[携帯モード] [URL送信]

GOD GAME
ページ:2
「単独行動?そんなものした覚えが無いが」
「先程ずっとなさっていましたよ〜…!アガレス君を探したお陰で今日1日が終わってしまい椎名さんはカンカンなのですから後で謝ってきて下さいね!」
「あの人間は嫌いだ」
「好き嫌いの問題では無いのですよー…」
力無くベッドに腰掛けてしまう御殿。御殿の細い背中を見ながらアガレスは自分のショルダーバッグからはみ出している、メアと色違いのくまのぬいぐるみキーホルダーを見てから口を開く。
「御殿殿。もう一度聞くが本当の本当に覚えていないのか」
「え?何をですか?」
「ダーシー殿の事だ」
「ダーシー…?それはどなたでしょう…?神ですか?人間ですか?」
「……」
御殿の顔が嘘を言っている顔をしていない。真剣に分からないのだろうダーシー…メアの事を。だからアガレスは御殿に背を向けるとベッドに横たわり、毛布をかけた。
「いや。何でもない」
「…?」


ホー、ホー…

人っこ1人居なくなったイングランドの街に、梟の鳴き声が不気味に響く。























一方、天人と椎名の部屋。
「大体何なの…あいつ…死ね死ね死ね死ね…」
ベッドに腰掛けながら隣の部屋(アガレスと御殿の部屋)を睨み付けてブツブツお経のように呟いている椎名。天人は「ははは〜…」と苦笑いを浮かべている。
「まあまあそんな初日からキレるなって奏〜。短気は損気ってよく言うでしょ〜?」


カンッ、

「おわっ?!」
天人は、椎名の鞄の中から転がってきた1つの小瓶に蹴躓く。
「ごめんごめん。奏の荷物蹴っちゃっ…え?何だよこれ…」
「はぁ…?…!!」
天人が蹴躓いた小瓶を見る。椎名が天人の方を振り向く。途端、椎名の目が限界まで見開いた。天人の手には1つの小瓶。しかも中身は真っ黒い血の液体にまみれた2人の人間の蠢く顔。
「う"っえ…!」


カランカラン!

思わず口を覆って小瓶を落としてしまった天人。
「お"ぇ…!かな、で…お前っ…!この瓶の中ッ…!」
顔を真っ青にして涙を浮かべて嘔吐を必死に堪えている天人。対して椎名は口を空けたまま俯いているから表情が見えない。
「か、なで…!お前も…今任務の対象組織のようにキメラを製造してるんだよな…。でもそれはあくまで対神殺しの兵器としてだからヴァンヘイレンはお前にキメラ製造の許可を下してる。けど…けどこんなキメラまで作っているのがヴァンヘイレンに知られたらお前神だと疑われるだろ!こんな…人間の顔だけを小瓶に入れて持ち歩いて…しかもこの2人の顔って…」
「……」
「殺されたお前の両親じゃねぇか…!!」


ホー、ホー…

梟の鳴き声が不気味に聞こえる。月明かりに照らされた椎名はただ俯いたまま。小瓶を椎名の鞄の中へしまった事により、ようやく吐き気がおさまった天人は口を拭い、一呼吸吐く。だが天人らしくないつり上がった恐い目をして椎名を睨む。
「…何でこんな事してんだよ」
「……」
「お前…泣いてたよな。お前の両親…俺にとっての叔父さんと叔母さんが殺された時。泣いてたよな。当たり前だよな?肉親なんだから」
「……」
「じゃあ何で両親の遺体の顔だけをキメラと一緒の瓶に入れて持ち歩いてるんだよ!」
「……」
「叔父さんと叔母さんの遺体に…頭だけ斬り取られていたって聞いたんだ俺…。……。犯人はまだ捕まっていない。お前はあの現場に居合わせてお前自身も怪我を負った。でもお前は俺にも警察にも頑なに犯人の姿を教えなかった。…なぁ、何でお前が叔父さんと叔母さんの顔持ち歩いてんの?嫌だぜ…嫌だけど…、嫌だけどそんなんじゃあ俺お前が犯人なんじゃないかって疑わざるを得ないだろ!!」


ドンッ!

椎名の両肩を掴み、そのまま背を壁に押しつける。それでも椎名は俯いたまま。
「何しようとしてたんだよ…?神と神で作るキメラを入れておく瓶にお前の両親の顔だけ入れて持ち歩いて…お前は何しようとしてたんだよ…?」
「……」
「答えてくれよ、奏…!」
「…た」
「え…?」
ポツリ、蚊の鳴くような声で呟く。

















「お父さんと…お母さん…生き返らせたかった…。体は…滅多刺し…だったけど…顔…だけ綺麗なまま…だった…。だから…顔…あれば…あと…は…キメラ…作る時みたいに…体だけ…用意して…お父さんとお母さん…生き返らせられるかな…って…思ったん…だよ」
「そんな言い訳…信じる奴居るわけないだろ…」
「本当…。本当だよ…」
「奏、」
「僕、ね…。天人は優しくて…ヒーローだから…好き…。でも…天人の顔見る度に思い出すんだ…。そして辛くなったら…お父さんとお母さん…生き返らせる実験…するの…」
「…?何が言いたいんだよ奏?」
「……。言わないでおこうって…思ってた…けど…。天人に疑われて今…ショックだったから…今まで内緒にしてた事…言う…ね…。僕が…ずっと…お父さんとお母さんを殺した人…内緒にしてたのは…ね…」
「奏、」
椎名は顔を上げて天人を指差す。
「天人によく似た…うんうん…天人がよく似てるのかな…。天人のお母さん…。僕の叔母さん…なんだよ…僕のお父さんとお母さんを…殺した人…」
「…!!」
全身の血の気が引いた天人。けれど椎名は顔色一つ変えない。寧ろ申し訳なさそうに眉尻を下げる。
「ごめん…ね…。これは…死んでも…内緒に…するつもりだった…んだけど…。天人に…疑われて辛かったから…言っちゃった…。でも…ごめんね…天人…も…辛くなっ…、」


バタァン!!

「天人…?」
天人は椎名の顔を見ずに部屋を飛び出してしまった。

























宿の外―――――


ドクン、ドクン…

俯きながら歩く天人の心臓が張り裂けそうな程鳴る。
「…な、…そん…な…、母さん…が…叔父さんと…叔母さんを…」
天人はギュッ…!と目を瞑り、拳を強く握り締める。
「奏ごめん…!お前は俺を気遣ってわざと犯人を言わないでいてくれたのに、俺は…俺は!一瞬でもお前を犯人扱いした!奏はそんな子じゃないの分かってたのに俺は…!!」
「ええ。ヴァンヘイレンの子達は宿へ泊まったわ」
「…!?」
人っこ1人居ない筈の不気味な夜道に、ヒソヒソ声で話す女性の声が聞こえて天人は涙を拭い、顔を上げる。すると、すぐ横の路地裏から人影が地面に伸びていた。
「そうね。まずは眼帯の子。あの子はカフェで私に勘づいた節があったようだもの。じゃあまずは眼帯の子。椎名を連れて行くわ」


ツー、ツー

女性麗華は電話を切ると、くるりと踵を返す。
「…!?貴方聞いていたわね…!?」
麗華の前には、天人が下を向いて立っていた。月明かりを背にした天人に今の会話の内容を聞かれたと察知した麗華は、厚手のコートの下からキィン!とナイフを繰り出す。
「眼帯の子がヴァンヘイレンの椎名って何処情報?オネーサン」
「…?何が言いたいのよ…仕事の邪魔よ!…あら。よく見たら貴方それヴァンヘイレンの制服じゃない。白髪の子…貴方ね。貴方はキメラ作成リストに載ってない凡人だから見逃してあげる予定だったのに。ククク残念ねぇ。せっかく生き延びれるチャンスだっ、」
「ヴァンヘイレンの大事なエースの名前と姿をそのまま公にするワケ無いっしょ」
「!?」
天人はツゥーッ、と頬に冷や汗を伝わせながら白い歯を覗かせて笑う。
「オネーサンさぁ。ヴァンヘイレンの眼帯少年椎名を拉致ろうとしてたの?残念でーしたー。その資料、ヴァンヘイレンの大事なエースが狙われないように敵の目を欺く為の嘘っぱちだよ」
「何ッ…!?」
天人はトン、と自分の胸を右手親指で突く。
「オネーサン達がキメラの材料にしたくて拉致ろうとしているヴァンヘイレンのエース椎名って本当は俺の事だよ?」
麗華は目を見開くと顔を真っ赤にして怒り、手にしているナイフを天人目掛け勢い良く腕を振り上げた。
――俺の事を奏だと信じ込んだ敵。これで奏が狙われなくて済む。ごめんな奏こんな事しかしてやれなくて。でもこれで奏が狙われずキメラにされずに済むなら良いよ。ごめんな、頼りない情けないヒーローで…―


ブシュウゥ!!


ピッ!ピチャッ!

噴き上がった真っ赤な血が壁や地面に飛沫を上げて付着した。


























その頃、宿―――――

「ねぇ…」
「ぅ"ぐっ…!首を絞めながらッ…話し掛けるな…木偶の坊…!」
アガレスと御殿の部屋へやって来た椎名は、アガレスの首を絞めながら話し掛けるから顔を真っ青にしたアガレス。御殿はオロオロ。
「し、椎名さんどうかされましたか?」
「……」
「椎名さん?」
「…死ね」
「そ…そんなっ…!」
御殿が優しく声を掛けてもこんな調子。アガレスは肩を竦めて脚を組む。
「何か用があるから訪ねて来たのではないのか」
「……」
図星をつかれて椎名は口を尖らせながらアガレスを睨み付ける。確かにアガレスと御殿に用がある。だが、大嫌いな神2人相手に話したくなくてうまく用件を彼らに伝えられずにいるのだ。
「用が無いのならばさっさと出ていけ眼帯」
「……。天人…」
「む」
「尼子さんがどうかされたのですか?」
アガレスと御殿が顔をまじまじ見てくるから、椎名は下を向く。
「さっき…出て行ってから…戻って…こない…」
「どのようなご用事で尼子さんは外出なさったのでしょう?」
「……」
まるで不機嫌な子供のような椎名に御殿は「困りましたね〜」と苦笑い。だがアガレスは容赦無く問い質す。
「御殿殿が質問をしている。答えたらどうだ。貴様口が無いのか」
「アガレス君!そんなキツい言い方しちゃいけませんよ」
「3時間…」
「え?」
「3時間…くらい…帰って…こない…」


バタァン!

ブレザーを慌てて羽織り、部屋を飛び出すアガレスと御殿。その後ろから椎名がついてくる。
「それを早く言え眼帯!」
「そうですよ!椎名さん!どうして僕達に早く仰ってくれなかったのですか!」
「……」
相変わらず下を向いて黙っている椎名に埒があかないと判断した2人は宿の外へ出ようとする。















「こんなお時間に外へ出てはいけませんよ!」
宿を出ようとしたら、赤紫色の短髪の少年に声を掛けられた。
「む。何だ貴様は」
「アガレス君、先程宿泊をする時ご挨拶をしたこの宿の宿主さんですよ!もうお顔を忘れてしまったのですか?」
宿主の少年はオロオロ心配そうにしている。
「お客様方は余程の急用で無い限り外へ出歩かれるのはこの街では禁じられているのをご存知無いのですか…?」
「何故禁じられているのだ」
「それは、陽もすっかり落ちた夜分、ヴァリレアのメンバー達がキメラの材料探しに街をさ迷うからですよ。人狩に…!」
「ヴァリレア…!?」
2人の後ろで下を向いたままの椎名だが、宿主からの話を聞いた途端口を大きく開いた。
「ヴァリレアは神々でキメラを作ると伺っていますが…?」
「それが第一条件です。けれどヴァリレアのメンバー達は残虐非道な人間が多く、たまに神×人間のキメラも製造して実験を行っているそうなのです。だからこの街では陽が暮れたら誰も外へ出てはいけないのです」
「なるほど…。確かに街には不気味なくらい人が居ませんでしたね」
「ああ。宿主貴様。この街の人間だろう。ならばヴァリレアの場所を知っているか」
単刀直入に聞くアガレスに御殿はオロオロ。
「そ、そんなアガレス君!ヴァリレアは秘密裏組織ですよ?いくら同じ街の人でも場所は…」
「…知っていますよ」
「!?」
宿主の少年からの意外な返事に御殿は目を見開く。
「え…!」
「私の友人が…ヴァリレアに連れて行かれる所を見たんです…。その時に見ました…ヴァリレアの基地の場所を…。なのに私は…勇気が出せず友人を助けにヴァリレアへ乗り込む事ができなかった…!貴方達のその制服はヴァンヘイレンですよね…?お願いですヴァンヘイレンの皆さん!友人を…そしてヴァリレアに連れさらわれた街の人々をどうか助けて下さい…!!」
宿主の少年は番台に額を擦り付けて懇願する。
「ええ。大丈夫ですよ。僕達もヴァリレア討伐の為にこの街へやって来たのですから。任せて下さい」
「ありがとうございます…!これがヴァリレアの基地がある地図です!どうか…どうかこの街に平和を取り戻して下さいお願いしますヴァンヘイレンの皆さん…!」
受け取った地図をヒラヒラ靡かせて右腕を上げた御殿。その次にアガレス、椎名が続いて宿を後にした。


パタン…、

「ふぅ」
すると宿主の少年はたったさっきまでの人の良さそうな表情から一転。前髪をかきあげると番台に両脚をドン!と乗せて悪態をつき、電話をかける。
「もしもシ?」
「ああ。僕だ。ミシェル・アヴァランシだ。ヴァンヘイレンの奴らを基地へ誘導させる事に成功した」
「おオ!それはそろはありがとうございますミシェルくン!」
「あいつらいつまで経っても基地を見つけられない上、宿で一泊しようだなんて暢気な奴らだからな。僕から基地へ誘導してやった」
「ではミシェル君も今からこちらへ合流して下さいネ」
「はぁ…。今回は長引きそうか?」
「もちろン!何て言ったって今回は今までに無い強大な力の神々そして多数の神々が自ら我々の基地へ出向いてくださるのですからネ!お礼に皆さんをキメラにしてあげましょウ!」
「はぁ…。僕は早く帰ってビアンキに会いたいだけなんだけれどな」
「まあまあそう仰らず仲良くやりましょウ?ヴァリレア幹部ミシェル・アヴァランシくン!」
「はっ。よく言う。グリエルモ・バッドマン」
「では基地でお会いしましょウ。今宵は今までに前例の無いキメラパーティーを始めましょウ!」

ガチャン!


ツー、ツー……



































ヴァリレア―――――


ホー、ホー…

「此処…のようですね」
宿主から貰った地図で辿り着いた先は、街外れの不気味な森の奥に広がる20階建てで尚且つ広大な敷地面積の建物。赤茶けた外壁には一切の窓が無い上、このような森の奥にあるというだけあって其処に佇んでいるだけで不気味さを醸し出しているヴァリレア基地。
「窓が一つもありませんね」
「捕まえた…神々が逃げ出さないように…に決まってる…よね…。そんな事も分からないの…馬鹿神…だね…」
「す、すみません椎名さん」
相変わらずな椎名が先頭をきって建物の周りを眺めると、一面壁の建物に一ヵ所だけ小さな鉄の扉があった。酷く錆びているその扉を開く椎名。
「あぁ!待って下さい椎名さん!お1人で行かれては危険ですよ!」
椎名の自由過ぎる行動に手を焼く御殿は慌てて椎名の後を追い掛ける。そんな彼らをポケットに両手を突っ込んだまま溜め息を吐きながらヤレヤレと首を横に振るアガレス。
「だから前途多難だと言ったんだ」


ギィ…、バタン…

























ヴァリレア基地内――――


ギギギギ…、
ガコン…ガコン…

建物内への侵入に成功した3人。敵が襲ってくる!…様子もちっとも無く、配管がたくさん通っていたり大きな歯車が回っていたり。外壁同様赤茶けた建物内部にはギギギギ…やガコンガコンといった工場のような機械音が響いているだけ。人の声も、捕らえられた神々の声すら聞こえない。椎名は、辺りを見回す。
「工場…みたい…だね…。そっか…キメラを作る施設…だから…ある意味一種の工場…と言える…ね…」


ガクン!

「うぅ"…!」
「ぐっ…、」
「…?何…踞ってるの…」
すると椎名の隣に居たアガレスと御殿が建物内に入った途端苦しそうに呻きながらその場に踞ってしまった。全く訳が分からない椎名は首を傾げる。踞って苦しそうに唸るアガレスの背を容赦無くゲシゲシ蹴る。
「ねぇ…そんな所で休憩してないで…よ…。早く立てば…?ねぇ…」
「う"…ぐっ…、」
「ねぇってば…」


ガタン!ガタン!

「!?」
するとアガレスの周りに床から壁が。御殿の周りに床から壁が。椎名の周りに床から壁が出現して、3人それぞれが壁に囲まれてしまい離ればなれになってしまった。椎名は目を見開く。


パチパチパチ!

「ようこそいらっしゃいましたアガレス神、御殿神、椎名さン!」
「…!?」
声がした方を鬼の形相で振り向く椎名。
視線の先には、天井に通っている配管の上からこちらを見下ろしているバッドマン、麗華、ミシェルの姿が。ミシェルの姿を捉えた瞬間椎名の脳裏で先程の宿主とミシェルとの姿が重なる。
「宿主…!騙した…!」
「お前達が間抜けなだけだ。ヴァンヘイレンの人間というものだからどれだけ秀才かと思えば僕達より間抜けとはな」
「まあまあミシェルくン!せっかくの宴の席なのですから喧嘩はよしましょウ!椎名さン!貴方のお連れの神々がこの基地内へ入った途端何故苦しみ出したカ!そうそれはこのヴァリレア基地内部の隅から隅まで神々の力を弱める神々が大嫌いな食物のニオイを混ぜた特殊なガスを充満させているのでス!人間である椎名さンには効果がございませんけれド!」
「御託は…いいよ…。君が…ヴァリレアの幹部…ぽい…ね…。なら…今すぐ…殺るだけ…」


キィン…!

椎名は背中に担いでいる槍を繰り出す。だがバッドマン達は全く物怖じしない。それどころか、バッドマンは顎に手を添えながらニタニタ笑う。
「おやおやそうでしタ。やっぱりあの資料は正しかっタ。椎名さんあのですネ、先程私の部下麗華が椎名さんを連れ去ろうとしていたところを尼子さんに聞かれてしまいましてネ。けれど尼子さんはご自身が椎名さんだ、と嘘を吐いて我々にさらわれたのですヨ」
「え…」
「何故かお分かりですカ?尼子さんは椎名さんがスプラッターにされる事を庇う為に自らが椎名さんだと名乗り犠牲になったのでス!」


ガシャン…!

椎名の手から無意識の内に槍が落ちる。
「天人…が…?スプラッター…?犠牲…?」
「尼子さんとは後程会わせて差し上げましょウ。さあ皆さン!我々ヴァリレアが試行錯誤を繰り返して完成させたこの神々キメラ製造基地内で今から24時間以内に脱出できれば見逃して差し上げましょウ!我々との追いかけっこの開始ですヨ!」
「Mr.バッドマンのゲーム好きが高じているわね」
「はぁ。全くだ。24時間の追いかけっこなどふざけた案を。これでは僕は自宅へ帰れないじゃないか」
バッドマンの隣で呟く麗華とミシェルを気にもせず、バッドマンは太い両腕を天高く挙げて声高らかに叫ぶ。
「今宵は盛大な宴となるでしょウ!」
































一方。その頃のマルコ、御子柴、清春。
「本当だわ…。お嬢のクジャクの羽で間違い無いわ…」
アドラメレクが一向に帰ってこない為、アドラメレクが向かった路地裏へやって来た3人。其処は青い血飛沫が壁や地面を濡らし、アドラメレクの本来の姿であるクジャクの羽が散らかった路地裏。


ドンッ!

「っ…、」
清春の胸倉を掴み、背を壁に叩き付ける御子柴の目がまるで鬼のよう。
「貴方が…貴方がお嬢についていれば…こんな事にはならなかったのよ…!」
「っ…、ごめん…」
「謝れば済む問題じゃないのよ!!…そうねェ。お嬢を助け出した後…今回の罪の償いとして…自害してくれたら許してあげても良いわよ…ヒヒヒヒ…」
「御子柴神」


スッ…、

珍しくマルコが仲裁に入り、清春の胸倉を掴んでいる御子柴の右手を外させた。
「何するのよォオオ!邪魔しないでちょうだいマルコォオオ!」
「こんな時に内輪揉めをしていてもお嬢様は帰ってきませんよ。ねぇ?清春君」
ニコッ。と清春に神父のように優しく微笑むマルコ。裏の性格とは正反対な彼の外面の良い態度に、清春はマルコを睨み付ける。
「ここは一度落ち着いて冷静沈着。着実にお嬢様を探しましょう」
「冷静沈着になんていられないわよォオオ!お嬢が…お嬢が…!お嬢に万が一があったらワタシ…!」
「落ち着きなさい御子柴神。推理してみましょう。あのお嬢様に血を流させる事のできる力量の持ち主。人間では到底居りません」
「って事は…?ハッ…!もしや…マリア…?」
マルコは真剣な顔をして頷く。
「そう考えるのが妥当でしょう」
「キィイイイ!!マリアァアア!出てきなさい裏切り者ォオオ!!今にワタシがアナタを肉片にしてやるわァアア!」
「落ち着きなさい御子柴神!我を忘れては敵の思う壺、」


ドスッ!ドスッ!


バタン…、

マルコと御子柴は腹と両目から青い血を。清春は腹と両目から赤と青の混ざった血を噴いて倒れる。
「私の事。呼んだのだぁれ?」


カツン、カツン…

「あ"…ぁあ"…その…声…は…」
青い血をドクドク流す両目で見えないながらも、声のする方に顔を向ける御子柴。月明かりを背にしたマリアがにっこり聖母の笑顔を浮かべて現れた。
「アドラメレクちゃんに会いたいなら私が連れていってあげる。私って優しいー♪さぁみんな♪ゲームの始まりよ♪」






























ガコン!!

「うっ…、此処は…?」


ギギギギ…
ガコン…ガコン…

無機質な機械音に目を覚ました清春。目を覚ますと其処は赤茶けた壁ばかりで窓の無い圧迫感のある建物内。
「どうやら気絶させられている間に連れて来られたようですね。ヴァリレア基地に」
「…!」
其処には既に目を覚ましたマルコが立っていた。何故かガスマスクを装着しているマルコ。一方の清春はマルコに対し警戒心を募らせ、ジリ…と一歩後退り。
「ヴァリレア…?」
「おやおや。そんな事も知らないのですか。ふぅ。これだから低能な化け物は困りますね」
「うるせぇんだよ!チッ…」
「ヴァリレアとは我々神々と神々とを合わせた合成獣キメラを製造し、人間のみならず神々をも討伐し世界征服を目論む人間の組織です。しかし近年マリア神はこのヴァリレアと関わりを持っているとの噂が絶えませんでした。それで今回お嬢様はマリア神の故郷でもありヴァリレア基地もあるイングランドへ赴いたのですよ」
「じゃあ…マリアの姉ちゃんがそのヴァ…ヴァリレア?の人間とグルだって噂はマジだったのかよ」
「ええ。マリア神はお嬢様に大神の座を奪われて以後お嬢様を目の敵にしておられましたからね」
「じゃあ此処はその、キメラを作る基地だってわけかよ?」
「ええ」


ガン!ガン!

清春は扉を蹴る。だがビクともしないから舌打ち。
「くっそ!全然ビクともしねーし!つーか御子柴の姉ちゃんは!?つーかあんた何でガスマスクなんて付けて、」


ドガン!!

「ぐあ"ぁ!!」
振り向き様に清春の頭を掴んで壁に叩き付けたマルコ。壁にめり込んだ清春の頭からボタボタと血が滴る。
「て…んめぇ…!」
「おやおや。この基地内だというのに君はどうしてそんなにも元気なのかといえば。そうでしたね。君には人間の血も混じっていて且つ食物を摂取できる君には食物のニオイを混ぜたこのガスが効かないのでしたね」
「は…?何訳分かんねー事ほざいて、」


ドスッ!ドスッ!!

「あ"ぁ"あ"ぁ"ぁ"!!」
清春の腹を何度も蹴りながらなのにマルコはまるで優しい神父のようにニコニコ微笑む。
「ペラペラペラペラお喋りの絶えない子供ですね。気色の悪い化け物は息をしないでくれませんか?ガスマスク越しでも私の周りの空気が汚れてしまいますでしょう」


ドスッ!

バタン…、

「はぁ"…はぁ"…、」
その場に倒れ込んだ清春を見下ろして優越感に浸るマルコ。
「お嬢様…いえアドラメレクは何故このような化け物を飼い慣らしているのか私には理解に欠けます。これだからいつの時代も種族も女という生き物は低能です」
「…?アドラ…メレク…?あんた…アドラメレクの…はぁ"…、姉ちゃんの…事…そんな…はぁ"…風に言って…」
マルコの様子に何かを薄々勘づき始めた清春をフッ、と笑う。
「そんな事より。清春君。先日はナダラ神とカウ神の殲滅お見事でしたよ」
「…!!あんたなぁ…!!うぐっ…!!」
目を見開き立ち上がろうとした清春の頭を右足で踏みつけて立ち上がれなくさせるマルコ。
「私の故郷の中ではそれなりにできる神々だったのですが。君ごときにやられたのですから所詮その程度だったのでしょうね彼らも」
「ざけんじゃねぇよ!!俺はどうでもいいけど、アイツまで巻き込むんじゃねぇクソが!!」
「おやおや。アイツとはもしや茶色の髪をした不細工な人間の少女の事ですか?」
「…!!」
つい口走ってしまった自分にハッ!とする清春を嘲笑うマルコ。
「安心なさい。お嬢様はまだ気付いておりませんよ。けれど…君とあの人間の少女が君の両親のようになるのも時間の問題かもしれませんね。アガレス神や君に一度お尋ねしたかったのですが、人間なんかと戯れて何が楽しいのですか?」
「るせっ…、」
「せいぜい楽しみにしておりますよ。君と人間の少女の間に君のような化け物が再び産まれる事を。そしたら私の玩具がまた増えますからね」
「親父と一緒にすんじゃねぇ!!俺はカナを巻き込むようなヘマはしねぇんだよ!!」
「人間の少女と関わった時点で彼女を巻き込んでいる事に気付いておられるはずですよ」
「っ…!」
「現に今。君がイングランドへ滞在し、君の目が離れるこの期間。人間の少女に私の刺客を送らせていますから」
「!?」
目を見開き、全身からサァーッと血の気が引く清春の様子を見て笑うマルコ。カタカタ震え出す清春の全身。
「な…、んな…、」
「ふふふ。アガレス神によく似て知能の低い化け物ですねぇ君は。君があの人間の少女から離れる期間を私は分かっている。その間に少女を狙えばナダラ神やカウ神の時のような失態を犯さなくて済む。今頃私の刺客があの少女を原型を留めないくらいの肉片にしているでしょうね。近々少女の肉片を君にプレゼント致しましょう。その時に君が見せる表情を見たいが為に少女を殺すのですから、良い表情を見せて下さいね」
「ふざけんじゃねぇマルコ!!」
マルコの足をはね除けて立ち上がった清春は白く十字架の形をした槍を繰り出してマルコの頭目掛け振り上げる。


ヒュン!

「なっ…!?」
しかし姿を消したマルコ。清春が後ろを向くが、マルコは居らず。
「何処行きやがったてめぇ!!ぐあ"あ"あ"!!」
真上から清春の頭を蹴りながら落ちてきたマルコ。馬乗りになり、何度も何度も殴れば青と赤が混ざった返り血が満面の笑みのマルコに飛散する。



















ゴッ!ゴッ!

「あ"ぁ"!う"ぐっ…!」
「従いたくもないアドラメレクに従い続ける日々に積もるストレス。解消法を見付けられて君には感謝すらしているのですよ」
清春は震える右手でマルコの服を掴む。
「カナ、に…手ぇ出じ…だら"…、ぶっ殺す…!」
「黙りなさい。そして汚い手で触れるのを直ちにやめ、そして醜い化け物は呼吸をするのもやめなさい」


ゴッ!!

「あ"っ…!」


ドサッ…、

倒れ込んだ清春を見下ろして満足そうに笑むマルコ。
「ふぅ。少々遊び過ぎましたでしょうか。では次は御子柴神の元へ行きましょう。その後はベルベットローゼ神。そしてフィナーレはアドラメレク。フフフ。大切な部下に裏切られ、大切な部下をキメラにされた時のアドラメレクはどういう表情をするのか見物ですね。怒り狂うのか、心神喪失するのか…はたまた…彼女らしかぬ姿で泣き喚くのか。楽しくなりそうですね…」


フッ…、

マルコは姿を消す。
「ハァ"…、ハァ"…」
1人残された清春は地に伏したまま。
「マルコ…のジジィ…ゼー、ハァ"…アドラメレクの…姉ちゃん…を…マジかよ…、そんな…事より…カナ…!」
フラフラしながらも、ボタボタ血を流して立ち上がると開かない扉や壁を何度も何度も殴り、蹴り、槍で壊そうとする。


ガンッ!ガンッ!

しかし何度やっても壊れないから外へ出れず、逆に壁を殴る両手両足からは血が出てくる。


ズッ…、

赤と青の血が付着した右手拳で開かない扉を触れながら清春は強く目を瞑る。脳裏にはカナの優しい笑顔が浮かぶ。
「カナ…カナ、カナ、カナ…!ごめん…ごめん…!こうなる事分かってて…親父の二の舞になる事分かっててカナの事好きになった俺のせいだ…!カナ、カナ…!何で壊れねぇんだよこの扉…壁…!俺はカナの所へ行かなきゃなんだよ…!カナの所へ行かせろよ!!」


ガンッ!!

最後、扉を殴ったが同じ事。ビクともせず。壁に顔を擦り付けて目を強く瞑り、唇から血が滴る程噛み締めた。
「行かせろよ…俺を…。行かせろよ…俺をカナの元へ行かせろよぉおおお!!」









































同時刻、
アンジェラの街―――――

「アイリーンちゃんと初めてのお出掛け楽しかったよ」
「わたくしもカナさんとのお出掛けとても楽しゅうございましたわ!」
放課後。街で買い物を楽しんだカナとアイリーンは陽もすっかり暮れた夜の街を並んで歩く。
「あ。アイリーンちゃん。私お手洗い行ってくるね」
「わたくし外で待っていますわ」
「うん。ごめんね」
ヴァンヘイレン宿舎へ帰る途中。通りがかった人気の無い公園のトイレへカナが入る。


バタン…、

扉が閉まった途端アイリーンはニヤリ…と笑む。口の隙間からは牙のような歯を覗かせて。




























[*前へ]

2/2ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!