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GOD GAME
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「そういやヴァンヘイレンの文化祭っつーとヴァンヘイレンの思惑では文化祭に集まった人間共をオレ達神々が狙うと思っての誘きだし…つまり陽動作戦っつってたけどよ。アドラメレクはそんなちゃちな陽動作戦には乗らないと思うぜ」
「だろうな」
「だが逆に他の普通の何の変哲もねぇ隙ありの日を狙うだろうよ」
「ああ。分かっている」
「だ、だからまあその…だ。安心して文化祭っつーもんをせいぜい楽しんでこいよアホ弟子!」
パタパタと飛び去っていったベルベットローゼ。


ガラガラッ…、

アガレスは窓を閉める。
「ふぅ。そういえば体育館へ行かねばならなかったな。面倒極まりない」
くるり。扉に体を向けると。
「アガレス君今のコウモリって…ベルベットローゼ神だよね…?」
「……」
アガレスを呼びに来たメアが目を見開いて1人立っていた。
「アガレス君が体育館に来ないから…先生に探して来てって言われて来たんだけど…。アガレス君ベルベットローゼ神とお付き合いしているの?」
「……」
「ダ…ダメだよ?ベルベットローゼ神はアドラメレク神側についていて人間をたくさん殺める悪神なんだよ…?アガレス君まで人間に造り直しの儀を施して殺める悪神になっちゃ嫌だよ私…」
「そうではない。あいつはアドラメレク殿に見限られた。だからもうアドラメレク殿の手下では無い」
アガレスはメアの脇を通り、廊下へ出てスタスタ歩いていく。メアは後ろからパタパタ小走りで追い掛ける。
「本当に?アガレス君鈍感だから騙されているとかじゃなくて?」
「鈍感は余計だ雌豚」
「アガレス君を騙してアガレス君の気が緩んだところをベルベットローゼ神達が狙おうとしているのかも…。だってベルベットローゼ神は今まで何度もアガレス君を殺そうとしていたんだよ?」
「煩わしいぞ」
「…ごめんね。騙されていなくて、アガレス君もアドラメレク神側についたんじゃないならそれで良いんだけど…」


カツン、コツン

アガレスが歩く足音とメアのパタパタ。小走りで駆ける足音が異様に響く廊下。
「そういえばね。カナちゃんに恋人できたの知ってる?」
「知るわけ無いだろう。興味も無い」
「そっか…。その恋人が清春君なんだよ」
「何…!?」
バッ!!と目を見開いて振り向いたアガレスは立ち止まる。メアも。
向かい合ってアガレスは呆然としているが、メアは俯きがちで悲しそう。
「冗談はよせ」
「冗談じゃないよ。さっきね文化祭に来てたの。カナちゃんは清春君が神様と人間の子だって事知っていなかったから清春君、カナちゃんに自分の事を話していないんだと思う」
「……」
「あとね。アガレス君にずっと言おうと思っていたんだけど言っても良いのか分からなくてずっと黙っていた事があるの。アガレス君がヴァンヘイレンを自主退学した時、私街で出会った男の子がいてね。その子が清春君だったの」
「……」
「アガレス君この前私に"清春の新しい母親になってもらいたい"って言ってくれたよね。でも…清春君と初めて街で会った時清春君は私を殺そうとしていたよ。それはただ単にアドラメレク神に命令されただけかもしれないけど…私にはね、お父さんを盗った奴だから殺そうとしている清春君の本心が垣間見れたよ。アガレス君はキユミちゃんと清春君の事を想って私を清春君の新しいお母さんに…って言ったのかもしれない。けど、清春君そんなの望んでいないよ。清春君のお母さんはキユミちゃんしかいないんだよ。清春君、アガレス君の事も殺すって言ってるけど…それはきっと本心じゃないと思うの。本当は清春君、お父さんとお母さんと離ればなれで寂しいんだと思うよ。だってまだ260歳でしょ?神様の260歳って人間で例えるとまだ13歳から15歳くらいだよね。清春君が直接寂しいって言ったわけじゃ無くてこれは私の勝手な解釈なんだけどね」
「…そうか」
「うん…」
コクン…、と頷くメア。アガレスは無表情…に見えるが普段より眉尻が下がっていて少し切なそうにも見える。
「私が前言ったみたいにやっぱり、難しいかもしれないけどアガレス君は何とかキユミちゃんに過去を思い出してもらってまたキユミちゃんと清春君と一緒になる事が一番良いと思うよ。お姉ちゃんからアガレス君の過去を聞いちゃったんだけど、アガレス君はココリ村の人間を救った神様なんだからきっとできるよ。アガレス君いつも突っ慳貪だけど本当は優しいの私知ってるよ」
「優しくなど無い。優しかったらキユミの事も清春の事も考えて行動できていただろうからな」
「アガレス君…」
くるり。背を向けてしまうアガレスにメアは悲しそうな顔をする。
「人間のようだと散々嘲笑われた」
「え?」
「一人は平気だが独りが堪えられない。そんな俺は人間のようだと散々嘲笑われたな」
「そっか…。独りでも平気そうに見えてたよ。でも人間に近い性格だからアガレス君は、貧しくて迫害を受けているココリ村の人間を救えたんじゃないかな。人間に近い性格だから人間の気持ちがよく分かったんだよきっと」


キーンコーン、
カーンコーン

「ぎゃあ?!このチャイム、午後の演劇開始10分前のチャイムだ!急ごう!アガレス君!」
慌てて走り出すメア。だがアガレスは廊下の真ん中で突っ立ったまま動かない。
「アガレス君先生に怒られちゃうよ!早くしないと!」
「助かった」
「え?」
「清春の事を教えてくれて助かった。後でまだあいつが居たら話してみようと思う」
「…!うんっ!頑張ってねパパ!」
「誰がパパだ雌豚」
ファイト!のポーズをして照れ臭そうに笑うメアに、アガレスは相変わらず無表情だったが纏う雰囲気は穏やかなモノだった。





























体育館――――――

「お、おお…な、何と美しい雌ぶ…じゃないな。何と美しい姫なんだ」
体育館のステージ上では1Eの出し物。白雪姫の演劇が行われている。ステージ上にセッティングされた小物や木など1Eメンバーが作成した物。(アガレスと椎名以外)
ステージ上では今まさにガラスケースに横たわる白雪姫アイリーンの周りで啜り泣く小人達椎名、天人、カナ、御殿。そして白雪姫の死を嘆く完璧台本棒読みな王子アガレス。ヴァンヘイレンの生徒達が満員の体育館の隅に隠れるようにして観覧しているサングラスの少年は清春。
――何で親父が王子なんだよ!超キメェ!アドラメレクの姉ちゃんが白雪姫でダーシーが悪役なのは納得だけど。つーか!カナ小人役とかどんだけショボいんだよ!!あ"ー超うぜぇ!アホ親父が主役級でどうしてカナがチョー脇役なワケ!?――
イライラ額に青筋をたてつつも、カナの事を見守る清春。
「アイリーンちゃんやっぱり綺麗だね〜」
「白雪姫にぴったり!」
「でも王子様役が何でアイツなの?」
「分かる分かる。堕天神の疑いがあるアガレスがアイリーンちゃんの相手役だなんてアイリーンちゃん可哀想!」
「アガレスなんて先生達がさっさと殺しちゃえば良いのにね〜。アイツが死んだって誰も悲しまないって」
「アハハハ」
観覧している生徒達から聞こえてきたヒソヒソ声に清春は胡座を組んだ太股の上に頬杖を着き、ヒソヒソ話をしていた生徒達の背を同意と微かな怒りとが混ざり合った複雑な表情で見ていた。



















一方。ステージ上では。
「王子様!姫は林檎売りの老婆が売った林檎を食べて亡くなってしまったのです。きっとあの老婆は悪いお妃…。王子様。どうか姫を生き返らせて下さい…!」
ピンクのとんがり帽子と小人衣装を着た小人役のカナが両手を組んでそう言えば、王子役アガレスは姫役アイリーンの前に立つ。
"アイリーンちゃんにマジでちゅーしたら東京湾に沈めるからなアガレス!"
天人の言葉を思い出しながら、アイリーンの顔に一応顔を近付ける。
――誰がこんな雌豚とするものか――
「きゃあ…!」
アガレスの顔が、眠るアイリーンの顔に近付いていけばいく程生徒達からは"本当にキスをしてしまうの?"の意味のドキドキとハラハラの声が聞こえてくる。顔を近付けるだけでキスをする振りをする…と事前に担任からは言われていた。
目を瞑りながらアイリーン…いやアドラメレクはだんだんと近付いてくるアガレスの気配に内心イライライライラ。
――嗚呼悪魔臭い!!演技といえど天界の面汚しの分際がわたくしに近付くなど許すまじ行為ですのよ!!もうそれ以上近付くのはお止めなさいこの面汚し!!嗚呼!ベルベットローゼと共に2人まとめて早くバラバラの肉片にしてしまいたいですわ!!――
そんなステージ上の様子をまだキスの味も知らない上にテレビでも見た事の無い清春は顔を真っ赤にして自分のを手で覆いつつ、指の隙間から微妙に見ていた。
――えぇ!?ちょちょ、ヤバいっしょ!?フツーにヤバいっしょ!?それって結婚してからするヤツじゃない系?!――


















アイリーンとの顔の距離が一番近付いた時。
「そこまでだ!!」
「?」
天人の声が体育館に響き渡り、アガレスは首を傾げるしアイリーンやカナ、椎名に御殿、そして舞台袖に捌けていたメアまでもキョトーン。それは担任のミカエルと、集まった生徒達も同様にキョトーン。


バサッ!!

「!!」
赤いとんがり帽子と小人衣装を脱ぎ捨てた天人は何とその下に、アガレスが着ている王子衣装とは色違いの(アガレスは青)赤い王子衣装を着ていたのだ。
「な!?」
「ん!?」
「だっ!?」
「て…?」
アガレス→メア→担任→椎名の順。
驚くのも無理も無い。台本には全くこんなストーリー書いていないからだ。


ザワッ…

「え?何なに?白雪姫にこんな展開あったっけ?」
「オリジナルストーリーじゃない?」
ざわめく体育館。
そんなものお構い無しに目をキラキラ輝かせ王子衣装を身に纏った天人はビシッ!!とアガレスを指差す。
「我が国の玉座を狙い、姫の略奪を企て、尚且つこの俺の名と姿を偽った魔王アガレス!!」
「えぇええ!?」
舞台袖で驚く担任とメア。


















全くの台本外の天人オリジナルシナリオを勝手に進める天人は「フフフ…」とキラキラ笑っている。
「俺に扮するとは何と愚かな!!姫!今、魔王を倒します!!俺こそが真の王子アマートだ!!」


キラーン!

「キャー!天人く〜ん!!」
キラーン!と決めポーズまでしてみせた天人に観覧している女子生徒のほとんどが目をハートにしてノックアウト。惚れている。
――クククク!王子役になり損ねたのならシナリオを勝手に変えて王子役を奪えばイーイ!天人クン頭イーイ☆本番にやらかしちゃえばさすがに先生も止められないし、観客はこういうオリジナルストーリーだと思い込むじゃーん☆アガレスには悪いけど俺こそが王子様!王子様こそ俺なんだよーん☆――
「さあ魔王!即刻立ち去れ!さもなくば貴様を今此処で切り刻んでみせよう!」
「キャー!天人く〜ん!!」
天人への黄色い声援が大きくなれば、たちまち体育館内は一気に大盛り上がり。すると…
「わ、私も魔王の魔法で老婆にされていた隣国の姫メアなのっ!!」
「!?」
舞台袖から飛び出してきたメアも何と天人に便乗して勝手にメアオリジナルストーリーを入れ込んできた。老婆の真っ黒い衣装を脱ぎ捨てたた下にはやはり、姫のピンク色の衣装着用。アガレスはギョッ!とする。
「ルディお前まで!?先生泣いちゃう…」
シクシク。生徒達が勝手にやらかすから、舞台袖で担任はシクシク泣いていた。
一方、シナリオ外の事をやらかしてきたメアにカナと御殿は苦笑い。
「メ、メアちゃんまでですか…」
「メアちゃんお姫様役やりたかったって言ってたからね…」


















――so cuteメアちゃんナイスー!神様もノリが良いじゃん☆――


キィン…!

何処から調達してきたのか玩具の剣を腰から繰り出した天人。
「隣国の姫君にも魔法をかけた罪は大きいぞ魔王!今成敗して、」


バッ!!

「!!?」
すると天人の前に椎名が片膝を着いて現れた。予想外の展開。これには天人もギョッ!として驚く。
「か、かなちゃん?何して…」
「王子…。ここは僕に…お任せ…下さい…」
「!?まさか奏お前まで…!?」


バサッ!!

椎名の青い小人衣装が宙を舞う。
「!?」
やはり小人衣装の下には騎士の衣装を着て剣を構えた椎名。天人はヒソヒソ声で椎名に話し掛ける。
「か、かなちゃん何やってんの!?ていうか奏お前そんなにノリが良いキャラじゃ、」
「魔王により…今まで小人として…封印されし我が名は…国一の強兵カナーデである…!!」
――椎名君(奏)めっちゃノリノリだーー!!――
一番嫌がりそうな椎名がまさかの一番ノっていた為アガレスとアイリーン以外が笑ってしまう。しかしすぐ天人は椎名のノリに便乗。
「ふ、ふむ。そうかカナーデ。生きていて何よりだ!我が国の強兵の力を魔王アガレスに見せ付けるが良い!」
「承知致しました…王子…」
椎名が剣を構える。が…
「貴様ら…」
「ハッ…!!」
アガレスは下を向き、両手を握り締めて全身をプルプル震わせている。これには椎名とアイリーン以外の1Eメンバーは勘づいた。
――アガレス君こういうノリについていけないんだった!!だから怒ってるんだよ〜!!――
怒りにプルプル震えるアガレスを見て焦った担任。そして天人は椎名の前を飛び出して、アガレスを宥めに行く。
「わ、悪かったって。俺らがハメを外し過ぎたって。だから演劇中は怒るなって。な?アガレ、」


ビシッ!!

「へ?」
顔を上げたアガレスは天人をビシッ!!と指差してこう言った。
「貴様らよくぞ俺の正体に気が付いたな褒めてやろう。そうだ。俺が魔王アガレスだ」


しん…

















「え…っと…あ、あれ…?アガレスお前ノリが良い…の…?」
「ア、アガレス君…?あのっ…」
「俺を倒してみよ!!」
――アガレス(君)が一番ノリノリだったーー!!――
ノリノリなのに顔は相変わらず無表情なアガレスだから態度と表情のアンバランスさに、メアや天人達は苦笑い。一方のアイリーンは口角をヒクヒク引きつらせて…
――全員手の施しようの無い低能ですわ…――
そう思い、最早怒りさえ通り越して哀れんだ目で彼らを見ていた。
一方。椎名も無表情のままブンッ!と何と先程までの玩具の剣を投げ捨てて、愛武器の真っ黒い槍を取り出したではないか。さすがにこれにはメア、天人、カナ、担任は目を見開く。
――し、椎名君まさか…!――
――奏はアガレス達神々を毛嫌いしているから、あいつは演技じゃなくてこれを機会にアガレスを本物の武器で殺るつもりだ!!――
「あのバカ椎名…!」
さすがにマズいと思ったのか担任は舌打ちをし、舞台袖からステージへ飛び出す。しかし担任よりも速く椎名の方が先にアガレスの前に飛び出していた。


キィン!!

椎名の槍とアガレスの槍どちらも本物の武器と武器とがぶつかり合い、両者互角。


ザワッ…!

「ねぇあれって本物の武器じゃない…?」
「やばくない?」
「リアル感を出させる為にわざと本物の武器を使っているんでしょ。まさか演劇内で本当に殺し合わないって!」
観客の生徒達は口々にそんな事を話し出して不信感を抱き始めている。そんな観客の気持ちなどお構い無しに、アガレスと椎名は互角。どちらも引かないし圧せない両者一歩も譲らない展開が続いている。

















武器と武器の向こうに見える椎名の目は瞳孔が開ききっており尚且血走っていて口は裂けそうな程ニンマリ笑っている。まるで狂人な椎名の笑顔には、堕天されてから神の時の力の半分以下なアガレスはさすがに危機感を感じる。
――こいつ、本気で俺を殺そうとしているな――
「ねぇ…」
「何だ」
「いい加減…死んでよ…ね…?堕天神だって事も…証明…されたんだし…。舞台上で…死ねるなんて…かっこいい…と…僕は思うけど…?」
椎名はアガレスにしか聞こえない声で、狂人のようにニンマリ笑みながら言う。
「生憎だがまだ死ねぬ身でな」
「君の予定なんて…聞いてないよ…。ねぇ…みんなには演技だと思わせて…今…此処で…僕に…殺されて…よ…。ねぇ!!」


グワッ!!

「きゃああ!!」
何と椎名の背後からは、今まで椎名が捕らえた神と神の合成獣キメラが小瓶から飛び出した。真っ黒い翼と竜のようなキメラの登場に、これが演出上のものでは無いと分かった観客達から一斉に悲鳴が上がる。
「貴様っ…!」
「ねぇ…言ったでしょ…死んでよ、って…。僕の言う事聞いてよ…。ねぇ…?」


バサ!バサッ!!

翼を羽ばたかせてキメラがアガレス目掛け飛行。
「何やってんだよ奏!!」
天人は数珠を、メアは2本の短剣を、御殿は印をきる構えをとる。今度こそ担任が飛び出そうとする。



パチンッ!

「ギィエエ!ギィエエ!」
「!?」
何処からともなく指と指で弾いたようなパチンッという音がした瞬間、キメラは真っ黒い光に包まれ、ステージの上にバサッ、と落下して気絶してしまった。呆然とする椎名。

















「おいたが過ぎたようだな強兵カナーデ!」
そんな椎名の肩を退かせてアガレスの前に出てきたのは玩具の剣を構えた天人。
「誰がやったかは分かんないけど取敢えずお前はそのキメラを小瓶の中へ片付けろ」
「……」
椎名にしか聞こえない声でそう呟く天人。椎名は面白くなさそうに口をへの字に歪めながらも渋々、小瓶の中へキメラを片付けた。
「姫を助けるのは王子と昔から相場は決まっている!カナーデもメア姫も小人達も皆下がっていろ!俺が今!魔王を成敗し、姫を助け出す!!」


キィン!!

天人が剣を構える。
「ふぅ…」
ようやく戦場から解放され、安堵の息を吐く担任はシナリオとは全然異なるこの1E版白雪姫を舞台袖から見守る事にした。
「アマート王子頑張って!!」
「いくぞ魔王!はぁあああああ!!」
天人は剣を構えながら駆け出す。そして…
「う"っ…!!」
観客にはアガレスの腹部に剣を刺したように見せる。(実際は脇をすり抜けている)アガレスも天人の演技に便乗して苦しそうな声を洩らしながら…


バターン!

ステージ上にうつ伏せに倒れこんだ。
「キャー!天人く〜ん!!」
体育館には、真の王子(?)天人の勝利を讃える歓声が響き渡る。観客ににこやかに手を振りながら天人は、まだガラスケースで横たわったままの白雪姫に歩み寄り、顔を近付ける。近付ける。どんどん近付ける。
――な…何ですのこの人間!?いつまで近付いてくるつもりですの!?え!?ちょっと!まだ近付きますの!?これ以上近付いたら…!――
こっそり片目を開けるアイリーン。アイリーンが間近で見てしまったものは、本当にキスをするのではないか?という程顔が近くて目は瞑っているもののにやけている天人の顔。
「〜〜!!」


パァンッ!!

天人の左頬をアイリーンが思いきり叩いた音が一発。体育館中に響き渡れば、しん…とする体育館。
「ひ、姫…?生き返ったのですか…?」
アイリーンからのまさかのビンタに、打たれた頬を押さえてキョトーンとしている天人。アイリーンはいつもの笑顔では無く、怒りによる真っ赤な顔をして目をぎゅっと瞑り、体育館中に響き渡る声で叫んだ。
「このっ不潔者ーーっ!!」


















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