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GOD GAME
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2月13日、夜―――――

「…行きますわよ」
夜のアンジェラの街を上空から見下ろす本来の姿をしたアドラメレク、ベルベットローゼ、他の上級神々数1000体、そしていつもの姿に件の仮面を付けて顔を隠した清春。


バサッ!

アドラメレクがクジャクの羽を広げて街へ降下すればそれが襲撃開始の合図となる。
























「明日はバレンタインか〜」
「先輩にチョコ作らなきゃ」
「えー!先輩にチョコ渡すの?頑張って!」
「えへへ。うん。頑張、」


ドンッ!ドンッ!!

「キャアアアア!」
明日の予定を考えながら街行く人々の頭上から次々と化け物の姿をした神々が襲撃してくれば、アンジェラの街はたちまち地獄絵図と化する。


ドンッ!ドンッ!

あんなに華やかだった中世ヨーロッパを連想させる街の店が次々と倒壊され、悲鳴渦巻く街のあちこちには人間達の真っ赤な血飛沫が飛散する。
「アドラメレク様…バンザイ…ヒヒヒッ…」
「どうしちゃったの!?ねぇ!明日はバレンタインだからデートしてくれるって約束したじゃない!ねぇ!しっかりしてよ!!」
神々に造り直しの儀を施され、アドラメレクを讃える事しかできなくなった恋人に泣き叫ぶ恋人。一緒に造り直しの儀を施され通称dollにされたカップル。街はすっかり地獄絵図。
























「このビルは雑貨屋やブティックショップ、お菓子屋50ものテナントが入ったビルだからこのビル内だけで数1000の人間が居るってアドラメレクが言ってたぜ!」
ビルの中をコウモリになって飛びながらそう話すベルベットローゼに並走しているのは仮面を付けた清春。
「清春てめぇよく下界で遊んでんだからこのビルにも来た事あんだろ!?」
「あるし」
「なら何処が一番人間が居そうだ!?」
「1階じゃね?スーパーになってるし」
「じゃあ1階へ行くぜ!さっさと片付けちまわねーと御子柴御子柴ってうるせぇからなアドラメレクさ!」
ベルベットローゼと清春は1階へ降りる。
「行くぜ!!」
「ひぃい!か、神々だ!神々が来たぞ!みんな逃げろ!!」


ドンッ!!ドン!ドンッ!

人間達の事などお構い無しにベルベットローゼは羽で次々と人間達の頭を切って造り直していく。清春は仮面を付けたまま、取り出した武器の白い槍で次々と人間達を串刺しにして造り直していく。


ドッ!ドスッ!

「ギャアアアア!」
「たたたた助けッ…、ウギャアアアア!!」
調度買い物時ともあってか食料品売り場となっている1階には親子連れにカップル、サラリーマンにOL老若男女問わずたくさんの人間が居た為、一気に片付いていく。
「ギャアアアア!」


ドサッ!

「へぇ!清春てめぇなかなか殺れるようになったじゃねぇか」
感心するベルベットローゼは右側を羽で指差す。
「人間1人でも逃したらアドラメレクにぶちギレられるからよ。二手に分かれようぜ。オレは右をいく。清春てめぇは左な」
「了〜解」
ベルベットローゼは飛び、清春はタンッ!タンッ!と食品が入った棚の上を伝って跳んでいった。






















ドスッ!ドス!!

「ギャアアアア!」
ドサドサと呆気なく倒れていく人間達を蹴りながら起こして造り直しの儀を施す清春。
「ア、ア、アアドラメレク様バンザイイイ…」
「アドラメレク様…バンザイ…」
人間達はまるでゾンビのように両手を前へ出して横にユラユラ揺れながら、アドラメレクを讃える操り人形と化していく。
清春は角を曲がった先にあるお菓子作りの材料がある売り場へ走る。
「きゃああ!か、神!化け物ー!!」
其処には明日がバレンタインデーという事もあってかたくさんの女性達が居た。
――ラッキー。一気に片付くじゃん。面倒いから一気にぶっ殺しちゃお――
槍を振り上げ、天高く両手で振り回すと辺り一帯を白い光が包み込み…


ドンッ!!

「キャアアアア!」
「ギャアアアア!」
其処に居た人間の女性達を吹き飛ばし、殺していった。
「やっべ。今の攻撃で仮面割れちゃったし。いーや面倒いから外そ。どうせ俺の顔を見た奴1人残らず殺すし」
割れた仮面を放り投げ、露になる清春の顔。
爆風による灰色の煙が晴れると、白目を向いた死体の山の中に1人だけピクッ…と動く人間の手を見つけた清春。見逃さない。瓦礫の中からその手を引っ張り出す。
「まだ生きてんの?死ねよ雌ぶ、」


ガラッ…、

「…!!」
瓦礫の中から引っ張り出したまだ息のある人間それは頭から血を流し、まだピクピク動くカナだった。




















「…!!カ…あんたっ…!」
薄ら目を開けたカナのぼやける視界に映ったのは真っ青な顔をして目を見開き、ガタガタ震えている清春の姿。
「き…、きよは…る…くん…?」
「カ、カナ…どうしてあんたが此処に居るんだよ…、隣街に行けって…俺、がっ…、」
ふと、カナの左手が持っている物に清春が視線を落とせば。カナはチョコレート作りの材料となる板チョコやアーモンド、ハートの型を持っていた。

『うんっ…!バレンタインチョコ持ってくるね』

「…!!」


ザワッ…!!

どうして今日バレンタインの前日にカナが此処に居てこの売り場に居たかを察した清春の全身から血の気が引いた。


ガタガタガタガタ…

カナの手を引っ張り出したまま震えが止まらない清春。カナは、頭や口端、腕から真っ赤な血を流しながら虚ろな瞳に清春を捉えている。
「きよは…、るく…ん"…かみ…様…じゃないっ…て…」


ガタガタガタガタ…

「ウソ…ついてた…の…?騙して…た…の…?」
「違う…違う違う違う…俺は…俺はっ…!!」
「何だよ清春。まだソイツ生きてんじゃねーか。さっさとぶち殺せよ」
「…!!」
背後からベルベットローゼが現れてそう言えば、清春はバッ!と真っ青な顔をして振り向く。だから清春とカナの関係を何も知らないベルベットローゼは首を傾げる。
「…?何だよそんな真っ青な顔して。さっさと片付けてアドラメレクの所へ戻ろうぜ。あいつ超短気だからよ」
「っ…!」
「あ?何だよ。何躊躇ってんだよ。まさかその人間の女、下界でできたてめぇの女か?」
「んなわけねぇじゃんこんな人間のブス。親父と一緒にすんじゃねーよ」
清春はスッ…、といつもの調子に戻るとカナを瓦礫の上へ落とし、槍をカナに向ける。ふらつき、意識朦朧として立っているのもやっとなカナの頭を掴み、槍を振り上げれば…


ドンッ!!

清春とカナごと白い光が包み込み、爆発。
灰色の煙の中から姿を現した清春の背後の壁は外が見える程破壊されていた。
「おいおい。人間の女1人殺るのにいくらなんでもやり過ぎだろ清春!」
「いーんだよ。行こうぜベルベットの姉ちゃん」
「姉ちゃんって呼ぶんじゃねぇ!オレはてめぇが大嫌いなんだからな!!」
バサ、バサ、と飛ぶベルベットローゼの後をついて行く清春だった。






























天界―――――

「ご苦労!皆さんのお陰でアンジェラの街は壊滅致しましたわ!」
「ワアアア!」
「さっすがアドラメレク様だ!」
アンジェラの街壊滅後。天界にて。両手を合わせて自分の顔の脇に添えてご満悦のアドラメレクを、今襲撃に参加した神々が歓声を上げて讃える。
その様子を一番後ろで腰に手を充てて見ているベルベットローゼ。その隣には笑顔の清春。
「いや〜呆気なかったな人間共。オレらが襲撃し終わった頃にヴァンヘイレンが駆け付けて、遅せぇよ!って思わずツッコミたくなっちまったぜ」
「これでアドラメレクの姉ちゃんもしばらく機嫌良いんじゃね?」
「まーな。ま、すぐに御子柴探索と救出に行くだろうけどな」
「俺疲れたから部屋戻るし」
「おうー。清春てめぇほとんど人間殺ったし大したもんだったぜ」
「まーね」
清春は背を向けたままヒラヒラ右手を振り、この場を離れていった。



















ガシャン…、

鉄格子で頑丈にされた自室の扉を閉めた清春は笑顔のまま扉に背を預け、「フッ…」と目を閉じると…。
「うっ…、うぐっ…カナ…カナぁ…!!」
背を預けたままズルズルと下へ下がっていき最終的には床に力無く座り込んでボロボロ涙を流す清春。泣き声がアドラメレク達に聞こえないよう、服の袖を噛み締めて泣き声を押し殺す。
「うぅっ…!ぅぐっ…、カナ…カナ…!」

『俺と付き合って下さい!!』
『わ、私もっ!清春君が好きですっ!!』
『俺は人間だよ』
『バレンタインのチョコ持ってくるね』
『かみ…様…じゃないっ…て…ウソ…ついてた…の…?騙して…た…の…?』

フラッシュバックするカナとの記憶。視界が涙で見えない。肩が上下にヒクヒクして止まらない。裾を噛み締めても洩れる泣き声。
「カナッ、カナ…カナぁ…!!」
膝を抱え、清春は膝に顔を伏す。
「これじゃ…、ぅっ…、これじゃ母さん達と同じだっ…ぅっ、うっ…」
首にいつもかけているペンダントを開けば、遠い昔の自分と両親の写真が覗く。
「どうして俺を…こんな体に産んだんだよっ…、俺も幸せになりたいよ…父さん…母さんっ…!!」
ワアアア!と遠くから聞こえてくる神々の今襲撃の成果による歓声とは正反対に、清春の啜り泣く声が室内に響いていた。













































アンジェラの街――――

ウーウー!
サイレンが鳴り響く壊滅した街アンジェラ。
華やかで賑わっていた街の面影が其処には無く、夜だと言うのに真っ赤に染まった空は不気味。店や建物は原型を留めない程倒壊し、辺りには何千という数の人間の死体や、「アドラメレク様バンザイ…」としか言えなくなった造り直しの儀を施された人間がゾンビのように徘徊している。まさに地獄絵図。
「大丈夫かー!人は居るかー!居たら返事しろー!」
瓦礫の山をヴァンヘイレンの人間達が救助しに大声を上げてやって来た。
「ぅっ…、」
倒壊したビルの端でうつ伏せに倒れているカナ。痛む重い体をゆっくりゆっくり上げれば、惨劇の後が生々しく残る街が広がっていた。いつもカナが歩いていた街とは全く別の街に姿を変えている。
意識朦朧としているカナの脳裏ではビルで清春と鉢合わせた時の記憶が甦る。清春がベルベットローゼに促され、槍を振り上げてカナの真隣に立った時。

『壁を突き破るから其処から逃げろ』
『えっ…?』


ドンッ!!

ベルベットローゼに聞かれてしまわぬようそうカナの耳元で囁いて清春は槍を振り上げた。しかしそれはカナに攻撃をしたのでは無く、ビルの壁を破壊し、破壊した壁から覗く外へカナを逃がす為の作戦。
攻撃の爆風で、破壊された壁の外へ吹き飛ばされたカナは今の今まで何とか神々に見つからずにこれた。しかし呼吸もヒュー…ヒュー…と僅かで意識は朦朧。余談を許さない状況だ。そんな状況でも脳裏に浮かぶのは清春の笑顔。

『あんたはブスで地味だけど好きになっちまったんだし!』
『バレンタインのチョコよろしくっ』

そして、先程知った本当の清春の姿。

『んなわけねぇじゃんこんな人間のブス。親父と一緒にすんじゃねーよ』

「き、よ…は…く…、」


ガサッ…、

カナの血まみれの右手が触れた物は、瓦礫の下敷きになって原型を留めなくなった板チョコ。
「だ、ま…し…て…、たのっ…きよ、は…くんっ…」


カクン…、

カナの手がカクン…と力無く倒れる。
「ナタリー!」
すると、ガラガラと音をたてて瓦礫を剥ぎながら現れた1E担任ミカエル。しかしカナはミカエルの声に応答せず。
「ナタリー!しっかりしろナタリー!ナタリー!」
壊滅したアンジェラの街にヴァンヘイレンの救助車や救急車のサイレンが耳から離れなくなる程、翌朝まで鳴り響いていた。














































2月14日、21:00、
ヴァンヘイレン校門前――――

「怖いよね〜すぐそこアンジェラが襲撃されたんだから」
「でもさすがのアドラメレク神々達でもヴァンヘイレンは襲撃できなかったって事だよね」
「うん。けどアンジェラに居たうちの生徒達何十人か亡くなったらしいよ」
「うちらの学年だと1Eのナタリーさん?怪我したらしいよね」


キィッ…、

ヴァンヘイレンの制服を着た女子生徒2人が買い物から帰宅し、ヴァンヘイレンの校門を開けた。
「あんたらさ」
「え?」
すると、暗闇の曲がり角から姿を現した1人の少年に声を掛けられ、女子生徒2人は振り向く。少年はピンクと白と黄色の花束をずいっと差し出す。
「あんたらヴァンヘイレンの奴だろ?これ。カナ・ナタリーって奴に渡しといて」
「ナタリーさんに…ですか?あの…ナタリーさんのお知り合いですか?」
「……。清春からの見舞いっつっといて。そう言えば分かると思うから」
そう言い捨てると少年清春は女子生徒に花束を押し付け、走り去っていった。
「あっ!あの!…あーあ。行っちゃった」
「ねぇねぇ。あの人ナタリーさんの彼氏かな?」
「えー!ナタリーさんそういうタイプじゃないでしょ!読書とお勉強しかしませんっていう暗い感じじゃない?話した事無いから分かんないけど」
「でも彼氏なら直接渡せば良いのにね〜」
「そうだよね。何で見知らぬ私達に頼んだんだろうね?」
女子生徒2人は勝手な事を話しながら校門を閉じ、校舎へ入っていった。


バタン、























ヴァンヘイレン宿舎
看護棟―――――――

怪我を負ったり病に侵されたヴァンヘイレンの生徒が運ばれる看護棟。病院の一室のように簡易ベッドに白いカーテンの部屋。4人部屋の全員が昨日アンジェラにたまたま居合わせ、神々の襲撃に巻き込まれて此処へ運ばれた生徒達。
まだ消灯時間では無いが、3人は寝てしまっている部屋の左奥窓際のベッドで上半身を起こし、ボーッ…と生気の無い光を失った瞳のカナだけが起きている。いや、眠れないのだ眠りたくても。眠ってしまったらその間に昨日のように神々に襲撃されるかもしれない…そう考えてしまう情緒不安定な状態。昨日の襲撃が酷くトラウマになっているカナ。
額と右腕、首に包帯とギブスを巻いて、右頬には顔が隠れてしまいそうな程の大きな傷テープ。


ポタ…ポタ…

一滴ずつ滴る点滴をボーッと眺めているだけ。趣味の読書をする気にもなれない。


コンコン、

「1Eのナタリーさん居ますか?」
ノックと自分を呼ぶ知らぬ女子の声がして、カナは顔を上げる。
「はい…居ます…」
「失礼しまーす」


ガラガラッ、

先程の女子生徒2人が花束を持ち、カナのベッドの脇に立てばカナは首を傾げる。
「これ。ナタリーさんにお見舞い渡してって言われたの」
「え…?」
顔は見た事あるが名前も知らないし話した事も無い女子2人からそう言われ、首を更に傾げるカナ。
「わあ…綺麗なお花…。わざわざありがとう…」
「違うよ?私達からじゃなくって」
「え…?」
「私達さっき帰ってきたら知らない男の子に声掛けられてこの花束を渡されたの。それでその子にこれ。ナタリーさんに渡してって頼まれただけだよ」
「男の子…?ロイド君かな…」
「うんうん。清春からの見舞いって言えば分かるからって言われたよ」
「…!!」


ドクン…!!

その名を聞いた途端、今まで生気を失っていたカナの瞳が見開き、生気を取り戻した。だがその生気は、酷く脅えた生気。
カナの脳裏をフラッシュバックして駆け巡るのは清春と初めて会った日の事、遊園地へ行った事、恋人同士になった事、字を教えた事そして昨日襲撃してきた神々の中に清春が居た事…。
















そんなカナの気も知らない女子生徒2人はニヤニヤしながらぐいぐい肘でカナの肩をつつく。
「ねぇねぇ〜。そのかっこいい人もしかしてナタリーさんの彼氏なの?」
「超かっこよかったよね〜。羨ま、」
「いやあああああああ!!」
「!?」
突然頭を抱え、下を向いて悲鳴を上げたカナに女子生徒はビクッ!として離れ、驚く。眠っていた相部屋の生徒3人も何事かと飛び起きる程。
「いや!いや!いやあああああ!!」
「ナ、ナタリーさんどうしたの?だ、大丈夫!?今先生呼んでくるから!」
「ナタリーどうした!」


バンッ!

「あ!ミカエル先生!」
悲鳴を聞き付けた1E担任教師ミカエルが、駆け付けてきた。それでもまだ悲鳴を上げているカナ。真っ青な顔をした女子生徒2人がミカエルにしがみつく。
「せ、先生!何でかよく分からないけど、うちらが話しかけてたらナタリーさんが突然悲鳴を上げちゃって…!」
「そうか。お前らは確か1Aの生徒だったな。どうして此処に?ナタリーの友人か?」
2人は首を横に振る。
「い、いえ…。私達さっきヴァンヘイレンに帰って来た時ナタリーさんの彼氏…かな?知り合いの人に呼び止められたんです。この花束をナタリーさんに渡してくれ、見舞いだからって」


ピクッ…、

ミカエルは微かに反応する。
「見舞いの花束?」
「こ、これです…」
女子生徒は可愛らしい色合いの花束を差し出す。だがミカエルはそれを怖い顔で凝視した後、まだガタガタ脅えるカナをチラッと見る。
「それで私達がナタリーさんに、彼氏なの?って聞いてたらナタリーさん突然悲鳴を上げちゃって…」
ミカエルはいつもの明るい笑顔にスッ…と戻ると女子生徒2人の頭をポンポン撫でる。
「おおそうか。お前ら心配させて悪かったな。ナタリー昨日の襲撃がトラウマでさ。たまにこうなっちまうんだよ。後は俺が何とかしておくからお前らは宿舎に戻っていーぞー」
「ナタリーさんは大丈夫なんですか?」
ミカエルはバチッ!とウインクをする。
「先生にかかれば何でも解決☆」
女子生徒2人は安心したように縦に頷くと部屋を出ていった。
ミカエルはくるっ、とまだ呆然としている相部屋の3人の方を向く。
「おー。お前らにもうちの教え子が驚かせて悪かったな。ちょっとナタリー体調良くないみたいだから部屋移動させるな。心配しないでお前らももう寝ていいからな」
ミカエルはカナを立たせ点滴を引っ張りながらカナを支えてやり、3人には明るい笑顔を見せて部屋を出ていった。





















「ナタリー」


ガタガタガタガタ…

カナを個室に移動させたミカエル。ベッドに座り、まだ頭を抱え下を向き、ガタガタ脅えて震えるカナ。ベッドの脇のパイプ椅子に腰を掛けるミカエルは普段のちゃらけた雰囲気では無く、神妙な面持ちだ。
「……。エースの椎名と尼子そして御殿までもがアガレスの報告によるとキメラにされた…そんな不安な中追い打ちをかけるようにアンジェラの街が神々に襲撃され街は壊滅した。…ナタリー。悪い。俺達先生がしっかりしていればお前にトラウマを植え付ける事にならなかったのにな。本当すまなかった」


ガタガタガタガタ…

ミカエルの言葉が聞こえているのかいないのか。いつも真面目でしっかり者なカナが、担任に返事すらしない程の情緒不安定。ミカエルは例の花束にチラッ…と目を向ける。
「あの花束…。お前の見舞いらしいな」


ビクッ!

途端、あからさまにビクッ!としたカナ。これで確信したミカエルは聞き辛そうに切なそうに顔を歪めながらも口を開く。
「俺この前言ったよな。ナタリーの彼氏は悪い奴じゃないって」


ガタガタガタガタ…

「けど…。お前の彼氏は俺が思っているような奴じゃなかったみたいだな」
ミカエルはガタッ、と椅子を前に出すと、カナをしっかり見る。
「本当の事を話してくれナタリー。お前がこんなに脅える理由。それは昨日アンジェラを襲撃し、お前にもこんなに大怪我を与えた神々の中にお前の彼氏がいたからじゃないのか」


ガタガタガタガタ…

「だからお前はこの花束とこれを持って来た奴の名前を聞いてさっきお前らしくない悲鳴を上げたんじゃないのか」


ガタガタガタガタ…

「ナタリー!」
目が開ききり、ガチガチ歯が震えて鳴る真っ青なカナの脳裏では葛藤している。清春との楽しい思い出と清春が自分を騙していた神だった事…ここで担任に清春の名を出さずに彼を庇い通すべきか。いや、彼は、過去に自分の両親と弟を殺した悪神の仲間なのだし自分の事も騙していたのだから担任に白状するべきか…。カナの中で2つの考えが葛藤している。
「…そうか。お前の口から何も言われないなら分かったよナタリー」
「…!」
ミカエルは静かに立ち上がるとカナの頭を優しく撫で、スタスタと去っていく。カナは相変わらず下を向いたままだが。
ミカエルは部屋を出る直前、背を向けたまま右手をカナにヒラヒラ振る。
「嫌な事思い出させて悪かったな。ゆっくり休んで早くいつものナタリーに戻ってくれよ。おやすみ。ナタリー」


バタン…

静かな個室にはミカエルが去っていく足音だけが聞こえていた。

































翌日。21:00、
ヴァンヘイレン校門前――――

「ふんふふ〜ん〜♪」
夜の静まり返った暗闇の中。校門前で煙草を吹かしながら暢気に鼻歌を歌っているミカエル。
「あんた」
「ん〜?」
昨夜と同じ時間同じ場所に。昨日とは違う黄色と水色の花束を携えた清春が現れた。ミカエルはいつもの明るい笑顔で清春の方を向く。
「どうした坊主?んー…?見たところヴァンヘイレンの生徒じゃねぇなぁ」
「あんたヴァンヘイレンの奴か?」
ミカエルはドンッ!と自慢気に自分の左胸を叩く。
「いかにも!ヴァンヘイレン1E担任ミカエル先生だ!」
「1E…」
清春の脳裏を笑顔のカナが一瞬過る。
「じゃあ尚更都合が良い。あんたのクラスの生徒の…カナって奴にこれ。渡しといてくれ」
「おっ?」


ガサッ、

大きめな花束を差し出されミカエルはニヤーッと笑む。
「見舞いか?」
「ああ」
「坊主お前ナタリーの彼氏か?」
「……。じゃーな。頼んだぞオッサン」
清春は返事をせず、ポケットに両手を突っ込むとくるりと背を向け、歩いていく。
「おーい。夜道は気を付けて帰るんだぞ〜。ここいらは一昨日神々の襲撃を受けた場所なんだからな〜」
清春は無視したまま去っていく。


グシャッ!!

「…?」
何かを踏みつける音がしてキョトンとした清春が振り向けば。ミカエルは笑顔のまま、清春が渡した花束を踏みつけていた。清春は目を見開きすぐ、怒りを露にする。
「オイ!ざけんなジジィてめぇ!何やって、」
「あぁ。夜道に気を付ける必要は無かったか坊主はなぁ。だって坊主は一昨日のアンジェラ街襲撃に参加していた神だもんな清春?」
「…!?」
ニコッ。気味が悪いくらいの笑顔でそう言ってきたミカエルに清春は目を見開き思わず一歩後退りしてしまう。
「ん…だよ…、てめぇ…どうして俺の名前知っていやがる…!」
「アドラメレクの呪いでアドラメレクをはじめとするお前ら神々の記憶から消されてるもんなぁ。おまけに力もほぼ奪われてさぁ。まいっちまうぜ大天使ミカエル様はさ」
「大天使…!?ジジィあんた天使、」


ドスッ!

「ぐあ"ぁ"!!」
清春が話している一瞬の間で清春の背後に回り込んだミカエルは右腕で腹を貫通。


ボタボタッ!!

清春の口と貫通させられた腹から青と赤の混ざった血が噴くのを見ながらミカエルは言う。
「のこのこと敵地へ赴くなんて警戒心無さすぎてアドラメレクに叱られるぞ半神清春」


ズルッ…!

「っあ"!!」
ミカエルが腹から腕を引き抜けば、清春はそのまま地面にドシャッ!と顔から崩れ落ちる。しかしすぐにタンッ!タンッ!と跳び上がり、家屋の屋根を伝って跳び去っていく。その様を見上げながらミカエルは笑う。
「逃げたって無駄だぞ〜。神と人間が混ざったニオイを辿ればすぐだからな」


バサッ!

ミカエルは背から、他の天使達とは比べ物にならないくらいの大きな天使の羽を出すとヒュン!と瞬間移動をして姿を消した。


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