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GOD GAME
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「うっ…!!」


ガクン、

ヴァリレア基地での騒動中に数ヵ月の月日が流れていた。すっかり街が雪化粧した冬。丘の上の住まいとしている小屋で、アガレスは顔を青くして膝から崩れ落ちる。それも無理は無い。ラズベリーが抱えて連れて来たベルベットローゼとの子供の容姿は、頭は山羊なのに目鼻口は人間のようで、右がコウモリの羽に左がオオタカの羽、胴体はクロコダイルとコウモリが混ざった奇形。
「清春が奇跡的にマシな容姿だったってだけよ。普通こういう奇形が産まれて当然でしょ。本来あり得ない組み合わせの子供なんだから」
他人事のようにいつもの棘のある口調で言いながら、子供を手渡す。しかし、其処に踞った青い顔のままなかなか受け取れずにいるアガレスにラズベリーは無理矢理押し付ける。
「ほら!可哀想でしょあんたの血も入っているんだから!」
「っ…、」
青い顔を強張らせながらも渋々受け取るとアガレスは、くるんであるタオルで子供の顔を隠す。
「っ…、で…ベルベットローゼ殿は何処へ行ったのだ」
「聞いてないの?アドラメレクの元へ戻ったのよ?」
「なっ…!?」
「あははっ。いい気味よ〜捨てられてさ。遊び人にはお似合いの末路ね。因みに。その子は悪魔堕ちしたあんたの血も混ざっているからなのか、悪魔が嫌いな太陽が嫌いみたい。だから太陽には気を付けて。じゃっ!そういう事で〜」
「おい!待てラズベリー殿!」


バタン!

慌てて扉を開けるが、外には既にラズベリーの姿は無く。アガレスは目を泳がせつつも、小屋の中へ戻る。


パタン…、















タオルで顔が見えないようくるんである子供をベッドに置き、ベッドに顔を伏すアガレス。
「くっ…、ベルベットローゼ殿は根返るし、せっかくキユミの記憶が戻ったというのに…!」
「お父さんはボクのこと嫌いですか?」
「なっ…!?」
産まれて間もないのに声が聞こえ、驚きつつもタオルを捲り、子供の顔を見る。やはり躊躇ってしまう容姿だが、子供の異常に離れた目と目が潤んでいる。
「貴様もう喋れるのか…!?」
「お父さんはボクのこと嫌いですか?」
「なっ…、」
「お母さんと白い髪のお姉さんはボクのこと嫌いって言ってました。お父さんもボクのこと嫌いですか?」
「っ…!嫌いなわけないだろう!」
ギュッ!と抱き締めると、子供の涙がアガレスの頬に触れて冷たい。
「良かった…。お父さん。お母さんが言ってました。ボクにはお兄さんが居るって。わがまま言いません。いつかお兄さんに会いたいです」
「…!…あいつは気難しい短気だからな…。…まあいつか会わせてやる」
「良かった…。楽しみです。お父さんお父さん」
「どうした」
頭を撫でてやる。たったさっきまで吐き気を催していた自分を戒めたくなる程今は、この化け物な風貌の子供でも愛しく思えてきたそうな。
「ボクの名前はなんですか?」
「そうだな…。まだ決まっていなかったな。お前の名前は…」

























天界―――――

「ベルベットローゼ。子はちゃんと排除致しました?」
「勿論だろ!どうかしてたぜオレ。クソアガレスとのガキなんてよ」
「ふふふ。貴女がアガレス氏との子を庇っていたら今頃わたくし貴女を肉片にしていたところですの」
「本当かよ〜!ま、見ての通り腹にはもういねぇし、ガキは排除したし。アドラメレクに忠誠を誓うぜ」
「ふふふ。次裏切ったらぶち殺しますわよ。それと…もしも、貴女が嘘を吐いていてまだどこかでアガレス氏との子が生きていたら…その化け物ごと…ね?」
「アドラメレク容赦ねぇな〜!大丈夫だって!あんなガキ大嫌いだしよ!親友を信じてくれよ!」
「ふふふ」
――ラズベリーなら黙っててくれると思うんだけどよ…ガキがまだ生きているなんて知られたら…!くそっ!アホなアイツに任せるのは不安で仕方ねぇけど、オレはもうアドラメレクから逃れられねぇ。また逃げたらオレとアイツとガキごと殺られるに決まってる!アホ弟子…!そいつをちゃんとアドラメレクから守ってくれよ…!――



































アンジェラの街、
ハッピーバーガー―――

「カナ!!」
「あ…!清春君…!」
ヴァリレア騒動で秋をとうに過ぎ季節は2月を迎えた冬。いつもに増して髪型とマフラーにコート、アクセサリーを気合い入れて現れた清春は3ヶ月振りにカナに会えて有頂天。自分では隠しているつもりだが、顔が真っ赤でにやけているから周りの人間は引いている。
カナはというと相変わらず地味で小学生が付けそうなうさぎのプリントが入ったマフラーや手袋、白いダウンコート。
いつも控えめで穏やかな笑顔ではあるが、今日は何故かどこか元気が無く作り笑いを浮かべているように見える。ただし清春はそんな事全く気付いていない程舞い上がっている様子。
――ヴァリレア基地でぶっちゃけ死ぬと思ったし、マルコのジジィの刺客でカナも殺されたと思ってたけど!俺もカナも生きてたとかマジツイてるし!!今日はチョー高いブランドで全身コーデ決めてきたし!だって今日は決めたんだし!!――
清春は周りの人間に引かれているのも気付かず、心の中で大暴走。
――付き合って半年!今日ぜっってー手を繋ぐ!!――
清春の頭上にほわわーんと浮かぶ妄想。

『今日は寒いね清春君。手が冷たいよ』


ギュッ!

『ふえぇ!?き、清春君手っ!手っ!?』
『半年も付き合えばこのくらいフツーだし。つーか手冷たいんならこーやって温めれば良いんだし!』
『清春君ステキ…!』

フフフフ…と怪しい笑みを溢しながら鼻の下を指で擦る妄想爆発の清春。
――フフフフ…やべぇ…完・璧!!でもさすがにキザか?親父じゃあるまいし。ま、シチュエーションは何だっていーんだし!とにかく手さえ繋げれば!!…でも半年で手繋ぐって早い系?フツー結婚してから繋ぐ系?ヤバッ!結婚してねーのにカナと手繋いだら俺、アホ親父の事言えねーくらいタラシになるじゃん!!――
世間とだいぶズレた事を考えて1人で慌てている清春。カナはやはり元気の無い作り笑顔を浮かべている。
パンッ!と顔の前で両手を合わせて謝る清春。
「本っトーマジごめん!姉ちゃんの外出が長引いてさ!」
「うんうん。大丈夫だよ。清春君のお家にも予定があるから仕方ないよ」
「じゃー早速行こ!」
「うん」
席を立つカナが清春の後ろをついてハッピーバーガー店を出る。
「あ"。つーか何処行くかまだ決めてなかったし!ま、いーや。何処でもイイっしょ?」
くるっ。カナの方を、浮かれた清春が振り向く。しかし、カナの目線は下で元気が無い。カナがいつもと違う様子な事にようやく気付いた清春は首を傾げる。
「…カナ?」
「…えっ!あ…ご、ごめんね私ちょっとボーッとしてて…」
「そうやっていっつもボサッとしてるから初対面の時何回も俺にぶつかったんだよ。気を付けろよブス!」
と言いつつもスキップで店を出る清春。カナは愛想笑いを浮かべてついていった。























「コレ!チョーかっこ良くね!?」
服を見たいと言った清春行きつけの店で清春は、まだ値札の付いたサングラスをかけてカナに見せる。カナはいつもの穏やかな笑顔で頷く。
「うん。すごく似合ってるよ」
「……。何?そう言ってる割りに顔が笑ってねーじゃん」
「え…?そ、そんな事無いよ…?」
「あーっそ。あ!見ろってコレ!このマフラー、俺がチョー好きなバンドのボーカルと同じやつ!」
にこにこ。いつもの穏やかな笑顔を浮かべながら、清春について回る。しかしやはり、いつもと違って元気が無い様子だった。
服にサングラスにマフラーにブーツを購入して両手が塞がっている清春。2人は店を出ると、また清春がカナの意見は聞きもせず勝手に行き先を決めてCDショップへ。
――てか、やばー!!両手塞がってたら手繋げねーし!!――
ガーン!としながら慌てて全ての荷物を左手に移す。清春はお気に入りのバンドのCDを手に取り、カナに見せる。
「コレ!前言ってたじゃん。俺が好きなバンド!今度CD貸すって言ってたやつ」
「……」
「…カナ?」
カナの顔の前に手を振ればカナは本日2度目。ハッ!とする。
「…ハッ!あっ…な、何?清春君」
「……。別っつに!何でもねーし」
「あっ…。ま、待って清春君!」
不機嫌になった清春は右手をコートのポケットに突っ込むとスタスタ歩いていってしまった。

































「いらっしゃいませ〜」
以前清春が立ち寄った歩道に面したクレープ屋に寄る2人。
「俺はチョコバナナとー苺ホイップとー、キャラメルアイスチョコクレープ!あんたは?」
「……」
「……」
「……」
「おいっ!」
「…ハッ!え?あ…」
イライラした清春が、クレープの食品サンプルが展示されたショーケースをガンガン叩く。
「クレープ!あんたは何にするかって聞いてんだよ!」
「え?わ、私?えっと…な、生クリームクレープでお願いしますっ…」
「かしこまりました。少々お待ち下さい」
店員は営業スマイルで裏へクレープを作りに行く。
「でね、今日はオシャレしてきたの!」
「久々のデートだもんな!」
街を行き交うカップル達は寒いからか身を寄せ合い、仲睦まじくデートを満喫している。その光景が清春を更に苛立たせる。
――くっそ…。何だよ。3ヶ月振りに会うっつーのに何でコイツはこんなにつまんなそうにしてんだよ。あーあ。マルコのジジィがコイツに仕掛けた刺客の話聞いた時コイツの心配して損した!――


ガンッ!

たまらず清春はショーケースを蹴る。
「あ、あの清春君…」
「あ?」
「清春君…3ヶ月もお姉ちゃんの用事でイングランドに出掛けていたんだよ…ね」
「そーだけど?」
「3ヶ月前って…調度ね…。ヴァンヘイレンがイングランドの神々をキメラにする組織ヴァリレアの…討伐にイングランドへ行っていたんだ…」
「……」
「それで…清春君が帰ってきた3ヶ月後…調度…ヴァリレアの任務も終わって…。ニュースでも連日連夜放送されていたよね…。ヴァリレア基地が神々に破壊されたって、」
「何が言いたいんだよ」
「えっ…!あ…。そのっ…」
「クレープお待たせ致しました〜」
カナにはナイスタイミング。清春にはバッドタイミングで店員がクレープを持ってきた。受け取ると、カナに背を向けてしまう清春。カナはクレープを両手でぎゅっ…、と持ちながら下を向いていた。
「ナタリーさん!」
「え…。あ…!ロイド君」
道路を挟んで反対側の歩道本屋の前でカナに手を振るのはヴァンヘイレンの制服を着た小柄で眼鏡のいかにもがり勉少年ロイド。カナの読書サークルの友人。


ギロッ!

清春がロイドを睨むが、何とロイドも眼鏡のレンズ越しにギロッと睨み返してきたではないか。以前ハッピーバーガーで会った時はビクビクして肉食獣に睨まれた草食動物のようだったのに。
――は?何あのちびメガネ。マジうぜっ…――
「あ…。清春君少し待っててくれるかな?ロイド君と話してくるから…。ごめんね?」
「……」
清春の返事は待たず反対側の歩道へ渡るカナはまるで逃げるように走っていく。
此処からじゃ、車の走行音や街の喧騒でカナとロイドの会話は聞き取れない。清春はただただ口を尖らせ眉間に皺を寄せ目を細めて不機嫌そうに2人を見ていた。何やら話し込んでいる2人を。






























「お、お待たせっ…!ごめんね。待たせちゃって」
「……」
ロイドと別れて、清春の元へ戻ってきたカナ。やはり貼り付けた作り笑い。清春はスタスタと先を歩いていくから、カナもついていった。2人無言で。




















それから行く宛も無く街を歩く。街はすっかり、一週間後に控えたバレンタイン一色に染まっている。清春は高級チョコ店のショーウインドウを指差す。
「あれ」
「え?」
「何で何処もかしこも盛大にチョコ売ってんの」
「あ…。バ、バレンタインが近いからじゃないかな?」
「ばれんたいん?」
「うん。2月14日はねバレンタインデーなんだよ。女の子が好きな男の子にチョコを渡して想いを伝える日なの。でも、義理チョコっていうお友達の男の子に渡したりお世話になっている人に渡しても良いチョコもあるんだよ」
――バレンタインって聖職者バレンタインのオッチャンの事かと思ったし――
そのバレンタイン氏の命日が元で2月14日がバレンタインデーとなっている事には気付かない清春。
「ふーん…」
「あ…き、清春君はチョコ。どんなチョコでも大丈夫かな?」
「え?」
「ナッツとかオレンジとか入ってても大丈夫?普通のミルクチョコが良いかな」
「あー…お菓子なら何でも好きだし」
「じゃあ清春君が嫌いな野菜こっそり入れちゃおうかな」
「何でそーいう事するんだよ!いじめじゃん!!」
「えへへ。ごめんね冗談だよ」
清春が顔を真っ赤にして怒鳴るのは怒りでは無く、カナが清春にチョコを渡す気があると知ったから嬉しくて。
――やべー!カナめっちゃ俺にばれんたいんのチョコ渡す気満々じゃん!やばっ…1週間ぶっ飛ばして早く14日来いよ!!――

















「じゃーさ。決まりじゃん」
「え?」
「次のデ、デート14日ね」
「あ…。そ、そういう事になるね」
「ん。じゃあ…」
清春はカナの方を向いて口を尖らせ、恥ずかしそうにカナを指差す。
「チョ、チョコよろしくっ…!」
「う、うん…!」
バッ!と慌てて背を向けた清春は口を右手で覆い、心臓バクバク。
――や、やべーやべーマジやべー!!14日楽しみ過ぎじゃん!!――
「じゃ、じゃーさ!次何処行、」
「ご、ごめんね清春君。私急用ができちゃって今日はもうこれで帰るね」
「は?」
カナを振り向けばやはり、カナは愛想笑いを浮かべていた。清春は目を丸める。その間にもカナは「ごめんね」そう言いながら、会ってからまだ30分しか経っていないのに去っていこうとする。まるで逃げるように。
「あ、ちょ…!おい!待てよ!」
横断歩道の信号が点滅している。カナは走って渡ろうとする。逃げるように。
「カナ!!」


ガシッ!

「っ…!」
横断歩道を渡る直前でカナの右腕を掴んだ清春。これは今日の目標手を繋いだ…には入るのだろうか。
信号は赤に切り替わる。カナは振り向かず。冷や汗を頬に伝わせている。
「き、清春君ごめんね…私急がなきゃだからっ…」
「今日おかしいじゃん!」
「…!」
「話し掛けても上の空だし楽しくなさそうだしそれに…俺の事避けてるし」
「そ…そんな事無、」
「バレバレの嘘吐くなよ!!どうせ俺が居ない間にさっきのちびメガネに浮気してたんだろ!ふざけんなよ尻軽ブス!!」


ザワッ…

人がたくさん行き交う街だから、清春の怒鳴り声に街行く人々が振り向き、ヒソヒソ話す。
「何あれ?喧嘩?」
「うっわー街中で女子怒鳴るとかないわー」
「でもあの人女の子に手あげそう…」
「警察呼んだ方が良くない?ホラ、今よくあるじゃない。別れ話の縺れで恋人を殺したり…」
「やだやだ。神も恐ろしいけど人間も恐ろしいわね」
好き勝手にヒソヒソ話す野次馬達に清春は「チッ…!」と舌打ちすると、カナの腕を引っ張りながら人混みの中を無理矢理突っ走っていった。







































公園―――――

「はぁ、はぁ…」
走ってきたから息を上げる2人。閑静な住宅街の中にある小さな公園だから他に人はいない。だから調度良い。
下を向いているカナと向かい合う清春の目はやはりまだ苛立たっている。
「おい…はぁ、はぁ…。何とか言えよ雌豚」
「わ…私っ…」
「はっきりしろよ!俺の事嫌いなら嫌いって言えば良いだろ!!曖昧なまま付き合われてもこっちが困るんだよ!!」
「っ…、」
――あー、イライラする。超うぜぇ――
「さっきちびメガネと何か話してただろ。どーせ俺の陰口話してたんだろ。話しながらちびメガネが俺の方チラチラ見てたからバレバレなんだよ!」
「わ、私っ…!」
「だからはっきり言えよ!!」
カナは顔を上げる。とても泳いだ目をして。
「き、清春君は神様じゃないですよね…!?」
「…!?」


ビクッ…!

まさかの一言に清春は思わずビクッとしてしまった。動揺を隠す為にポケットに手を突っ込んで下を向いて鼻で笑ってみたりする。だが逆に急によそよそしくなったその行動が怪しまれるというのに。
「…はっ。何いきなり言い出すかと思えば…。ひとを人殺しの神扱いすんじゃねーよ」
「……。ロ、ロイド君が…言ってたんです…。前ハッピーバーガーで会った時と文化祭で清春君が来てくれた時…清春君からは僅かだけれど神のニオイがする…って…」
「……」
「そ、それでこの3ヶ月間ずっと…ロイド君に言われてて…清春君はひ、人の姿に化けた神様だから気を付けろって…。最初私はそんな事を言うロイド君が酷いと思ってました…。…でも…よく思い返したら…不思議な事ばかりだったんですよね…。清春君が観覧車事故で助けてくれた時…清春君は観覧車の上まで跳べて…に、人間じゃ有り得ないジャンプ力で…」
「……」
「姿は見えない神様に襲撃された時と、MARIAサーカスで初めて出会った時…清春君の体に付着していた青い血…神様の返り血にしてはちょっと色が違っていて…。赤も混ざった青色をしていて…」
「……」
「が、学校に行ってない事や文字が読めなくて書けない事は、貧しいからかな?と思っていたんですけど…今までの事を踏まえるとそれも…神様だから学校に行ってなくて文字も読めなくて書けなかったのかな、って…」
「……」
「そして…今回の3ヶ月間居ない事も調度ヴァリレアの件と一致していたから…私っ…」
「…ごめん」
「え…」
カナはバッ!と顔を上げる。たったさっきまで酷く短気を起こしていた清春の顔が哀しそうに優しくなっていた。
「え…清は、」
「怖い思いさせてごめん」
「え…あのっ…」
清春は歯を覗かせて、ははっと笑う。だからカナは頭上にたくさんハテナを浮かべる。
「ちびメガネさ。俺の目の事言ってなかった?」
「目…?」
清春は笑いながら自分の目を指差す。
「変な目してるっしょ。遺伝なんだよね。この目のせいで昔からよく、人間じゃないって言われたっけー。よっ、と」
「あ…」
清春はヘラヘラ笑いコートのポケットに両手を突っ込み、公園の遊具の平均台を簡単に渡りながら話す。
「確かにちびメガネが怪しむのも分かるわー。アイツ頭良さそうだしさ。バカな俺と違って」


タンッ!

清春は平均台を飛び降りるとカナの方を向く。明るい笑顔で。
「俺は人間だよ。でも俺のせいでカナが周りからとやかく言われて、カナに怖い思いさせて本トごめん」
「清は、」
「頭良いカナにはバカな俺より、チョー頭良さそうなちびメガネの方が釣り合ってんじゃん。俺おーえんするから」
「清春君、私っ…!」
「ごめん。俺も急用ができたわ。ばいばいカナ」
「清春君!!」
清春は背を向けると走って公園を飛び出して行った。慌てて追い掛けるカナ。
























「清春君待って下さい!!」
公園を出た人気の無い住宅街のど真ん中。カナが清春のコートの裾を掴んで引き留めれば、清春は背を向けたまま立ち止まる。
「清春君ごめんねっ…ごめんなさい…ごめんね清春君っ…」
ポロポロ涙を流すカナの声が泣き声だから、清春が振り向かずともカナが泣いているのが背中で感じ取れる。
「私がロイド君にっ…言い返せば良かったのにっ…、清春君に酷い事言わないで…清春君を人殺しの神様と一緒にしないでってっ…ロイド君に怒れば良かったのにっ…。私までロイド君と一緒になって清春君を疑って…本当…謝るのは私の方だよっ…清春君…ごめんね…ごめんなさいっ…嫌な思いさせてごめんなさい…。清春君の事大好きなのに清春君を信じてあげられなくてごめんなさい…!」
「公共の場で泣いてんじゃねーしブース」
「えっ…」
振り向くと清春は口を尖らせながら言う。
「あー本ト心外だわ〜。よりによって人殺しの神に疑われるとかさ」
「ごめっ…、ひっく!ごめんねっ…ひっく!本当っごめっ、」
ビシッとカナを指差す。
「お詫びにチョー美味いバレンタインチョコくれないと許さねーし」
「えっ…!」
清春は明るく笑うと黒いコートのポケットに手を突っ込みながらまた歩き出す。
「清春君…!」
「敬語になったり泣いたり謝ったり。あんた忙しーよな。じゃーさ。次ちびメガネが俺の事疑ったら俺に教えろよ」
「えっ?」
「ぶっ飛ばしに行くし」
「え!?あ、あのそれはっ…!」
「何だよ!まだちびメガネ庇って俺疑うのかよ!清春君の事大好きっつったの嘘なのかよ!!」
「…!!」
顔を真っ赤にしてカナに言う清春に、カナも顔が真っ赤になる。首をぶんぶん横に振るカナ。
「嘘じゃない!嘘じゃないよ!私が大好きなのは清春君だよ!だからっ…だから疑ったりして本当にごめっ…うっ…うぅっ〜」
「また泣いてるし…」
ひくひく泣いて手で顔を覆うカナの前に立つ。
「ひっく、ごめんねっ…本トにごめんねっ…」
「俺もごめん。これでおあいこじゃん。もーやめやめ!この話終わりな」
清春は両手を挙げながら歩き出し、カナに顔だけを向ける。
「じゃ、14日またあの場所な。ぜってー来いよ」
「うんっ…!バレンタインチョコ持ってくるね。野菜たっぷり入りの!」
「おい!!」
「えへへっ!」
最初はビクビク怯えていたカナが冗談を言うようになり、怒ってみせてはいるが内心とても嬉しい清春。カナは清春の左隣に並び、街へと並んで歩く2人。清春はチラチラ、カナの右手を見ながら自分の左手を開いたり閉じたりするだけ。
「清春君。デート…つ、続きしてくれるかな?」
「急用ができたんじゃなかったのかよ」
「そ、それは…」
「はっ。どーせ俺から逃げる為の嘘だったんだろ。ま、いーし。ムカついたから今から俺の行きたい店行きまくる。カナの行きたい店ぜっっってー行かねーから!」
「うぅ〜っ」
もじもじしていた行き場の無い左手をコートのポケットに突っ込んだ清春。
――手繋ぐのはやっぱ次にしよっと…――
自分は人間だ、と言い切った罪悪感を心の奥底に残しながら、カナの隣を歩いていった。







































天界――――――

「え"!?14日にアンジェラの街を襲撃すんの!?」
ソファーに頬杖を着いて腰掛けるアドラメレクの前に、目を見開いた清春が立っている。
「そうでしてよ」
「…っ、」
「…?清春?どうかしましたの?」
「…何でもねーし」
「14日は低俗な人間が考案したst.バレンタインデー」
アドラメレクはソファーから立ち上がり、カレンダーの14日を黒いマジックでハートに囲む。
「本来2月14日は、兵士の婚姻を反対したローマ帝国で兵士の婚姻を密かに許したバレンタイン司教が処刑された命日でありますわ。調度前日が結婚の女神ユノ神の祭日である事も由来し、2月14日は恋人達が愛を誓う日と制定されました。それを商業チャンスと睨んだ人間のチョコレート会社が2月14日は女性が想い人の男性へチョコレートを渡し愛の告白をする日と世間に広まったのです。とーっても不浄な日でしょう?」


グシャグシャ!

ハートで囲んだ14日をグシャグシャに黒く塗り潰す。アドラメレクがポイッと投げたマジックを清春がキャッチし、アドラメレクは再びソファーに腰を掛け、頬杖を着く。不敵に笑みながら。
「ただでさえ低俗な人間がだらしのない顔をし浮き足立ち遊び呆ける不浄な日に恋人達を造り直しの儀に合わせる。血みどろになった最愛の相手に泣き叫ぶ暇も与えず背後から殺害する。とーってもステキな案だと思いませんこと!清春?」
「そ…そう…だね…」
「神が創りし人間は異性に遊び呆ける低俗で醜悪な生き物では無かった筈ですわ。わたくしが造り直して差し上げますの。平和ボケした人間共を。わたくしに忠実に従う殺戮兵器として」
「で、でもさ!ヴァンヘイレンの文化祭の時みたいにわざと当日からズラすのは!?」
「はい?」
清春は動揺が悟られないよう、笑顔で案を出す。予定を変えられ、アドラメレクは少しイラッとしたご様子。
「当日だったら人間共もヴァンヘイレンも、ぜってー今日神々が襲撃してくる!って予期して戦闘準備万端でくるじゃん!」
「わたくしが人間ごときに負けるとでも?」
「そういう意味じゃねーし!だから、ぜってー襲撃してこねーしって日にいきなり襲撃されて泣き喚く人間共を見た方が楽しくね?!」
「……」
「ダメ?!」
アドラメレクは立ち上がると清春の脇を通り過ぎていく。
「アドラメレクの姉ちゃん?」
「良い案ですわ。清春。承認致しましょう。ヴォルテスの街アンジェラを襲撃は2月13日」
「…!ありがとアドラメレクの姉ちゃん!!」









































2月12日――――――

「え?明日13日に隣街で行われる演劇チケット?」
14日前だがダメ元でハッピーバーガーへ訪れた清春。たまたまカナが居た為清春は、購入した演劇チケットをカナに渡す。
「そっ!アンジェラの隣街の会館でやる演劇のチケット貰ったからさ!カナ行って来いって!」
「うーん。でも一枚って事は私1人?1人だと…」
「いーじゃんいーじゃん!1人でゆっくり集中して見れるじゃん!演劇の内容はロミオとジュリエット!因みに夜の公演な!見て来いって!それにたまには違う街を散策すんのも気分転換にイーじゃん!」
「でもその日学校が…」
「学校サボってでも行け!!」
「えぇ!?」
バンッ!!とチケットをテーブルに叩き付ければ清春は帰ろう…としたが立ち止まり、カナを指差した。
「明日の演劇行かなかったら別れる!」
「そ、そんなぁ!!」
「じゃあ行けよ!ぜってーだかんな!!」
タッタッタ…、清春はハッピーバーガーを出て街を走っていく。
――これでカナをアンジェラから離れさせる口実ができた!!明日カナが隣街で演劇を鑑賞中、アンジェラの街は俺らの襲撃にあう。でも隣街に居るカナは無事!よしっ!作戦成功だ!!――































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あきゅろす。
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