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GOD GAME
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ヴァンヘイレン――――

「キユミ大丈夫だよ。私達がずっと一緒に居るから。ね?」
「キユミちゃん泣かないで。レイ君を襲った神を先生達が見付けて退治してくれるって言ってたよ」
「ひっく…、ひっく…。うん…。みんな、ありがとう…」
1A教室前の廊下でクラスメイトに慰められる中心で顔を覆って泣いているキユミ。彼らの方は見ずに彼らの脇を下を向いて歩き去っていくアガレスだった。



















1E教室――――

「…ってわけだ。1Aのレイという生徒が昨日の放課後襲われた。襲われた直後レイは生きていたが、"アドラメレク様万歳"としか言わなく、その上恋人に襲い掛かろうとした。つまりレイは神に襲われ、神に造り直しの儀を施された。よってヴァンヘイレンは、レイはまだ生きてはいたが…」
「殺した…の…?」
「そういうわけになるな」


しん…

担任ミカエルの話の直後、いつも賑やかな教室内がお通夜のように静まり返る。
「それでトムの話だが」
「まさか先生…」
下を向いてばかりで生徒の顔を見ようとしない担任の様子で、トムがどうなったかを察したアイリーンは顔を青くしながらも担任に尋ねる。
「……。最善は尽くした。けど、レイと同じで一向にアドラメレクを讃えるのを辞めなかった。生きてはいたがもうああなってしまった以上トムもレイも…普通の人間には戻れないからな。だから…レイと同じ事をヴァンヘイレンはトムに施したよ」


キーンコーン、
カーンコーン

沈黙の1E教室内に、1時間目の授業前の予鈴が寂しく響いた。
























放課後――――

オレンジ色の夕焼けが辺りを染める夕暮れ。宿舎へ帰る生徒、自宅へ帰る生徒。生徒がほとんど帰った校舎。オレンジ色の夕焼けが窓から射し込む1E教室の一番後ろの席。皆が帰った後もただただ黙々と古びた分厚い本を読んでいるアガレス。パタン…、と閉じて本をショルダーバックへ片付けて席を立ち、帰ろうと教室後ろの出入口を向く。
「あ…」
驚いた。其所にはこちらを見ているキユミが立っていたから。アガレスは黙ったままだが目をこれでもかという程見開いている。
オレンジの夕焼けがキユミの逆光になっていて表情はよく見えないが、アガレスがキユミに気付いた瞬間キユミはペコリ…とお辞儀をした。
「ごめんなさい…突然…。あの…お話があって…。今少しお時間…ありますか?」
「…ああ」




















「ごめんなさい…送ってもらう形になっちゃって…」
あれからヴァンヘイレンを出た。キユミは今、宿舎をやめてアンジェラの街外れのアパートで暮らしているらしい。だから送っていく傍らキユミの話を聞く事にした。キユミは顔色が悪くやつれていて隈は酷いし、泣き腫らした目は病人のよう。でもいつもの穏やかな笑みを向けてペコペコ謝りながら歩く。そんな彼女の隣を、フードを目深にかぶって顔が見えないように黙ったまま歩くアガレス。
「あのですね…」
「災難だったな」
「え…あ…。レイ君の事知っているんです…ね…」
「……」
「そう…ですよね…。他のクラスにも先生が話しちゃってます…よね…」
「……」
「レイ君…」
じわっ…
レイを思い出したのだろうキユミのピンク色の瞳からは涙がじわり浮き上がるからキユミはゴシゴシ手で擦って涙を拭う。
「あ、あのですね…。お話したい事なんですけど…」
「……」
「アガレスさん以前私に"覚えていないのか"…って言ってましたよね…?あと、"清春の事だけは思い出してやってほしい"って言ってましたよね…?」
「……」
相変わらずこちらを向かないしフードで顔が見えないアガレスに不安になるが、キユミは下を向いて歩きながら話を続ける。


















「私…最近同じ夢ばかり見るんです。知らない田舎の村で私が暮らしている夢。その村の人達はみんなどこか障害を持っているんだけれど明るくて優しくて…きっとアンジェラの街の人達よりとても素敵なんです」
キユミは下を向き、鞄を前に両手で持ちながら話しを続ける。自分がここ最近よく見る夢の話を。
「そして私にも障害を持ったお父さんとお母さんがいて。夢の中で私には旦那さんがいて、旦那さんと同じ髪色をしたまだ…4歳くらいの男の子の子供がいるんです。夢の中でその子はいつも人見知りしちゃって村の人達は優しい人達ばかりなのに隠れちゃうんですよ。…変…ですよね。私は孤児院の生まれだから両親の顔も名前も知らないのに」
「……」
「それで…夢の中の子供の名前が清春っていうんです…。夢の中の私の旦那さんと同じ青い綺麗な髪をしていて…」
「……」
アガレスはただただ黙ってフードに顔を隠して聞いている。するとキユミはピタッ…と止まり、アガレスの方を向く。だからアガレスも止まる。キユミの方は見ずに。
「そして夢の中の私の旦那さんの名前は…」


ザァッ…

風が吹き、辺りの木々が揺れて葉音をたてる。キユミは顔を上げる。とても切なそうにピンク色の瞳を潤ませて。
「アガレスさん…!ずっと思い出せなくてごめんなさい…!私の子供は清春で私の旦那さんはアガレスさんだけです…!」
「…!」
ようやく顔を上げたアガレスのいつも光の無い表情に乏しい青い瞳がまるで光に照らされているかのようにキラキラ輝く。
「キユミ…お前…」
「アガレスさん!ずっとずっと会いたかった…!」


きゅっ…!

アガレスの両手を握り締めながらキユミは目を強く瞑ってポロポロ涙を流す。
突然の事にまだ状況がうまく飲み込めていないアガレスは目を丸めたままキョトンとしたまま。
「ごめんなさい!ごめんなさい!今までずっと思い出せなくてごめんなさい!私の大事な大事な家族なのに、アガレスさんは私の事を覚えていてくれたのに私は思い出せなくて今まで悲しませてごめんなさい!」
「キユミ…?本当に思い出したのか。清春の事も俺の事もココリ村の事も…あの日起きた事も」
「あの日起きた事…?」
キョトン…として顔を上げて首を傾げるキユミに、アガレスは察した。
「……。お前が何故今まで記憶を失っていて、俺や清春と離れ離れになっていたかは思い出したのか」
「いえ…そこまでは夢に出てきていないんです。ただ私がアガレスさんと出会って、清春が産まれて…毎日幸せな日々を送っているところまでしか夢に出てきていません。…あの…その後私達に何かあったんですか…?」
キユミ達に秘密にしていたがアガレスが実は神で、清春は神と人間の血を引くこの世にたった1人の子供で、アガレスのせいでココリ村はアドラメレク達に焼かれ、キユミの両親は殺され、キユミとヒビキは悪魔堕ちした…そこまではまだ夢で見ていないキユミ。ならば、あんなにも"アガレスさんの顔を見たくない"と言っていたキユミが今こうして"会いたかった"と言ってくる理由も頷ける。
つまりキユミは、まだ幸せだった日々までの事しか思い出していないのだ。願わくばその後の記憶…悪夢を思い出してほしくない…そう思うアガレス。
「あの…アガレスさん?私達に一体何があったんですか…?」
未だキョトンとしているキユミにアガレスは「ふっ…」と笑うとキユミの頭を撫でる。
「あの…?」
「何でもない。ただちょっとした喧嘩をしただけだ」
「そうだったんですか?夢の中で見た記憶だと私達1度も喧嘩をしていませんでしたよ」
「そうだろうな」
アガレスは左手を差し出して優しく笑む。いつも無表情かイラだっている表情のアガレスがキユミと清春にだけ見せる笑顔。
「おかえり。キユミ」
キユミは涙を流しながら微笑む。
「遅くなっちゃってごめんなさい」


きゅっ…!

差し出された左手を握る。
「ただいま!アガレスさん!」




























1週間後、ヴァンヘイレン1E教室――――――

「死ねばいいのに…」
明日から向かう任務のメンバーを担任に発表された直後の椎名の一言。この世の終わりのような嫌そうな顔をしてアガレスを睨み付ける椎名。
「はいはい。椎名お前なぁ。力量は申し分無いエースなんだからあとはそのひん曲がった性格を直せばスーパーエースになるんだぞ」
「スーパーエースになんて…ならなくて良いし…なりたくもない…よ…」
「はいはいそーかい。じゃ後は任せたぞ天人班長」


ピシャン!

担任はヒラヒラ手を振り、他人事のように笑顔で教室を去っていった。
明日からイングランドで行われる任務のメンバーは。班長天人、椎名、アガレス、御殿の1E男子4名。カナとアイリーン女子2人には危険な任務の為、2人はヴァンヘイレンでお留守番だ。
椎名が超絶不機嫌な理由それは勿論、大嫌いな神アガレスと同じ班を組まされたから。


ダンッ!

アガレスの机に槍を置いて槍の先端をアガレスに向ける椎名。しかしアガレスは全く動揺せず淡々と読書をするだけ。だから御殿はオロオロ。天人は椎名を掴んで止めに入る。カナとアイリーンは図書室で神々についての勉強中の為今此処には居ない。
「大体何で…まだヴァンヘイレンに居座るの…。早く先生に…自分は神です…って…白状したら…?ていうか…死ね…」
「ストップストーップかなちゃん!任務始まる前からこんなじゃダメでしょーが!いい!?任務中くらい協力しなさいっての!」
「うざっ…」
「うえーん!奏が天人クンの言う事聞いてくれなーい!御殿っちヘルプ〜!」
泣き真似をするが本心は泣きたい天人。助けを求められ御殿はオロオロ。
「え、えっと…!し、椎名さん。任務中だけでも皆さんで協力して戦いましょう。ね?」


ギロッ…

「!!」
「うざいよ…君も…神なんだから…こいつと…同罪…死ねば…?」
「尼子さん!!僕にも止められませんでした!!」
「御殿っち諦めるの早っ!!」


パタン。

本を閉じるアガレスが呟く。
「やれやれ。前途多難だな」
ムカッ…!
誰のせいでイラついていると思っているんだ!という目をして椎名の堪忍袋の緒が切れる。
「そんな他人事のように…。君が居るから…前途多難なんだよ堕天神…!!」


キィン!

「うわーっ!ちょっ!?奏武器しまって!しまえっておい!奏のバカちんーーー!!」



























「え?明日から任務へ行っちゃうんですか?」
ヴァンヘイレンを出て、昨日行ったキユミが暮らしているアパートで話すアガレスとキユミ。
やれやれといった風にショルダーバックをおろして、床に腰かけるアガレス。
「同行する奴に厄介な奴が居てな。前途多難だ」
「ふふふっ。苦手な人とも仲良くしなくちゃいけませんよ」
キユミは楽しそうにクスクス笑いながらジュースを差し出す。
「はい。どうぞ」
「いや、いらん」
「え?そうですか?喉渇きませんか?」
「大丈夫だ」
アガレスが神である事を知った記憶まではまだ戻っていないから、キユミは不思議そうにしながらもジュースを片付けてアガレスの隣に腰かける。そんなキユミをチラッと見てからすぐ天井に目線を移すアガレス。
「この部屋は」
「はい?」
「恋人と暮らしていたのか」
「あ…」
顔を真っ赤にするキユミの様子だけで分かったアガレス。キユミは恥ずかしそうに下を向く。
「レイ君が借りてくれたんですこのア、アパートをっ…」
「……」
「お兄ちゃんの事しか覚えていなくて両親もアガレスさんも清春の事も自分の事も…何もかも記憶を失っていた私はヴォルテスの孤児院で育ちました。身寄りが無いから自動的にヴァンヘイレンに入学させられる事になって…。自分の事もまだよく分からないから、周りの人はみんな怖くてお友達なんて作る気にもなれなかった私にレイ君だけは喜作に話し掛けてくれたんです」
「良い奴だな」
「はいっ…!あと、頭の悪い私に、頭の良いレイ君はお勉強も教えてくれました。レイ君が私をみんなの輪に入れてくれたのでヴァンヘイレンでお友達もたくさんできました。けど…」
そこでキユミの脳裏でつい先日、件の仮面をつけた神に襲われたレイの姿が甦る。
キユミは俯く。そんなキユミをチラッと見るアガレス。
「件の仮面を付けたあの神がっ…、私の恩人のレイ君をっ…殺したんです…!」


カタカタ…

膝に爪をたてるキユミの両手や肩が怒りでカタカタ震えている。
「件の仮面…」
「はい…。件は日本に伝わる生き物です…。人面牛身の生き物…その神は件の不気味な仮面をつけていました…」
「その他に特徴は無いのか」
「あとは…跳力がありました…。家から家を跳んで伝っていく程の跳力が…」
「神ならばそのくらいどの神もできそうだがな」
「うぅっ…、レイ君ごめんなさいっ…」
顔を覆って肩を震わせて泣くキユミを、またチラッと見るアガレス。
「レイ君…うぅっ…レイ君…」
「……。そのレイとやらも災難だったがキユミを守れて良かったのではないか」
「でもっ…、」
「悲惨だったがいつまでも泣いてばかりいてはそいつが悲しむだろう。そいつの分まで生きるしかない」
「ぐすっ…、はい…そうですよね…」
涙を拭って無理をしてでも微笑むキユミ。
「アガレスさん」
「何だ」
「清春は今何処に居るんですか?会いたいです。会って抱き締めてあげたいです。今までごめんね、って」
「……」
「アガレスさん?」
黙ってしまうアガレスにキユミはまた首を傾げる。
「今は…まだ会えんがすぐに連れて来てやる」
「…?何処かに行っているんですか?」
「…まあな」
「あの…。私達、どうして離れ離れになっちゃったんですか?私は記憶喪失になっちゃったのにどうしてアガレスさんは覚えていてくれたんですか?」
下を向いたままフードをまた目深にかぶり、顔を隠してしまうアガレスにキユミは不安になる。
















「あの…アガレスさん…?」
「いつか…いつかちゃんと話す」
「え…でも…」
「いつかちゃんと話すから今はまだ、再会できた余韻に浸らせてくれ」
そう言ってからキユミの方を向く。青い瞳にキユミが。ピンクの瞳にアガレスが映れば、どちらからともなく目を瞑ってキスをする。
短いキスが終わってからキユミが抱き付けば、背中をポンポン叩いて抱き締め返すアガレス。
「でも本当っ…アガレスさん良かった…!思い出せて私嬉しいです…!」
「ああ。レイとやらの分までお前は生きなくてはな」
「はい。アガレスさん。ずっとずーっと一緒に居て下さいね」
「…ああ。そうだな…」


























翌朝―――――

「忘れ物ありませんか?」
「ああ。心配要らん」
任務くらい制服で!と担任に言われたので渋々ヴァンヘイレンの制服を着るアガレス。慣れないネクタイをうまく締めれずに鏡の前で悪戦苦闘。
「ふふっ。ネクタイはこう締めるんですよっ」


キュッ、

キユミがネクタイを締めてあげれば、アガレスは恥ずかしそうにキユミの頭をコツン、と軽く叩く。
「えっ!?私余計な事しちゃいましたか?ごめんなさい」
「ありがとう」
「…!ふふっ。良かったっ」
ショルダーバックを肩にかけて玄関で靴を履き、立ち上がるアガレスはキユミの方を向く。
「さっきも言ったが。俺が任務中不在の間はヴァンヘイレン宿舎で寝泊まりしろ。1人で街外れのこんな所に居たら神々に狙われかねんからな」
「分かりました。アガレスさんも無茶しないで下さいね。神を倒せてもアガレスさんが怪我をしてしまったら何の意味もありませんから…」
コクン、と頷くと背を向けてドアノブに手をかける。
「あっ…!アガレスさんアガレスさん!」
「?」
くいくいシャツの裾をキユミに引っ張られて、首を傾げながら振り向く。キユミは恥ずかしそうにしながらも口を突き出して目を強く瞑っているから、アガレスも珍しく顔を真っ赤に。戸惑いつつも抱き締めてキスをする。
「ご、ごめんなさいわがまま言っちゃって…!」
「い、いや別に構わんが」
「清春が帰ってきたらできないですからっ…!」


コツン、

「痛いっ」
顔を真っ赤にしながらもキユミの頭を軽く叩くアガレス。
「いい加減にしろ」
「ご、ごめんなさい!」
「じゃあいってくる」
「はい。気を付けて。いってらっしゃい!」


パタン…、

部屋を出て扉に背を向けて立つアガレス。
「〜〜〜!!」
扉の前で背を向けたまま屈み、真っ赤な自分の顔を覆う程嬉しくて恥ずかしそうにする。
「はぁっ…!やっと…やっと254年振りに会えた…!」
立ち上がると軽くスキップをしながらアパートの階段を降りる。

『私達に何があったんですか?』


ピタッ…

キユミの言葉を思い出したら、スキップも止まってしまい俯いてしまう。
「…いつか…あいつが思い出すのだろうな…。そしたらまた…昔に逆戻りだ…」

『アガレスさんの顔も見たくない…』

254年前。アドラメレクにバラされて村を襲撃されたあの悪夢をキユミがいつか思い出す事を悟ったら、ほんの束の間の昔のような幸せな今がいつ崩れてしまうのか…。アガレスはタン、タン…とゆっくり階段を降りていった。



























アンジェラの街路地裏――

「へぇ〜!じゃあ今日からイングランドに任務で行くの?私の故郷ね〜♪」
ヴァンヘイレンへ行く途中。先日マリアと会った路地裏で再び話すアガレス。
「じゃあアガレスこの前話したコト。お願いね?アドラメレクちゃんを一緒に倒しましょっ!そうすれば私とアガレスが王になれる世界が作れるでしょ♪」
「…ああ。そうだな。そういえば。貴様は知っているか」
「何なに〜?」
「ダーシー殿の事を皆が忘れているのだが。貴様何かし、」
「してないわよ〜?ちょっとアガレス。私を疑うつもり!?」
ぷんぷんお怒りのマリアにアガレスは首を横に振って笑う。
「いや。ただ聞いただけだ。疑ってはいないが。すまなかった」
「じゃ・あ〜!ごめんなさいのチューで許してあげる!」
「おい」
と言いつつもマリアに軽くキスをするとくるり、と背を向けてスタスタ歩いていく。
「じゃあね〜アガレスまたね〜♪」
「ああ」
背を向けて歩いていき、路地裏を出たアガレスは一度立ち止まると、其所には居ないマリアを睨み付けてからまた歩き出した。一方のマリアはアガレスが見えなくなるまでにこやかに手を振る。アガレスが見えなくなると、その女神の笑みが崩れた。
「チッ…。何よ。勘づいちゃったの?疎いおバカなところが可愛かったのに。アガレスは様子見ね」


























丘の上―――――

「おいぃい!師匠を瓶に入れるとはどういう発想だアホ弟子!!」
自宅の丘の上の小屋にも、ヴァンヘイレンへ行く途中寄ったアガレス。そこでベルベットローゼに瓶を差し出し、コウモリの姿になったベルベットローゼを瓶詰めして任務に連れて行くと言う。その発想にベルベットローゼは怒っているのだ。
「貴様がついていきたいと言ったからだろう」
「そうだけどよ!!オレを瓶詰めとはどういう事だてめぇ!!師匠を敬え師匠を!!」
「だが貴様がついて来たら怪しまれるに違いない。ならばこの手段しかなかろう。嫌ならばおいていく」
「う"っ…!わ、分かったよ!仕方ねぇな!」
腕を組み、渋々了承したベルベットローゼはコウモリの姿になると小さくなり、瓶の中にすっぽり入った。アガレスが小屋を出ようと扉の前に立つ。


バタァーン!!

「hello。ベルベットロー…ゼっ…ってアガレス何あんた倒れてんのよ。邪魔よ邪魔」
「〜〜!」
出ようとしたらラズベリーが開けた扉が顔面に思いきりぶつかったアガレスは鼻を真っ赤にして扉の前に踞っていた。だがラズベリーはお構いなしに「退いた退いた」とアガレスを蹴って中へ入る。
「くっ…、何なんだ一体」
「あらら。ベルベットローゼあんた何でそんな瓶詰めにされてんのよ。そういうプレイ?」
「ふざけんなラズベリーてめぇ!!」
瓶の中で小さくなったコウモリのベルベットローゼにギャーギャー怒鳴られても全く怖くない。
「ていうかどっか出掛けるの?」
「ああ。貴様に構ってる時間は無い」
「あたしだってあんたみたいなガキんちょに構ってる時間無いわよ。今日はベルベットローゼに用事があって来たのよ。ほら。あんたら気にしてたでしょ。ベルベットローゼがアガレスの悪魔の血に毒されて死んじゃう〜って。あれ、悪魔の血を抜く…つまりベルベットローゼが助かる薬完成したわよ」
「!」
















アガレスとベルベットローゼが目を見開くから、ラズベリーは嫌そうに顔を歪める。
「何よ。2人揃って見ないでよ気持ち悪いわね」
「マジかよ!助かったぜラズベリー!てめぇさすが天界唯一の医者だな!」
「フフフ。もっと褒め称えなさい。あたしは命の恩人よ」
小さくなって瓶詰めのベルベットローゼに代わってアガレスがラズベリーからその薬を受け取る。そして今度こそ出て行こうとするアガレス。
「助かった。恩にきるラズベリー殿」
「あー。もう1つ伝える事があったんだったわ」
「…?何だ」
「ベルベットローゼからあんたに内緒で相談されてたから調べた結果なんだけどー…」
ラズベリーは非常に面倒くさそうに頭を掻きながら口を開く。
「ご懐妊おめでとー。清春にきょうだいできるからちゃんと言っときなさいよ。まああの子の事だからぶちギレるだろうけどね。あー面白い」
「な"…!?」
顔を真っ青にしたアガレスがバッ!とベルベットローゼを見るとベルベットローゼはサッ!とコウモリの羽で自分の顔を隠した。


































イングランド―――――

「今任務では〜!イングランドの裏組織ヴァリレアという神々の合成獣所謂キメラを造る愚かな人間共の組織の討伐を行います〜!天人クンの言いたい事分かった?」
「それ…先生から聞いたよ…天人…ウザッ…」
「奏さん!?」
「何度も聞かせるなマッシュルーム」
「マッシュルームって!?髪が白くておかっぱだから!?」
「皆さん!尼子さんが説明してくださっているのですよ!しつこいかもしれませんがちゃんと聞きましょう!」
「御殿っち然り気無く一番キツい事言ってない…?」
班長天人率いる椎名、アガレス、御殿の4人が着いた任務先イングランド。中世の名残が感じられるゴシック調の建物が建ち並ぶ美しい街を歩きながら、目指す。
今任務は天人が話したように、イングランドの何処かに潜む異端裏組織"ヴァリレア"の討伐。ヴァリレアとは、捕らえた神々でキメラを造りそのキメラを使って神を倒し、ましてや人間をも倒し世界征服を目論むもう一つの悪しき存在。
皆に集中攻撃を受けてしょんぼりする天人。だがすぐにケロッとする。
「そういえばさ〜アガレスってなーんで堕天されちゃったん?」
「ああ。誰にも言うなよ」
「言わないってー!アガレスと御殿っちの正体も内緒にしてるじゃーん!」
「人間と婚姻を結び、人間との子をつくったからだ」
「どわーーっ!?え、何ちょ、それマジ!?」
飛び上がって驚く天人と、目を見開く椎名。御殿は苦笑い。
「ああ。本当だ」
「何それ!?そういうの可能なの!?ていうか御殿っちといいアガレスといい、神様モテ過ぎじゃない!?」
「子供…いるの…?君…」
「ああ」
「きもっ…」
明らかに軽蔑して溝鼠を見下す目でアガレスを見てそう呟き、明らかにアガレスから離れる椎名。

















「てー事はアガレスじゃなくて今日からアガレスさんだな!」
「何故そうなる」
「いやいや〜大先輩じゃん色んな意味で〜!」
アガレスと親しげに話す天人のブレザーの裾をぐいっ、と引っ張る椎名。
「何奏?」
「そいつと…慣れ親しまないで…天人…。そいつ…神の上に…人間と…っていう理由で堕天された…気持ち悪い生き物…。天人が汚れる…よ…」
「奏お前なぁ…本人の前で気持ち悪いとか言っちゃ…。…奏さてはお前羨ましいんだろ〜?天人クンもアガレスも御殿っちも彼女いて〜」
「はぁ…?」
天人はバシバシ椎名の肩を叩いて笑う。
「奏は彼女いた事無いからな〜!」
「あるし…」
口を尖らせて不機嫌になる椎名をジーッ…とアガレスが見てくるから椎名はイラッと眉間に
皺を寄せて睨む。
「何…」


ジーッ…

「だから何…。気持ち悪い…見ないでよ…汚れる…。息しないで…空気が汚れる…。死んで…」
「ふっ」
「はぁ…?」
「嘘はいかんな童貞君」


バシャーン!!

「どおおお?!かなちゃん何やってんのー!?」
椎名を嘲笑ったアガレスを傍の湖へ思いきり蹴り飛ばした椎名。バシャーン!と大きな水飛沫をあげた湖からアガレスが顔を出す。


ドスッ!ドスッ!!

「うぐ!?」
そのアガレスの頭を武器の槍でドスッ!ドスッ!と押して、湖へ沈めようとする椎名。慌てた天人と御殿が椎名を引っ張る。
「ちょー!?早速何やってんの奏ーー!!天人クンそんな子に育てた覚えありませんっ!!」
何とか椎名を引き剥がし、アガレスは湖からあがる。
「だ、大丈夫ですかアガレス君?」
「くっ…!あの人間、本気で殺そうとしたぞ」
御殿が声を掛ければ、アガレスはゼェゼェ言いながらも何とか助かる。
一方。ツンと外方を向く椎名に手を焼いている天人は最早泣きそう。
「奏〜!お前頼むから仲良くしてくれよ〜!」
「あいつが…喧嘩売ってきたんだよ…」
「でもその前に奏が気持ち悪いって言って喧嘩売ってただろ!?」
「喧嘩売ってない…よ…。気持ち悪い奴を…気持ち悪いって言った…だけ…」
「うおぉお〜い!奏どこ行くの!!勝手に1人で行っちゃダメでしょーが!バカちん!!頼むから天人クンを困らせないで〜!!」
スタスタと1人で街中へ歩いていってしまう椎名を追い掛ける天人。
「アガレス!御殿っちも!早くこっちこっち〜!」
天人に呼ばれ、御殿が返事をする。
「は、はーい!今行きます!アガレス君、立てますか?」
「ああ。すまん御殿殿」
「椎名さんも椎名さんですが…アガレス君も。人間の方相手に張り合おうなんておとなげないですよっ!」
「煩わしいぞ御殿殿」
「あぁ!アガレス君まで勝手に1人で行っちゃいけませんよ〜!それにそっちは反対方向ですってば〜!」































天界――――――

「清春。またハンバーガーを食べておりませんの?」
暗い鉄格子の部屋にやって来たアドラメレク。
部屋には昨日一昨日分のハンバーガーの山が手がつけられていないそのままの状態で放置されているから、アドラメレクは溜め息を吐く。清春は、部屋の隅で踞っている。
「はぁ。せっかくこのわたくしが下界へ行って貴方だけの為に買ってきてあげたのですよ。それを口にしないとはどういうつもりですの清春?」
「……」
「……。清春。貴方。またペンダントの写真を見ていますの?」
部屋の隅で踞っている清春が首からさげているペンダントの中の写真を見ている事に気付いたアドラメレクは冷たい目をしてペンダントの蓋を無理矢理閉じる。写真には、幼い清春とキユミとアガレスが写っていた。
「あれ程申しましたでしょう。貴方の両親は罪深き罪人であると。両親を憎みなさいと。貴方を育てたのは誰ですの?悪魔堕ちした母親には忘れられ、助けにも来てくれない父親に見放された貴方を育ててあげたのは誰ですの?わたくしでしょう。ならもう両親への感情は捨てなさい。良いですわね?清春」
ペンダントを引きちぎろうとアドラメレクが手を伸ばす。


パンッ!

「…!」
その手を振り払った清春に驚くが、すぐに目をつり上げるアドラメレク。
「わたくしに対して何ですのその態度!」
「金出せば誰でも買えるハンバーガーなんて要らねぇんだし!!母さんが…母さんが俺の為に作ってくれた手料理が本当は食べたいんだよ!!たかがハンバーガーごときで俺をてなづけた気になんなよ!俺は…俺は!本当は父さんと母さんと一緒に居たいんだよ!!」


しん…

「…ハッ!」
今まで散々両親を罵ってきた。だが、それはあくまでアドラメレク達に殺されない為の嘘。
先日アガレスと再会し、キユミの恋人を殺害した事で両親への想いが積もり積もって思わず本音を爆発させてしまった清春。しん…と静まり返ってしまった空気にハッ!とする。アドラメレクが立っている後ろを見れない。
――ヤバい…!殺られる…!――
目を強く瞑り、両親の写真が入ったペンダントを強く握り締めて覚悟を決めた。死の覚悟を。しかし…


コツ…コツ…、

「あ…れ…?」
アドラメレクは清春を殺さず。何も言わず。ただ足音をたてて、部屋から出ていった。拍子抜けした清春は目を丸めて呆然と、遠ざかっていくアドラメレクの背を見ていた。


























ザクッ!ザクッ!

「お、お嬢!?何やってるのよぉ…!?」
天界のアドラメレクの自室から聞こえてくる何かを切る音にひかれてやって来た御子柴が見た光景は。食事をとらない神々が住む天界に不相応なまな板の上のキャベツを包丁で切るアドラメレクの姿。御子柴はアドラメレクにしがみつく。
「どどどうしちゃったのォオお嬢!?頭打ったのォオ!?そんな…料理だなんて!人間の真似事…!誇り高き大神アドラメレクお嬢に似合わないわよォオ!!」


ザクッ!ザクッ!

とんでもない大雑把な切り方だが、キャベツを包丁を使って両手で切っているアドラメレクはただただキャベツだけを見て口を開いた。
「ふん…ただの暇潰しですわ。それより御子柴。清春に伝えておいてくださる?今晩、イングランドへ向かうと。マリアの動向が気になりますわ。それにイングランドにはわたくし達神々でキメラを造る愚かな人間も居るそうですし」
「イ、イヤよ…ワタシあの子好きじゃないもの…お嬢が直接清春に言ったら…?」
「今あの子と会いたくない気分ですの!つべこべ言わずわたくしに従いなさい!」
「ごごごめんなさいお嬢〜!!」
御子柴が去っていった後もまだ、ザクッ!ザクッ!と包丁で野菜を切る音が聞こえていたそうな。























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