけに響く。
「はぁ"…はぁ"…」
「貴方は本当にお馬鹿さんですわ。わたくしに殺されると分かっていながらわたくしに逆らうなんて」
「はぁ"…はぁ"…」
「死んでも良い程ご両親や人間の女の方が宜しいのですの?」


カツン…、

アドラメレクは清春の真ん前に着く。目玉を潰された清春には見えないが、気配で分かる。其処にアドラメレクが居る事が。アドラメレクの姿が逆光になり、鋭くつり上がった恐ろしい瞳が清春を映す。
「貴方は本当にお馬鹿さんですわ。わたくしはこんなにも貴方の事を…―――」


ドンッ!

3階建の一軒家から闇夜を照らす真っ白い光がココリ村中に放たれた。































同時刻、
ヴァイテル王国城下町――

「清春?」
今まで無我夢中で家屋を伝って跳んできたアガレス。ここでようやく、清春がついてきていない事に気付き立ち止まり後ろを振り返る。其処には、人っこ1人居ない不気味なくらい静まり返った闇夜に包まれる城下町があるだけ。
「あいつ珍しく俺の言う事を聞き、家で待つ事にしたのか?…ならば安心か」
くるり。前へ向き直るアガレスの前には、闇夜に包まれ一切の灯りが灯っていないヴァイテル王宮が威厳ある佇まいで其処に聳え立っている。
ギュッ…、と薬指に指輪をはめた左手を力強く握る。
「村人を疎外したかと思えば他人の妻を見初めて連れ去るなど…。暴君め…」
タンッ!タン!とアガレスは柵を跳び越えて王宮へ侵入した。
























ヴァイテル王宮――――

不気味なくらい静まり返った王宮にはアガレスの足音がよく響く。
「?何だ。どの部屋にも灯りが灯っとらん。人間の気配もせんな。一体どういう事だ」
タッタッタ…、アガレスは首を傾げながら王宮の真っ暗な廊下を駆ける。
「む」
すると、突き当たりの部屋の扉の隙間からだけ灯りが洩れているのを発見。足音をたてぬよう忍び足で部屋の扉の脇に立ち、片目を瞑りながら扉の隙間から部屋の様子を覗く。
「…!」
すぐさま扉を開けた。


バンッ!

「キユミ!」
「…!アガレスさん!」
王宮内でたった1部屋だけ灯りが灯っていた部屋に、キユミ1人が椅子に腰掛けていた。両手を縄で後ろに縛られているだけで他に外傷は見られない。アガレスはキユミの縄をすぐさまほどいてやる。
「アガレスさん!」
「すまなかった。野菜売りにお前も連れて行けばこんな事には…。怪我は無いか」
キユミは頷く。嬉しそうに。
「怖い思いをさせてしまったな」
キユミは首を横に振る。
「私がいけないんです。私がのろまだから逃げれずに連れられてしまって…。そのせいでアガレスさんに心配をかけてしまってごめんなさい」
キユミの頭をポンポン叩く。
「お前は何も謝るな」
「でも…」
「清春が家で待っている。行くぞ」
「はいっ!」
キユミの右手を引き、部屋を出ていく。




















タッタッタ…
2人分の足音がやけに響く静まり返った王宮廊下。
「アガレスさん王宮に侵入して危険な目に合わせてしまってごめんなさい…」
「だから謝るな」
「ごめんなさ…あっ!」
言った傍から謝るキユミにアガレスは溜め息。
「危険な目には合わなかった。寧ろ、城下町から王宮へ来るまで人っこ1人居なかったからな」
「え?」
「逆に怪しいが」
「そうですよね…」
「お前を連れ去ったのは国王か」
「国王とあと…子供…でしょうか?男の子にも女の子にも見える白と黒のシスターのようなカソック姿をした2人のお付きでした」
「白と黒のカソック姿をした子供だと…?」


ピタッ…

急に歩みを止めてしまったアガレス。キユミはアガレスの後ろだから、アガレスの表情が見えず首を傾げている。
「アガレスさん…?どうかしましたか?」
しかしいつも無表情なアガレスの顔が動揺しており、目が泳いでいる。
「アガレスさん?アガレスさん?どこか具合が悪いのですか?アガレスさ、」
「…ハッ!」
その時。全く変わらぬ静まり返った王宮と闇夜なのだが何かを感じ取ったアガレスはハッ!とし、キユミを抱き寄せる。
「キユミ!!」
「えっ?」


ガシャーン!!

2人が立って居た廊下の大きなガラス張りの窓が外から破壊され、辺りにガラス片が散らばる。しかし、寸のところでこれを感じ取ったアガレスがキユミを抱き寄せながらそのまま2人廊下を転げて避けたから無事だ。
「ア、アガレ、」
「あーあ。避けちゃったよ。つまんないの」
「つまんない…かも」
破壊された窓ガラスの外の闇夜には白と黒のカソック姿の子供が2人ふわふわ宙を浮いている。此所は4階なのに。
キユミは顔を真っ青にしてガタガタ怯えだすから、アガレスがきつく抱き締める。
「ア、アガ…アガレスさっ…」
「っ…!白と黒のカソック姿をした子供…やはり貴様らか!ヴァイテル王宮に祀られし神シロ殿!クロ殿!」
「へぇ。先輩には殿を付けるとこだけは変わんないんだね。お利口お利口」
「でもアドラメレクお嬢様に逆らったからお利口じゃない…かも」


スウッ…

「!!」
するとシロとクロが両手を合わせれば、辺りの静まり返り真っ暗だった王宮の姿が一変。明るい王宮の廊下には兵士達がズラリ並び、アガレスとキユミを囲んでいた。
「!これは…!」
「アガレスなら知ってるでしょ。ボクとクロの特技。幻影。光学迷彩って言った方が分かり易い?」
「今までアガレスが見ていた真っ暗で誰も居ない城下町と王宮はクロとシロの幻影だよ…。アガレスに気付かれないように幻影で騙してた…かも」
「だからアガレスは兵士だらけの城下町と王宮内を堂々と走ってたんだよ!誰も居ないように見せかけたボク達の幻影に騙されてね!」
「どうして人間がクロ達神々に協力してる?って顔…かも。それはねヴァイテル国王も兵士も協力せざるを得ない…かも」
シロはニィッと笑み、アガレスを指差す。
「254年前ココリ村を没落させた堕天神アガレスが悪魔となって今日!この日!ヴァイテル王国を滅ぼしにやって来たって言われたからね!」


ガシャン…、

ヴァイテル王国の国旗が描かれた鎧を身にまとった兵士達が鎧を鳴らして近付いてくる。
「くっ…!」
するとアガレスは黒い光を纏う槍を繰り出し…


ドンッ!

ガシャン!!ガシャン!!

辺りの兵士を吹き飛ばし、廊下の窓全ても吹き飛ばした。
「うくっ…、」
吹き飛ばされ、廊下に倒れてヨロヨロ立ち上がる兵士に混ざって倒れているクロを叩くシロ。
「もう!ホンットドンクサイなぁクロは!アガレス逃げちゃったよ!」
「痛い痛い…かも。でもクロ達が居れば大丈夫…かも」
クロの言葉にシロはニィッと笑む。
「かも、じゃなくて"大丈夫"だから」




















『堕天神アガレス逃走中。ヴァイテル王国軍兵士総員出動せよ。繰り返す。堕天神アガレス逃走中。ヴァイテル王国軍兵士総員出動せよ』
王宮内…いや、城下町にまで鳴り響く放送。アガレスはキユミの右手を引きながら、幻影の解けた明るい王宮を駆ける。
「くっ…!神々が絡んでいたとは…!」
「ア、アガレスさん…あの…アガレスさんが…堕天神で…悪魔って…あの…ど、どういう事なんですか…?」
一番聞かれたくない事までシロとクロのせいでキユミに聞かれてしまった。しかもこんな、敵地に放り込まれた最悪の状況下で。アガレスは無視してただただ走る。
「あ、あのアガレスさん。アガレ、」
「居たぞ!」
「青い髪に奇っ怪な青い瞳!間違いない堕天神アガレスだ!撃て!」
兵士達が曲がり角から現れ、銃を構える。
「!」


パァン!パァン!!

アガレスは背を向け、キユミを抱き寄せて庇う。しかし銃撃が全弾命中しているから、キユミは顔を真っ青にする。
「アガレスさん!!」


コロッ…、コロ…、

しかし…
「なっ…!?銃撃が効いていないだと!?」
全弾命中すればアガレスの体は蜂の巣状態となり、血飛沫が噴き荒れるはず。しかしアガレスからは一滴も血が出ないどころか、命中したはずの銃弾は全てコロコロと廊下に転がっているではないか。まるで、頑丈な鉄板に銃弾が弾き返されたかのような光景に兵士は勿論、キユミも唖然としている。


ドンッ!!

「ぐああああ!」
「ぎゃあああ!!」
その隙に槍で兵士達を一掃するアガレスは、唖然としているキユミを背におぶり、再び廊下を走って逃げていった。






























「何処だ!」
「追え!追えー!」
「何でも奴は銃弾を弾き返したらしい」
「やはり人間ならざる者、我々人間の攻撃がきかないというのか!」
「ここはシロ様とクロ様に頼るしか…」
王宮の裏口に面している食料庫。狭く暗く、蜘蛛の巣が張っている此処に取り敢えず身を潜めたのは、王宮の外には100もの兵士達や100ものヴァイテル王国の神々が集結してアガレスを探していた為。
外に居るのが人間の兵士達だけなら、先程のように人間が作った銃など利かない神アガレスにとったら楽勝。しかし、神々も人間と協力をして集結しているとなると迂闊に外には出られない。だから取り敢えず此処で身を潜め、逃げる機会を伺っているのだ。
「くっ…!」
――俺が居る事が何故分かった!?くっ…!シロ殿とクロ殿はアドラメレク殿の配下であるヴァイテル王国の神…。アドラメレク殿の命令で俺の殺害を命じられたのだろう。先程シロ殿が申したように"堕天神アガレスがヴァイテル王国を滅ぼしにやって来た"と人間共を騙し、うわべだけ人間共と協力をして…。どうせ俺を殺害した後人間共を裏切り、殺す魂胆だろう――
苛立ちと焦りが募るアガレス。


くいっ、くいっ

「…ハッ!どうしたキユミ」
苛立ちと焦りですっかりキユミの存在を忘れていたアガレス。アガレスのシャツの裾を引っ張ってきたキユミにようやく気が付き我に返ったアガレスが振り向く。キユミは顔を真っ青にして、切なそうにアガレスを見上げていた。
「キユミ」
「ア、アガレスさん…神様…なんですか…」
「……」
「アガレスさ、」
きゅっ…と強くキユミを抱き締める。
「……。1人にしてきた清春の事が気掛かりだ。早く家へ帰ろう」


ドンッ…、

するとキユミは両手でアガレスを押し退ける。
「キユミ…」
「まだ若い神様で…人間と関わって…人間との子供を産んだら駄目だって…分からなかった…ココリ村を…みんなを…殺める原因となった…ココリ村の神様…アガレスさん…」
「…!!」
ガタガタ震えながらそう言ったキユミの目を見てアガレスの脳裏でフラッシュバックした。254年前。アドラメレクにバラされ、アガレスを突き放した時と同じ目をしてアガレスを睨んでいるキユミ。















「キユ、ミ…お前…思い出したのか…思い出してしまったのか…あの日の事を…」
アガレスが一歩近寄る。
「来ないで!!」
「…!」
睨み付ける目を見て確信した。254年前のあの日と同じ目だ。同じ目をして同じ相手を睨んでいるキユミの目だ。
「お父さんをっ…お母さんを…村のみんなをっ…殺す原因をつくってっ…!お兄ちゃんをっ…悪魔にして…!」
「キユミ…」
「私が記憶喪失だったのはアガレスさんのせいで!清春が今までずっと居なかったのはアドラメレク神に連れさらわれていてアガレスさんのせいで!全部全部何もかもアガレスさんのせいだったんです!!もう私に嘘は通用しません!私は全部全部思い出したんですから!!」
声が裏返る程叫び涙を溢れさせ怒りを溢れさせたその姿も何もかも254年前と全く同じだ。
アガレスは口を開いて何かを言おうとしたが、きゅっ…、と唇を噛み締めた。
キユミは自分の体を抱き締めながら強く目を瞑り、ボロボロ涙を溢れさせているのに酷く怒っている。
「記憶喪失になるまで!突然空が真っ赤で地面が真っ黒な魔界に連れられて!!お兄ちゃんは青髪の悪魔に魔王にされて!!私は大切な両親や村のみんなや、世界で一番大切な清春の記憶を消されたんです!!貴方に…大罪人の貴方にこの辛さが悲しみが、死んだ方が良いと思える程のこの哀しみが貴方に分かりますか!?」
「…いや…、」


スルッ…、

キユミは髪を束ねていた黄色のリボンをほどくと、床に置いた。アガレスが初めてプレゼントをし、キユミ自身初めて貰ったプレゼントの黄色のリボンを。それをアガレスは眉間に皺を寄せて酷く悲しそうに見ている事しかできない。キユミは下を向いたままフラフラ歩き出す。食料庫の扉に手を掛けて。
「待てキユミ」
だからその手の上にアガレスが自分の手を重ねて引き留める。















「外に居るのが人間だけなら俺と…悪魔化したお前なら人間の攻撃は効かん。しかし外には神々も居る。無理だ。機会を見計らってからでなければ…」


パンッ!

アガレスの手を払うキユミは元のピンクの目を悪魔の赤い目をして睨み付ける。
「キユ、」
「自分の命より清春の命が大事でしょう…!!」


バァンッ!!

「キユミ!!」
キユミはいつの間にか真っ黒く染まった悪魔の爪をした両手で、普段のキユミでは出せない…悪魔化したキユミの悪魔の強い力で食料庫の扉を突き飛ばした。神々が100と居る外へ飛び出したキユミを慌てて追うアガレス。
「待てキユミ!お前では無理だ!神と悪魔では力量の差があり過ぎる!!」
アガレスのそんな声も無視し、赤く目を光らせたキユミが外へ飛び出せば神々はすぐに悪魔の気配を察知し、キユミの方を向く。ペガサスや目玉だけの妖怪のような姿や、巨大な蛙など様々な不気味な姿をした神々を前にしても悪魔化したキユミは全く物怖じせず自ら突き進む。
「オッ?アノ女、アガレスノ女ジャナイカ?」
「ヨク見タラアガレスモ居ルゾォ!オーイ!人間ー!此処ニ堕天神アガレスガ居ルゾー!」
「何!?本当か!?」
神々に呼ばれたヴァイテル王国軍兵士達が次々と駆けつけ、銃を構える。
「撃てー!」


パァン!パァン!

「キユミ!!」
しかし、やはりアガレス同様人間でなくなった悪魔のキユミに人間が作った武器など通用せず。バサァ!と羽ばたかせた真っ黒い悪魔の羽でキユミは銃弾を尽く弾き返していく。
「な、何だあの女!?」
「ココリ村の人間の女じゃなかっ、ぎゃあああ!」
「ギャアアアア!」


スパン!スパンッ!!

キユミはその悪魔の羽で兵士達の首を次々と跳ねていく。その姿を神々は、
「ギャッ!ギャッ!アノ女ヤルジャネェカ!」
「元ハ人間ガ悪魔堕チシタ!成レノ果テダナァ!」
「ギャハハハ!」
腹を抱えて笑う神々。
だが、アガレスはただ1人呆然とその姿を見ていた。あの優しくてどこか危なっかしくて虫すら殺せぬキユミが、自分のせいで、人間を躊躇いなく殺す凶悪な悪魔へと変貌させてしまった事に体が動かない。
「あ…あぁ…キユ、ミ…キユミ…」
「ボサッとしてると殺られるよアガレス!」
「殺られる…かも」
「…!!」
キユミに気を取られていたアガレスの背後にシロとクロが現れていた。アガレスが振り向き、槍を繰り出すよりも早く…


ドスッ!

シロとクロの繰り出した巨大な十字架がアガレスの腹部を貫通。アガレスは口から黒い血を吐く。
「がはっ…!!」


ドサッ!

十字架を引き抜けば、アガレスはその場に倒れる。
一方。アガレスの悪魔の黒い血が顔に飛び散ったシロとクロは目を見開き、大慌て。互いに血を擦り付け合う。
「ヒィイ!アガレスの悪魔の返り血が付いたぁ!ククククロ!お前にやる!」
「いいいイヤだよシロ!悪魔の汚らわしい血なんてイヤだよ!」
「ヒィイ!熱い熱い!悪魔の血で体が焼けるー!」
ほんの少量の返り血なのだが、返り血が付着した箇所だけシロとクロの肌が火傷を負っている。


ドスッ…!

「焼けっ…、がはっ…!」
すると突然シロが口から青い血を吐いた。シロの腹には真っ黒い槍が貫通。
「シロ…!!」
ズルッ…、とシロはクロにもたれかかるようにして倒れる。シロの背後には、血を口の端からボタボタ垂らして顔を真っ青にして息が上がりながらもシロの腹を貫通したアガレスの姿が。
「っ…!許せない…かも…じゃない…許せないアガレス…許せない…許せない許せない許セナイ許セナイ許セナイ!!」
好戦的なシロとは対照的でおとなしく気弱だったクロが一変。目をつり上げて怒りに満ちると辺りに白い光を纏い、シロを抱えたまま浮き上がる。
「っ…!?何だ…!?」
「許セナイ許セナイ!!」
カッ!!と白い光がより一層強く光り、シロとクロを包み込む。目を閉じなければいけないくらいの眩しさにアガレスが目を閉じたその一瞬の間に。
「なっ…!?」
アガレスが目を開けばそこには。右半分がシロ。左半分がクロで、普段の2人よりも身長が高く(アガレスと同じくらい)大人びた1人の神が宙を浮いていた。まさにシロとクロが合体した姿。
「まさか…貴様ら2人…!?」
「ボク(クロ)達ガ2人別々ノ姿ダト思ッテタ?残念ダッタネアガレス!ボク(クロ)達ノ本当ノ姿ハコレ!1人ノ姿コソガ本当ノ姿ナンダヨ!!」
シロ×クロが両手を天高く広げれば、天使の輪に似た白い光る無数の輪が現れ…


ドン!ドン!ドンッ!!

アガレス目掛けて無数の光の輪が襲い掛かる。何とか避けるアガレス。建物の裏に隠れる。
「くっ…!あれが真の姿と、」


ドゴォッ!!

「何ッ…!?」
何と、光の輪は建物をいとも簡単に貫いてアガレスを襲ってきた。目を見開いたアガレスは、まさか建物を貫いてまで襲ってくるとは思っていなかったからか逃げる反応速度がワンテンポ遅れてしまい…


ドスッ!ドスッ!!

「ぐああああ!」
攻撃が命中。光の輪はアガレスの首、両手首、両足首、胴体に錘のようにはまると身動きがとれなくなる。

















錘を身体中にくくりつけられたように身動きが取れず、地に伏しているアガレスの前にシロ×クロがケタケタ笑いながら立つ。
「アハハハ!地ニ這イツクバルシカ能ノナイ芋虫ミタイデ、アガレスニハオ似合イダネ!」
「ぐっ…!」
「きゃあ!」


ドサァッ!!

アガレスの前に吹き飛ばされてきたのはキユミ。両腕から悪魔の黒い血を流すキユミにアガレスは目を見開く。
「キユミ!」
しかしキユミはアガレスの方は見ず。だが、相当の深傷を負っているようで立つのもやっと。アガレスは錘をくくりつけられた動かぬ体ながらも、やっとの事で腕を伸ばしてキユミに触れる。
「キユミ!お前はもう戦うな!お前は人を殺めるような奴じゃない!」
「それは貴方、」
「俺がお前をそうしてしまったんだ!全部全部何もかも俺のせいだ!それで構わない!だが俺の言う事を利いてくれ!」
「そんな事できま、」
「お前はもう戦うな!全部俺がする!だからお前はもう戦わないでくれキユミ!!」
「……」
声が裏返る程のアガレスの叫びに、キユミは黙ってしまう。
「何ナニ?ソウイウノヤメテヨネ、今戦場ダヨ?バッカジャナイノ?」
アガレスとキユミのやり取りを間近で聞いていたシロ×クロは不服そうに口を尖らせる。
「アームカツク。ムカツクヨネ。本当ハアガレスモ、アガレスノ女モ囮ダケドムカツクカラ先殺ッチャオウカ?」
「囮…?」
シロ×クロの言葉にアガレスが反応した。


ドドドドドッ!!

「ウギャアアアア!」
「ギャアアアア!?」
「!?」
その時。白い十字架の大群が突き刺さる雨のように天から降り注ぎ、城下町に集まった数100もの兵士達に次々と突き刺さっていく。辺りには一瞬にして兵士達の真っ赤な血の雨が降り注ぐ。だが、同じ場所に居る神々達の事を十字架はわざと避けている様子。
「な、何だあの十字架は…!?」
その光景にアガレスもキユミも目を丸め、ただただ呆然。
「始マッタネ。始マッタ…カモ」
「…?」
何かを分かっているようなシロ×クロの発言に、アガレスはシロ×クロを見上げながら首を傾げる。


























一方。兵士をはじめとするヴァイテルの人間達は、降り注ぐ十字架から逃げようと我先にと人を押し退け逃げ惑う。悲鳴が上がり、まさに城下町は地獄絵図。


ドドドドドッ!!

「きゃああああ!」
「邪魔だ退け!私が先に逃げるんだ!!」
「死にたくない死にたくないよぉお!」
そんな人間達の様子を神々は腹を抱えてケタケタ笑う。
「アハハハ!ブザマダナァ人間ッテノハ本当!」
「お、おい!話が違うではないか神!」
「アァ?」
すると、騒ぎを目の当たりにしたヴァイテル王国国王が血相変えて神々の元へ駆けてきた。
「お前達神々は私の国に仕える神々では無かったのか!?何故私の国の兵士や国民を殺しているのだ!」
「バァーカ。騙サレテタンダヨ、オ前ラ人間ハ!」
「な、何だと!?」
神々は国王を指差す。
「オ前ラ、ヴァイテル王国ノ人間ハ、アドラメレク様ノアル作戦ノ為ニ利用サレタダケダッタンダヨ!」
「な、何だと〜!貴様ら我々人間を騙したな!!」
「ギャハハハ!アガレスガヴァイテルヲ滅ボシニキタナンテノハ嘘ッ!アガレスノ女ヲヴァイテル国王ニ連レサラワセテ、女ヲ助ケニ向カウアガレスガアイツノ目ヲ離シタ瞬間ヲ狙イタカッタアドラメレク様ニ利用サレタダケサ!」
「貴様らー!!撃て!撃てーい!悪神共を撃てー!!」
顔を真っ赤にした国王が、兵士達に命令をする。


ドスッ…、

「が…はっ…!」


ドシャアッ!

しかし、兵士を始めとする国王達は一瞬にして首を跳ねられ、体が前に倒れる。ゴロッ…と地面に転がった国王の頭は、今自分の首を跳ねた人物を捉えていた。其処にはヴァイテル王国軍兵士の鎧を着用した1人の細身の兵士。鎧兜の隙間から覗く青い瞳に国王の頭が映る。
「あ…あ…ァ…お前…はッ…人間の…お前…が…何故…神々…の…側に…ついたん…だ…、セントノアール…アイリーン・セントノアール…大尉…」
鎧兜を外してバサッと露になった白く美しい長い髪と美しい白い顔のアイリーンはにっこり微笑む。
「騙されていただけですわ国王陛下。ヴァイテル王国軍兵士アイリーン・セントノアール大尉は実在しません。わたくしの名はこの世を司る大神アドラメレク。死後の世界でもよぉく覚えておきなさい低能な人間」


グシャッ!

「ギャッ!」
アイリーン…いや、ヴァイテル国王兵士と偽っていたアドラメレクは国王の頭を踏み潰す。国王の頭はまるで握り潰された林檎のように脳髄や血がはみ出て原型を留めないグロテスクな姿に変わり果てた。



















ガシャン…、
重たい鎧を鳴らして後ろを振り向く不敵な笑みのアドラメレクの視線の先には、呆然としているアガレスとキユミの2人。だがアガレスはすぐにキッ!とアドラメレクを睨み付ける。


パァンッ!

「アア!ボク(クロ)達ノ輪ガ!!」
アガレスはシロ×クロが錘のようにくくりつけていた光の輪を破壊するとキユミの前に立ちはだかる。しかしアドラメレクはそんな彼らを「ふっ」と鼻で笑う。その間にも天から降り注ぐ十字架は城下町から繁華街へと移動していく。
「貴様…!ヴァンヘイレンのアイリーン殿に化けていたのかアドラメレク殿!」
「本当低知能ですわねアガレス氏。今更気が付きまして?」
アドラメレクは自分の長い髪を後ろへなびかせる。
「それ(人間)らしくしているのも結構大変でしてよ?」
「っ…!貴様!!」
アガレスが黒い槍を繰り出し、アドラメレク目掛け駆ける。しかしアドラメレクはその場に立ったまま全く動じず、寧ろにっこり笑みながら、ツゥーッ…、と空中に指で横線を引いた。


キュッ!

「!?」
するとアガレスの口がまるでチャックが閉まったかのように勝手に閉じてしまい、モゴモゴさせても口が開けない。
「わたくしに敬意を払えない口は閉ざしてしまいましょう」
























ドドドドドッ!!

「ギャアアアア!」
「ワアアアア!」
「!」
一方で、天から降り注ぐ十字架は既にどんどん繁華街へと、住宅街へと進行していくから遠くからは人間達の悲鳴が闇夜に轟く。


ドドドドドッ!

すると、繁華街の方へと宙を浮きながら移動する化け物の姿が闇夜に浮かんで見えた。真っ黒いヒトガタの生き物で右半身には天使の羽に似た白い羽、左半身はヒトガタ。クロコダイルの尾。そして頭上には天使のような白い輪が浮かんでおり、その生き物の背後には大きな十字架や太陽をモチーフにした奇妙なモノが付いている。その生き物が移動する方向に、天から降り注ぐ十字架達も移動しているのが見受けられる。
「何…ですかあの生き物は…神…?」
目を凝らしてその生き物の遠ざかっていく姿を見つめるキユミ。アガレスも目を凝らして見る。両目が見えないのかその生き物は両目からドロドロと血を流している。
アガレスとキユミの視線がその生き物に釘付けなのをアドラメレクは腕組みをしながら鼻で笑う。
繁華街へと移動しながらふいにその生き物がこちらを向いた時、流れる血に混ざって薄ら開けた瞳が見えた。自分と同じ渦を巻いたような青い瞳。


ドクン…!

その瞳を見た瞬間、アガレスの鼓動が張り裂けてしまいそうな程大きく鳴る。
その間にもその生き物は繁華街の方へと体を向け直し、そちらへと移動していき終いには姿が見えなくなってしまった。しかし、姿は見えないものの遠くからは人間達の悲鳴や天から降り注ぐ十字架の激しい地鳴りが聞こえる。



























「行ってしまいましたね…あれは神ですか?アガレスさん」


ガタガタ…、

キユミが話し掛けるがアガレスはガタガタ震えたまま、先程の生き物が去っていった方角だけを見ている。キユミは首を傾げる。
「…?アガレスさん?」
「…っ、」
「え?」


ツゥーッ…、

アドラメレクは再び宙に横線を引く。そうすれば、閉ざされていたアガレスの口がチャックが開くように開き、喋れるようになる。
「アガレスさん…?」
「…る、」
「え?」
アドラメレクはニヤリ笑む。


ぐっ、

「え!?」
アガレスはキユミの腕を引っ張ると、そのままアドラメレクやシロ×クロ、神々の頭上遥か高くを跳んで王宮や建物を伝い跳んでいく。
「イイノ、オ嬢様?アガレス達ヲ追ワナクテ?」
シロ×クロがアドラメレクに近寄る。アドラメレクは腕組みをしたままふっ…と笑む。
「ええ。追いますわよ。けれど、ほんの少しだけ時間を差し上げましょう。最期の家族水入らずの時を、ね…」


























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