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GOD GAME
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「今の姿は確か…天界を追放された際アドラメレク神に変えられた別の姿と言っていたな。ならばこれがダーシー殿の本来の姿なのか?」


ギシッ…、

「…?」
床の軋む音がして首を傾げて振り向くと。
「…!ダーシー殿」
月明かりが逆光になっていて表情が見えないが、確かに其処にはメアが立っていた。アガレスは割れた女神像を床に置くと、ポケットに両手を突っ込みながらメアに歩み寄る。メアは下も向いているからやはり表情が見えない。
「ダーシーど、」
「どうしてアガレス君がイングランドに居るの?」


ギクッ!

顔や態度には出さないように受け答えするアガレスだが声が上擦っている事に本人は気付いていない。
「いや別にただその、」
「ストーキングしてたんでしょ!」
「は?」
パッ!と顔を上げたメアの顔はいつもの天真爛漫明るく無邪気な愛らしい笑顔だった。月明かりのせいで先程メアからは神妙な雰囲気を感じたアガレスだったが、今この笑顔を見たらホッとしたそうな。
「私がイングランド行くってカナちゃん達に話していたのを教室で聞いててストーキングしてたんだよ!絶対そうだね!」
「何を自惚れているか知らんが何故俺が貴様を尾行しなければならん」
「はいはい!そういう事にしておいてあげますよ〜だっ。あっかんべーっ!」
イラッ…としたのはメアに本心を悟られたからだろう。するとメアは途端にしゅんとして、忙しい。
「アガレス君…」
「何だ」
「私ねさっきお姉ちゃんに会って話してやっと気付いたんだ。この前アガレス君が私を突き放したのは、自分がいつ悪魔化して我を忘れて私を殺してしまうか分からないからそうなる前に突き放してくれたんだよね?」
「……」
アガレスは外方を向くが、違うと言わないから本当なのだろう。
「それなのに私気付けなくて学校でアガレス君に冷たくしたり無視してごめんね」
「先程から自惚れた発言が多いようだなダーシー殿」
「アガレス君真面目に聞いて。本当の事言って」
「……」
「アガレスく、」
「俺に言わせるな」
「!」
顔を下に向けていたが口調が優しかったから、メアは目を見開いてから胸の前で両手を合わせてにっこり笑う。
「じゃあ本当なんだね!私を突き放したのは私の事が嫌いになったとか私がしつこいから仕方なくお付き合いしてくれたとかじゃなくて、私の事を想ってくれての行動だったんだね」
「……」
「嬉しい…!えへへ。いつも突っ慳貪だけどアガレス君本当は優しいもんね!」

















無邪気な子供のように笑むメアの方を向くアガレスにメアは首を傾げる。いつものようにポケットに両手を突っ込んでフードを目深にかぶり下を向いてわざと表情が見えないように口を開くアガレス。
「アガレス君?」
「キユミには俺の代わりがいて人間の新しい恋人がいるから俺はもうあいつには関わらない方が良い。だが清春にはキユミの代わりがまだいない」
「えっ?」
「今は我を忘れ悪魔化時の記憶も度々無くなる事があるから無理だが、もしそれが無くなったらいつか…」
「無くなったら?」
少し下唇を噛み、言い辛そうに迷いながらも下を向いて表情が見えないようにしながらアガレスは再度口を開く。
「貴様には清春の新しい母親になってもらいたいと考えている」
「…!じゃあそれって私はアガレス君の何になるのかな?」
「……」
「ねぇってば〜!アガレス君の何になるの?ねぇねぇ。ねぇってばアガレス君〜!」


ガンッ!

「ひぃ!」
壁を蹴るアガレスにメアが小さく悲鳴を上げる。
「煩わしい奴だ。貴様は雌豚のまま。雌豚は雌豚のままだ」
「ふふっ。本っ当素直じゃないなぁ〜」
「何だと、…!!」
メアが両手を後ろで組んでズイッとアガレスの顔を下から覗き込んできたから驚いたアガレスは更にフードを目深にかぶって自分の顔を隠す。
「ふふっ♪遠回しなプロポーズありがとう。嬉しかったよアガレス君!」
「何がプロポーズだ。そんなものした覚えは、」
「ごめんねっ!!」


パンッ!

「は?」
顔の前で両手をパンッ!と合わせて強く目を瞑り謝るメアに、アガレスはようやく顔を上げて眉間に皺を寄せ首を傾げる。
「何を突然謝る」
「本当は夏休みが終わってからみんなに言おうと思っていたんだけど…。アガレス君にはお世話になってるからアガレス君にだけ一番に言うね。でもみんなには私から伝えるから、みんなには内緒にしていてね」
「だから何をだ」
「私結婚する事になりましたっ!!」
「……は?」






















しん…
沈黙が起きるが、メアはくるん♪と嬉しそうに回転。しかし逆にアガレスは目が点で、メアの言葉の意味がまだ理解できていない様子。
「ケッコン?誰が」
「私わたし!」
「なっ…、」
「お姉ちゃんに紹介してもらったヒトと結婚する事になりましたっ!!」
「なっ…、どこのどいつだ!」
「そんなお父さんみたいな聞き方しなくても良いでしょ〜。なーいしょ♪でもアガレス君より優しくてカッコいいヒトだよ!名前はグリエルモ・バッドマンさんっていうの」
ぴょん!ぴょん!とけんけんぱをしながらマリアージュ大聖堂を出ていこうとするメアをアガレスはまだ目が点で信じられないといった表情で追い掛ける。
メアは扉を出る直前でピタリと止まる。
「おい!ダーシー殿!会って間もない奴なんて怪しいと思わんのか!」
「だからお父さんみたいな言い方しないでよねっ。私が良いって思ったからそれで良いんだよ。…文化祭。夏休みが終わってすぐ文化祭があるよね?その後すぐヴァンヘイレンを辞めてイングランドに移るから。あとちょっとしか一緒に居られないけど最後まで仲良しなお友達でいてね」


キィッ…、

「おい雌豚!」
背を向けたままそう言い残して外へ出たメア。アガレスはすぐバンッ!!と扉を乱暴に開けてメアの後を追うが…
「くっ…、居ないか」
そこにメアの姿は既に在らず。
「おーいアホアガレス!」
「……」
すると、先程ベルベットローゼから渡されていた白い羽の形をした通信機からベルベットローゼの暢気な声が聞こえ出す。だがアガレスは返事をせず下を向いたまま。
「おーい?おいっ!返事くらいしやがれコノヤロー!今マリアージュ大聖堂から北に2km歩いた宿に居るから来たけりゃ来やがれよ。てめぇ金無ぇんだろ。じゃあな」


ブツッ!

通信が切れるとアガレスは下を向き、ポケットに両手を突っ込んだまま1人、マリアージュ大聖堂を北に歩いて去っていった。
「うっ…、ひっく…、」
そのマリアージュ大聖堂の真裏ではメアがアガレスに隠れて、胸に両手をあててボロボロ泣いていた。
「うぅっ…結婚なんて嘘だよ…カナちゃんやアガレス君みんなと一緒に居たいけど居たらみんなが殺されちゃう…」


ぎゅっ…、

胸元でくまのキーホルダーを握り締めた。
「アガレス君助けて…!!」































宿――――――

「何だよこのボロ宿!シャワーが水しか出ねぇじゃねぇか!…っておい。居たなら居たって言えよなアホ弟子」
シャワーに怒鳴りながら出てきたベルベットローゼ。宿の一室にはアガレスが背を向けてベッドに腰掛けていた。真っ暗で窓から射し込む月明かりしか無い暗い室内に似て何だかアガレスの雰囲気も暗い。
――…!待てよ。オレに背を向けてる今がチャンスじゃねぇのか!?――
ベルベットローゼはそーっとそーっとアガレスの背後に歩み寄り、後ろからアガレスの首に両手を伸ばす。
――殺せ殺せ!コイツを殺してアドラメレクの誤解を解くんだ!殺せ殺せ!オレの馬鹿げたコイツへの感情を殺せ!――
首に手が触れる寸前。
「昼間」
「は、はひっ?!」


ビクッ!!

背を向けたまま声をかけられ、思わずビクッ!としてすっとんきょうな声が出てしまったベルベットローゼ。決意がまたしても揺らいでしまう。
「ひ、昼間何だよ!早く話しやがれアホ!」
「昼間言った事は本当なのか」
「あぁ?昼間オレが何を言ったって?」
「本当ならばそれが理由でアドラメレク殿に見放されたというのも改めて考えれば頷けるな」
「だから何の事だよ!はっきり言えよアホが!」
「おとなしくアドラメレク殿についていれば身の安全は保証されたものの。わざわざ敵対する相手に好意を抱くとはとんだ雌豚だなベルベットローゼ殿」


カチンッ…!

アガレスが何を言いたいのかようやく理解したベルベットローゼの殺意が蘇り、そのままベッドに押し倒してアガレスの首を締め付けた。しかしアガレスの顔は目深にかぶったフードで見えない。口元しか見えない。


















「てめぇ…!オレをおちょくるのもいい加減にしろよ堕天されたアホ神の分際で!!オレがてめぇに好意を抱いているだ?そんなのてめぇを殺す為にてめぇがオレに気を許すようにする為の嘘に決まってんだろ!!自惚れてんじゃねぇよ!」
「……」
「誰がてめぇみたいな天界の面汚しを好くかよ!!オレは天界の幹部だぜ?てめぇみたいな面汚しと対等に扱われると吐き気がするんだよ!!」


ギチギチッ…!

ベルベットローゼがアガレスの首を締め付ける力が強くなる。
「慰めてやるとも言ったよな」
「だからそれは演技だっつってんだろが!!」
「演技、か。マルセロ修道院。ココリ村。MARIAサーカス。そして今。どれも本気を出せば貴様くらいの力量の神。堕天された俺など容易く殺せると思うがな」
「んなっ…!?ざけんじゃねぇ!!オレはっ…、がはっ!!」
ベルベットローゼの腹を蹴ればアガレスの首から手を放してしまうベルベットローゼ。その隙に形勢逆転。今度はアガレスがベルベットローゼを押し倒す。勿論ベルベットローゼは暴れる。
「離っ、せ!堕天野郎!!」
「キユミも清春もダーシー殿もみんな居なくなるしな」
「?!何独り言呟いてんだよ気持ち悪りぃんだよてめぇ!!いいからそこを退けよ!!」
するとまだフードで顔が見えないアガレスの右手がベルベットローゼの顎を持ち上げる。ベルベットローゼは目を見開く。
「んなっ…!?てめぇふざけんのもいい加減に、」
「本当に演技かどうかはすぐ見抜けるだろう」
「なっ、…!!」
アガレスから唇がベルベットローゼの唇に重なれば言葉を飲み込んだベルベットローゼは目を見開く。
「っは…!てんめぇ…!」
触れるだけのキスがすぐ終われば口では言いつつもベルベットローゼは顔を真っ赤にして睨むから説得力が無い。
「だから元上司を馬鹿にするんじゃねぇっつって、んんっ!?」
続くはずの言葉を遮られまた目を見開くベルベットローゼ。先程より長いキスに最初は苛立っていたベルベットローゼだったが、全身の力が抜けてアドラメレクの顔も脳裏から消える。そんなベルベットローゼは顔を真っ赤にしたまま目を瞑りアガレスの背に腕を回して2人ベッドに沈んだ。


カチッ…、

首元の上着のファスナーを下げながらアガレスは白い歯を覗かせて笑う。その下では顔が火照ったベルベットローゼが怒りと恥ずかしさが混ざり合った目をして見上げている。
「てんめぇ…はぁ、ドチビ!いい加減にしろよ…!はぁ…」
「最中だけでもその男口調をどうにかしろ雌豚」
「んなっ…!?てめぇ、…!」
再びアガレスから唇が重なればベルベットローゼは目を見開いてから静かに瞑り、アガレスの背中に回した両腕で彼を自分の方へ引き寄せた。































天界―――――――


グシャッ!!

「お嬢様」
「お黙りなさいマルコ。わたくしは今気が立っておりますの。話し掛けないでくださる?」
マルコが渡したベルベットローゼとアガレスの写真を踏み潰したアドラメレク。マルコは静かに下がる。
アドラメレクが踏み潰した写真を握り締める。
「あの低能女…!このわたくしをよくも裏切りましたわね…!!」
陰で隠れている御子柴が声を掛けられない程怒っているアドラメレクが握り締めた写真は粉々になり、やがて花弁のようにバラバラになり床に散る。
「この写真のようにしてくれますわ、ベルベットローゼ…!!」



















夏休〜魔女編【完】







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