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GOD GAME
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18:00―――――――
白い聖マリア大聖堂をオレンジが染める夕暮れ。
「今日はたくさんお話しできたわねダーシー」
「うんっ!」
あれからずっと聖マリア大聖堂でマリアとメアは2人仲良く思い出話に花を咲かせていた。気が付けばステンドグラスから射し込むオレンジ色の夕陽。
「あら。もうこんな時間ね」
「本当だ。気付かなかったよ。えへへ。お姉ちゃんと話していると楽しくって時間が経つのも忘れちゃうね♪」
「うふふ。ダーシーったら♪」
頭を撫でれば、メアは子猫のようにマリアに頬擦りをして甘えるから、マリアも母親のような女神の笑顔で愛でる。
「そういえばダーシー。いつもに増して可愛くなったんじゃない?」
「え?そんな事…」
「好きな人でもできたのっ?」
「ふえっ?!」


ボンッ!!

一瞬にして顔を真っ赤にし、頭から湯気を出したメア。マリアは左手人差し指を指して満面の笑み。
「うふふ。せいかーい♪誰だれ?それはどこの誰なのダーシー?」
「えええ〜!?」
ぐいぐいメアの頬をつついて顔を近付けて詰め寄るマリアに、メアは顔を真っ赤にして慌てる。その慌て様が半端ではない。メアは恥ずかしそうにしながらも視線を右横にずらして小さな声で呟く。
「お、同じヴァンヘイレンに通ってるア…アガレス君っ…」
マリアは両手を合わせて目を見開き瞬きを何回もパチパチして驚く。
「まあ!アガレスなの?」
「お、お姉ちゃん知ってる?アガレス君堕天されてから今下界でヴァンヘイレンに通っているんだよっ!私達でアドラメレク神に立ち向かおうって!」
「似た者姉妹ね〜私達♪」
「え?どうして?」
「だってアガレスは私の昔の恋人だもの♪」
「えぇええぇえ!?」


ガッターン!!

「あらあら。ちょっと大丈夫?ダーシー?」
驚愕のあまり思わず後ろへひっくり返ってしまったメア。マリアが心配そうに覗き込めば、チャームポイントの長いツインテールをくしゃくしゃにしながらも転んだままのメアは「だ、大丈夫っ…」と何とか大丈夫そうだ。



















ガバッ!
起き上がり制服と髪に付いた埃を払うとメアはズイッ!とマリアに身を乗り出す。
「そそそれっていつ!?アガレス君が堕天される前?!」
マリアは自分の口に人差し指をあてながら「うーん?」と右斜め上に目線を向ける。
「彼が神様として生まれて初めての会議の時だったかしら?何せ2000年以上前だからね〜♪」
「そ、そうなんだ…」
――じゃあ人間のキユミちゃんと会うよりもっと昔だね…――
「そんな事より!で!で!ダーシー想いは伝えたの!?貴女愛欲神なんだから自分の想いくらい伝えられたのでしょう?」
メアは顔を真っ赤にして恥ずかしそうにする。
「つつ、伝えられたよっ!最初は断られちゃったけど…」
「あら?でも貴女、日本の御殿が大好きって言ってなかった?」
「御殿さんの事は大好きだよ。でもアガレス君に出逢ってからそのっ…えっと」
「気になっちゃったのね!」


カーッ!

耳まで真っ赤にしてぶんぶん縦に頷くメアの頭をくしゃくしゃに撫でて「可愛いー!」と猫可愛がりするマリア。
「で!で?伝えられたのならお付き合いしているんでしょう?」
「お姉ちゃんぐいぐい聞き過ぎだよ〜!!」
「あら♪良いじゃない。可愛い妹分のお話を聞いたって」


















マリアは椅子に掛け直して脚を組み、笑顔で目を瞑りながら思い出にふける。
「そっかー。ダーシーも、ねぇ。笑っちゃうわね♪」
「う、うんっ」
「でも彼突っ慳貪で2人きりで居てもムードもへったくれも無いでしょう?」
「そうそうっ!気に入らない事があると女の子の前だろうと壁をガンガン蹴ったりするんだよ!」
「やっぱり変わらないのね〜!うふふ。それにいーっつも目付き悪いし」
「笑わないし!」
「「雌豚って呼ぶし!」」
2人声を揃えて同じ事を偶然言ったから、ぱちぱち瞬きをしてから2人はおかしそうに楽しそうに笑う。
「あははっ!お姉ちゃんも同じ事言ったねっ!」
「うふふ!私達やっぱり姉妹ね♪」
仲の良い姉妹らしく笑い合い、メアの鼻をつん、とつついて笑むマリア。
「でも何でか気になっちゃうんだよね〜。自分でもびっくりしちゃったよ。本当は御殿さんみたいにいつもにこにこしていてみんなに優しい神様が好きだったのに〜って」
「御殿みたいな子は良い子だけれどいつも優しいばかりじゃつまらないものよ」
「そうかなぁ〜?」
メアは顔を伏せて、ふにゅ〜とした顔をしながらマリアと会話する。
「アガレスみたいにいつも突っ慳貪な子がたまに優しい一面を見せるからダーシーも気になっちゃったんじゃないかしら?」
「そうかもっ」
「でも彼じょうずよね」
「??何が?」
「えっちが」
「ぶーーっ!!」
「きゃあ!ちょっとダーシーどうしちゃったの日本のお笑い芸人みたいに吹き出しちゃって?」
思わず吹き出してしまったメアの心情が全く察せないマリアは天然なのだろう。首を傾げてただただ不思議そうにしている。
一方のメアは顔が真っ赤、冷や汗ダラダラ、何故か鼓動ドクドク。怒ってみせるが顔が真っ赤だからちっとも怖くない。
「してないもんそんな不浄な事っ!!」
「あらあらダーシーったら。アドラメレクちゃんみたいな事を言い出して」
「わわわ私はっ!敵から助けてくれたり、くまさんのキーホルダーをおそろいにしてくれるところが好きなだけだもんっ!!そそそんな厭らしい事嫌いだもんっ!!」
「うふふ。タコみたいに顔真っ赤にして怒っちゃって可愛いわね♪心配しなくて大丈夫よ。その内彼から手解きしてくれるから♪」
「だからもうお付き合いしてないんだってば〜!!」
「あら?そうだったの?」
「う、うんっ…」
途端にさっきまでの顔の火照りが引き、しゅんとして座ってしまうメア。マリアもメアの変化に気付き、首を傾げて横から顔を覗き込む。
「それをね…お姉ちゃんに相談したくって来たっていうのもあるんだけど…」
「なら早く話してくれれば良いのに!遠慮しないで話しなさい。私達姉妹でしょ?」
「うんっ…」
大聖堂に射し込んでいた夕陽がいつの間にか消え、外からは月明かりのみが射し込む暗いが神秘的な光に包まれる大聖堂内だった。





















「そう…。そんな事を言われちゃったのねダーシー」
すっかり月も天高く昇った19:50。
しょんぼりしてひくひく泣きながら話してくれたメアの小さい肩をポンポン優しく撫でて慰めてあげるマリア。
「私の明るいところに救われたって言ってくれたのにこの前は私の明るいところが迷惑だって言われちゃったの…。やっぱりアガレス君、私がしつこいから無理してお付き合いしてくれていたんだよきっと…」
「私は違うと思うわよ」
「えっ…?」
ポロポロ涙を流しながら顔を上げたメア。涙に濡れたその顔。涙を純白のハンカチーフで優しく拭いてあげるのはマリア。
「彼、アドラメレクちゃんに堕天された時悪魔にされたでしょう?それにここ最近の彼は突然豹変して悪魔のように狂暴になったそうじゃない」
「どうしてそれを知ってるの?」
「マルコが言ってたのよ」
「そっか…」
メアの脳裏では、1ヶ月前のMARIAサーカス団任務で対峙したマルコを、悪魔化が進んだ別人のように狂暴なアガレスが倒した姿が思い出される。
「だからね。私が考えるに。彼は突っ慳貪で"本当に私の事好きなの?"って態度ばかり女の子にとるけれど本当は優しい子だから、いつ自分がまた突然悪魔化して豹変するか分からない。豹変した時にダーシーを殺してしまうかもしれないから、わざとダーシーを突き放す言葉を言ってダーシーが自分を嫌うように仕向けたんじゃないかしら?」
「…!そうだったの…かなぁ…」
「そうよきっと♪」


ポロッ…ポロッ…、

「ダーシー?」
大きく潤んだチワワのような瞳からポロポロと涙を溢れさせたメアは顔を覆う事も忘れ、恥ずかしげも無く涙を流す。
「うぅっ、そうだったのかなぁ。そうだよねきっと。アガレス君いつも私に嫌味ばかり言うけど本当は優しいもん。でもアガレス君嘘吐けないから、あの言葉も本心だと思っちゃったの。うぅっ、それなのに私アガレス君の優しさに気付けなくて学校で無視したり冷たい態度とっちゃったよ〜!お姉ちゃん、私もう嫌われちゃったかなぁ?私本当はアガレス君のお嫁さんになりたいくらい好きなの!」
マリアの胸に顔を埋めて泣くメアの頭を「よしよし」と撫でるマリアの瞳は優しい。正真正銘の女神だ。
「そうねそうよね。ダーシー素直だもの信じちゃったのよね。仕方ないわ。逆にアガレスは素直じゃないもの。ダーシーが気付けなくて仕方ないのよ。…でもねダーシー。お互い本当に大切だから離れなくちゃいけない時っていうものがあるのよ」
「うっ…ひっく…、離れなくちゃいけない…時?」
「そう。ダーシーにはまだ分からないかもしれないけれど、アガレスはそれを分かっているのよ。アガレスが悪魔化してダーシーを殺してしまわないように離れるという理由も一つだけれど…。ダーシー貴女、アガレスがどうしてアドラメレクちゃんに堕天されたか聞いたかしら?」
「うんうん…」
首を横に振るメアにマリアは「やっぱり」と溜め息。


















「あ!でももしかしてあれかなぁ?人間の女の子と結婚した事?」
「ピンポーン。正解。あとは清春って知ってる?」
「うん。アガレス君の子供だよ」
「神と人間は本来相容れない存在なのにアガレスは人間と結ばれて尚且つ、神と人間の血を分け隔てたこの世でたった1人の存在を生んだ。それが清春ね。ただでさえ色恋沙汰を不浄と思うアドラメレクちゃんはお怒りだったのに、ましてやその結ばれた相手が人間で、清春という子供まで生んだでしょう?」
「それがアガレス君が堕天された理由なの…?」
マリアは頷く。メアは悲しそうに俯いた。
「その時ね、魔界の悪魔達や天使達からとーっても笑い者にされたのよアドラメレクちゃん。ほら。アドラメレクちゃんってプライドがとても高いでしょう?だからアガレスのせいで笑い者にされて傷付いた自分のプライド。アドラメレクちゃんってばもうすっーごく怒っちゃってアガレスが神をしていたヴァイテル王国のココリ村を焼いちゃったの」
「…!それってキユミちゃんの故郷…!?」
「あら。アガレスの奥様はキユミっていうの?知らなかったけれど、でもそういう事になるわね。因みにそのキユミちゃんのご両親とココリ村の人間を全員皆殺しにしたの。アドラメレクちゃんが。でもキユミちゃんにしてみればアガレスが自分が神である事を秘密にして、キユミちゃんに自分は人間だと偽って結婚したからこんな事になったんだ!って思うわよね?」
「そんな事があったんだ…」
「本来なら堕天された神はアドラメレクちゃんによって祟り神にされるの。けれど、悪魔が割り込んできちゃってね。キユミちゃんのお兄さんとキユミちゃんとアガレスを悪魔にしちゃったから、またアドラメレクちゃんお怒りよ」
「……」
何となくキユミと清春がアガレス堕天の理由なのだろうなとは思っていたメアだったが、ここまで被害が及ぶ大罪を犯していた事は初めて知ったから、自分のショックとアガレスの気持ちになったら尚更落ち込んでしまった。



















「清春もだいぶ怒っているわね〜。あ。清春はアドラメレクちゃんが連れ去ったから今アドラメレクちゃん側についているのだけどね。清春はお母さんや自分のお祖父さんとお祖母さんと叔父さんをあんな目に合わせたアガレスにだいぶお怒りよ」
「そう…だったんだ…。なら私!尚更アガレス君の傍に居てあげたい!アガレス君にはうざがられるかもしれないけど…。アガレス君一匹狼を振る舞っているけど本当は寂しいんだよ!うわ言でキユミちゃんと清春君の名前を呼ぶくらい!だから私だけでも傍に居てあげたいよお姉ちゃん!」
「ダーシーは本当に優しいわね。でもねダーシー。それがいけないの。彼の為にも」
「そんなの分かっているよ。でも私はっ…」
メアの頭を抱き寄せて優しくきつく抱き締めるマリアは強く目を瞑っていた。悲しそうに。
「ダーシーには酷なお話だけど、彼にはキユミちゃんと清春がいる。彼はキユミちゃんと清春の為に罪滅ぼしをしなくちゃいけないの。そこにダーシーが割り込んじゃいけないの。キユミちゃんの為にも、清春の為にも彼の為にもそしてダーシー貴女の為にも」
「…うんっ」
「彼の事が本当に大切なら身を引きなさい。分かるわよね。良い子なダーシー貴女なら」
「分かった…分かったよお姉ちゃん…」
スッ…、とマリアから離れたメアは俯いたままだからマリアは酷く悲しそうに、妹分を見つめる。
「私馬鹿だね…。アガレス君の為にも傍に居てあげたいって言っておきながら本当は私が傍に居たいだけなんだ。せっかくアガレス君が突き放してくれたのに。前は私がそう言ってアガレス君を突き放したのに。おかしいな。逆になっちゃったね」
「でも大丈夫よダーシー」
「え…?」
まだ涙で濡れた目で首を傾げて顔を上げるメア。マリアは左手人差し指を立ててにこにこ微笑んでいた。
「こんな事もあろうかと思ってダーシー貴女にぴったりな新しい恋人を探しておいたの♪」
「新しい…恋人…?」
「初めましテ。こんばンワ」
「?」
男の陽気な声がして、メアはツインテールを靡かせながら後ろを振り向く。其処にはスキンヘッドに黒いシルクハットをかぶり、右目だけの眼鏡をかけて所々金歯があり、黒いスーツを着て太った中年の男がにこやかに立っていた。
「貴方は…?」
男は自分の左胸に手をあててからシルクハットを軽く持ち上げ、紳士に挨拶をする。
「私はグリエルモ・バッドマンと申しまス」
釈然としないながらもメアは頭を下げる。
「嗚呼。申し遅れましタ。職業は神々の合成獣造りつまり…神々のキメラ作製でス」
「!?」


バッ!

目を見開いたメアがマリアの方をバッ!と勢い良く振り向くが、マリアはにこにこしたまま。


















目を見開くメアの表情が変わる。信じていた愛する人に裏切られた怒りと悲しみと困惑が混ざり合った何とも例え難い表情に。
「お…お姉ちゃん…?このヒト…人間…だよね…?神々のキメラ作製って…。え…?このヒト…お姉ちゃんや私の正体を知っているの…?」
にっこり。マリアは女神の優しい笑顔のまま口を開く。
「ええそうよダーシー。彼バッドマンは、本来姿の見えない私達神々の姿が見える霊感の持ち主なの。だから私達が神である事がバレちゃった」
「!!」
「さっき話した、イングランドの神々による造り直しの儀が施されないのは私のお陰って話。あれぜーんぶ嘘。本当はコイツに私達の存在を知られたから造り直しの儀を施せないでいるの。人間に手を出したらコイツの人間離れした力でキメラにされちゃうから。された下級神々もたくさん居たわね〜確か〜」
プルプル小刻みに震え出すメアの両手いや、全身。メアはキッ!と顔を上げてマリアを睨み付ける。
「じゃあお姉ちゃんがさっき私に話した事は全部嘘だったの!?お姉ちゃんはアドラメレク神に反対しているから人間を守る女神様だって話したのは全部嘘だったの!?」
「うふふ。そーうっ♪そうやって人間を私に心酔させたところを殺ろうって魂胆だったの♪でもバッドマンのせいで人間に手を出せなくなっちゃったけどね」
「っ…!!」
「でも私、造り直しの儀なんてしたくてしてるわけじゃないの」
後ろで手を組んで大聖堂内を歩き出すマリア。カツーン、カツーン、とマリアの足音が夜の静かな大聖堂に響き渡る。



















「造り直しの儀って元々は人間嫌いなアドラメレクちゃんが始めた儀式でしょう?私人間なんて本当はどうでもいいの。私が殺りたいのはアドラメレクちゃんだけ」
「え…!?」
「私がアドラメレクちゃんより昔に生まれた神だって事はダーシー知ってるわよね♪でもアドラメレクちゃんったら私達年長神々より後から生まれた部下なのに力があるものだから私達上司を敬いもせず、寧ろ強いたげたの。だから怒ってアドラメレクちゃんに反抗したけど…私達以外殺られちゃった。だからそれからは私達おとなしくアドラメレクちゃんに従っているの。だからアドラメレクちゃんが行う造り直しの儀も本当は面倒だけれど一応してるの。ほら。そうすればアドラメレクちゃんに反抗しませんよ〜従いますよ〜って思ってもらえるでしょ?まあ私の事は随分嫌っているようだけどね♪」
ぴょん!と長椅子に座り、足をパタパタさせてにこにこ笑うマリア。対称的にそんなマリアを睨み付けるメア。
「そんなアドラメレクちゃんみたいな怖いお顔しなーいの♪可愛い顔が台無しよダーシー♪」
「許せない!!自分達がアドラメレク神に殺されない為に保身の為に罪の無い人間を殺めていたなんて許せない!!お姉ちゃんは人間の命を玩具としか思っていないよ!!」
「人間の命だけじゃないけどね♪」
「っ…!!許せない!!」


タンッ!

メアは踏み込むと武器の白く羽の付いた2本のナイフを繰り出し、にこにこ笑ったままのマリアに向けて駆ける。
「はぁあああ!!」
マリアはにこにこ微笑んだままメアに向かって宙に一本線を引く。
「お喋りダーシーとはよく言われたものね、ダーシー♪」


キュッ!

「んンッ!?」
メアに向かって宙に一本線を引いたマリアの力によって、口をまるでチャックのように閉められてしまったメア。動揺して立ち止まったメアの背後に、月明かりに照らされた片目の眼鏡がギラリと光る。
「!!」
ハッ!として気配を感じ取ったメアが咄嗟に振り返るが…


ドスン!!

「無駄な抵抗だという事は分かっているはずですヨ。ダーシー・ルーダ神」
背後から巨体のバッドマンにのし掛かられ、小柄なメアは身動きが取れなくなる。
「ンー!!ンンーッ!!」
口にチャックをされていて喋れないながらももがき暴れるメアの前に、やはりにこにこしたままのマリアが立つ。
「どう?バッドマン。とっても可愛い神様でしょ。私の可愛い妹よ♪神を1人実験台として献上する代わりに私達を見逃し、私達に協力する約束。これで果たしたわよ♪」
「!!」
マリアの言葉に、メアは目を見開く。一方のバッドマンは両手を叩いて御満悦。
「これは素晴らしいですネマリア神!本当は行きの列車で出会ったアガレス神かベルベットローゼ神が良かったのですが」
「!?」
「あの2人は馬鹿だけれど力はあるから私達でも捕まえられないのよ♪だから可愛い可愛いダーシーで我慢して。力はあの2人より無いけれど神は神でしょう?」
「ふム。そうですネ。今までにコレクションしてきた神々よりは力がありそうですカラ、良しとしましょウ」
「そう言ってくれると思っていたわ♪ありがとうバッドマン♪」
――行きの列車で出会ったアガレス神…!?どうしてアガレス君がイングランドに居るの!?――
「ダーシー♪」
くいっ、と顎を持ち上げられてもマリアを睨み付けるメア。しかしマリアはやはりにこにこ微笑んでいるから、メアの睨みなど全く堪えていない。
マリアがキューッ…、と宙に一本線を引くと今度はメアの口が開いた。
「この事を他言したらダーメよ♪」
「そんな約束できないよ!!それに私はこのヒトのコレクションになんてならない!お姉ちゃんの事も敵と見なす!!だって私は人間を守る為に生まれた神様だもん!!」
「あーっいいの〜?他言したらアガレスやカナや奏に天人を殺っちゃうけど♪」
「!?ど…どうしてヴァンヘイレンのみんなの事を知っているの…!?」
ニィッ…。口が裂けそうな程笑うマリアが、メアの後ろを指差す。メアもつられて振り向く。
「私は知らないわよ♪あの人に聞いて♪」


カツン…コツン…、

「1カ月振りですね。哀れな女神ダーシー・ルーダ」
「…!!マルコ神…!?」
足音をたて、怪しい月明かりに照らされながらにこやかな神父の笑顔で姿を表したのはマルコ。メアは目を見開き、驚いた。マリアが嘘を吐いていた時以上に。


















「どうしてマルコ神が此所に!?だってマルコ神はアドラメレク神の配下で、お姉ちゃんはアドラメレク神と対立しているのに!?」
「驚かれるのも無理はありません。私はマリア神と同じ40億歳であり、アドラメレクに反抗をする徒党メンバーの1人だったのですよ」
「!?じゃあマルコ神貴方はアドラメレク神を裏切っているの!?」
マルコはにっこり笑む。
「お嬢様の側近として仕え、お嬢様の信頼を得るのはそれはそれは大変苦痛な日々ですよ。私達年長神々を強いたげた憎き若造アドラメレク神に媚びへつらうのはね」
「…!!」
にこやかにサラリと言ってしまうマルコに、マリアは「ふふん♪」と頬杖を着きながら楽しそうに話を聞いていた。
「ヴァンヘイレンのメンバーの名前を知っているのは私がよくお嬢様からお聞きしているからです」
「え…?」
「おや。何を言っているのか分からないといったご様子ですね。今までお気付きなられなかったのですか?ヴァンヘイレン1Eの生徒アイリーン・セントノアールは人間に化けたアドラメレク神だという事に」
「アイリーンちゃんが!?」
「ぷっ!」
目を見開き驚くメアの事を口に手をあてて吹き出して笑うマルコ。
「これはこれは失礼。憎き敵を"アイリーンちゃん"と呼ぶとは。無様ですねダーシー・ルーダ神」
「っ…!!」


キィン!

短剣をマルコに繰り出すメア。しかし…
「お出でなさい、地の果てより。ランドローバー神」


ガシャン!!

「きゃあ!?」
マルコが繰り出した分厚く茶色い表紙の聖書がパラパラ!と捲れれば、マルコが呼び出した黒い影に目玉がついた姿のランドローバー神が聖書の中から飛び出してメアの両手両足を鎖で拘束した。身動きのとれないメアを、マルコ、マリア、バッドマンの3人が声高らかに笑う。
「ははは!」
「うふふふ」
「フフフフ!」
「くっ…!」
「ダーシー。アドラメレクちゃんが1Eに居る事も勿論他言しちゃダメよ。私達が殺られちゃうからね♪」


キュッ!

また宙に一本線を引いたマリアによって、メアの口がチャックのように閉められてしまった。
「突然ダーシーが来なくなったらアドラメレクちゃんにも怪しまれるだろうからしばらくの間はヴァンヘイレンに通わせてあげる♪いい?ダーシー。貴女はお喋りだから不安よ。でも、貴女が秘密をバラしたらさっきも言ったように貴女が大好きなアガレスとカナ、奏、天人が肉片になって殺られちゃうの♪そんなの絶対嫌よね♪ならおとなしく私達に従いなさい可愛い可愛い妹ダーシー♪」
「はははは!」
「フフフフ!」
「うふふふ!」
3人の笑い声が悪魔のように大聖堂内に響き渡る。メアは体をカタカタ震わせ、強く瞑った目からポロポロ涙を流しながら、拘束されている右手で生徒手帳に付けた色違いでお揃いのくまのキーホルダーを強く握り締めていた。
――カナちゃん!椎名君!天人君!…アガレス君!助けてっ…!!――

































それから1時間後の20:50。
マリアージュ大聖堂―――


キィッ…、

まるで幽霊屋敷の扉を開けた音がする外れ掛けた扉を開いて1人、マリアージュ大聖堂へやって来たのはアガレス。
「うっ…」
中は蜘蛛の巣が張っていて埃まみれだし、床や壁には蔦が張っていて廃墟。大聖堂内に散乱する木製の壊れた長椅子や祭壇が辛うじて此処が聖堂だった事を示唆している。


しん…

「やはり居ないか。何処へ行ったんだあの雌豚は」
先程聖マリア大聖堂へ行ったアガレスだったが、誰も居らず。だから此所に居るかもと思い、マリアージュ大聖堂へ足を運んだのだがメアの姿は無くて。
「……」
足元に転がっていて胴体からぱっくり真っ二つに割れた灰色の小さな女神像を手に取る。女神像は長い髪をしており、長いドレスを着ている。大きく潤んだ愛らしい瞳は誰かに似ていた。




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