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GOD GAME
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アンジェラの街――――

「アイリーンちゃんと初めてのお出掛け楽しかったよ」
「わたくしもカナさんとのお出掛けとても楽しゅうございましたわ!」
放課後。街で買い物を楽しんだカナとアイリーンは陽もすっかり暮れた夜の街を並んで歩く。
「あ。アイリーンちゃん。私お手洗い行ってくるね」
「わたくし外で待っていますわ」
「うん。ごめんね」
ヴァンヘイレン宿舎へ帰る途中。通りがかった人気の無い公園のトイレへカナが入る。


バタン…、

扉が閉まった途端アイリーンはニヤリ…と笑む。口の隙間からは牙のような歯を覗かせて。


コツン、コツン…

足音をたててゆっくりトイレへ近付くアイリーンの真っ赤な口が裂けるとガタガタの歯で笑みながら口内からは長い舌を出す。その姿はまるで化け物。
「ふふふ…おれがアドラメレクのもう1つの姿アイリーンだと信じ込んでいるぜこの人間の女。んなわけねぇだろ!アドラメレクは今頃イングランドでマリア様とマルコ様にキメラにされてるってのに!」


ジュルリ…、

アイリーン…否アイリーンの姿に化けた上級神ミクトランシワトル神は長い舌で自分の口の周りを舐める。これから起きる惨劇が楽しみで仕方ないといった風に。ミクトランシワトル神はマリアとマルコ派閥の神で、マルコが清春に話していた刺客だ。
マルコはミクトランシワトル神をアイリーンに化けさせ、アイリーンだと信じ込んだカナとミクトランシワトル神が2人きりになった時に殺す。という計画。
ミクトランシワトル神はアイリーンの姿に化けた自分の細く白い両手をボキボキ鳴らす。
「う〜ん。なっかなか上手くなったんじゃねぇかおれの変化。あの人間の…名前なんだっけ?忘れた!清春の女もおれの事を疑わなかったし、どこからどう見てもアイリーンちゃんだろ?アッハッハッハ!…さて、と」
カナが入ったトイレへ一歩踏み込む。
「半神の化け物清春の女を殺ればマルコ様直属の部下にして頂けるんだ。清春の女の生首持ち帰ってやる、ぜ…、」


スパン!

ミクトランシワトル神の頭だが今はアイリーンに化けている為アイリーンの顔をした頭が吹き飛び、ゴトッ、ゴトッ…、と公園の地面に転がる。
直後ブシュゥウウ!と切断面の首から真っ青な血飛沫が吹き上がると頭と胴体が切り離されたにも関わらずミクトランシワトル神の頭はギャーギャー喚き、胴体もドタバタ暴れる。
「ウギャァアー!どいつだ!?何処のどいつだ!?このミクトランシワトル神様の頭を背後から切った愚か者はぁあ!」
「一つ。アイリーンはがに股では歩かない」
「!?」
背後から声が聞こえ、ミクトランシワトル神の頭と胴体が振り向く。真っ暗な公園の闇にユラリ…1人の人影が浮かび、こちらへ近付いてくる。
「だ、誰だお前!」
「二つ。アイリーンはナタリーとは遊ばない」
「誰だって聞いてんだよ!!」
「三つ。致命的ミスをお前は犯している」
「なっ…!?」


グチャッ!!

「ギャッ!!」
頭だけとなったミクトランシワトル神の頭を踏みつける。
「アイリーンはナタリーの事を"カナさん"では無く"カナ様"と呼ぶ」
暗闇の中浮かび上がった人影の正体は1E担任ミカエル。その姿を捉えたミクトランシワトル神の目が大きく見開く。
「ぅ、あ"…!お前っ、は…大、天使…ミカエ…、」


グシャッ!!

最期の言葉すら言わせずミクトランシワトル神の頭が肉片になるくらいの力で踏み潰した。


















キィッ…、

「お待たせアイリーンちゃ…あれ?どうして先生が此所に居るんですか?」
トイレから出てきたカナがハンカチで手を拭きながらキョトンとしたのも当然だろう。其処で待たせていたはずのアイリーンの姿が無く、代わりに1E担任教師ミカエルの姿があったのだから。
キョトンとするカナに、右手を挙げてニカッと笑むミカエル。
「よお!ナタリー。俺は帰宅途中たまたまこの公園の前を通り掛かったんだけどな。そしたらアイリーンが居て、アイリーンからの伝言。"用事を思い出したから先に行っていますわ。カナ様ごめんなさい!"ってナタリーに伝えとけって言われてよ」
「そうだったんですか!だからアイリーンちゃんじゃなくて先生が居たんですね。でもすごい偶然ですね。たまたま先生が通り掛かった場所に私達が居て」
「ははっ。な〜に。同じ街だ。偶然会う事も珍しくは無いさ」
「そうですね」
「ナタリー今から宿舎へ帰るのか?」
「はい」
「ん、じゃ〜送ってくぞ。女子1人しかも教え子1人で夜道は危ないからな〜」
「良いんですか?ありがとうございます先生」
「はははっ。良いって事よ〜!」
バシバシ、カナの背を叩きながら明るく笑う担任ミカエルに、カナもにっこり微笑む。
「本当ならナタリーも自分の彼氏に送ってほしいんだろうけどオッサン先生で悪かったな!」
「!!?え、え、えぇ!?せせせ先生私彼氏ななななんてっ!!」
ミカエルは自分の口の前に人指し指をたててシーッ…とする。ウインクをしながら。
「文化祭の時たまたま見たんだよ」
「うぅう〜は、恥ずかしいです…」
「はっはっは!ま、アイツは悪い奴じゃないから大丈夫だ」
「…?先生、私のか…か…彼氏の事を知っているんですか?」
「さあ〜?どうしてでしょう?」






























その頃、イングランド
ヴァリレア基地――――

「はぁ、はぁっ…!」
「ヒヒヒヒ〜!逃げたってそう簡単には逃げ切れないよ〜?何たってこのヴァリレア基地はマリア神から聞いたお前ら神々の弱点を元にして造られた基地。お前らには地獄でしかない謂わば墓場だからね。ヒヒヒヒ〜!」
ガン!ガン!と壁を斧で殴りながら剥き出しの歯茎でケタケタ笑って追い掛けてくるヴァリレアの人間大男。大男に追われて走って走ってとにかく走って逃げているのは御殿。
「はぁ、はぁ…!」
だが先程バッドマンが話したようにこのヴァリレア基地内部には神が苦手とする食物のにおいや材料を元にしたガスが充満している為ガスマスクの無い御殿達にはまさに墓場のような場所なのだ。
居るだけで体力が吸いとられていき、尚且つ催す吐き気と襲いかかかる目眩で視界が霞む。
「っ…!」
「ヒヒヒヒ〜!残念でした行き止まり〜!」
その上、窓も扉も無い赤茶色の石造りの壁に囲まれた基地内部はまるでからくり屋敷。何故なら、壁のどこかを押したりどこかにあるスイッチを押さなければ壁から扉が現れない。まるでゲームのダンジョンのような基地に閉じ込められた面々。
「はぁ、はぁっ…」
御殿が壁を蹴ったり叩いたりしてもビクともしない。だから御殿は大男に追い詰められてしまった。ジリジリ後ろへ下がるが、もうそこには壁しか無い。行き止まり。目の前には銀色に光る大きな斧を引きずってケタケタ笑う大男。
「この部屋の何処かにも扉が出現する筈だよ〜?でもどこをどうすれば良いか分からないね〜?それに真っ青で息もあがっているようだけど大丈夫〜?」
「はぁ、はぁっ…」
「逃げ道も扉の出現方法も分からないようじゃあもう選択肢は"キメラにされる"しか無いね〜!」
「っ…、はぁ…、」
大男はケタケタ笑いながら斧を振り上げる。
「最期に聞いておこうかな〜。ボク今までにキメラにした神様の名前と国名を几帳するのが趣味なんだ〜。お前はどこの国の何ていう神様〜?」


グワッ!

振り上げられた斧に、真っ青で体が動かない御殿の姿が映る。
――体が動かない…!僕は此処で…――
御殿の脳裏で由樹の笑顔が過る。
――由樹ちゃんごめんなさい。日本を人間の皆さんをアドラメレク達から守る前に殺されてしまうような駄目な神で…!――
ギュッ…と目を瞑った。


スパンッ!スパン!


ガシャァン!!

突如真上の天井から飛んで来た羽のついた2本の短剣が大男の両手を斬り飛ばし、斧も吹き飛ぶ。


ブシュゥウウ!!

「うわあ"ぁ"あ"あ"!ててて手が!手が!ボクの手がぁあああ!!」
真っ赤な血を噴水のように噴き上げて大男は切られた両手をバタバタ動かし、暴れまわる。
呆然としている御殿の右腕をぐいっと引っ張り引き摺っていくのは、今大男の両手を切り、御殿を助けた人物。ガスマスクを装着し、長い黒髪のツインテールを靡かせて走る小柄な少女メア。
「御殿さんお怪我はありませんか!」


















敵ヴァリレアの居ない奥まで御殿を引っ張って逃げてきたメアははぁはぁ息を切らしながらも、ガスマスクの下で安心した笑みを浮かべて御殿を愛しそうに見つめる。だが、御殿はポカーンとしたまま。
「御殿さんどうして此所に!?そんな事は後で…!御殿さん!この基地全体には私達神々を弱らせるガスが充満しています!私はガスマスクを装着しているから何とか大丈夫ですけど、装着していない御殿さんはみるみる体力を吸いとられていきます。その隙を狙って私達神々をキメラにするのがヴァリレアの目論見なんです!」
メアは肩に掛けたショルダーバッグの中をゴソゴソ漁ると、一枚の薄ピンク色のハンカチを取り出してにっこり笑んで御殿に差し出す。
「はい!御殿さん!ハンカチで口を塞ぐだけじゃ完全防備はできませんけれど、何もしないより少しはマシだと思います。どうぞ!」


パンッ!

「え…、」
差し出したハンカチごとメアの手が御殿に振り払われた。メアは目を丸め、御殿は下を向く。彼の肩がカタカタ小刻みに震えている。
「あ…あの…御殿さん…?私何かいけない事…しましたか…?」
「…たは…、」
「え?」
御殿は顔を上げた。初めて見る目をつり上げ酷く怒っている顔をして。
「貴方は何故人間の皆さんを殺して自分の操り人形にするだなんていう愚かな事を考えたのですかアドラメレク!!」
「!?え…、え…?わ、私ですよ御殿さん…?私です…ダーシーですよ?アドラメレクなんかじゃありませんよ…?」
自分の事を何故かアドラメレクだと勘違いしている御殿に呆然のメア。

















「御殿さ、」
「近寄らないで下さい!今まで貴方や貴方の手下に殺害された人間の仇…そして…そして由樹ちゃんの仇を僕が討ってみせます!!」
「!?」
御殿の周りを紫色の光が囲むと御殿はメアに向けて右手の人差し指と中指をくっつけて突き出す。
「ご、御殿さん!?私です!ダーシーです!ダーシー・ルーダですよ!?」
「戯言は聞き入れません!覚悟して下さいアドラメレク!!」
「御殿さん…?私の事…忘れちゃったんですか…?」
「はぁあっ!!」
右手人差し指と中指をくっつけて突き出した御殿の指から紫色の光の球体がメア目掛けて攻撃。
メアの頬にツゥッ―…と一筋の涙が伝う。
「御殿…さ…、」


ドンッ!!

大きな爆発音がして直後辺りには灰色の煙が立ち込める。
「っ…、」
御殿は額に腕をかざしながら、晴れていく灰色の煙の向こうを目を凝らして見る。
「やりましたか…?…!?」
灰色の煙の向こうを捉えた瞬間御殿は目を見開く。
「アガレス君!?どうして助けているんですか!そのヒトは人間を殺め、自分の操り人形にさせる悪神アドラメレクですよ!?」
爆発音の正体は、武器の黒い槍で周囲の壁を破壊したアガレス。御殿の攻撃を食らう寸前だったメアを抱き抱えて其処に立っているアガレスに、御殿は目を見開いている。
「ア、アガレス君…!?アガレス君もどうして此処、に…、」


ドンッ!!

メアが聞く暇も与えぬ程間髪入れずに御殿が紫色の光の球体でこちらを攻撃してくる。アガレスはメアを抱き抱えたまま避けるが、御殿は歯をギリッと鳴らしながら攻撃をやめない。
「アガレス君!どうしてアドラメレクを庇うのですか!?アガレス君の大切な人達もアドラメレクの横暴によって悪魔にされ、つれさらわれたのではないのですか!」
メアの事を忘れ、メアの姿が何故かアドラメレクに見えている御殿からしたら、正義感の塊な御殿にはアガレスが悪神を庇う意味が一ミリも理解できない。だからアガレスに裏切られたと思い、攻撃を繰り返す。ただただアガレスはメアを抱き抱えたまま避けるだけ。
「はぁ、はぁっ…。アドラメレクは…!人間を使って世界征服を目論む悪神…!その悪神達を討伐するのがはぁ、はぁ…僕達ヴァンヘイレンの役目でしょう!」
「御殿殿にはこいつがアドラメレク殿に見えるのか」
「…!?何を仰るのですか?黒い長い髪に小柄な少女の姿…彼女がアドラメレクで無いとしたら誰だって仰るのですか!!」
「…!!」
御殿の言葉にメアは目を見開き、その目には涙がジワリ浮かぶ。
「……。御殿殿。こいつはアドラメレク殿ではない」
「何を訳の分からない事を…!」
「理由は後でだ。取り敢えず今はヴァリレアの討伐そして此処から脱出する事が最優先。先に人間2人を探し出したらヴァリレアを討ち、脱出するぞ」
アガレスが御殿に右手を差し出す。だが、いつもの穏やかな表情からはかけ離れている御殿の怒りに満ちた顔がアガレスを睨み付ける。
「アガレス君がアドラメレクを手放さない限り僕はアガレス君の敵です!」
「御殿殿。だからこいつはアドラメレクでは無い。御殿殿はあいつの催眠にかかって勘違いをしているだけ、」


ドンッ!ドンッ!!

「!!」
すると御殿の背後からまた爆風が吹き、辺りに灰色の煙が立ち込める。それと同時にガラガラッ…と音をたてて、アガレスとメアが立っていた床が崩れ落ち、そのまま2人も落下していく。
「なっ…!?」
「きゃああ!!」
下に何があるのかも見えぬ真っ暗な底へ落下していった2人。
















「くっ…!どうしてアガレス君が裏切るような真似をしたのでしょうか…!」
一方の御殿。突然吹いた爆風によろめきながらも壁に寄り掛かり何とか体勢を整える。
「はぁ…、はぁ…」
しかし長時間このガスが充満する基地に居て尚且つ戦っていた為体力の消耗は激しく、体がギシギシ軋む。呼吸は上がりっぱなしだ。
「はぁ、はぁ…。っ…!アガレス君はアドラメレクを庇っていた…、なら僕はもうアガレス君と決別する他ありません…」
御殿はキッ!と真剣な顔付きになる。
「この基地は危険過ぎます。アドラメレクの次に強大な力を持つマリアさんが関わっているのであれば尚の事。急いで尼子さんと椎名さんを見つけなくては!」
軋む体と優れない体調の中だが御殿は意を決し、破壊された壁から他の部屋へ移動する。


フワッ…

すると御殿の目の前に1枚の御札が宙を舞う。
「御札…?」


バシィッ!!

「!?」
途端、大量の御札が現れ御殿の体を縛り付けた。身動きの取れなくなった御殿がもがく。
「っ…!?この御札はもしや…!」


カツン…コツン…、

足音がして、ゆっくり顔を上げた御殿は目を見開いてからすぐキッ!と対峙する人物を睨み付けた。
「貴方…はぁ、はぁ…貴方は…!!」
其処には御殿同様この基地に広がるガスで顔が真っ青、酷く体調が優れない様子…だが怪しげに笑っている御子柴が現れた。
「御札を見ただけで…はぁ…、ワタシと分かってくれるなんて…はぁ、嬉しいわ…はぁ、はぁ…」
「はぁ…、はぁ…貴方が何故此所に…御子柴さん…!」
「そんな事アナタに関係無いわ…。それより…祟り神から…はぁ…、正気に戻った御殿氏の事を考えると…毎日毎日…憤死してしまいそうな程…狂おしかったのよ…はぁ…、だから…」
御子柴は1枚の御札を取り出して御殿に向ける。真っ赤な呪詛が書かれた御札。青白い顔をして息を切らしながらもニィッ…と歯茎を覗かせて笑った。
















「此処で会えたのも…何かの縁…はぁ、はぁ…。今日はもう祟り神なんかではなく…息の根止めてやるわ…。人間にキメラにされる前に…ワタシに殺されなさい御殿氏…!!」
「お熱い因縁の対決中悪いんだけど〜」
「!?」
バッ!と2人が顔を上げる。破壊された天井からチャイナ服姿の女性でヴァリレア幹部の劉華が顔を覗かせていた。
「人間…!アナタがお嬢を連れ去ったマリアの仲間ね!!」
クワッ!と瞳孔を見開いた御子柴はタンッ!と踏み込み天井まで跳び上がると劉華の前に飛び出し、御札を突き出す。
「お嬢を虐げた罪人よ!呪い殺されなさい!!」
「ふふっ」


ブシューッ!

「あ"あ"っ!!」
御子柴の顔面にスプレー缶に入ったガスを吹き掛ければ御子柴は抵抗できなくなりドスン!と床に叩き付けられる。
「み、御子柴さん…!」
御殿の足元に転がった御子柴はうつ伏せでピクピク指を動かすが、口の端からはツゥッ―…と青い血が滴り、目は虚ろ。
「はぁ"、はぁ"!」
「み、御子柴さん…!」
「う、うるさいわよォオ…!ど、どうして…はぁ"…ワタシがッ…憎き御殿氏に心配…されなきゃ、う"…!ア"ァ"ア"ア"ァ"!苦じい"苦じい"!!」
目を白目にして床の上でもがき暴れる御子柴のその苦しみように、御殿は思わず後退りしてしまう。
「なっ…!こ、これは一体…!」
「顔面直に吹き掛けられたのだもの。そのくらい苦しんで当然よ。ま。神は自分の土地を破壊されない限りなかなか死なないのが難点だけど♪」
「…!!」
聞き覚えある声が背後からして御殿が振り向く。
「はぁ〜い♪御殿久し振り♪」
「マ、マリアさん…!?」
ガスマスクを装着したマリアの右手には、劉華が御子柴に吹き掛けた物と全く同じスプレー缶が。


ゾワッ…!

御殿の背筋に悪寒が走るがマリアはにっこり女神の笑み。礼拝に訪れる人間達を騙す時と同じ笑み。
「ようこそ御殿。私のマイホームへ♪私の可愛い可愛いキメラの1人になってね♪」
マリアの手によって御殿に、御子柴と同じ例のガスが吹き掛けられた。
「は〜い♪まずは2名様ゲームオーバー♪」












































「どうやら此処には誰も居らんようだな」
その頃。メアを連れて来たアガレスは見つけたエレベーターの中で階は押さずに待機していた。
俯いているメアをチラッと見る。
「何故お前が此所に居る」
「……」
「嫁入りした雌豚が来る場所には到底思えん物騒な場所だがな」
「……」
アガレスはエレベーターに寄り掛かり、腕を組む。まだメアは俯いたまま。
「ヴァンヘイレンを辞めイングランドへ来てから一体何があ、」
「御殿さん…私の事…アドラメレク神…だ、って…」
ポツリ…力の無い声で呟くメアに、アガレスはふぅ…と溜め息を吐いてから話す。
「その事だが。お前がヴァンヘイレンを辞めた翌日からヴァンヘイレンの人間は勿論、御殿殿の中からお前の記憶が無くなっていた」
「…!!」
「お前の名を言っても誰も"そんな奴は居なかった"と言い、お前は居ないものとされていた。…俺の推測だが恐らく最も怪しいのはマリア殿だ」
「お姉…ちゃんが…」
「お前の結婚もマリア殿が手引きしたのだろう。今までマリア殿に不審な点は見受けられなかったのか」
メアはただただ俯いて黙っている。
「黙りでは話が進まん。何とか言ったらどうなんだ雌豚」
「じゃあ…じゃあさ…。御殿さんも…天人君も…椎名君も…先生も…私の事…忘れちゃってるのかな…?」
「ああ」
「…じゃあ…カナちゃんも…?」
「ああ。親友など居ないと言っていた」
「…!!」
途端、メアの脳裏をカナとの楽しい思い出が駆け巡る。















「アイリーン殿だけは覚えていたのが謎だが」
アガレスはくるりと背を向けると、エレベーター内を叩いたり蹴ったりしてみる。
「その上御殿殿のあの言動を見るに、お前の事をアドラメレク殿だと思い込んでいる様だ。俺の推測が正しければ恐らくマリア殿が周りの人間や神々にお前の事を忘れさせ、尚且つアドラメレク殿だと思い込ませるようにする何か呪術のようなものをかけたに違いない。そうして対アドラメレク殿であるヴァンヘイレンの奴らにお前を殺させようという魂胆なのではないか」
「……」
「とにかく。此処は人間が造ったにしては難解極まりない上、神々の弱点に詳しいようだ。早急に脱出する必要がある」
「カナちゃん…一緒にお買い物行った事も…くまさんのぬいぐるみを雑貨屋さんに見に行った事も…忘れちゃったのかな…」
「当然だろう。お前の事すら覚えとらんのだから」
「道端で怪我をしている雀さんの手当てを一緒にした事も…ノートを忘れた私に貸してくれた事も…掃除がうまくできなくて先生に叱られた時私を庇ってくれた事も…。カナちゃん…全部忘れちゃったのかな…」
「だから何度も言わせ、」
「御殿さんは…初めて私に御守りくれた事も…新しい赤色の御守りをくれた事も…一緒に花札をした事も…あやとりを教えてくれた事も…歌留多をした事も…」
「だからそうだと言っ、」
「どうしてお姉ちゃんは私から大切な人達と思い出を奪ったのかな…!」
「……!」
エレベーターの中にぺたん…と座り込み、目からボロボロ大粒の涙を溢すメアを見てギョッとしたアガレスは黙ってしまった。
メアは顔を覆い、肩をヒクヒクさせて泣く。
「お姉ちゃん私の事が嫌いなら、ひっく、私の事を殺せば良いのにっ…。私は自分が死ぬ事よりも大好きな人達から忘れられる方が辛いのにっ…!!」
「……」
「どうせみんなから忘れちゃったんだもん…。みんなには何故か私が悪神アドラメレクだと思われているんだよね…。なら私…このままキメラにされたって悔い無いよ…。だって…だってみんなに忘れられて敵だと思われているこんな世界で生きてる方が辛、」
「俺が覚えているだろう!!」
「…!!」


ギュッ…!

座り込むメアの背丈に合わせて座ったアガレスがメアをきつく抱き締めれば、まだボロボロ涙を流しながらもメアは目を見開く。
「アガレ、」
「御殿殿もカナも全員が忘れても俺はお前の事を覚えているだろう!だから、キメラにされても悔いは無いや生きている方が辛いだなんて言うな!」
「で…でも辛いよ!大好きなみんなに忘れられて敵と見なされるなんて辛過ぎて私には堪えきれないよ!」
「妻に忘れられ息子に嫌悪され天界から堕天され、下界では人間共に敵と見なされたどうしようもない奴に生き甲斐を与えてくれたお前がそんな弱音を吐くな!!」
「…!!」
メアはまた目を大きく開くと、更に溢れ出す涙を流しながらだんだんと目を閉じていき、唇を強く噛み締める。
アガレスは抱き締めたままメアの背をポンポン、と叩く。それはまるで泣きじゃくる子供をあやすように。
「うっ…、うん…!うんっ…!ひっく、ひっく」
メアは声を圧し殺して泣きながら、アガレスの肩に顔を埋め、肩をまだヒクヒクさせながら泣く。

















「アガレス君が…ひっく、私を覚えていてくれるアガレス君が居れば…みんなに忘れられても…アガレス君ただ1人が…ひっく、覚えていてくれれば…何も怖くないよねっ…!」
「ああ」
「ごめんねっ…ひっく…、私らしくない事言って心配させちゃって…」
「別に心配などしとらん」
「えへへ…。そっか」
メアは泣いて鼻を啜りながら、とても悲しいのに嬉しそうに笑う。
「忘れたとしても忘れん」
「忘れたのに忘れないって意味が分からないよっ」
「……」
「じゃあもしアガレス君が私の立場になった時、私だけはアガレス君の事を覚えているからねっ」
アガレスはメアから離れて立ち上がると背を向け、ブレザーのポケットにいつもの如く両手を突っ込む。
「泣き止んだのなら早急に此処を出る策を練るぞ雌豚」
「はーいっ」
メアはゴシゴシ腕で涙を拭うと立ち上がった。
「取り敢えずこのエレベーター内から出ない方が安全だろう」
「そうだね。じゃあ策を練ったらエレベーターから出て…っていうかねアガレス君。アガレス君や御殿さん達はどうして此所に居るの?どうしてアガレス君だけ私の事を覚えているの?」



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