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GOD GAME
ページ:2










その頃――――――

「はぁ、はぁ、くっ…そが!!」


ドンッ!

アンジェラの隣街の路地裏へ逃げてきた清春は壁を拳で殴る。ドクドク溢れる血を右腕で押さえるが、止まらない。乱暴に左腕で口から垂れる血を拭うとキッ!と目をつり上げる。
「チッ!くそっ!あのジジィヴァンヘイレンに人間として潜んでいた天使だったのかよ!超うぜぇ。早く天界に戻らなきゃ、」


ドゴォン!!

路地裏の壁が全て吹き飛ばされると、そこに白い光を纏った天使ミカエルが現れる。
「ここから半神のニオイがするなぁ。隠れたって無駄だぞー」
瓦礫となった路地裏の壁の中に清春を見つけるとミカエルは笑む。
「見ぃつけた」
「チッ!」
清春は血を流しながらも白い槍を取り出してすぐ、ミカエルにぶつかる。しかしミカエルはミカエルで白い巨大な十字架を繰り出すから、2人の武器と武器とがぶつかり合う。
「うぜぇんだよクソジジィ!!」
「お前文化祭にも来ていただろ?熱心だよなぁ〜ナタリー騙す為に偽りの恋人をそこまで演じるなんて」
「っ…、黙れ!!」


タンッ!

間合いをとる清春。しかしすぐに距離を縮めてきたミカエルの十字架がガンッ!と清春の槍にぶつかる。

















「殺しにいった相手に連日見舞いの花束を送り付けるなんて本っ当性根の腐った連中だ神ってのは」
「うるせぇんだよ!!何も知らねぇクセにベラベラ喋んじゃねぇ!!」
「うるさいのはそっちだろ。教え子半殺しにした上見舞いの花束を送り付けるなんて嫌がらせをしてトラウマを植え付けた悪神」
「…!!」
カッ!とミカエルの周りが光った。
――やべぇ…!殺られ、――


ドンッ!!

清春が逃げなきゃと思っている間。一瞬の間に白い羽を羽ばたかせたミカエルから放たれた白い光が清春を包み、爆弾のように爆発した。


パラ…パラ…、

瓦礫の破片がパラパラ舞う中。瓦礫の上で伏して倒れている清春の頭に十字架を向けるミカエル。
「お前ら神々ならこうなった敵の頭をぐりぐり踏み潰すんだろうな。俺達天使はそんな野蛮な真似はしない。十字架で脳天突き刺すだけだ」


バサッ…、

ミカエルは大きな羽をしまう。
「アガレスはアドラメレクについていなかったからその子供のお前もそうだと思い込んでいた俺が馬鹿だったよ。お前も悪神だと知っていたなら、早めにナタリーをお前から離れさせるべきだった」
「……」
「本来ならナタリーにさせるべきなんだろうけどな。あいつは優しい奴だからできないだろう。だから俺がナタリーに代わってお前を殺す」
「…だ…、」
「最期の言葉くらい聞いてやろうか半神?」
ピクッ…と動いた清春はゆっくり顔を上げた。青と赤が混ざった血まみれの顔を。



















「騙して…なんか…いねぇんだ…よ…」
「…ん?」
「俺、は…アイツの事…騙してなんか…いねぇんだ…よ…。アドラメレク…が…13日…アンジェラを襲撃するって…知っていたから…。カナに…隣街に出掛けるよう…それとなく促した…。けど…アイツはアンジェラに居て…たまたま…巻き込んじまっただけ…なんだ…」
「……」
「け、ど…他の…神に見つかった…から…、カナを…助けたら…俺がアドラメレクに…殺られる…から…、アイツに攻撃したよう…に見せかけて…アイツを逃がした…だけ…なんだよ…」
「…そうだったのか」
ミカエルはスッ…と十字架を下ろすと悲しそうな目をする。
「お前はアドラメレクに逆らえないからナタリーの前でわざと悪神を演じたわけだな。ナタリーの事を騙していないけれど」
清春は力無く頷く。
ミカエルは清春の顔の前に屈む。切なそうな目をして。しかしそれが一変。鬼の形相に早変わり。清春は目を見開く。逃げなければ…しかし清春の体は怪我と出血で動かない。
「情けない男だな。アドラメレクに殺される覚悟でナタリーだけでも守ってやるところだろそこは?お前が本気でナタリーを好きなのはよく分かった。けどアドラメレクにビクビクして自分の女すら守れない男に可愛い教え子をやるわけにはいかないんだよ。やっぱりお前はここで殺しておく」
カッ!と再びミカエルを白い光が包み込み、羽も繰り出す。清春の青い瞳にミカエルが映るが、重傷の体が動いてくれないから逃げられない。
「ま…、待てよ…待てよ…俺は…俺はまだ…死ねねぇんだよ…俺はまだ…」
「悪神の戯れ言なんて聞くもんかよ。神が人間を守らないから天使が人間を守る」
ミカエルの十字架が降り上がる。
「待てよ…待てよ…俺は…俺は…!!」

『わ、私も清春君の事が大好きですっ!!』
『清春、毎日お母さんのお手伝いしてくれてありがとう』
『新しい玩具が欲しいだと?分かった分かった。買ってきてやろう。待っていろ清春』

3人の顔と声が脳裏を走馬灯のように駆け巡る。しかし現実は残酷で、見開かれた清春の目には今まさに殺しにかかってくるミカエルの姿が映るだけ。
「やだ…やだよ…」
「死ねアドラメレクの配下悪神!!」
「死にたくないよ父さん!!」


ドンッ!!


















「やったか?」
爆発の後。たちこめていた灰色の煙が晴れていく様を笑みながら見るミカエル。
「…!?」
しかし其処には清春の血痕しか残っておらず。ミカエルは顎に手をやり、難しそうに考える。
「あの攻撃を半神のあいつがかわした…?まさか。昔アドラメレクの片腕をもっていった攻撃だぞ」


フワッ…

「…!」
辺りにフワッ…と風に乗ったニオイにミカエルは目を見開く。
「悪魔のニオイ…?」
顎に手をあてたまま難しそうに悩む。
――悪魔のニオイで清春のニオイが掻き消されている。悪魔のニオイも此処で途絶えているから後を追えないな。偶然か?それとも俺に追われないよう意図的か?――
ミカエルは背を向け、バサバサと羽を羽ばたかせ宙に浮き上がる。
「ふぅん…。やるじゃないの」


バサバサッ!

ミカエルは闇夜を天使の羽で羽ばたき、ヴァンヘイレンへ帰っていった。










































丘の上の小屋――――――

「白雪姫は王子様と末永く幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし」
「わあ!楽しかったです。ダーシーお姉さんありがとうございました」
パタン。
小屋で、アガレスとベルベットローゼの子供に絵本を読んであげていたメアは絵本を閉じると得意気にふふん♪と鼻の下を指で擦る。
「えっへん♪読んでもらいたい御本があったらいつでもダーシーお姉さんに言ってね!」
"お姉さん"を強調するメアに、純粋な子供はキラキラ目を輝かせて拍手を送る。
「はいっ!分かりました!」


バタン!

すると扉が勢い良く開かれるからメアと子供が一斉に振り向く。
「あ。アガレス君おかえり!ちゃんと絵本買ってこれ…、!?き、清春君どうしたの!?」
帰ってきたアガレスが担いでいたのは、腹や頭からドクドク血を流して気絶している清春。清春の血が付着した黒いパーカーをすぐに脱ぎ捨てるとアガレスは清春をベッドに横たわせる。メアは子供を抱いて部屋の隅で呆然。
「ア、アガレス君どうしたの…!?」
「お父さんその人は誰ですか?」
「ラズベリー殿」
誰も居ない外に窓越しにそうアガレスが言えば。
「は〜い。呼んだ?馬鹿アガレス」
ギィッ…と扉が開いて飄々と現れたラズベリー。
「分かっているのだろう」
ラズベリーは口紅を塗った艶やかな唇で笑む。
「当然。あたしは来たくなくても体が勝手に怪我人・病人の元へ向かっちゃう神様だからね」
ふぅ、と溜め息を吐くとベッド脇に腰掛けて手早く治療をしていく。そんなラズベリーを、隣でいつもの無表情なのに眉間に皺を寄せてジッ、と見ているアガレス。
一方。何が起きたのか分からなくて話についていけていないメアは子供を抱いたままハッ!とする。
「あ…!アガレス君!ラズベリーちゃん!私にも何かお手伝いできる事はあるかな!?」
「無い」
「そ、そんなぁ…」
アガレスとラズベリー2人綺麗に声を揃えて言うものだからメアはシクシク。そんなメアの涙を拭ってやる子供。


















「ふぅ!完了!」
ようやく治療を終えたラズベリーは額を流れる汗を拭うと満足気に笑み、さっさと後片付けに入る。
「おい」
「何よ。ラズベリー様に対して随分上から目線ね堕天野郎」
「本当に今の治療でもう大丈夫なのか」
「当前でしょ。あたしを誰だと思ってるのよ」
立ち上がり、道具を片手に出ていこうとするラズベリー。
「こいつは神と人間の子だ。神専門のラズベリー殿の治療で本当に充分な処置は行えたのか」
「あらあら心配性なお父さんね〜。今更そんなに心配するなら、こんなになる前に最初から手放さないでずーっと傍に置いていれば良かったじゃない」
「……」
「ま。あたしも半神の治療は初めてだから完璧とは言い切れないわ。でもあたしの出しきれる力全て使い果たしたつもり」
「…ありがとう」
「あ…!ラズベリーちゃんありがとう!」
つられて礼を言うメアを顔だけを振り向かせて見てラズベリーは鼻で笑う。
「あんたもつくづくお人好しねダーシー」
「えっ?」
「そんな堕天野郎一緒に居る価値無いわよって意味!じゃーまたねお馬鹿コンビ」


バタン、

ラズベリーはヒラヒラ手を振りながら小屋を出ていった。



















ホー…ホー…

梟の鳴き声だけが聞こえる静かな夜。
スー…スー…と微かな呼吸音が聞こえる清春は眠っている。そのベッド横で床に膝をついてずっと見ているアガレス。
「清春君…どうしたの?」
その隣に、子供を抱いたままのメアが腰掛ける。アガレスは清春を見たまま。
「分からん。貴様が絵本を買ってきてやれとしつこいから買いに街へ行こうとしたら騒がしくてな。どうせ神々とヴァンヘイレンの争いだと思いやり過ごそうとしたのだが…」
「だが…?」
「こいつに呼ばれた気がしてな」
「そこに清春君が居るって分かったの?」
アガレスは首を横に振る。
「いや。分からん。だがそんな気がして赴いてみたらこいつが天使に殺られそうになっていた」
「そっか…」
静まり返り、メアは心配そうに清春を見る。
「でも天使と?また清春君喧嘩でも売ったのかな?」
「かもしれんな。こいつの事だ」
「天使ってどんな?」
「分からん。煙幕で姿は見えなかったが白い羽だけが見えた」
「そっ…か…」
いつの間にかスヤスヤ眠ってしまった子供を撫でるメア。
「でも良かった。清春君をアドラメレクの手から逃せられて。でも助けた時清春君気絶していたんでしょ?起きてアガレス君と私が居たらまた怒るかも」
「だろうな」
肩を竦めるアガレスにメアはクスクス笑う。アガレスの顔を覗き込む。長いツインテールを揺らして。
「でも大丈夫!アガレス君と喧嘩になったとしても、記憶が戻ったキユミちゃんの所へ清春君を連れて行けば清春君も意地っ張りをやめて素直になってくれると思うよ!」
「だと良いのだが」
「だって私分かるもん。清春君本当はアドラメレクが怖くてアガレス君と敵対視してるフリをせざるを得ないんだって。アガレス君!」
「何だ」
メアはアガレスににっこり微笑む。
「今度はちゃんと。清春君をアドラメレクから守ってあげてね!」
アガレスはくるりと背を向ける。
「当然だ」




















































ヴァンヘイレン宿舎
看護棟―――――――


カラカラッ…

「ナタリー…」
寝静まった個室。やって来たミカエルがカナのベッド脇に立つが、カナは眠っていた。ミカエルは切なそうにカナを見る。
「人間が祈る信仰対象神が悪神となり人間を殺める今。俺達天使だけでもお前や人間達を守ってやるからな。もうあんなトラウマを増やさせない。だから安心しておやすみ…」


パチッ、

個室の灯りを消すとミカエルは病室を後にした。


































天界―――――

「は〜あっ!一昨日はスーッキリしましたわ〜!」


バァン!

部屋の白い扉を開けてご機嫌のアドラメレクはソファーに腰掛ける。その後ろに続いてやって来たベルベットローゼは向かい側のソファーに腰掛ける。
「たぁくさんの人間達をわたくしの奴隷にできましたもの!気分が晴れ晴れしていますわ!」
「でもよアドラメレク。御子柴の件はどうすんだ?」
「ふふ。わたくしを侮るなかれ!ですわよベルベットローゼ。既にマリア、マルコ裏切り者達の所在地で目ぼしい場所は見当がついております。それに御子柴の魂をまだ感じますわ。という事はまだ御子柴をキメラから元に戻せる可能性があるという事!」
アドラメレクはバッ!と両手を天高く挙げると上機嫌でソファーを飛び越えて清春の部屋へ走るから、ベルベットローゼは「やれやれ気分屋だぜ」と肩を竦めていた。


ギィッ…、

「清春!御子柴奪還へ向かいます…わ…よ…?」


ガラン…

窓も無い真っ暗な部屋はガランとしていて誰も居らず。
「あら?清春は何処へ行きましたのベルベットローゼ」
「オレが大嫌いなあいつの所在なんざ知るわけねぇだろ。お前が詳しいんじゃねぇのかアドラメレク?」
アドラメレクは口に手を添えて首を傾げる。
「おかしいですわね?あの子が夜分になっても帰らないなんて。あの子がよく遊んでいたアンジェラ壊滅後何処の街で遊ぶようになったのでしょう?」
「はっ!アガレスのガキだから下界で人間の女と遊んでんじゃねーの?」


ギロッ…

「!!」
冗談で言ったのだがベルベットローゼのその一言にアドラメレクは睨み付ける。ベルベットローゼがアガレスの元へ行った時のように。
「アガレス氏の名前を出さないでくださいます…?わたくしあの方の事が心底嫌いですの…。マリアと同じくらいに…」
「わわ、悪かったって!冗談!な!?」
「それにあの子は気難しい子ですけれど、わたくしを裏切るような事は致しません!」
アドラメレクは自分より身長の高いベルベットローゼを見上げながら顎を長い爪でくいっと持ち上げる。見上げられているのにまるで見下されているような恐怖を体感するベルベットローゼ。
「どこかの低能な女と違って…ね?」


ゾワッ…!

自分の事を言われている…そう思い、恐怖で支配されたベルベットローゼは改めて思った。いくら親友でも、いくら今回の件を許してくれたとしても、次アドラメレクの機嫌を損ねる事があれば自分は1秒と経たずあの世逝きだろう…と。


ガクッ!

腰が抜けてしまったベルベットローゼに「ふふっ」と口に手を添えて笑いながら脇を歩いていくアドラメレク。長い髪を右手でバサッと後ろへなびかせ。
「はーあ。あの子は何処へ行ったのでしょう。全く。世話の焼ける子ですわ」









































翌朝――――――


チチチチ…

「ん…」
天界では聞こえない小鳥の囀ずりと、カーテン越しに射し込む朝陽で目を覚ました清春。
――朝か…。あれ…?――
違和感に気付きながらもゆっくり目を開けていく。
「おはよう清春」
「おはよう!ゆっくり寝れたかな?清春君」
「…!?なっ…、何であんたらが居るんだよ…!?」
清春の見開かれた青い瞳にはアガレスとメアが映っていた。
















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